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2013年7月18日 (木曜日)

268.【リースED】因数分解で括りだした「使用権」

2013/7/18

このシリーズの前々回(7/9前回(7/12の記事では、現行の会計基準に倣ってファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分し、それぞれがなぜ資産計上されるのかに関する直感的な説明を記載した。ファイナンス・リースは、現行の会計基準でも資産計上されるが、それは借り手に法的な所有権はなくても、所有権を持っているのとほぼ同等な経済的便益を享受できる点が着目されたからだ。

 

今回のリースの公開草案はこの区分を行わず、リース契約全体を一括りにしている。その結果、現行の会計基準で賃借料の発生を記帳すればよいとされているオペレーティング・リースについても、一年を超えるものは資産計上するよう提案されている。7/12の記事では、JALの開示で航空機のケースを書いて、いわゆる「レンタル」とは言えないオペレーティング・リース契約があることを紹介したが、それは十年以上に及ぶ長期契約だった。もっと短期の契約でも同じことが言えるだろうか。

 

例えば建設現場単位でレンタルされる重機はどうか。2年で更新期限を迎える不動産の賃貸契約も資産計上すべきか。

 

 

ファイナンス・リースを資産計上するときの理由は、「所有しているのと実質的に変わらないから」ということで分かりやすかった。法的形式より経済的な実質を優先させようということで納得感もあった。しかし、リース契約を一括りにして、一年を超えるレンタル契約まで資産計上させようというこの公開草案には、ちょっと抵抗感のある方も多いのではないだろうか。「他人から借りた物を自分の物にする」みたいで。

 

僕自身を含めて、そう感じるみなさんは一つ驚くべき会計基準の変化を理解しなければならない。リース契約が資産計上されるとき、その資産は「物ではない」ということだ。資産計上されるのは「使用権」という「権利」だ。だから、「他人から借りた物を自分の物にしていない」のである。「他人から借りた物」をこの公開草案では「原資産」といって、「使用権」から区別している。ちなみに、原資産と使用権は次のような関係にあるそうだ。

 

 原資産  (リース期間後の)貸手への返却義務  使用権資産 (リースED'13 BC36.(b)

(訳語の原文は、以下のとおり。)

両審議会が2012 年の再審議の間に検討したアプローチでは、借手は使用権資産を原資産から当該資産を貸手に返却する義務を控除したものの組合せと考えることになる。

 

ちなみに、「原資産>使用権」であり、「原資産-使用権」の部分は貸手の資産(権利)であるため、貸手のB/Sには載るが、借手のB/Sには載らない。

 

なるほど。

 

ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの共通項を括りだして、その最大公約数たる使用権だけを借手の会計処理の対象にしたのか。まるで数学の因数分解みたいだ。現行のファイナンス・リースも、使用権と(重要性のない)貸手への返却義務のセット、オペレーティング・リースも同様に、使用権と(重要性のある)貸手への返却義務のセット、と表現できる。まあ、返却義務の大きさに違いがあるにしても、このような因数分解をした後は、両者を同じように表現できるから、一括りにできる。

 

ただ、表現上一括りにできるといっても、その括りだした「使用権」が概念フレームワークの資産の定義に当てはまるかというハードルをクリアしないと、会計上の資産にならない。これについては、直感的に「金を生みそうだ」と思うので問題はなさそうと思うが、この公開草案の結論の根拠でも検討されていて、会計上の資産に該当すると判断されている(BC1314BC15以降は「使用権」だけでなく、支払義務や返還義務などその他の要素も、借手や貸手の資産・負債の定義に合うか細かく検討されている)。

 

その結果、結構手間のかかる作業であったファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別作業は不要となる。例の、リース期間が耐用年数の75%から120%とか、リース料総額の現在価値と現金購入価額の比率がどうのという作業だ(日本基準の例)。

 

但し、「使用権」は無形資産で目に見えない、物理的な管理が不要なもの、と考えたら問題が起こる。借り物である原資産は、現に存在し、事業運営上良好な状態を維持する必要があるし、故障すれば修理が必要だし、リース期間が終了すれば返還しなければならない。したがって、通常の固定資産と同様に、現物管理、物理的な管理が必要だ。この点が、単に「使用権」と呼ばず、「使用権資産(the right-of-use asset)」という名称を使った理由かもしれない。この点には管理上も注意が必要だ。

 

また、タイプA、タイプBという新たな区分ができた。せっかく、面倒な区分作業がなくなったのに、新しい区分を作ってしまったのはなぜか。その区分作業は煩雑ではないか。これらの点については、後日検討したい。この新しい区分は、リース契約が純損益に与える影響を考慮したものらしい(BC31~。例えばBC48)。即ち、損益計算の観点から区分が必要とされたらしい。

 

それから、リース契約を一括りに(定義)してみると、一部のサービス契約がリース契約に含まれてしまうのではないかという懸念が生じてきたという。これは意外と実務的に迷うところかもしれない。この公開草案には設例が設けられているので、それを見ていきたいと思う。(もちろん、後日に。)

 

リース期間終了後にリース期間の延長を選択できるオプションがついた契約について、償却期間に延長期間を含めるかという問題もある。実は、僕はあまり問題と思っていないが、どこかで触れたいと思う。

 

 

ということで、今回は新しいリースの考え方のエッセンスと僕が思ったところ、即ち「使用権」を括りだしたところを取上げたが、次回は、借手、貸手の会計処理について、概観してみたいと思う。

 

なお、所有権移転リース(=リース期間後に所有権が借主に移転するもの)については、このシリーズでは触れずにきているが、割賦購入契約と同じものと思っていただければよいので、今後も触れる予定はない。(但し、所有権の移転がオプションとして借手の権利になっているケースについては触れるかもしれない。)

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