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2013年7月31日 (水曜日)

273.【リースED】供給者の入替権

2013/7/31

前々回(7/25の記事)は、この公開草案の 7 項がリースを識別する要件として (a) (b) の2つを明示しているが、(b) だけでも十分と思われるのに、なぜ (a) があるのか、という疑問を提起した。それを受けて前回(7/25の記事)は、(a) の説明をしている 8項~11項の内容を概観した。

 

その結果、従来のリース契約のイメージでは当然過ぎて問題にならなかったこと、或いは、暗黙の前提だったこと(即ち、供給者にリース資産の入替権がないこと、及び、物理的な区別が可能なこと)が、リースを識別するポイントとされていることが分かった。当然のことが改めて持ち出されているということは、この公開草案が想定しているリース契約は、どうも僕のイメージにあるものとは違うようだ。即ち、僕の頭にある従来のリース契約のイメージ(どうしてもファイナンス・リースのイメージが残っている)を変える必要がある。

 

そこで今回は、どのように変えればよいかをより具体的に理解するために、公開草案に添付されている設例を利用してみよう。まずは、(a) の説明の 8 項~ 11 項によって浮かび上がってきた2つのポイントの1つ目、「供給者にリース資産の入替権がないこと」の理解を深めていく。

 

 

ここでいう供給者の入替権とは、「供給者(=貸主)が、当該契約の期間全体を通じて資産を入替える実質的な権利を有している8 項)」ということだ。借りる側からすれば「貸主の都合で、借りたものを勝手に変えられてしまう」ことになる。こんな条件が契約書のドラフトに入っていたら、通常、賃貸契約は結ばれないだろう。

 

例えば、借りた機械が既に製造ラインに組込まれていれば、それを入替えるのは大変だ。借手に大変な負担が生じる。製造ラインを止めなければならないし、機械を入替える作業コストも大変だ。様々な調整も必要になる。入替の簡単なコピー機でさえ、ソーターの調子がどうのと機械ごとに個性があるので、支障なく使えているものを勝手に変えられては困る。したがって、供給者側(=貸手)が借手の承諾なく勝手に入替えることができるなどという条件は、普通は借手が不利になり過ぎる。

 

なぜこのような、ないことが当たり前の条件が 8 項で明示されたのだろうか。ここで設例を見てみよう。この供給者の入替権は、どのように扱われているだろうか。

 

 

関係しそうなのは「設例1-鉄道車両に関する契約」だ。この設例は、鉄道車両に関連する契約について ABC の3パターン用意している。これらは少しずつ条件を変えてあり、それぞれについて判断例を示している。

 

まず A B を比べると、両者で共通する契約内容は、輸送業者(=供給者)が保有する鉄道車両10両分の使用を5年間顧客に提供すること、そして、輸送時は運転手と機関車もこの輸送業者が提供する点だ。一方、異なる部分は次の通り。

 

A 顧客専用仕様の10両を物理的に貸しっぱなしにする。

 

B 10両分の提供を保証するが、どの車両を使うかは輸送業者の都合で決められる。

 

さらに、A は、貸出された車両を輸送でなく、例えば倉庫代わりに保管に使うこともできるとされている。車両の使用について完全に顧客の支配下にあり、供給者には車両の入替権がない状況とされている。この条件なら分かりやすい。A は賃貸契約、即ちリースを含む輸送サービス契約と直感できる。一方、B は、特定された車両を貸出すのではなく、供給者が提供する車両を自由に選ぶことができる。これを「供給者に入替権がある状況」と捉え、この B の契約にはリースを含まないとされている。

 

なるほど、「供給者に入替権がある」とは、このような状況を言うのか。しかし、B のような契約は、ごく一般的なサービス契約だ。これをリース契約と関連させて「そこにリース契約が含まれるか」などと考えることは、従来は、なかった。ちょっと驚きだ。しかし、結局 B にはリースが含まれないと判断されているので、ここは次の検討へ進もう。

 

A B は、契約内容の違いがはっきりしており、「リースを含むか」に関する判断根拠も、分かりやすく腑に落ちるものだった。だが、次の C には A B の中間の条件設定がされている。果たして、C はリースを含むか、含まないか。

 

C 輸送業者は、A と同様に顧客専用仕様の車両を貸出す。但し・・・

 

輸送業者は専用仕様の車両を10両しかもっておらず、その10両を輸送サービスとして提供する(=保管など他の目的では提供しないし、空いているときは他の顧客のためにも使用できる)。また、契約期間中に同じ仕様の車両を自由に増やして他の顧客のために使用したり、この顧客のための車両のやりくりに利用できる。

 

さあ、みなさんはどう思われるだろうか。車両が特定できているような、できてないような。また、輸送業者に入替権がないような、あるような。

 

結論から書くと、設例では、C はリースを含まないとされている。その理由は、契約の当初は確かに10両を特定することができるが、顧客がその10両の使用を5年間継続して支配し続けられるわけではないから、となっている。

 

他の顧客のためにそれらの車両を利用できたり、車両を供給者が自由に増やすことができるというのは、それらがその顧客専用仕様のものであっても、供給者に入替権がある状況と考えられるのだろう(ピッタリ、このようには書いてない。僕の解釈)。これでみなさんも「供給者の入替権」というものが、お分かりになっただろうか。

 

 

この設例は良くできた設例だが、鉄道輸送を身近に感じられる方は少ないかもしれない。より身近なものにするには、鉄道車両をトラックに置き換えたり、輸送サービス契約を外注加工契約に置き換えてみると良い。そして、ここでいう「供給者の入替権」がどのようなものになるか、想像してみると良いと思う。

 

例えば、下請け会社に、みなさんの会社の製品を専用に製造する生産ラインはないだろうか。或いは、みなさんの会社の製品しか運ばない下請け運送業者のトラックはないか。そしてそれは、機密保持や、技術流出防止のため、或いは、競争上の理由などで、下請け会社(=供給者、貸主)が自由に拡張したり増設、増車できないとか、他の顧客のために使用することができない状況にないだろうか。その結果、実質的に資産が特定され、かつ、供給者に入替権がない状況にないだろうか。もしそうなら、それはリースを含む契約と判断されるかもしれない。もしリースを含むとなれば、下請け先の生産ラインやトラック(の使用権)が、みなさんの会社のB/Sに資産計上されるかもしれない。

 

すると、庸車契約や配送契約、外注取引など、請負契約等のサービス契約全般も、有形資産・無形資産が絡むと、そこにリースが含まれる可能性があることになると思う。サービス契約は、従来、リースと関連するとはあまり考えてこなかった取引であり、新たに注意を向ける必要がありそうだ。まだこの公開草案全体を検討していないので、現時点ではまだ結論は出せないが、一応、視野に入れておく必要がありそうだ。この件は、次回以降も引き続きフォローしていくことにしたい。

 

 

さて今回は、「供給者の入替権」が、リースの識別にどのように影響するかを見てきた。「供給者が入替権を持っているとリースにならない」というところから始まり、逆に、「供給者が入替権を持っていない場合は、(他の条件によっては)リースとなる可能性がある」ということに行き着いた。すると、従来スルーしていたサービス契約もリースを識別する対象となりうる・・・、かもしれない。

 

ということで、僕はすっかりリースのイメージを変えられてしまったが、みなさんはどうだろう。

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