265.【リースED】リース取引とは
2013/7/9
会計の勉強をしていて、リースは必ず出くわすテーマだが、「リースって何?」という疑問が解けないと深く理解するのが難しい。そもそもリース取引とはどういう取引だろうか。例えば、リース取引に関する会計基準(企業会計基準委員会改正平成19年3月30日。以下、「リース会計基準」という)には次のように記載されているが、ちょっと難しい。
4.「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。
これで、「良く分かった。」「知ってる。」という方は、今回は、読み飛ばしていただいてよいかもしれない。「ん~、もちろん日本語としての意味は分かるが、なんとなくしっくりこない。」という方は、続けてお読みいただきたい。
昔、リース会計基準ができる前のリース取引の会計処理は、賃貸契約に従い、支払リース料を発生主義で計上するだけの単純な方法だった。即ち、リース契約書という賃貸契約があるものがリースだから、その契約に従った会計処理が行われていた。ところが、リース会計基準ができてがらりと変わった。「リース取引には、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースがある。」とされ、このうち「ファイナンス・リースは資産計上し、(定額で)減価償却する。支払リース料は総額を負債計上し、あたかも借入金のように支払利息と元本の減少として処理する」こととなった。一方、「オペレーティング・リースは従前どおりの賃借処理」だ。
ご想像の通り、ファイナンス・リースとは「実態がファイナンス(=金融取引)」のリースという意味だ。即ち、普通の固定資産の購入取引と実態は同じなのだが、支払いが分割払いになる(=信用が付与される金融取引、実質的に借入金)。それなら割賦購入と同じじゃないか、と思われると思うが、割賦購入とは“ちょっと”違う。
基本的には、リース期間満了後に固定資産はリース会社へ返却される可能性が高いとされ、かつ、法的な所有権はリース会社が保有し続ける。この部分だけ見ると、「リース期間中に資産が貸与されている賃貸契約」のように見える。割賦購入であれば、固定資産を返却することはないし、分割払いが終了すると所有権は購入者へ移動する。この点が割賦購入と“ちょっと”異なる部分だ。よって、割賦購入だと普通に資産計上して減価償却するが、リースなら賃借料の支払で良いとされていた。
しかし結局、“ちょっと”しか違わないし、違う部分は取引の本質ではないということで、会計処理を普通の固定資産に合わせたのが、上記のリース会計基準だ。この「違う部分は取引の本質ではない」という部分は、次の例を考えると分かる。
例えば、みなさんが職場にコピー機を導入したいと考えたとする。そして、固定資産の管理をしている総務部にコピー機が欲しいと相談する。すると総務部は該当する稟議書の様式を指定し、見積書などの添付書類を要求する。そこまでは良いのだが、みなさんが、その稟議書の様式を良く見てみると、購入にするか、リースにするかの選択を記入する欄がある。はてさて、これはどういうこと? なぜ、みなさんがこれを記入するのか?
この稟議書の様式の意味するところは、2つの面に分けて考える必要がある。
(1つ目)
本来、みなさんは職場にコピー機を導入することの承認を得たいだけだ。そのために、複数機種をピックアップし、性能と価格、それと用途と生産性の改善効果を分析して、どのメーカのどの機種が良いと指定する。それだけで良いはずだ。これがこの取引の本質であるはずだ。コピー機の購入代金を、内部留保資金から捻出するか、外部から借入れるか、それともリースにするかは、みなさんに関係なく、財務部門が決めてくれれば良い。
(2つ目)
しかし、取得にするのとリースにするのでは次の点が異なってくる。取得にすれば、その後の予算管理は減価償却費に影響が現われ、もし、オフィス機器を定率法で償却していれば、定率法の減価償却費が計上されてくる。一方、リースにすると支払リース料の定額の発生額が費用処理されるので、その後の予算管理の対象は、毎期均等額の支払リース料になる。「予算管理はどちらでしますか?」というのが、稟議書の様式の意味だ。
ということで、お分かりいただけると思うが、取引の本質に関係なく、取得にするか、リースにするかで、会計処理が変わってしまい、予算管理も変わってくる。費用の発生状況も、定額法と定率法で変わってしまう可能性がある。もちろん、リースにすれば、コピー機は借り物でリース会社のものなので、借り手のB/Sには計上されない。実質的にはその会社の資産で、総資産利益率を計算する際に分母に含めるべきなのに、入らない。
上記の例はコピー機だが、工場の生産設備でも同様のことが行われるので、生産設備がB/Sに計上されなくなったり、実質的に定率法の減価償却方法が蔑ろにされてしまう。例えば利益率の悪化が予想される場合は、設備投資資金をリースで調達すれば、利益を一時的に良く見せることもできる。・・・取引の本質、経済実態はなにも変わらないのに!
加えて、同じ工場や生産ラインの中に、自社の設備とリース会社の資産が無秩序に混在することにも繋がる。そうすると現物管理が難しくなるので、注意をしないと償却資産税の管理で混乱を来たしたり、担保の設定がややこしくなる。
というわけで、会計処理の問題を改善し、ややこしくなるインセンティブがなくなるようにしたのが、上記のリース会計基準だ。(但し、リース資産の償却方法は、原則として定額法とされている点は残るが。) この会計基準はリース業界が強硬に反対していたようで、難産だったらしい。それでも漸く制定されてやれやれ、これで問題解決かとホッとしたのも束の間、これだけでは済まない問題が出てきた。それが例のツイーディー卿の飛行機の話になる。(7/4の記事)
ファイナンス・リースは、一応良くなったけれども、オペレーティング・リースに問題が残っていた。従前どおりの賃貸処理のオペレーティング・リースの中に、「これって、資産じゃないの。減価償却しなくてよいの?」というものが見つかるようになったのだった。これについては次回へ続く。
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