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2013年7月

2013年7月31日 (水曜日)

273.【リースED】供給者の入替権

2013/7/31

前々回(7/25の記事)は、この公開草案の 7 項がリースを識別する要件として (a) (b) の2つを明示しているが、(b) だけでも十分と思われるのに、なぜ (a) があるのか、という疑問を提起した。それを受けて前回(7/25の記事)は、(a) の説明をしている 8項~11項の内容を概観した。

 

その結果、従来のリース契約のイメージでは当然過ぎて問題にならなかったこと、或いは、暗黙の前提だったこと(即ち、供給者にリース資産の入替権がないこと、及び、物理的な区別が可能なこと)が、リースを識別するポイントとされていることが分かった。当然のことが改めて持ち出されているということは、この公開草案が想定しているリース契約は、どうも僕のイメージにあるものとは違うようだ。即ち、僕の頭にある従来のリース契約のイメージ(どうしてもファイナンス・リースのイメージが残っている)を変える必要がある。

 

そこで今回は、どのように変えればよいかをより具体的に理解するために、公開草案に添付されている設例を利用してみよう。まずは、(a) の説明の 8 項~ 11 項によって浮かび上がってきた2つのポイントの1つ目、「供給者にリース資産の入替権がないこと」の理解を深めていく。

 

 

ここでいう供給者の入替権とは、「供給者(=貸主)が、当該契約の期間全体を通じて資産を入替える実質的な権利を有している8 項)」ということだ。借りる側からすれば「貸主の都合で、借りたものを勝手に変えられてしまう」ことになる。こんな条件が契約書のドラフトに入っていたら、通常、賃貸契約は結ばれないだろう。

 

例えば、借りた機械が既に製造ラインに組込まれていれば、それを入替えるのは大変だ。借手に大変な負担が生じる。製造ラインを止めなければならないし、機械を入替える作業コストも大変だ。様々な調整も必要になる。入替の簡単なコピー機でさえ、ソーターの調子がどうのと機械ごとに個性があるので、支障なく使えているものを勝手に変えられては困る。したがって、供給者側(=貸手)が借手の承諾なく勝手に入替えることができるなどという条件は、普通は借手が不利になり過ぎる。

 

なぜこのような、ないことが当たり前の条件が 8 項で明示されたのだろうか。ここで設例を見てみよう。この供給者の入替権は、どのように扱われているだろうか。

 

 

関係しそうなのは「設例1-鉄道車両に関する契約」だ。この設例は、鉄道車両に関連する契約について ABC の3パターン用意している。これらは少しずつ条件を変えてあり、それぞれについて判断例を示している。

 

まず A B を比べると、両者で共通する契約内容は、輸送業者(=供給者)が保有する鉄道車両10両分の使用を5年間顧客に提供すること、そして、輸送時は運転手と機関車もこの輸送業者が提供する点だ。一方、異なる部分は次の通り。

 

A 顧客専用仕様の10両を物理的に貸しっぱなしにする。

 

B 10両分の提供を保証するが、どの車両を使うかは輸送業者の都合で決められる。

 

さらに、A は、貸出された車両を輸送でなく、例えば倉庫代わりに保管に使うこともできるとされている。車両の使用について完全に顧客の支配下にあり、供給者には車両の入替権がない状況とされている。この条件なら分かりやすい。A は賃貸契約、即ちリースを含む輸送サービス契約と直感できる。一方、B は、特定された車両を貸出すのではなく、供給者が提供する車両を自由に選ぶことができる。これを「供給者に入替権がある状況」と捉え、この B の契約にはリースを含まないとされている。

 

なるほど、「供給者に入替権がある」とは、このような状況を言うのか。しかし、B のような契約は、ごく一般的なサービス契約だ。これをリース契約と関連させて「そこにリース契約が含まれるか」などと考えることは、従来は、なかった。ちょっと驚きだ。しかし、結局 B にはリースが含まれないと判断されているので、ここは次の検討へ進もう。

 

A B は、契約内容の違いがはっきりしており、「リースを含むか」に関する判断根拠も、分かりやすく腑に落ちるものだった。だが、次の C には A B の中間の条件設定がされている。果たして、C はリースを含むか、含まないか。

 

C 輸送業者は、A と同様に顧客専用仕様の車両を貸出す。但し・・・

 

輸送業者は専用仕様の車両を10両しかもっておらず、その10両を輸送サービスとして提供する(=保管など他の目的では提供しないし、空いているときは他の顧客のためにも使用できる)。また、契約期間中に同じ仕様の車両を自由に増やして他の顧客のために使用したり、この顧客のための車両のやりくりに利用できる。

 

さあ、みなさんはどう思われるだろうか。車両が特定できているような、できてないような。また、輸送業者に入替権がないような、あるような。

 

結論から書くと、設例では、C はリースを含まないとされている。その理由は、契約の当初は確かに10両を特定することができるが、顧客がその10両の使用を5年間継続して支配し続けられるわけではないから、となっている。

 

他の顧客のためにそれらの車両を利用できたり、車両を供給者が自由に増やすことができるというのは、それらがその顧客専用仕様のものであっても、供給者に入替権がある状況と考えられるのだろう(ピッタリ、このようには書いてない。僕の解釈)。これでみなさんも「供給者の入替権」というものが、お分かりになっただろうか。

 

 

この設例は良くできた設例だが、鉄道輸送を身近に感じられる方は少ないかもしれない。より身近なものにするには、鉄道車両をトラックに置き換えたり、輸送サービス契約を外注加工契約に置き換えてみると良い。そして、ここでいう「供給者の入替権」がどのようなものになるか、想像してみると良いと思う。

 

例えば、下請け会社に、みなさんの会社の製品を専用に製造する生産ラインはないだろうか。或いは、みなさんの会社の製品しか運ばない下請け運送業者のトラックはないか。そしてそれは、機密保持や、技術流出防止のため、或いは、競争上の理由などで、下請け会社(=供給者、貸主)が自由に拡張したり増設、増車できないとか、他の顧客のために使用することができない状況にないだろうか。その結果、実質的に資産が特定され、かつ、供給者に入替権がない状況にないだろうか。もしそうなら、それはリースを含む契約と判断されるかもしれない。もしリースを含むとなれば、下請け先の生産ラインやトラック(の使用権)が、みなさんの会社のB/Sに資産計上されるかもしれない。

 

すると、庸車契約や配送契約、外注取引など、請負契約等のサービス契約全般も、有形資産・無形資産が絡むと、そこにリースが含まれる可能性があることになると思う。サービス契約は、従来、リースと関連するとはあまり考えてこなかった取引であり、新たに注意を向ける必要がありそうだ。まだこの公開草案全体を検討していないので、現時点ではまだ結論は出せないが、一応、視野に入れておく必要がありそうだ。この件は、次回以降も引き続きフォローしていくことにしたい。

 

 

さて今回は、「供給者の入替権」が、リースの識別にどのように影響するかを見てきた。「供給者が入替権を持っているとリースにならない」というところから始まり、逆に、「供給者が入替権を持っていない場合は、(他の条件によっては)リースとなる可能性がある」ということに行き着いた。すると、従来スルーしていたサービス契約もリースを識別する対象となりうる・・・、かもしれない。

 

ということで、僕はすっかりリースのイメージを変えられてしまったが、みなさんはどうだろう。

2013年7月29日 (月曜日)

272.【リースED】リース契約のイメージを変える

2013/7/27

東アジアカップは、その後、強敵オーストラリアに3-2で、宿敵韓国にも2-1で勝利し、優勝することができた(男子)。通算3ゴール1アシストの柿谷選手の他、大迫選手も2ゴールの大活躍だった。その他、豊田選手、山田選手も、良い味を出していた。今後も楽しみだ。ただ、なでしこは残念だったが・・・

 

さて、本題に戻ろう。

 

 

「リースの識別」に関して、公開草案では 6 項でリースを定義し、7 項でリースを識別する条件を提示していた。問題は、その 7 項の条件がなぜ2つあるか、ということだ。その2つを前回(7/25の記事)に続き、もう一度示すと次の通り。

 

(a)当該契約の履行が特定された資産の使用に依存するかどうか(第8項から第11項に記述)

 

(b)当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうか(第12項から第19項に記述)

 

前回は、「(b) の方は、リースを識別する条件としてしっくりくるし、リースを定義している 6 条に照らしても、(b) だけで十分ではないか。では、なぜ (a) があるのか。」という疑問を持った。ということで、今回は、(a) の存在意義を追及してくことになる。

 

(a) には、わざわざ「(第8項から第11項に記述)」とあるので、そこを見ればよい。公開草案のこれら条文をすべて転記すると冗長すぎると思うので、僕が勝手に内容を要約すると次のようになる(時間のある方は原文をご確認ください。和訳はASBJのホームページにあります)。

 

8 リース資産は契約に明示され特定されるが、明示されず実質的に特定される場合もある。

  判定のポイントは、対象資産の入替権を供給側が実質的に保有しているか否か。

 (供給側が保有していると、契約が特定のリース資産に依存しておらずリース契約とならない。)

 

9 リース資産の入替権を供給側が保有していると判断する条件(AND条件)。

・顧客の同意を得ずに供給者がリース資産を入替えることが可能なこと。

・リース資産の入替の障害となる経済的な理由やその他の理由がないこと。

 

10 上記の例外事例(期間や条件次第で入替権・入替義務が発生する場合)の判断の例示。

 

11 部分であっても物理的に区分できるものは特定しうる(建物の床を例示)。

  一方で、稼働能力の一部分の賃貸は物理的に区分できない(光ファイバーを例示)。

 

どうやら「(第8項から第11項に記述)」は、契約の対象資産が具体的に特定されているかどうかに集中しており、なかでも、物理的な区別可能性とリース資産の入替権(又は義務)の有無がポイントになるようだ。

 

しかし、通常の賃貸契約をイメージすると、これらの条件に関心を払うことはない。なぜなら、具体的なものや権利があってこその賃貸だし、折角借りて使っているものを勝手に入替えられては困るから、供給者に入替権があることなど考えもしない。言わば、これらは当然の前提だ。それを改めて明示したのは何故なのだろうか。

