262.テーマ選び~IASBの基準開発状況
2013/7/2
コンフェデレーションズ・カップはブラジルの優勝で幕を閉じ、サッカー日本代表は残念だったが、SAMURAI達は、もう、それぞれ次の目標へ向けて照準を合わせているようだ(本田選手は、バルセロナから声がかかっているらしい。活躍できたらすごい!)。 同様にこのブログも、長い製造業シリーズを終え、新しい目標へ向かわなければならない。そんな状況、テーマ探しにちょうど良い機会なので、今回はIASBの規準開発状況がどうなっているか、眺めて見ようと思う。
IFRSに強い関心があって、英語に不自由のない方は、IFRS財団のホームページの工程表(ワークプラン)をご覧いただくと良い。各プロジェクトの名称等をクリックすると、その説明へジャンプすることができる。
強い関心があっても、僕のように英語が不自由な方は、新日本監査法人のホームページが日本語で最新の状況(現時点では6/21付)に更新されている。前回公表時点からの変更点が要約されているのも、分かりやすい。それに同監査法人(及びEY)が作成した説明資料も閲覧できる。
このページをざっと概観して、僕が注目したプロジェクトは以下のとおり。
<概念フレームワーク>
概念フレームワークは、IFRS全体に統一性を持たせるもので、個別規準を開発するうえでの基本概念というべきものをまとめている。強いて日本の会計基準の体系で例えると、企業会計原則のような位置づけかもしれない。
現行の概念フレームワークは、見出しだけあって中味のないセクションがいくつか残っている。そこを埋めるプロジェクトが進行中だ。今年の第2四半期(4月~6月)にディスカッションペーパーが公表される予定となっているが、現時点で未公表だ。IASBは、7月の早い時期にと言っている(IFRS財団HP)。
今回の検討事項には、認識(B/S計上するタイミング)や、その中止(B/Sから切り離すタイミング)、及び、測定規準が含まれており、資産や負債の定義も影響を受けて変更されるかもしれない。その場合は、このブログの過去の記事(2011年の秋から冬にかけて)を変更しなければいけないかもしれない。
<リース(FASBとの共同プロジェクト)>
以前若干触れたが、現在は賃借料やリース料として支出額を費用処理しているオペレーティング・リースのうち、1年を超える契約のものを資産計上するよう提案されているらしい。公開草案は5/16に公表され、日本語訳もASBJより6/14に公表されたので、このブログでも検討可能だ。
<収益認識(FASBとの共同プロジェクト)>
昨年(2012年)の4月、5月ぐらいにこのブログでも2度目の公開草案の進行規準について検討したが、その後、それに対するコメントによる再審議を経て、この夏から秋にかけて(第3四半期)、規準化が予定されている。規準化されたら(、そして翻訳されたら)、このブログでも重要なテーマになるが、まだその状況にない。
<金融商品(FASBとの共同プロジェクト)>
IAS第32号やIAS第39号が複雑で分かり難いと批判されて、これを新しく置き換えるプロジェクトをスタート。すでにIFRS第9号として一部は規準化された。しかし、まだまだ両規準の多くの部分は、そのまま残っている。現在も、以下のものが進行中。
(分類と測定) すでに規準化されているIFRS9を改善するプロジェクト
既にコメント募集を終え、IASBとFASBで再審議している。
(金融減損) 貸倒引当金(一般、個別)の設定や直接金融資産を減額する減損会計のプロジェクト
これもすでにコメント募集を終えている。IASBとFASBで合意できないまま、内容の異なる公開草案を双方が公表して物議を醸しだした。簡単に言えば、無責任との批判を浴びた。
こういう状況なので、規準化はまだ先になると思う。
個人的見解だが、両審議会が合意できなかったのは、日本の全国銀行協会(=全銀協)が提出した要望が原因になっているような気がする。IASBは全銀協の要望に前向きに取組み、FASBはそれを否定した。実は僕はFASBの方が理に適っているような気がしないでもない。いずれにしても、日本は既にIASBに大きな影響を与えている。
(ヘッジ会計) ヘッジ会計を改善するプロジェクト
