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2013年7月20日 (土曜日)

269.新COSOレポート(2013/5改定)

2013/7/20

COSOレポートといえば、内部統制に関する事実上の国際標準だ。それがこの5月に改定されたという。そこで今週火曜日、大手町フィナンシャルシティで行われた会計教育研修機構(JFAEL)の研修を受けてきた。感想は「東京は暑い!」だ。何が? 気温が。だが、それに負けないぐらい熱かったのが、講師の八田進二青山学院大学大学院教授の語り口だった。今回はその感想を簡単に報告させていただきたい。

 

多くのみなさんが気になるのは、変わった内容と共に、新たな制度対応が必要になるかという点と思うが、僕が気になっていたのは、「企業のリスク管理を向上させるか」だった。かねてから記載している通り、IFRSなど最近の会計基準は経営者の見積りを多用しており、経営者の見積りは(経理部単独の仕事ではなく)企業のリスク管理の中から生み出されるものと僕は考えているからだ。経営者の見積りの精度が向上することは、経営の向上につながる、業績の向上につながると思っている。

 

 

まずは、みなさんの関心事から。

 

僕の印象としては、内容が変わったというより整理の仕方を変えた感じだ。その結果、コントラストがはっきりして、従来あまり重視していなかったものが実は重要なことだったり、その逆のこともあったと気付かされるに違いない。

 

ただ、内部統制の定義に出てくる3つの目的と5つの構成要素のうち、目的の1つに変更があった。「財務報告目的」は、「報告目的」へ変更され、非財務報告分野も含めるよう範囲が拡大された。これには例の統合報告も意識しているのではないかとのこと。また、構成要素の「モニタリング」は「モニタリング活動」へ名称変更された。

 

ちなみに、3つの目的とは「業務目的」、「報告目的」、「コンプライアンス目的」であり、5つの構成要素とは「統制環境」、「リスク評価」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング活動」だ。なお、日本の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の内部統制の基本的枠組みでは、これに「資産の保全目的」を加えた4つの目的と、「ITへの対応」を加えた6つの基本的要素となっている。

 

整理の仕方の変更とは、従来は単なる説明文だけだったものに、各構成要素ごとに「原則」を設け、その原則に対して複数の「着眼点(Points of Focus)」を与えたことだ。原則の数は全部で17個あり、すべての原則を適用することで、有効な内部統制を達成することができるとされている。着眼点は内部統制を整備・運用する(=存在し、機能していることの)手助けになるもの例示であり、状況で変わるしもっと良い方法がある場合もある。強制力を持った原則と、着眼点の例示。このような整理の仕方もあって、COSOは改訂版を「原則主義」と言っている。即ち、新COSOレポートは原則主義だと。

 

さて、企業関係者のみなさんの制度対応がどうなるかという関心については、上記の日本の内部統制の基準が変わるかどうかにかかっている。しかし、制度対応などという形式的な問題より、実質が重要だ。原則主義になって重点が明確になったところで、無駄に内部統制の整備・運用や評価作業をやることになっていないか、17個の原則を念頭に内部統制の評価シートを見直すことは良いことだろう。なかには、足りない部分もあるかもしれない。

 

特に、日本の場合は企業統治の仕組み自体が足りない可能性がある。即ち、取締役会の構成・機能だ。COSOレポートで取締役会というと、日本の委員会設置会社の監査委員会のイメージになる。即ち、経営者と対等以上に話のできる取締役が存在していることが、前提となっている。上場会社であれば、独立取締役といえる人が恐らく複数人必要ではないだろうか? 構成要素「統制環境」には、2番目に次のような「原則」がある。

 

取締役会は、経営者から独立していることを表明し、かつ、内部統制の整備及び運用状況について監督を行う。(原文;The board of directors demonstrates independence from management and exercises oversight of the development and performance of internal control.

 

そう、それぞれの原則は、存在し、機能している必要がある(present and functioning)。現実はどうか? 監査役にそこまで求めて良いものか。それともこの原則は適用除外(カーブアウト)するか? (これは冷える~。)

 

 

ちょっと涼しくなったところで、そろそろ、僕の関心事に話題を移したいが、それは次回に回すことにする。研修終了後に新幹線に飛び乗り帰ってきたが、新幹線から降りたらこちらは東京よりちょっと涼しかった。そして、最寄駅まで戻ってくると、さらに涼しかった。J-SOXも導入から月日が経ち、冷えはじめているかもしれない。しかし、八田教授の熱い講義を、時間と共に冷ましてしまうのでは勿体ない。恐らく熱さを持続させるには、企業のためになる内部統制を如何に追求するか、そこへの執着の強さが重要になると思う。次回がそういう内容になるよう努めたい。

 

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