 

恐らく、リースは通常イメージする賃貸契約に限らない、幅の広い契約に潜んでいる可能性があるからだろう。従来は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの垣根に注意を払っていたが、今後は、オペレーティング・リースを含むリース契約全体とその他の契約の垣根に注意をしなければならない。“リース”に対するイメージをガラッと変える必要がある。では、どのように変えるのか。それを理解するためには、上記 (a) をじっくり見ていく必要があるのだろう。

 

ということで、今回は、リース契約であるためには対象資産が特定される必要があり、その判定には2つのポイントがあると理解した。これら2つのポイントは、従来は暗黙の前提であり当たり前のことなので注目されることはなかったが、今後はこれを引っ張り出して吟味しないとリース契約の判定ができないようだ。次回以降にこれら2つのポイントを検討していくことにしよう。

 

 

それにしても、東アジアカップにはまだ興奮が冷めやらない。特に柿谷選手は、優勝が懸かった韓国戦のアディショナル・タイム、即ち、ゲームの終了間際にゴールした。中国戦でのミスを取り返してお釣りがきたのではないか。その瞬間のザック監督のガッツポーズが凄かった。これこそ、サッカー解説者の山本昌邦氏のいう、あと数センチ、コンマ数秒の頑張りではないだろうか。冷静さを保った素晴らしいゴールだった。(サッカーのことばかり書いて済みません。) 僕もあやかりたい。

2013年7月25日 (木曜日)

271.【リースED】リースの識別の取っ手

2013/7/25

さて、再びリースの2013年公開草案の話題に戻ろう。その前に東アジアカップは、今夜、男子は 20:00 からオーストラリア戦、女子は 17:15 から北朝鮮戦がキック・オフされる。このブログのアクセス・カウンターは代表の試合時間中でも上がるので、サッカーに関心のない読者もいらっしゃる。しかし、両試合とも対戦先が強豪で注目度が高いと思うので、一応、告知させていただいた。

 

ということで、本題に戻る。この公開草案では、リースの会計処理は次のステップを踏むとされている。

 

 1.リース取引の識別

 2.タイプABの区別

 3.それぞれのタイプごとの会計処理の実施

 

今回は、その1番目のステップを見ていく。が、その前に一つ書いておきたいことがある。(今度はサッカーのことではないのでご安心戴きたい。) この公開草案は原則主義による典型的な書き振りで、実に抽象的な表現がされている。これをいかに現実的なイメージに落し込めるかが、理解の重要なポイントになりそうだ。それでは早速、原則主義を嫌う方が最も嫌がる書き振りの典型のような文章を見ていこう。

 

・-・-・-・

6 リースは、資産(原資産)を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約である。

 

7 契約の開始時に、企業は当該契約がリースであるか又はリースを含んだものであるのかどうかを、次の両方を評価することにより、判定しなければならない。

 

a)当該契約の履行が特定された資産の使用に依存するかどうか(第8項から第11項に記述)

 

b)当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうか(第12項から第19項に記述)

・-・-・-・

 

回りくどいし抽象的だ。まるで取っ手のない戸のようで、滑って開けられるか不安だが、これを理解するには自分で取っ手を彫って、そこからこじ開けていくしかない。そこで僕が取っ手にしようと思案しているのが、次の点だ。

 

A. 権利の移転

6項に「権利を…移転する契約」とあるが、権利は付与するものではないのか。それを「移転」と表現しているのはなぜか。 

 

B. 「リースを含む」

7項に「リースを含む」という表現があるが、ちょっと引っかかる。契約の中にリースの要素が隠れているのでそれを探し出せとか、一つの契約をリースとそれ以外の部分に分割させようという意図を感じる。

 

C. リース要件はなぜ2つか

7項の(a)(b)は、普通に考えれば「当該契約が、一定期間の資産の使用を許諾する内容を含むか」と書けば済むように思うが、それが(a)(b)の2つに分かれているのはなぜか。

 

D. リースの2要件はデジタルか、アナログか

7項に「次の両方を評価することにより、判定…」とあるが、「両方を満たした時に該当する」と判定するのか、それとも「両方を満たさなくても該当する場合がある」のか。或いは、それぞれをマルか、バツか、といったデジタル的に評価するのではなく、それぞれの「満たしている程度」をアナログ的に評価し、それを総合的に判定せよ、という意図か。

 

う~む、どうやら彫ると戸を開けられそうな取っ手は C のようだ。というのは、・・・

 

A については、元々あるものを移動させるという意味の「移転」という言葉が権利に対して使われるのはあり得るし、賃貸契約の場合は、契約終了時にそれがまた貸主に戻されるのだから、むしろ「付与」より「元々あるものを移動させる」移転の方が自然なのかもしれない。それに加えて、ぴ~んとくるのは、例の収益の認識規準の公開草案で使われている「支配の移転」という言い回しで、さらには、概念フレームワークの資産の定義にある「過去の事象の結果として企業が支配し」の文言だ。使用権の移転が、貸主にとっての収益認識のきっかけになり、それによって会計上の資産も誕生すると連想できる。即ち、他の規準等と一貫してますよ、ということになる。6項のそれ以外のところは、普通の賃貸契約の内容であり、あまり違和感はないと思う。

 

B の「リースを含む」という表現については、オペレーティング・リースに様々な契約形態があるので、リース取引かどうかを判定する対象を広げなければいけないというメッセージになっているように思う。現行のリース規準であれば、ファイナンス・リースを識別すればよいので、大概「リース契約書」とか「賃貸契約書」などとタイトルの付いた契約書から探せばよかったが、オペレーティング・リースの場合は、そういうものに限らない。サービスの提供とセットになっていて、資産の賃貸借があまり目立たない契約になっているかもしれない。これには確かに実務上注意が必要だが、本題である「リース取引の識別」を理解するための直接的、根本的なキー項目ではなさそうだ。

 

D については、そもそも、なぜ要件が2つあるのか、という C が理解できないと、掘下げるのが難しい。ということは、C がキーに、即ち、彫るべき取っ手になりそうだ。

 

ということで、C を掘り下げてみよう。

 

そこで改めて、上記の 7項の(a)(b)を読んでみると、どうも、(b)には違和感はない。というか、リース取引を定義している 6項と合わせて読むと、(b)があればリース取引の要件としてもう十分ではないか? では、なぜ(a)があるのか。むむむ、これだ。これこそが問題だ。だいぶ絞られてきた。

 

いよいよ核心に近づいてきたような気がする。もう少しだ。だが、長過ぎると良くないので今回はこの辺で終わりにしたい。この続きは、東アジアカップを応援してからにしたいと思う。きっと快勝して、気持ちよくこのブログにも向かえるはずだ。

 

今度こそ、柿谷ガンバレ~\(゜ロ\)(/ロ゜)

 

2013年7月23日 (火曜日)

270.リスク管理の強化~制度対応と経営高度化の違い

2013/7/23

「あれっ、リースの公開草案はどうなったの?」とご懸念されているみなさんには大変申し訳ないが、もう少し寄り道をお許しいただきたい。今回も、内部統制に関連して、リスク管理を強化しましょうという話にしたい。

 

以前もちょっと記載したが(2011/9/22からの一連の記事など)、内部統制報告書制度でいう内部統制の基本的要素の中でも特に重要なのは、「統制環境」と「リスク評価と対応」の2つといわれている。前回(7/20)の記事では、このうち「統制環境」に関連する問題点「経営者から独立した取締役を複数人」について記載したが、ご存じのようにこれの法制化は「適任者の数が少ない」などの理由で、経団連等に歓迎されていない(グローバルでは取締役の過半数が社外だが)。しかし、「リスク管理」については、強化したい、高度化したいと考えている会社が多いのではないだろうか。

 

但し、内部統制報告書制度でいう「リスクの評価と対応」と、一般に言われる「リスク管理」は範囲が異なっているとされている(ここでいう「リスク管理」は、災害対策などの極端な例外事象に対象を絞った意味ではない。むしろ“経営活動全般”に近い)。どう異なっているかは、あとで記載するが、企業が本当に手間をかけてでも良いものにしたいと思うのは、一般に言われるリスク管理の意味であって、制度対応としては、すでに十分なレベルにあると感じている会社が多いと思う。(会社によっては既に“やり過ぎ”と思っているところもあるかもしれない。) しかも、今回のCOSOレポートの改正でも、この辺りに特に手が入れられた様子はなさそうだ。では、リスク管理を強化したいが、今回はパスするか。。。

 

いやいや、恐らく多くの会社にとって、リスク管理の強化は急務のはずだ。円安になっても売れる製品がなければ本当の業績改善はない。売れる製品を開発し続けることは本当に難しい。外部環境の変化の激しさに音をあげている会社もあるかもしれない。家電業界の惨状を、対岸の花火を見るように高みの見物を決め込んでいられる会社はそう多くないと思う。

 

ん?「製品開発とリスク管理が関係あるのか」って?

