267.【金融緩和】改めて、円安・株高を考える
2013/7/14
明日は海の日。島国日本にとっては国際問題を考える良い機会だ、という日では全くはないが、この半年間のアベノミクスを見てきて、感じたことを書いてみたい。
・株価は「半年から一年後の経済予想を反映する」といわれるが、それは「欧米人の」予想ではないか?
・円相場も「欧米人の期待と都合」を反映したものではないか?
こんな書き方をすると、「おまえは右翼か」と言われそうだが、思想を書こうというのではない。現実だ。日本の株価、日本の通貨のことであっても、資金を動かして相場を支配していたのは欧米人、特に米国投資家だったようだ。
即ち、経済予想といっても日本に住む我々の予想ではないし、円安の根拠にあるインフレ期待も、我々日本人の実感ではない。果たして、これら外国人の予想や期待は正しいのだろうか。もし正しいとしても、日本の我々の予想ではないとすると、我々は、新しい経済環境変化への準備ができているだろうか、或いはすでに準備を始めているだろうか。自らの予想であれば、変化へ対応しようと必死になると思うが、他人に「変わりますよ」と言われてる状況なので、どうもピンとこない感じになっているのではないか。
自民党などは「円安・株高」をアベノミクスの成果としているが、我々は、日本にとっての意味を改めて考える必要があるのではないか。具体的には・・・
・「アベノミクス」がなければ、「円安・株高」は起こらなかったか?
・欧米投資家の期待通り、少なくともその方向へ、我々は変化できるか、それは我々の幸せか?
・我々の幸せに繋がる変化をリードできるのは誰か、実現するのは誰か?
僕は経済の専門家ではないので、あくまで素人の戯言として読んでいただきたいのだが、上記について次のように思っている。
・「アベノミクス」がなくても「円安・株高」は起こった可能性がある。
・日本に改革が必要なことは明らかだし、改革の方向性・内容については外国人の意見も貴重だ。
・だが改革には、既成概念にとらわれない自分のアイディアと、自分自身による意思決定が必要だ。
2つ目、3つ目については当然のことと受け入れていただける方も多いと思うが、1つ目については違和感を覚える方が多いと思う。だが、1つ目は、安倍首相得意の“俯瞰”によって見えてくる。僕にそのきっかけを与えたのは、5/22 の米国FRB議長バーナンキ氏の発言で、日本では 5/23 から株価が下落し、円相場が円高方向へ大きく振れた。
そもそも、昨秋までの円高と株安は、リーマン・ショックがきっかけだった。米国では内需の重要な構成要素である住宅投資が激減し、不動産価格の暴落が起こった。これはまるで '90年代の日本のバブル崩壊を見るようで、米国経済が大恐慌以来の低迷に喘いだ。一方の欧州も、米国不動産証券を合成した金融派生商品の評価が、評価を付けられないほど暴落し、それが金融機関の信用危機、政府債務の信用危機にまで広がって、いわゆる欧州債務問題が発生した。それで、いわゆる「リスク・オフ」の状態になった。その裏側で円が買われて、歴史的な円高となっていった。
ところがよく考えてみると、昨秋の段階で、米国の不動産価格は既に上昇に転じており、失業率も、昨年11月には現職のオバマ氏が大統領に再選されるところまで戻っていた。また欧州も、昨年7月のECB総裁のドラギ氏の「欧州単一通貨ユーロを守るために必要なあらゆる措置を取る」発言をきっかけに、イタリアやスペインの国債利回りも低下し、もはや最悪期を脱していた。「リスク・オフ」の解消だ。しかも、日本は東日本大震災以降貿易赤字となり、経常収支の黒字も著しく減少した。一時は経常収支も赤字になった。ならば、その時点で円高・株安が解消されても良かったのだ。あとは、何かきっかけがあれば。
結局そのきっかけが、昨年11月の野田首相(当時)の、安倍自民党総裁(当時)との党首討論会での解散発言になったわけで、当時の安倍総裁の大胆な金融緩和の主張が脚光を浴びて「アベノミクス」と評されることになる。そこから円安・株高が始まる。その後、衆院選などのイベントをこなすごとに円安・株高が進んだ。
しかし、もしかしたら、それがなくても今年1月初めの米国FOMC(連邦公開市場委員会;米国の金融政策を決定する委員会。日本でいえば日銀政策決定会合のようなもの)議事録の公表がきっかけになったかもしれない。この議事録には、はじめて米国の量的金融緩和第三弾(QE3)の縮小が議題になった。日本はちょうど正月休みだったが、明けてみると、米国金利の上昇への期待が高まり、ど~んと円安が進んでいた。株価も上がった。
なぜこのFOMC議事録の公表がきっかけになりえると考えたかというと、米国の投資家にとって、日本の国会での党首討論会より、FOMC議事録の方がずっと重要と思うからだ。米国の投資家にとって米国金利上昇の見通しは、負債資金コスト、即ち、支払利息の増加に直結し、ドル高による外貨建て資産の目減りの可能性を高め、米国の国内経済を冷やす可能性を高める。資金調達と投資の両方の方針をすべて見直す必要性が高まる。一方、日本の国会の討論は、投資先の一部の状況の変化に過ぎない。
そして、ドル金利が上昇しドル資金の調達コストが増加するならば、金利の安い円で資金調達しそれを国際的な投資に振り向ける方が有利になる可能性がある。調達した円をドルやユーロ、その他新興国の資産へ振り向けるためには、円を他の通貨へ変える、即ち、円を売らなければならない。それが円安を引起す。加えて、そういう動きを予想して、円売りを仕掛けて短期的に利益を上げようとする投機筋の取引が増加する。これも円安につながる。さらに、こうして調達された資金の一部は日本株にも投資され、株高を演出する。
