256.【製造業】減損戻入シリーズのFinal Answer
2013/6/15
期せずして長々と書いてしまったこのシリーズだが、6/6の記事で、僕としては終了したつもりだ。しかし、細部に拘り過ぎて、読み手のみなさんには何が何だかわからなかったかもしれない。そこで最後にざっとお浚いをして締め括りたい。
(目的)
減損戻入はイメージが悪い。多くのみなさんがそう感じる理由は、以下のとおりと思う。
・ダメなものを減損したのに、それを復活させる理由が理解できない。
・(固定資産台帳の修正に)手間がかかる。
オックス・フォード・レポートには後者が指摘されていた。
前者は、日本基準の減損が、“確定した”減損を損失計上するものであるために、そう思われるのだと思う。IFRSの減損は、日本基準より早く認識するので、経営者の対応次第で減損の原因を取り除いたり改善したりし、復活につなげられる可能性が日本基準より高くなる。即ち、日本基準の減損は一発勝負で負けたら(会計上は)終わりだが、IFRSの減損は敗者復活戦が認められているので、その後の対応も重要だ。即ち、経営者の対応が業績として記録され続ける。
このシリーズでは、このIFRSの減損会計と投資回収管理の関係(ひいては経営戦略との関係)、IFRSや日本基準で固定資産台帳の修正が必須かどうかを検討することで、減損戻入の悪いイメージを変えようとした。即ち、投資した以上のキャッシュ・フローを獲得するという事業の基本を管理するうえで(=投資回収管理)、減損会計の果たす役割を説明しようと試みた。
(結果)
僕の考えでは、減損会計を投資回収管理と融合・リンクさせることは経営に役立つし、そうすべき。また、減損時や減損戻入時の固定資産台帳の修正に要する手間も回避できる可能性がある。
(検討過程)
最も苦労したのは、IFRSも、日本基準も、個別資産の簿価や償却可能額を修正し(=固定資産台帳を修正し)、その後の減価償却を実施することが想定されていると読めることだった。但し、直接そう書いてあるわけではない。であれば、弊害がない、或いは、多少弊害があっても許容される範囲であれば、資金生成単位ごとの減損損失累計額を管理すること(=僕の奇策)で、個別資産ごとの修正を回避できるのではないか。
この仮説を検証するために、大きくは、次の2つのポイントを一生懸命突いてみた。
- 個別資産ごと修正をするより、資金生成単位ごとの減損損失累計額を管理した方が、経営にとって有益なこと。
- 資金生成単位ごとの減損損失累計額を管理した場合も、個別資産の修正をした場合と、ほぼ同様の減損後の減価償却計算が可能なこと。しかも手間いらずで。
Aについては主に資金生成単位を「ビジネスの(最小)単位」と表記して、減損会計で見積る将来キャッシュフローはビジネスの評価である点を強調した。固定資産の評価だとすると事業部門は関心を持ち難いが、ビジネス評価だと考えれば、事業部門が主役だ。
会計部門が主役で減損会計をやろうとすると、すべての事業について評価するのは大変なので、投網で引っかかったものだけを検討しようとする。事実、減損会計基準も“減損の兆候”と称して、投網を設定している。しかし、会計基準はそうであっても、事業部門が主役であればそうはならない。そもそも、投資以上のキャッシュを獲得するという事業経営の基本なのだから、そうであってはならないはずだ。しかし、現実は損益管理しか行われていないケースが多く、本来基本であるはずの投資回収が蔑にされている。だから、そこに注目しましょう、という僕の考えをくどくど繰返した。特に、単なる損益管理より、ずっと戦略的思考になれる、長期志向になれる、という点を強調している。
Bについては、2つある。一つは、減損後の減価償却計算。もう一つは、減損後に資産を移動・除却する場合の簿価・除却損の計算だ。いずれも「償却可能額」が重要だが、前者は加えて事業計画が決定的に重要だ。もちろん、投資回収管理が意識された、損益管理だけでない事業計画でなければならないが。
減価償却計算には、償却可能額、耐用年数、残存価額、償却方法が決まる必要があるが、いずれも、事業計画を眺めれば自然と決まる。IFRSの場合、将来キャッシュフローの見積りは原則として最長5年の事業計画とその事業計画終了時点の事業の売却価値で算定される。5年後の事業価値について考えてみると、事業部門の方々には目から鱗の大変興味深い考察(=事業改善の戦略的アイディアに繋がるもの、或いは、その逆の見込み)が色々得られると思う。
減価償却計算というと個別資産ごとの積上げ計算がイメージされるが、減損後の減価償却計算に関する僕のお奨めは、資金生成単位の総額(但し、B/Sの表示上、勘定科目別である必要がある)を計算することだ。5年間の償却費は、減損後の償却可能額から5年後の売却額(=残存価額)を控除することで求められ、あとはそれをどう期間配分するかということになる。これが重要で、収益ベースではなく資産の使用状況を反映することに注意しながら、上記の事業計画を眺めれば、決められる。
資産を移動・除却する場合は、結局「償却可能額」に注目すると、必要に応じて個別資産の修正を行った場合と同様の簿価・除却損の計算ができる、しかもとても簡単に。
ということで、オックスフォード・レポートでは、減損戻入が製造業に合わない理由の一つに挙げられていたが、合わないどころか、戦略的事業運営をするには製造業に限らず投資回収管理が重要であり、減損会計はそれにぴったり寄り添う会計処理だ。減損戻入を可能にするということは、手遅れになる前に早めに減損を認識し、経営者や事業責任者にアラームを鳴らすことができる点で、むしろ優れていると言えると思う。しかも、会計処理自体に手間はかからない(これは、みなさんの努力次第)。
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