 

そう、それが制度としての「リスクの評価と対応」と、一般的な意味での「リスク管理」の範囲の相違になる。そして、僕の理解では、どうやら会計上の見積りの本当に重要な部分は、制度としての「リスクの評価と対応」から外れており、一般的な意味での「リスク管理」には含まれている。一例を挙げれば、投資回収管理は、制度としての「リスクの評価と対応」には含まれないが(或いは、薄く掛っているかもしれないが)、一般的な「リスク管理」には含まれるだろう。

 

「その『一般的なリスク管理』とやらは、いったいどこの誰が言っているのか?」と、思われる方もいらっしゃるだろう。

 

実は、これもCOSOからレポートがでている(2004年の『Enterprise Risk Management - Integrated Framework』)。コンサルタントが“ERM(企業リスク管理)”と言ったら、まず、これのことだ。従来のCOSOの内部統制と、このERMの相違については、KPMGジャパンのホームページの図と説明が簡潔で分かりやすい。

 

要約し、若干説明を加えると次のようになる。

 

内部統制の目標に、「戦略目的」が加えられ、4つになった。即ち、戦略的に策定された事業目的の達成が内部統制の最も上位の目的として識別されている。
(従来の内部統制の目的は、「業務目的」・「報告目的」・「コンプライアンス目的」の3つ。)

 

上記に伴って、内部統制の構成要素として「目的の設定」が追加され、「リスク評価」が「事象の識別、リスクの評価、リスクへの対応」に分解され、内容も膨らんだ。この結果、構成要素は8つとなった。また、「目的の設定」が追加されたことに伴い、従来の「統制環境」は「内部環境」と名称を変え、リスク選好やリスク許容度という概念が含まれることになった。

(従来の内部統制の構成要素は、「統制環境」、「リスク評価」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング活動」の5つ。)

 

(上記の説明には、上記ホームページの他、日本監査役協会のホームページに掲載されていた同志社大学の松尾健一氏の論文も、参考にさせていただいた。)

 

 

僕の注目する点は、経営戦略が加えられたことによる次の2点だ。

 

 ◯ 経営の長期志向的な面が内部統制として明示されたこと。

 

 ◯ リスクのプラス面、即ち、収益機会の管理も内部統制に加えられたこと。

 

企業は、顧客や社会に対するなんらかの“思い”を実現する器であり、実現するためには投資額以上のキャッシュ・フローを確保・回収し続けなければならない。経営戦略は、長期的な環境変化を予想・想定し、“思い”を実現する経路・方法論を明らかにするために策定される。その過程で、製品開発の方針・方向性やそれに対する資源配分の割当なども決められる。したがって、製品開発もリスク管理に関係してくる。

 

この部分が内部統制概念に加えられることで、「内部統制の強化=経営改善」になる。但し、現状では、制度対応としての内部統制を「内部統制」と呼び、この本来の意味での内部統制を「ERM」と呼んでいるので、「内部統制の強化」に魅力を感じられない方が多いのではないかと思う。(一方、「ERM」という言葉の意味はそれほど一般に理解されてないし、注目もされていない。)

 

 

しかし、そもそも、内部統制とは一体として機能するものであり、「これは制度としての内部統制」などと、簡単に切り分けられるものではない。それを無理やり切り分けたために、会計上の見積りに直接関連するリスク管理の一部を「制度としての内部統制」から外さざるを得なかったのだと思う。僕は、「制度としての内部統制」の範囲を見直して広げろというつもりはないが、実は、外された部分が本当は経営上最も重要だという認識は広めたい。(というか、本当は、経営の意思決定に“制度”が影響を与えることを避けるために外された。即ち、重要だからこそ外されたのだ。) しかし、何度も繰り返し書いてきたように、IFRSはそういう長期志向の投資回収管理を前提としている。

 

「内部統制報告書制度からは最も重要な内部統制が外されている、しかし、IFRSはそれを前提にしている。」

 

この認識が広まれば、IFRS導入時に事業計画管理、投資回収管理といった本来の、経営に役立つ内部統制項目を一緒に改善していこうという動きにつながるに違いない。(だからといって、「制度としての内部統制」に、この「戦略目的」が加えられることはないだろうから、ご安心戴きたい。それでも、経営者の見積りを監査人が評価する際に、監査人の信頼が高まることは間違いない。)

 

 

だが、IFRS導入を待っていては、折角現在進行中のアベノミクスの流れ(=円安・株高)に乗り遅れるかもしれない。円安で利益が出やすくなっているうちに、体質改善できないと大変だ。でも、どうすれば・・・

 

以前(2011/9/23の記事)も書いた通り、このリスク管理の根本は、「オーナーシップを持った人材」にあると僕は考えている。サッカー解説者で元ジュビロ磐田監督の山本昌邦氏が、「ゲーム終盤の苦しい時の数センチ、零コンマ何秒のがんばりの差が勝敗を分ける、それができるプレーヤーが超一流のスーパースター。」などと言われるが、まさにこのような数センチや零コンマ何秒の努力を積み重ねていける人材の有無が、企業においてもリスク管理の良し悪しに大きく影響し、経営戦略の成否を決めると思う。こういう人材は、IFRSを導入するしないに関わらず必要だから、見つけ出さなければいけないし、育成しなければならない。

 

それには、何かのプロジェクトを起ち上げて、そこで多くの人材にチャレンジングな責任ある立場を経験させて観察する、或いは、指導する(というより、正解を与えず単に励ます)というのが、オーソドックスな方法だと思う。だが、どんなプロジェクトを起ち上げればよいか・・・

 

やはり、きっかけになるのはIFRSではないだろうか。

 

いったい、どうやったら事業の将来性を評価できるのか、投資回収管理は具体的にどうやれば良いのか。しかし、その前に我々は顧客とどういう関係になりたいのか、何を提供したいのか。そのために不足している能力は何か。それをどうやって獲得するか。そして、それらが実現できているかどうか、或いは、その実現までの進捗状況をどうやったら測れるのか。

 

形式的にならず、しかも、甘えを許さない評価方法や組織運営の在り方はどうあるべきか。事業管理者の責任範囲はどうあるべきかなど、会計処理云々の前に無数の課題があり、その具体的内容は事業の目的や種類によって変わってくる。しかし、共通して必要なのは、外部環境の変化を予測し、それに能動的に対応しようという長期志向があること。これが損益管理しかやれていない企業では、多くの場合欠けている。なぜなら、外部環境の変化を予測しようとしないので、変化の兆候をどうやって察知し、変化の程度をどう計測するか、その方法を準備してないからだ。

 

もし、これを読んで「課題が一杯あるなあ」と感じられたら、IFRS導入プロジェクトに、それだけ多くのサブ・プロジェクトができるので、人材をたくさん試し、発掘したり育成することができる。一方、「我社はできてるから、あまり関係ないな」と感じられたら、すぐにでもIFRSの導入が可能だが、残念ながら、埋もれている人材を発掘する機会は少ないかもしれない。

 

ちなみに、僕は発掘の対象にはなったが、選からは漏れた口だ。その立場から言わせてもらえば、最初からできる人はいないし(=そういう人には優しい課題を与え過ぎ)、目標は決まっていても、そこに達する道筋まで型にハメるような課題の与え方や評価方法はよろしくない。また、同じ立場同士の交流は刺激になったし、直接の上司とは関係のない斜め上の立場の人の助言は大変に有難かった。ただ、人材の発掘や育成も、決まったパターンで、予め準備できるような簡単なものではない。

 

例えば、現在開催中の東アジアカップのザックJAPANも、W杯で4位以内に入るというプロジェクトのサブ・プロジェクトであり、新しいSAMURAIを発掘・育成するお試しプロジェクトの面がある。しかし、同じ立場同士の交流はできても、斜め上の立場の人の助言は受けられるだろうか。

 

柿谷選手はザック監督から中国戦に勝てなかったことに関して名指しされてしまったので、今は辛い思いをしているかもしれない。しかし、これこそ、ザック監督が仕掛けた柿谷選手のメンタルへの評価プロセスなのだと思う。

 

恐らく、ザック監督は中国戦での柿谷選手の1アシスト・1ゴールの活躍は当然のことと思っており、さらに上の活躍を期待したからこそ名指ししたのだろう。だから、きっとまたチャンスがある。そのときこそ、柿谷選手の持ち味を発揮することは当然として、それに加えてさらに、あと数センチ・コンマ数秒の頑張りを見せて、スーパープレーヤーであることを証明して欲しい。

 

こういう時は、取材などで接する機会のある代表経験者や、サッカー協会スタッフなどとして同行している代表経験者がもしいれば、是非、柿谷選手を励ましてあげて欲しい。オーストラリアや韓国は中国より強いので、柿谷選手にとっては正に試練だが、それを与えるザック監督にとっても同様に試練に違いない。しかし、コンフェデ杯で露呈したSAMURAI JAPANの得点力不足解消という課題をクリアするためには、スーパープレーヤーの発掘・育成が急務なのだ。そういう危機感を斜めの人、即ち、代表経験者も共有して、ザック監督との暗黙の連係プレーをしなければ、この難しい仕事は成就できないと思う。

 

 

ということで、またサッカーの話になってしまったが、これが選から漏れた口の甘さ、この程度が限界ということでお許し願いたい。しかし、今はアベノミクスでも第三の矢の成長戦略、構造改革と大規制緩和が最重要とされているように、企業にとっても、経営改善のチャンスのはずだ。多くの企業がそれにIFRS導入プロジェクトを利用してもらえると、日本の未来もより明るくなると思う。

2013年7月20日 (土曜日)

269.新COSOレポート(2013/5改定)

2013/7/20

COSOレポートといえば、内部統制に関する事実上の国際標準だ。それがこの5月に改定されたという。そこで今週火曜日、大手町フィナンシャルシティで行われた会計教育研修機構(JFAEL)の研修を受けてきた。感想は「東京は暑い!」だ。何が? 気温が。だが、それに負けないぐらい熱かったのが、講師の八田進二青山学院大学大学院教授の語り口だった。今回はその感想を簡単に報告させていただきたい。

 

多くのみなさんが気になるのは、変わった内容と共に、新たな制度対応が必要になるかという点と思うが、僕が気になっていたのは、「企業のリスク管理を向上させるか」だった。かねてから記載している通り、IFRSなど最近の会計基準は経営者の見積りを多用しており、経営者の見積りは(経理部単独の仕事ではなく)企業のリスク管理の中から生み出されるものと僕は考えているからだ。経営者の見積りの精度が向上することは、経営の向上につながる、業績の向上につながると思っている。

 

 

まずは、みなさんの関心事から。

 

僕の印象としては、内容が変わったというより整理の仕方を変えた感じだ。その結果、コントラストがはっきりして、従来あまり重視していなかったものが実は重要なことだったり、その逆のこともあったと気付かされるに違いない。

 