以上のプロセスを考えると、「アベノミクス」がなくても円安・株高は実現できそうだ。とはいえ、現実には「アベノミクス」がきっかけで円安・株高となったので、「よいきっかけになってくれた」と評価する必要はある。しかし、それ以上のものではないかもしれない。それ以上のものになるかどうかは、今後次第だ。即ち、日本の改革が正しい方向に、成果を生むまで徹底して行われるかどうかだ。
ここで、5/23 からの株価・円相場の調整の意味を考えてみる。
まずは、今年に入ってからの状況の推移を振返ってみよう。QE3の終了の検討が始まっていることは、上記の1月の議事録公開で分かっていた。その後、米国経済は財政の崖といわれていた悲観的な予想を覆してきた。2月には所得税減税が止められ給料の目減りが始まった、3月・4月以降は、政府債務の上限により政府支出が削減され、公務員も失業しているが、それでも消費は底堅く、雇用者数は毎月平均20万人近く増加している。それどころか、不動産取引の一部には、バブル的な価格上昇が見え始めた。そんな時期の 5/22、バーナンキ氏が米国議会でQE3縮小の可能性に触れた。
そこまでは、いずれはQE3が縮小されるというだけだった。しかし、それは当たり前のことで、いつまでも米国の中央銀行であるFRBが、リスク資産を増やし続けると予想することは非現実的だ。それがこの 5/22 の発言で具体的な縮小開始時期が取りざたされるようになった。9月か、12月かと。そこで、上記の資金調達と投資の方針が、グローバル・ベースで改めて見直されたに違いない。すると日本株は上がり過ぎていると気付いたのではないだろうか。或いは、上がり過ぎには気付いていて、是正のちょうど良いきっかけになっただけかもしれない。その他、中国・ロシア・ブラジルなどは元々冴えなかったが、その他のアセアン諸国やトルコなどの新興国への投資も見直された。
日本については、「アベノミクス」の間に、為替レートが安くなっても輸出がなかなか増えないことが明確になった。もともと、為替レートが変わってから輸出に影響するのに半年から1年かかると言われるが、それにしても、以前は貿易黒字を稼ぐツー・トップの一角を占めていた家電各社が厳しい。そして、これだけ株高になっても、日本の、特に機関投資家の資金が株式市場に向かわないことも分かった。さらに、アベノミクスの第三の矢が、日本の経済構造を改革するに足るものではないことも分かった。要するに、日本はまだ改革の準備が全然できていないのだ。
ただ、その分の期待が剥げ落ちたものの、金利が低く資金調達は有利という面の評価だけは残って、今のドル円の99円、日経平均の14,500円が維持されている、と、思う。微妙なのは、この評価に含まれているインフレ期待の理由だ。果たして、輸入物価上昇による悪性インフレを期待しているのか、それとも景気の好循環に伴うインフレを期待しているのか。もちろん、今は日本が何かをやろうとしているのは間違いないから、後者の期待が大勢だと思うが、果たして何をやろうとしているか、何処まで徹底できるかを、海外勢は注視しているに違いない。仮に、参院選が与党の勝利で終わって、それでも株価が下がったり、円高に振れたりしたら、ちょっと心配だ。与党の政策に信頼がなく、前者の期待が大きくなり始めた兆しになると思うからだ。
先週は、バーナンキ氏が量的緩和の継続を印象付ける発言をし始めた。上記 5/23 や 先月のFOMC後の発言を修正する動きだ。米国のインフレ率が低すぎることを気にしているとか、今週のG20で中国等の新興国から米国金融政策に注文がつきそうなことを考慮しているとか、色々言われているが、円と日本株については、この修正の直接的な影響をあまり受けないかもしれない。しかし、中国やアセアン経由の影響はありそうだ。したがって、近隣諸国の株式相場、為替レートの変動の影響を、日本が受けるようになるのではないか。即ち、日本はまだ準備不足という評価が定着したので、日本固有の事情では相場が動きにくく、近隣諸国との関連で動きやすくなるのではないかと思う。
ちょっと、思っていたより長々と書いてしまったが、要するに、円や日本株は、海外投資家から見た状況や都合で取引されており、日本自身の変化はまだ起こっていないということを書きたかった。そして、早くその変化を起こさないと、いつまでも円安・株高が維持されるわけではない。いまのところ、海外投資家の資金が今の円安・株高を作っているからだ。「アベノミクス」で安心していられる状況ではない。
早く、日本人自身が日本経済に自信を持ち、日本の資金が円相場や日本株を動かすようになりたい。そのためには、日本企業がイノベーションを起こして国際競争力を高め、グローバルな存在感を取戻す必要がある。今はできてないそのような経済活動が可能な日本の社会基盤を、誰が、作り直すか、その能力があるのか、それが問題だ。少なくとも、日本の都合だけを語っている人ではないだろう。一見改革するかに見えて、結果的に現状維持とか中途半端な改革に終わるような主張をする人でもないだろう。既得権者の支持を背景にして、日本の全体像が見えてない人でもないだろう。甘いことしか言わない人でもないだろう。
なかなか難しいが、この一週間は、そんなことを考えて過ごすことになりそうだと思う。ちなみに僕は、来年消費税率を上げても税収は増えないと思っている。まだ日本は、何の準備もできてないのだから。
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