ヘッジ会計を、企業のリスク管理に役立つように改善する。内容は確定しており、今夏から秋にかけて(=第3四半期)、規準化される予定。
ということで、興味をそそる分野もあるが、まだこのブログで扱うには早そうだ。
<果実生成型の生物資産>
6/25の記事で「もう、公開草案が公表されてもよい時期だ。」と書いたが、6/26に公開草案が出た。IFRSを「公正価値会計だ」と批判する人たちが問題にしているところの改善なので、興味はあるが、できれば日本語訳が出てからにしたい。
しかし、日本にとってはあまり影響のない分野の話なので、日本語訳が出ないかもしれない。コメント募集期間は10/28までだが、もし、今月中に日本語訳が出なければ、多分、規準化されて他の規準と共に日本語で出版されるまで日本語にならないかもしれない。でも、IFRSを批判する人たちが騒ぎ立てるから興味はある。でも、日本にはあまり影響がない、重要でない・・・ う~ん。
ということで、検討対象にしたいが優先順位は高くない。
<減価償却及び償却の許容される方法の明確化>
これは既に、6/4の記事で扱った。もし、公開草案と大きく違う形で規準化されるようならまた検討しようと思うが、取敢えずは「済」だ。
<継続企業の評価に関する開示要求>
どういう観点で見直そうとしているのか、残念ながら僕は知らないが、企業が生きるか、死ぬかの分け目のときに、どのような開示をするかというのは非常に興味がある。経営者にとっても、株主や投資家にとっても、非常に重要なタイミングであり、両者のコミュニケーションは極めてセンシティブだ。改正の方向性や内容について情報に触れることができ、その究極の時期に両者のコミュニケーションを円滑化させるような内容になりそうであれば(きっとそういう方向性だと思う)、その時点でこのブログで扱うか考えたい。
<「事業セグメント」の適用後レビュー>
「適用後レビュー」というのは、新しい規準が適用されたあと、その規準がIASBの意図した効果を合理的な範囲のコストで達成できているかを確認する2007年に定められたIASBの正式な手続(=デュー・プロセス)と理解しているが、実際に行われるのは、今回が初めてとなる。しかも、その対象が、オックスフォード・レポートでやり玉に挙げられていた(マネジメント・アプローチの)セグメント情報だし(6/25の記事)、非常に僕の注目度は高い。
会計規準の「費用対効果」が調査されるというのは、それ自体実に興味深い。それをIASBが分析・評価するというのは、「自己評価」なので十分に内容を吟味する必要があるだろう。
すでに昨年のうちにコメントは募集されており、IASBはその結果を分析してレポートを作成中だ。工程表では第2四半期に公表予定となっている。しかし、その「適用後レビュー」のIFRS財団のホームページを見てみると、公表予定は第3四半期まで延びているようだ。もし公表されたら、このブログでも取上げたい。
以上が、僕が興味を持ったプロジェクトだが、他にも、多くのプロジェクトが進行中で、IFRSがムーヴィング・ターゲットと呼ばれるのも頷ける。しかし、上記以外の多くのものは、まだ進捗度合が低い。このブログで取上げるのは相当先のことになりそうだ。
<保険契約について>
ただその中で、保険契約については、最近公開草案が公表されているので、進捗度合は低くない。しかも、このブログを始めたころに、読者の方から取上げるようリクエストを受けていたので、公開草案が公表されてからは、どうするか考えていた。実は、僕は、監査法人時代に監査先の銀行が行っている保証債務契約が、IFRSでは保険契約として扱われる可能性があるということで保険契約には関心を持っていた。しかし、それは保険会社の経営、収益管理、リスク管理と密接に関連付いたものであるのに、僕には保険会社に関わった経験がない。これは大きな障害だ。
残念ながら、保険契約は僕の手には負えないだろうと思う。仮に取上げても、大掴みの概要程度になると思う。もし、その方が今も読みに来ていてくれていたら、大変申し訳ないが、その程度でご勘弁願いたい。
ということで、次回からは「リース」を取上げたいと思う。
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