ただ、内部統制の定義に出てくる3つの目的と5つの構成要素のうち、目的の1つに変更があった。「財務報告目的」は、「報告目的」へ変更され、非財務報告分野も含めるよう範囲が拡大された。これには例の統合報告も意識しているのではないかとのこと。また、構成要素の「モニタリング」は「モニタリング活動」へ名称変更された。

 

ちなみに、3つの目的とは「業務目的」、「報告目的」、「コンプライアンス目的」であり、5つの構成要素とは「統制環境」、「リスク評価」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング活動」だ。なお、日本の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の内部統制の基本的枠組みでは、これに「資産の保全目的」を加えた4つの目的と、「ITへの対応」を加えた6つの基本的要素となっている。

 

整理の仕方の変更とは、従来は単なる説明文だけだったものに、各構成要素ごとに「原則」を設け、その原則に対して複数の「着眼点(Points of Focus)」を与えたことだ。原則の数は全部で17個あり、すべての原則を適用することで、有効な内部統制を達成することができるとされている。着眼点は内部統制を整備・運用する(=存在し、機能していることの)手助けになるもの例示であり、状況で変わるしもっと良い方法がある場合もある。強制力を持った原則と、着眼点の例示。このような整理の仕方もあって、COSOは改訂版を「原則主義」と言っている。即ち、新COSOレポートは原則主義だと。

 

さて、企業関係者のみなさんの制度対応がどうなるかという関心については、上記の日本の内部統制の基準が変わるかどうかにかかっている。しかし、制度対応などという形式的な問題より、実質が重要だ。原則主義になって重点が明確になったところで、無駄に内部統制の整備・運用や評価作業をやることになっていないか、17個の原則を念頭に内部統制の評価シートを見直すことは良いことだろう。なかには、足りない部分もあるかもしれない。

 

特に、日本の場合は企業統治の仕組み自体が足りない可能性がある。即ち、取締役会の構成・機能だ。COSOレポートで取締役会というと、日本の委員会設置会社の監査委員会のイメージになる。即ち、経営者と対等以上に話のできる取締役が存在していることが、前提となっている。上場会社であれば、独立取締役といえる人が恐らく複数人必要ではないだろうか? 構成要素「統制環境」には、2番目に次のような「原則」がある。

 

取締役会は、経営者から独立していることを表明し、かつ、内部統制の整備及び運用状況について監督を行う。(原文;The board of directors demonstrates independence from management and exercises oversight of the development and performance of internal control.

 

そう、それぞれの原則は、存在し、機能している必要がある(present and functioning)。現実はどうか? 監査役にそこまで求めて良いものか。それともこの原則は適用除外(カーブアウト)するか? (これは冷える~。)

 

 

ちょっと涼しくなったところで、そろそろ、僕の関心事に話題を移したいが、それは次回に回すことにする。研修終了後に新幹線に飛び乗り帰ってきたが、新幹線から降りたらこちらは東京よりちょっと涼しかった。そして、最寄駅まで戻ってくると、さらに涼しかった。J-SOXも導入から月日が経ち、冷えはじめているかもしれない。しかし、八田教授の熱い講義を、時間と共に冷ましてしまうのでは勿体ない。恐らく熱さを持続させるには、企業のためになる内部統制を如何に追求するか、そこへの執着の強さが重要になると思う。次回がそういう内容になるよう努めたい。

 

2013年7月18日 (木曜日)

268.【リースED】因数分解で括りだした「使用権」

2013/7/18

このシリーズの前々回(7/9前回(7/12の記事では、現行の会計基準に倣ってファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分し、それぞれがなぜ資産計上されるのかに関する直感的な説明を記載した。ファイナンス・リースは、現行の会計基準でも資産計上されるが、それは借り手に法的な所有権はなくても、所有権を持っているのとほぼ同等な経済的便益を享受できる点が着目されたからだ。

 

今回のリースの公開草案はこの区分を行わず、リース契約全体を一括りにしている。その結果、現行の会計基準で賃借料の発生を記帳すればよいとされているオペレーティング・リースについても、一年を超えるものは資産計上するよう提案されている。7/12の記事では、JALの開示で航空機のケースを書いて、いわゆる「レンタル」とは言えないオペレーティング・リース契約があることを紹介したが、それは十年以上に及ぶ長期契約だった。もっと短期の契約でも同じことが言えるだろうか。

 

例えば建設現場単位でレンタルされる重機はどうか。2年で更新期限を迎える不動産の賃貸契約も資産計上すべきか。

 

 

ファイナンス・リースを資産計上するときの理由は、「所有しているのと実質的に変わらないから」ということで分かりやすかった。法的形式より経済的な実質を優先させようということで納得感もあった。しかし、リース契約を一括りにして、一年を超えるレンタル契約まで資産計上させようというこの公開草案には、ちょっと抵抗感のある方も多いのではないだろうか。「他人から借りた物を自分の物にする」みたいで。

 

僕自身を含めて、そう感じるみなさんは一つ驚くべき会計基準の変化を理解しなければならない。リース契約が資産計上されるとき、その資産は「物ではない」ということだ。資産計上されるのは「使用権」という「権利」だ。だから、「他人から借りた物を自分の物にしていない」のである。「他人から借りた物」をこの公開草案では「原資産」といって、「使用権」から区別している。ちなみに、原資産と使用権は次のような関係にあるそうだ。

 

 原資産  (リース期間後の)貸手への返却義務  使用権資産 (リースED'13 BC36.(b)

(訳語の原文は、以下のとおり。)

両審議会が2012 年の再審議の間に検討したアプローチでは、借手は使用権資産を原資産から当該資産を貸手に返却する義務を控除したものの組合せと考えることになる。

 

ちなみに、「原資産>使用権」であり、「原資産-使用権」の部分は貸手の資産(権利)であるため、貸手のB/Sには載るが、借手のB/Sには載らない。

 

なるほど。

 

ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの共通項を括りだして、その最大公約数たる使用権だけを借手の会計処理の対象にしたのか。まるで数学の因数分解みたいだ。現行のファイナンス・リースも、使用権と(重要性のない)貸手への返却義務のセット、オペレーティング・リースも同様に、使用権と(重要性のある)貸手への返却義務のセット、と表現できる。まあ、返却義務の大きさに違いがあるにしても、このような因数分解をした後は、両者を同じように表現できるから、一括りにできる。

 

ただ、表現上一括りにできるといっても、その括りだした「使用権」が概念フレームワークの資産の定義に当てはまるかというハードルをクリアしないと、会計上の資産にならない。これについては、直感的に「金を生みそうだ」と思うので問題はなさそうと思うが、この公開草案の結論の根拠でも検討されていて、会計上の資産に該当すると判断されている(BC1314BC15以降は「使用権」だけでなく、支払義務や返還義務などその他の要素も、借手や貸手の資産・負債の定義に合うか細かく検討されている)。

 

その結果、結構手間のかかる作業であったファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別作業は不要となる。例の、リース期間が耐用年数の75%から120%とか、リース料総額の現在価値と現金購入価額の比率がどうのという作業だ(日本基準の例)。

 

但し、「使用権」は無形資産で目に見えない、物理的な管理が不要なもの、と考えたら問題が起こる。借り物である原資産は、現に存在し、事業運営上良好な状態を維持する必要があるし、故障すれば修理が必要だし、リース期間が終了すれば返還しなければならない。したがって、通常の固定資産と同様に、現物管理、物理的な管理が必要だ。この点が、単に「使用権」と呼ばず、「使用権資産(the right-of-use asset)」という名称を使った理由かもしれない。この点には管理上も注意が必要だ。

 

また、タイプA、タイプBという新たな区分ができた。せっかく、面倒な区分作業がなくなったのに、新しい区分を作ってしまったのはなぜか。その区分作業は煩雑ではないか。これらの点については、後日検討したい。この新しい区分は、リース契約が純損益に与える影響を考慮したものらしい(BC31~。例えばBC48)。即ち、損益計算の観点から区分が必要とされたらしい。

 

それから、リース契約を一括りに(定義)してみると、一部のサービス契約がリース契約に含まれてしまうのではないかという懸念が生じてきたという。これは意外と実務的に迷うところかもしれない。この公開草案には設例が設けられているので、それを見ていきたいと思う。(もちろん、後日に。)

 

リース期間終了後にリース期間の延長を選択できるオプションがついた契約について、償却期間に延長期間を含めるかという問題もある。実は、僕はあまり問題と思っていないが、どこかで触れたいと思う。

 

 

ということで、今回は新しいリースの考え方のエッセンスと僕が思ったところ、即ち「使用権」を括りだしたところを取上げたが、次回は、借手、貸手の会計処理について、概観してみたいと思う。

 

なお、所有権移転リース(=リース期間後に所有権が借主に移転するもの)については、このシリーズでは触れずにきているが、割賦購入契約と同じものと思っていただければよいので、今後も触れる予定はない。(但し、所有権の移転がオプションとして借手の権利になっているケースについては触れるかもしれない。)

2013年7月14日 (日曜日)

267.【金融緩和】改めて、円安・株高を考える

2013/7/14

明日は海の日。島国日本にとっては国際問題を考える良い機会だ、という日では全くはないが、この半年間のアベノミクスを見てきて、感じたことを書いてみたい。

 

 ・株価は「半年から一年後の経済予想を反映する」といわれるが、それは「欧米人の」予想ではないか?

 ・円相場も「欧米人の期待と都合」を反映したものではないか?

 

こんな書き方をすると、「おまえは右翼か」と言われそうだが、思想を書こうというのではない。現実だ。日本の株価、日本の通貨のことであっても、資金を動かして相場を支配していたのは欧米人、特に米国投資家だったようだ。

 

即ち、経済予想といっても日本に住む我々の予想ではないし、円安の根拠にあるインフレ期待も、我々日本人の実感ではない。果たして、これら外国人の予想や期待は正しいのだろうか。もし正しいとしても、日本の我々の予想ではないとすると、我々は、新しい経済環境変化への準備ができているだろうか、或いはすでに準備を始めているだろうか。自らの予想であれば、変化へ対応しようと必死になると思うが、他人に「変わりますよ」と言われてる状況なので、どうもピンとこない感じになっているのではないか。

 

自民党などは「円安・株高」をアベノミクスの成果としているが、我々は、日本にとっての意味を改めて考える必要があるのではないか。具体的には・・・

 

 ・「アベノミクス」がなければ、「円安・株高」は起こらなかったか?

 ・欧米投資家の期待通り、少なくともその方向へ、我々は変化できるか、それは我々の幸せか?

 ・我々の幸せに繋がる変化をリードできるのは誰か、実現するのは誰か?

 

 

僕は経済の専門家ではないので、あくまで素人の戯言として読んでいただきたいのだが、上記について次のように思っている。

 

 ・「アベノミクス」がなくても「円安・株高」は起こった可能性がある。

 ・日本に改革が必要なことは明らかだし、改革の方向性・内容については外国人の意見も貴重だ。

 ・だが改革には、既成概念にとらわれない自分のアイディアと、自分自身による意思決定が必要だ。

 

2つ目、3つ目については当然のことと受け入れていただける方も多いと思うが、1つ目については違和感を覚える方が多いと思う。だが、1つ目は、安倍首相得意の“俯瞰”によって見えてくる。僕にそのきっかけを与えたのは、5/22 の米国FRB議長バーナンキ氏の発言で、日本では 5/23 から株価が下落し、円相場が円高方向へ大きく振れた。

 

 

そもそも、昨秋までの円高と株安は、リーマン・ショックがきっかけだった。米国では内需の重要な構成要素である住宅投資が激減し、不動産価格の暴落が起こった。これはまるで '90年代の日本のバブル崩壊を見るようで、米国経済が大恐慌以来の低迷に喘いだ。一方の欧州も、米国不動産証券を合成した金融派生商品の評価が、評価を付けられないほど暴落し、それが金融機関の信用危機、政府債務の信用危機にまで広がって、いわゆる欧州債務問題が発生した。それで、いわゆる「リスク・オフ」の状態になった。その裏側で円が買われて、歴史的な円高となっていった。

 

ところがよく考えてみると、昨秋の段階で、米国の不動産価格は既に上昇に転じており、失業率も、昨年11月には現職のオバマ氏が大統領に再選されるところまで戻っていた。また欧州も、昨年7月のECB総裁のドラギ氏の「欧州単一通貨ユーロを守るために必要なあらゆる措置を取る」発言をきっかけに、イタリアやスペインの国債利回りも低下し、もはや最悪期を脱していた。「リスク・オフ」の解消だ。しかも、日本は東日本大震災以降貿易赤字となり、経常収支の黒字も著しく減少した。一時は経常収支も赤字になった。ならば、その時点で円高・株安が解消されても良かったのだ。あとは、何かきっかけがあれば。

 

結局そのきっかけが、昨年11月の野田首相(当時)の、安倍自民党総裁(当時)との党首討論会での解散発言になったわけで、当時の安倍総裁の大胆な金融緩和の主張が脚光を浴びて「アベノミクス」と評されることになる。そこから円安・株高が始まる。その後、衆院選などのイベントをこなすごとに円安・株高が進んだ。

 

しかし、もしかしたら、それがなくても今年1月初めの米国FOMC(連邦公開市場委員会;米国の金融政策を決定する委員会。日本でいえば日銀政策決定会合のようなもの)議事録の公表がきっかけになったかもしれない。この議事録には、はじめて米国の量的金融緩和第三弾(QE3)の縮小が議題になった。日本はちょうど正月休みだったが、明けてみると、米国金利の上昇への期待が高まり、ど~んと円安が進んでいた。株価も上がった。

 

なぜこのFOMC議事録の公表がきっかけになりえると考えたかというと、米国の投資家にとって、日本の国会での党首討論会より、FOMC議事録の方がずっと重要と思うからだ。米国の投資家にとって米国金利上昇の見通しは、負債資金コスト、即ち、支払利息の増加に直結し、ドル高による外貨建て資産の目減りの可能性を高め、米国の国内経済を冷やす可能性を高める。資金調達と投資の両方の方針をすべて見直す必要性が高まる。一方、日本の国会の討論は、投資先の一部の状況の変化に過ぎない。

 

そして、ドル金利が上昇しドル資金の調達コストが増加するならば、金利の安い円で資金調達しそれを国際的な投資に振り向ける方が有利になる可能性がある。調達した円をドルやユーロ、その他新興国の資産へ振り向けるためには、円を他の通貨へ変える、即ち、円を売らなければならない。それが円安を引起す。加えて、そういう動きを予想して、円売りを仕掛けて短期的に利益を上げようとする投機筋の取引が増加する。これも円安につながる。さらに、こうして調達された資金の一部は日本株にも投資され、株高を演出する。

 

以上のプロセスを考えると、「アベノミクス」がなくても円安・株高は実現できそうだ。とはいえ、現実には「アベノミクス」がきっかけで円安・株高となったので、「よいきっかけになってくれた」と評価する必要はある。しかし、それ以上のものではないかもしれない。それ以上のものになるかどうかは、今後次第だ。即ち、日本の改革が正しい方向に、成果を生むまで徹底して行われるかどうかだ。

 

ここで、5/23 からの株価・円相場の調整の意味を考えてみる。

 

まずは、今年に入ってからの状況の推移を振返ってみよう。QE3の終了の検討が始まっていることは、上記の1月の議事録公開で分かっていた。その後、米国経済は財政の崖といわれていた悲観的な予想を覆してきた。2月には所得税減税が止められ給料の目減りが始まった、3月・4月以降は、政府債務の上限により政府支出が削減され、公務員も失業しているが、それでも消費は底堅く、雇用者数は毎月平均20万人近く増加している。それどころか、不動産取引の一部には、バブル的な価格上昇が見え始めた。そんな時期の 5/22、バーナンキ氏が米国議会でQE3縮小の可能性に触れた。

 

そこまでは、いずれはQE3が縮小されるというだけだった。しかし、それは当たり前のことで、いつまでも米国の中央銀行であるFRBが、リスク資産を増やし続けると予想することは非現実的だ。それがこの 5/22 の発言で具体的な縮小開始時期が取りざたされるようになった。9月か、12月かと。そこで、上記の資金調達と投資の方針が、グローバル・ベースで改めて見直されたに違いない。すると日本株は上がり過ぎていると気付いたのではないだろうか。或いは、上がり過ぎには気付いていて、是正のちょうど良いきっかけになっただけかもしれない。その他、中国・ロシア・ブラジルなどは元々冴えなかったが、その他のアセアン諸国やトルコなどの新興国への投資も見直された。

 

日本については、「アベノミクス」の間に、為替レートが安くなっても輸出がなかなか増えないことが明確になった。もともと、為替レートが変わってから輸出に影響するのに半年から1年かかると言われるが、それにしても、以前は貿易黒字を稼ぐツー・トップの一角を占めていた家電各社が厳しい。そして、これだけ株高になっても、日本の、特に機関投資家の資金が株式市場に向かわないことも分かった。さらに、アベノミクスの第三の矢が、日本の経済構造を改革するに足るものではないことも分かった。要するに、日本はまだ改革の準備が全然できていないのだ。

 

ただ、その分の期待が剥げ落ちたものの、金利が低く資金調達は有利という面の評価だけは残って、今のドル円の99円、日経平均の14,500円が維持されている、と、思う。微妙なのは、この評価に含まれているインフレ期待の理由だ。果たして、輸入物価上昇による悪性インフレを期待しているのか、それとも景気の好循環に伴うインフレを期待しているのか。もちろん、今は日本が何かをやろうとしているのは間違いないから、後者の期待が大勢だと思うが、果たして何をやろうとしているか、何処まで徹底できるかを、海外勢は注視しているに違いない。仮に、参院選が与党の勝利で終わって、それでも株価が下がったり、円高に振れたりしたら、ちょっと心配だ。与党の政策に信頼がなく、前者の期待が大きくなり始めた兆しになると思うからだ。

 

先週は、バーナンキ氏が量的緩和の継続を印象付ける発言をし始めた。上記 5/23  先月のFOMC後の発言を修正する動きだ。米国のインフレ率が低すぎることを気にしているとか、今週のG20で中国等の新興国から米国金融政策に注文がつきそうなことを考慮しているとか、色々言われているが、円と日本株については、この修正の直接的な影響をあまり受けないかもしれない。しかし、中国やアセアン経由の影響はありそうだ。したがって、近隣諸国の株式相場、為替レートの変動の影響を、日本が受けるようになるのではないか。即ち、日本はまだ準備不足という評価が定着したので、日本固有の事情では相場が動きにくく、近隣諸国との関連で動きやすくなるのではないかと思う。

 

 

ちょっと、思っていたより長々と書いてしまったが、要するに、円や日本株は、海外投資家から見た状況や都合で取引されており、日本自身の変化はまだ起こっていないということを書きたかった。そして、早くその変化を起こさないと、いつまでも円安・株高が維持されるわけではない。いまのところ、海外投資家の資金が今の円安・株高を作っているからだ。「アベノミクス」で安心していられる状況ではない。

 

早く、日本人自身が日本経済に自信を持ち、日本の資金が円相場や日本株を動かすようになりたい。そのためには、日本企業がイノベーションを起こして国際競争力を高め、グローバルな存在感を取戻す必要がある。今はできてないそのような経済活動が可能な日本の社会基盤を、誰が、作り直すか、その能力があるのか、それが問題だ。少なくとも、日本の都合だけを語っている人ではないだろう。一見改革するかに見えて、結果的に現状維持とか中途半端な改革に終わるような主張をする人でもないだろう。既得権者の支持を背景にして、日本の全体像が見えてない人でもないだろう。甘いことしか言わない人でもないだろう。

 

なかなか難しいが、この一週間は、そんなことを考えて過ごすことになりそうだと思う。ちなみに僕は、来年消費税率を上げても税収は増えないと思っている。まだ日本は、何の準備もできてないのだから。

 

2013年7月12日 (金曜日)

266.【リースED】オペレーティング・リースの問題

2013/7/12

今回のリースの公開草案では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースという区分は出てこない。(タイプAとタイプBが出てくるが、これはファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分とは関係がないようだ。ちょっと似ているが、現時点では、僕は別ものと考えた方が良さそうと思っている。タイプAB については、また後日。)

 

しかし、なぜこの公開草案が出てきたかを理解するために、今一度オペレーティング・リースの復習をしておこう。

 

ファイナンス・リースは、支払方法と所有権の所在に特徴があるが、実態は普通の資産の取得と変わらないもの。これに対してオペレーティング・リースは、その資産を特定期間借りて使用する契約であり、借りる側に、その資産を所有しようという意図はない。ただ一定期間使えればよい。その間、その資産で事業のオペレーションができればよい。だから現行の会計基準では、使用の対価としての賃借料を発生ベースで費用計上するという会計処理が採用されている。

 

これに何か問題が? みなさんはそう思われないだろうか。

 

僕も最初は、オペレーティング・リースのこの賃借料計上の処理を否定し、資産計上すべきと主張する理由が分からなかった。僕はオペレーティング・リースのことをレンタルと思っていたから、「レンタルしてきたものを資産計上するって、いくら何でもやり過ぎでしょう」と思っていた。それではまるで、泥棒みたいではないか!

 

ただ、ツイーディー卿の飛行機(7/4の記事)は、どうみてもレンタルではない。なぜなら、機材・機体を航空会社の責任できっちり、自分のものとして整備してもらわなければ、怖くて乗っていられない。「ちょっとレンタルで」と気軽に貸し借りされているなら、知らせてもらわなければ乗客としては困る。(「共同運航」というのがあるが、これは相手の航空会社名が分かり、信用できるかどうか乗客が判断できる。)

 

要するに、「レンタル」とは言えないオペレーティング・リースがあるということを、恥ずかしながら当時の僕は知らなかったのだ。では、どういうケースが「レンタル」とは言えないオペレーティング・リースとなるのか。

 

例えば、レンタルというにはあまりに使用期間が長いケースだ。航空機についていえば、JALの2013/3期の有価証券報告書(JALホームページ)P33の「主要な設備の状況」の表の付表「賃借航空機(オペレーティング・リース)」を見ると分かる。最も長いものは、平成36年(11年先)までという契約もある。ちなみに航空機の耐用年数については、P65に記載があり、「12~27年」とされている。

 

十数年も使い続けるとすれば、購入したものと何が違うだろうか。購入したものでも、耐用年数の途中で売却することがあるから、結果として使用期間が変わらないこともあり得る(実際に、JAL本体でこの事業年度に12機売却している)。

 

とはいえ、単にリース期間が長いとか、使用期間がオペレーティング・リースと購入したもので変わらないことがある、というのは、形式的な話だ。着眼点としては重要だが、結論を出す前にもっと突っ込んで考える必要がある。でも突っ込むって何を? どこを?

 

それは、事業にとっての意味だ。購入とオペレーティング・リースは違うのか、同じなのか。違うとすれば事業において本質的な差か、それとも多少経路が違うだけで目的は同じか。同じであれば、会計処理が一方は資産計上で減価償却、もう一方は賃借料を費用計上というのはおかしいということになる。

 

 

ここからは、JALやANAに関わったことがない僕の推測交じりの話になるのでご容赦願いたい。

 

JALのビジネス・モデルは、旅客機を使って人やものを運んで収益を得て、旅客機その他への投資を回収するというところは、みなさんも同意いただけると思う。そのために何が重要になるかというと、「お客さまに世界一の安全性、定時性、快適性、利便性を提供するということ」(JALホームページのJALグループ企業理念より)だ。

 

安全性も、定時性、快適性、利便性の何れにとっても、飛行機の機材・機体は重要だ。もちろん、“世界一”になるには、整備や運航に係る人的資源の優秀さがさらに重要だろうが、これらを一定の経済性の下に実現するには、高性能な機材・機体を合理的な価格で調達し、事業に投入する必要がある。そして陳腐化した機体は、随時、新しい機体に入替えていく必要があるだろう。

 

では、これらに比べて次のことは重要だろうか。

 

 A. 機材・機体の法的な所有者が誰か

 B. 機材・機体購入の支払は、一括払いか分割払いか

 C. 機材・機体は、税法の耐用年数の75%より長い使用期間が予定されているか否か

 D. 機材・機体の価値の概ね9割以上を航空会社が支払うか否か

 

既に、お分かりと思うが、機材・機体を事業に投入できるのであれば、そして、タイミングよく入替ができるのであれば、AD は二の次ということになる。大雑把に言って、A B は、購入かリースかの違い、C D は、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの違いを分ける現行の基準だ。しかし、購入かリースか、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかは、事業に投入する機材・機体を調達するための手段に過ぎず、事業を遂行するための本質的な目的・問題ではないだろうと思う。

 

さて、ここで上記有報のJALの連結財務諸表の具体例を見てみよう。

 

総資産が1兆21百億円、うち航空機が38百億円計上されており、これらを使用して、1兆23百億円の営業収益と17百億円の当期純利益、26百億円の営業キャッシュフローを稼ぎ出していると読める。ほう、38百億円の航空機でこんなに稼げるとは素晴らしい。それを12年~27年も使うことができるなら、儲かるはずだ(但し、法人税等をほとんど計上していない状態の数字だが)。

 

ところが、こういう読み方は、恐らく間違いだ。すでに何度か記載したように、オペレーティング・リースで調達した機材・機体は、現行基準ではB/Sに計上されていない。JALは、実際にはもっと多くの航空機を事業に投入して利益やキャッシュを稼いでいるはずだ。多分、上記有報のP76にひっそり記載されている「オペレーティング・リース取引」の注記を考慮する必要がある。そこには、解約不能オペレーティング・リースの未経過リース料として20百億円あることが明らかにされており、(それが航空機かどうかの記載がないが、)恐らく、これの多くが機材・機体なのだろう。

 

まあ、それでも凄い数字だが、こちらの方が経済実態に近いはずだ。もしかしたら、解約不能でないオペレーティング・リースで調達している機材・機体もあって、その数字がまだ隠れているのかもしれない。そのあたりは、もう現行の開示では分らない。

 

これが現行基準の限界であり、問題点だ。

 

だとすれば、なんとかこの20百億円+αをB/Sに計上したくなる。そうしないと事業の経済実態が良く分からないことになる。例えば、他の航空会社と比較をするにも、オペレーティング・リースによる調達の割合が大きな航空会社は、その分の航空機をB/S計上しないので総資産利益率が凄く良く見えることになるが、オペレーティング・リースによって調達すれば事業効率が良いように見えるのは、経済実態を正しく表現していないかもしれない。同じようなことはこの業種に限らず、例えば、小売業で店舗が自前かどうか、とか、運送業界で車両が自前かどうかなど、色々あるに違いない。

 

これを改善しようというのが、この公開草案の目的となっているはずだ。

 

ということで、次回以降は、公開草案がどのようにこの問題を解決しようとしているかを中心に具体的に見ていこう。

2013年7月 9日 (火曜日)

265.【リースED】リース取引とは

2013/7/9

会計の勉強をしていて、リースは必ず出くわすテーマだが、「リースって何?」という疑問が解けないと深く理解するのが難しい。そもそもリース取引とはどういう取引だろうか。例えば、リース取引に関する会計基準(企業会計基準委員会改正平成19330日。以下、「リース会計基準」という)には次のように記載されているが、ちょっと難しい。

 

4.「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。

 

これで、「良く分かった。」「知ってる。」という方は、今回は、読み飛ばしていただいてよいかもしれない。「ん~、もちろん日本語としての意味は分かるが、なんとなくしっくりこない。」という方は、続けてお読みいただきたい。

 

 

昔、リース会計基準ができる前のリース取引の会計処理は、賃貸契約に従い、支払リース料を発生主義で計上するだけの単純な方法だった。即ち、リース契約書という賃貸契約があるものがリースだから、その契約に従った会計処理が行われていた。ところが、リース会計基準ができてがらりと変わった。「リース取引には、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースがある。」とされ、このうち「ファイナンス・リースは資産計上し、(定額で)減価償却する。支払リース料は総額を負債計上し、あたかも借入金のように支払利息と元本の減少として処理する」こととなった。一方、「オペレーティング・リースは従前どおりの賃借処理」だ。

 

ご想像の通り、ファイナンス・リースとは「実態がファイナンス(=金融取引)」のリースという意味だ。即ち、普通の固定資産の購入取引と実態は同じなのだが、支払いが分割払いになる(=信用が付与される金融取引、実質的に借入金)。それなら割賦購入と同じじゃないか、と思われると思うが、割賦購入とは“ちょっと”違う。

 

基本的には、リース期間満了後に固定資産はリース会社へ返却される可能性が高いとされ、かつ、法的な所有権はリース会社が保有し続ける。この部分だけ見ると、「リース期間中に資産が貸与されている賃貸契約」のように見える。割賦購入であれば、固定資産を返却することはないし、分割払いが終了すると所有権は購入者へ移動する。この点が割賦購入と“ちょっと”異なる部分だ。よって、割賦購入だと普通に資産計上して減価償却するが、リースなら賃借料の支払で良いとされていた。

 

しかし結局、“ちょっと”しか違わないし、違う部分は取引の本質ではないということで、会計処理を普通の固定資産に合わせたのが、上記のリース会計基準だ。この「違う部分は取引の本質ではない」という部分は、次の例を考えると分かる。

 

例えば、みなさんが職場にコピー機を導入したいと考えたとする。そして、固定資産の管理をしている総務部にコピー機が欲しいと相談する。すると総務部は該当する稟議書の様式を指定し、見積書などの添付書類を要求する。そこまでは良いのだが、みなさんが、その稟議書の様式を良く見てみると、購入にするか、リースにするかの選択を記入する欄がある。はてさて、これはどういうこと? なぜ、みなさんがこれを記入するのか?

 

 

この稟議書の様式の意味するところは、2つの面に分けて考える必要がある。

 

(1つ目)

本来、みなさんは職場にコピー機を導入することの承認を得たいだけだ。そのために、複数機種をピックアップし、性能と価格、それと用途と生産性の改善効果を分析して、どのメーカのどの機種が良いと指定する。それだけで良いはずだ。これがこの取引の本質であるはずだ。コピー機の購入代金を、内部留保資金から捻出するか、外部から借入れるか、それともリースにするかは、みなさんに関係なく、財務部門が決めてくれれば良い。

 

(2つ目)

しかし、取得にするのとリースにするのでは次の点が異なってくる。取得にすれば、その後の予算管理は減価償却費に影響が現われ、もし、オフィス機器を定率法で償却していれば、定率法の減価償却費が計上されてくる。一方、リースにすると支払リース料の定額の発生額が費用処理されるので、その後の予算管理の対象は、毎期均等額の支払リース料になる。「予算管理はどちらでしますか?」というのが、稟議書の様式の意味だ。

 

ということで、お分かりいただけると思うが、取引の本質に関係なく、取得にするか、リースにするかで、会計処理が変わってしまい、予算管理も変わってくる。費用の発生状況も、定額法と定率法で変わってしまう可能性がある。もちろん、リースにすれば、コピー機は借り物でリース会社のものなので、借り手のB/Sには計上されない。実質的にはその会社の資産で、総資産利益率を計算する際に分母に含めるべきなのに、入らない。

 

上記の例はコピー機だが、工場の生産設備でも同様のことが行われるので、生産設備がB/Sに計上されなくなったり、実質的に定率法の減価償却方法が蔑ろにされてしまう。例えば利益率の悪化が予想される場合は、設備投資資金をリースで調達すれば、利益を一時的に良く見せることもできる。・・・取引の本質、経済実態はなにも変わらないのに!

 

加えて、同じ工場や生産ラインの中に、自社の設備とリース会社の資産が無秩序に混在することにも繋がる。そうすると現物管理が難しくなるので、注意をしないと償却資産税の管理で混乱を来たしたり、担保の設定がややこしくなる。

 

というわけで、会計処理の問題を改善し、ややこしくなるインセンティブがなくなるようにしたのが、上記のリース会計基準だ。(但し、リース資産の償却方法は、原則として定額法とされている点は残るが。) この会計基準はリース業界が強硬に反対していたようで、難産だったらしい。それでも漸く制定されてやれやれ、これで問題解決かとホッとしたのも束の間、これだけでは済まない問題が出てきた。それが例のツイーディー卿の飛行機の話になる。(7/4の記事

 

ファイナンス・リースは、一応良くなったけれども、オペレーティング・リースに問題が残っていた。従前どおりの賃貸処理のオペレーティング・リースの中に、「これって、資産じゃないの。減価償却しなくてよいの?」というものが見つかるようになったのだった。これについては次回へ続く。

2013年7月 6日 (土曜日)

264.【オリンパスの粉飾】地裁で執行猶予付き判決

2013/7/6

既にみなさんもご存じの通り、7/3 にオリンパスの粉飾事件の東京地裁判決が出された。元社長の菊川剛被告(72)には懲役3年・執行猶予5年、元副社長の森久志被告(56)には懲役2年6ヶ月・執行猶予4年、元監査役山田秀雄被告(68)には、懲役3年・執行猶予5年だった。

 

僕は、量刑の重い・軽いは良く分からないが、仮に軽い場合であっても執行猶予は付かないだろう、付けないでほしい、と思っていた。なぜなら、・・・

 

  • 上場企業の粉飾は、不特定多数の投資家と株主に対する詐欺行為であり、影響が広範に及ぶ。
  • この事件は、粉飾額が最大1千億円以上、期間も10年を超える他に例を見ない悪質なもの。
  • この事件は、一部役員が完全に意図し実行したもの。間違いとか、会計基準の解釈相違ではないし、監督責任を問われたものでもない。

 

ということで、(粉飾事件すべてに実刑判決を、ということではなく)この事件に関しては実刑判決を期待していた。

 

ネットでいくつかの記事(読売朝日毎日日経産経(Yahoo!ニュース))を読んでみたが、執行猶予が付いた理由に言及していたのは読売、毎日、日経、産経だった。これらによると、弁護側の次のような主張が考慮されたらしい。

 

  • 最初に損失隠しを決めたのは先代の社長らで、菊川被告は負の遺産を引き継いだ。(読売、毎日、産経)
  • 既に真摯に反省し、社会的制裁を受けている。(日経)

 

さて、みなさんはどのように感じられただろうか。そもそも執行猶予付き判決が妥当と考える方、執行猶予付きでもよいが上記の理由には納得できない方、逆に上記の理由があるなら執行猶予付きでもやむを得ないという方、そして僕と同じように実刑判決が良いと思われる方もいらっしゃることだろう。

 

 

ここからは、ちょっと僕の思い込みで突っ走りたい。何の根拠もなく憶測・想像だけのいい加減な内容だ。いや、それは勘弁してくれ、と思われる方は、ここから先はお読みいただかない方が良いと思う。真に勝手で申し訳ない。

 

 

的外れかもしれない、そして、話が飛躍しているかもしれないが、僕は“会社のために”という言葉が気にかかる。Googleで“会社のためにやった”と“オリンパス”で検索すると、上記の読売の記事が検索される。僕は読売新聞の有料購読者ではないが、上記の記事には有料購読者だけが読める続きがあり、そこには『「会社のためにやったことだ」などとして執行猶予付きの判決を求めていた』と書かれているらしい。

 

“会社のために”という言葉は、意外と難しい。この言葉への思い、この言葉の理解の仕方には、かなり個人差があると思う。「彼らは会社のためにやったんで、私腹を肥やしたわけではない」、とか、「もし、菊川氏が社長になった時にオープンにしていたら、会社は潰れていたかもしれない。彼は会社のために泥をかぶったんだ」などと、素直に思える人、思えない人、悩む人。

 

僕は、社長としてこの問題をオープンにしたマイケル・ウッドフォード氏を支持する。一方、“会社のために”と説得されて、不正の隠蔽に手を染めて苦しむ心情も、一応理解できるつもりだ。しかし、どちらが“会社のため”なのだろうか。“会社のために”の内容は、意外と幅があるように思う。或いは、逆に“会社のために”という言葉には、どれほどの内容があるものなのか。

 

ご存じの通り、僕は特定の組織に所属しない全くのフリーになって2年が経過した。そろそろ、“会社”や“組織”を冷静に眺めることができるようになってきたし、“会社のために”の呪縛から心が解放されてきている。(元々、そんな気なかったでしょ、と元同僚や元上司からは言われるかもしれないが・・・)

 

“会社”を離れて思うことは、“会社のために”って言葉を安易に使う人は、本当に会社のことを考えていただろうか、という疑問だ。もちろん、本当に会社のことを思って使われることもあると思うが、意外に、自分の立場と既得権を守りたいという下心を隠すために使われるケースも多いのではないだろうか。(実は、僕のいた監査法人では、この言葉はあまり聞かれなかった気がする。それとも、実際は使われていたのに僕の頭が無意識にスルーしていたか。)

 

 

この事件で菊川氏に、「会社のために損失隠しを続けてくれ」と説得した人物に限って言えば、その下心を隠すために、この言葉を使った可能性が高いと僕は思う。そもそもの発端は、財テクや恐らく外国為替取引の失敗による損失であり、その発覚を恐れて隠すというどうしようもない動機で引起された粉飾事件だ。それを“会社のために”という、水戸黄門の印籠のような、容易に刃向かうことのできない万能の言葉で、この人物は誤魔化そうとしたに違いない。

 

しかし、菊川氏は、きっと、その下心を見抜いていたと思う。ただ、実際にその要求をはねのけた時の大変さ、先輩社長たちとの確執、社内での孤立、失脚のリスク、社外からの批難、銀行や株主・投資家からの罵声や裏切りを想像すると、そして、なにより会社を現状維持させる見通しの暗さを考えて、自分が楽な方を取ったのだろう。それが“会社のため”だ、と自分を誤魔化して。菊川氏も、この言葉を利用して、そういう自分の立場を守る選択をしたのではないだろうか。厳しい表現かもしれないが。

 

裁判の詳細を知らないのに無責任だが、仮に、菊川氏がひどい脅迫を受けて、“会社のために”を強要されていたのなら、情状酌量の余地がある。だが、そうでないなら、前任者の不正を正して会社を改善することは、当然に、経営者が果たすべき役割の一部だろう。ひどい脅迫を受けていたのだろうか。事実は、どうだったのだろうか。

 

自分をこの言葉で誤魔化すような人は、他の能力が長けていたとしても経営者になって欲しくない。経営は、社内・外の利害関係の調整という面を持っている。利害関係の調整は、関係者に適切な情報開示をしなければ良い結果が得られないはずだ。楽をしようと損失隠しをするような人は経営の場にいる資格がない。

 

 

そしてこの裁判において、弁護団はこの“会社のために”という呪文で、見事に裁判官に魔法をかけてしまった。本来なら“自分の立場を守るために”とか、“楽をするために”というべきところを“会社のために”と表現して誤魔化した。まあ、弁護団は被告の利益のために弁護をするのだからやむを得ない。

 

しかし、裁判官はこの史上最悪の粉飾事件に執行猶予を付けたことで、いくら粉飾しても、発覚したら素直にそれを認めて調査・捜査に協力すれば、実刑は免れるという前例を作ってしまった。“会社のために”というが、不正を隠ぺいしたために、社長の座に座り続け、或いは副社長や監査役に登りつめたのではないか。隠蔽工作の指揮や実務をやっていた人は、不正に地位を得、不正な収入を得ていたのではないか。そのために事業部に優秀な人材が、適正に評価されず、社長や副社長になれなかったのではないか。経営層の人材登用が歪んだのに、会社のためになるのか。経営とは人材登用が歪んでもできるような、そんな簡単なものなのか?

 

この判決は社会のためになるのだろうか。少なくとも、多くの経営者たちへの戒めにはならないのではないか。そして、騙され続けた投資家や資本市場、そして債権者への保護が、この判決でサポートされるのだろうか。

 

 

そんなことを感じて、ちょっと無力感に襲われたが、書いてスッキリした。今日は久しぶりのゴルフなので、程好く力が抜けて、ちょうど良いかもしれない。

2013年7月 4日 (木曜日)

263.【リースED'13】規準改正の“肝”

2013/7/4

2011年まで10年もの間IASBを率いたデイビッド ツイーディー卿が、かつて、「自分が死ぬまでに、航空会社のB/Sに資産計上されている飛行機に乗りたい」と語ったことは、かなり良く知られていると思う。

 

これを聴いて・・・

 

  • 「この人は、もし、羽田から博多へ飛ぶ飛行機をANAとJALから選ぶとしたら、値段とか乗り心地じゃなく、B/Sに計上されている方を選ぶのか」

 

とか、

 

  • 「さすが、IASB議長(当時)。自分が乗る飛行機の会計処理にまで、興味を持つのか」

 

などと思われた方は、残念ながらちょっと違う。(そんな人、いない?)

 

この言葉の意味は、みなさんもお分かりの通り、航空会社が運航する飛行機の会計処理が、経済実態に合っていないと嘆いている。即ち、飛行機がオペレーティング・リースとして、まるで家賃でも払うように毎月賃貸料が費用計上処理され、B/S上オフ・バランスになっているが、それが総資産利益率(ROA)などの重要な経営指標を歪めている。それを許容しているIASBに厳しい批判があったのだろう。

 

こういう批判に応えることが、この新しい公開草案(ED'13)の趣旨だと思うが、実はもう一つ重要な改正がある。上記に「まるで家賃でも払うように」と書いたが、その家賃の対象たる不動産の賃借契約も、資産計上されるように変更される。

 

飛行機については「そうかもね」と思われた方も、不動産については驚かれたのではないだろうか。

 

ということで、「解約不能オペレーティング・リースの未経過リース料」の注記をしている会社は、恐らくこの改正の影響を受ける。この注記をしていない会社も、きっと該当する取引があると思った方が良さそうだ。

 

いったい、IASB(とFASB)は、何をもって“資産”と考えているのだろうか。飛行機と不動産に共通点はあるのか。いや、現行のファイナンス・リースとこれら飛行機や不動産は何が同じなのだろうか。さらに言えば、所有権を取得してB/S計上した普通の資産とこれらは何が共通しているのだろうか。

 

きっと、みなさんにも、むくむくとこんな疑問が湧いているに違いない。僕には湧いている。よって今回のシリーズは、次回以降、この観点からED'13(=2013年に公表された公開草案の意)を眺めて見ることにする。

 

 

ちなみに、ANAやJALの2013/3期決算短信を見ると、飛行機にはB/S計上されているものと、オペレーティング・リースとして簿外処理されているものの両方があるようだ。したがって、ツイーディー卿は、日本に来れば今すぐにでも念願のB/S計上された飛行機に搭乗できる。

 

但し、予約表には示されてないと思うので、チケットを購入する時点で、その便の機体がB/S計上されているか否かをANAやJALの経理部に問い合わせる必要がある。しかし、その質問に答えてくれるかどうかについては、僕は何とも言えない。なぜなら、乗客にとっては機体が航空会社の資産であろうが、リースであろうが関係ないことであり、かつ、航空会社の運航上もそれは同じらしいのだ。つまり、資産計上しているかどうかは、収益獲得のうえで、或いは、運航上で大きな差はない。飛行機で旅客を運ぶビジネス上、両者を区別する必要がない。

 

したがって、「B/S計上云々に関係なくお客様はご搭乗いただけますから、お答えできません。」と冷たくあしらわれたとしても、ツイーディー卿は「そら見たことか。やはりどちらも資産計上だ。」とほくそ笑むのかもしれない。

 

2013年7月 2日 (火曜日)

262.テーマ選び~IASBの基準開発状況

2013/7/2

コンフェデレーションズ・カップはブラジルの優勝で幕を閉じ、サッカー日本代表は残念だったが、SAMURAI達は、もう、それぞれ次の目標へ向けて照準を合わせているようだ(本田選手は、バルセロナから声がかかっているらしい。活躍できたらすごい!)。 同様にこのブログも、長い製造業シリーズを終え、新しい目標へ向かわなければならない。そんな状況、テーマ探しにちょうど良い機会なので、今回はIASBの規準開発状況がどうなっているか、眺めて見ようと思う。

 

IFRSに強い関心があって、英語に不自由のない方は、IFRS財団のホームページの工程表(ワークプラン)をご覧いただくと良い。各プロジェクトの名称等をクリックすると、その説明へジャンプすることができる。

 

強い関心があっても、僕のように英語が不自由な方は、新日本監査法人のホームページが日本語で最新の状況(現時点では6/21付)に更新されている。前回公表時点からの変更点が要約されているのも、分かりやすい。それに同監査法人(及びEY)が作成した説明資料も閲覧できる。

 

このページをざっと概観して、僕が注目したプロジェクトは以下のとおり。

 

 

<概念フレームワーク>

 

概念フレームワークは、IFRS全体に統一性を持たせるもので、個別規準を開発するうえでの基本概念というべきものをまとめている。強いて日本の会計基準の体系で例えると、企業会計原則のような位置づけかもしれない。

 

現行の概念フレームワークは、見出しだけあって中味のないセクションがいくつか残っている。そこを埋めるプロジェクトが進行中だ。今年の第2四半期(4月~6月)にディスカッションペーパーが公表される予定となっているが、現時点で未公表だ。IASBは、7月の早い時期にと言っている(IFRS財団HP)。

 

今回の検討事項には、認識(B/S計上するタイミング)や、その中止(B/Sから切り離すタイミング)、及び、測定規準が含まれており、資産や負債の定義も影響を受けて変更されるかもしれない。その場合は、このブログの過去の記事(2011年の秋から冬にかけて)を変更しなければいけないかもしれない。

 

 

<リース(FASBとの共同プロジェクト)>

 

以前若干触れたが、現在は賃借料やリース料として支出額を費用処理しているオペレーティング・リースのうち、1年を超える契約のものを資産計上するよう提案されているらしい。公開草案は5/16に公表され、日本語訳もASBJより6/14に公表されたので、このブログでも検討可能だ。

 

 

<収益認識(FASBとの共同プロジェクト)>

 

昨年(2012年)の4月、5月ぐらいにこのブログでも2度目の公開草案の進行規準について検討したが、その後、それに対するコメントによる再審議を経て、この夏から秋にかけて(第3四半期)、規準化が予定されている。規準化されたら(、そして翻訳されたら)、このブログでも重要なテーマになるが、まだその状況にない。

 

 

<金融商品(FASBとの共同プロジェクト)>

 

IAS第32号やIAS第39号が複雑で分かり難いと批判されて、これを新しく置き換えるプロジェクトをスタート。すでにIFRS第9号として一部は規準化された。しかし、まだまだ両規準の多くの部分は、そのまま残っている。現在も、以下のものが進行中。

 

 (分類と測定) すでに規準化されているIFRS9を改善するプロジェクト

 

既にコメント募集を終え、IASBとFASBで再審議している。

 

 (金融減損)  貸倒引当金(一般、個別)の設定や直接金融資産を減額する減損会計のプロジェクト

 

これもすでにコメント募集を終えている。IASBとFASBで合意できないまま、内容の異なる公開草案を双方が公表して物議を醸しだした。簡単に言えば、無責任との批判を浴びた。

 

こういう状況なので、規準化はまだ先になると思う。

 

個人的見解だが、両審議会が合意できなかったのは、日本の全国銀行協会(=全銀協)が提出した要望が原因になっているような気がする。IASBは全銀協の要望に前向きに取組み、FASBはそれを否定した。実は僕はFASBの方が理に適っているような気がしないでもない。いずれにしても、日本は既にIASBに大きな影響を与えている。

 

 (ヘッジ会計)  ヘッジ会計を改善するプロジェクト

 

ヘッジ会計を、企業のリスク管理に役立つように改善する。内容は確定しており、今夏から秋にかけて(=第3四半期)、規準化される予定。

 

ということで、興味をそそる分野もあるが、まだこのブログで扱うには早そうだ。

 

 

<果実生成型の生物資産>

 

6/25の記事で「もう、公開草案が公表されてもよい時期だ。」と書いたが、6/26に公開草案が出た。IFRSを「公正価値会計だ」と批判する人たちが問題にしているところの改善なので、興味はあるが、できれば日本語訳が出てからにしたい。

 

しかし、日本にとってはあまり影響のない分野の話なので、日本語訳が出ないかもしれない。コメント募集期間は10/28までだが、もし、今月中に日本語訳が出なければ、多分、規準化されて他の規準と共に日本語で出版されるまで日本語にならないかもしれない。でも、IFRSを批判する人たちが騒ぎ立てるから興味はある。でも、日本にはあまり影響がない、重要でない・・・ う~ん。

 

ということで、検討対象にしたいが優先順位は高くない。

 

 

<減価償却及び償却の許容される方法の明確化>

 

これは既に、6/4の記事で扱った。もし、公開草案と大きく違う形で規準化されるようならまた検討しようと思うが、取敢えずは「済」だ。

 

 

<継続企業の評価に関する開示要求>

 

どういう観点で見直そうとしているのか、残念ながら僕は知らないが、企業が生きるか、死ぬかの分け目のときに、どのような開示をするかというのは非常に興味がある。経営者にとっても、株主や投資家にとっても、非常に重要なタイミングであり、両者のコミュニケーションは極めてセンシティブだ。改正の方向性や内容について情報に触れることができ、その究極の時期に両者のコミュニケーションを円滑化させるような内容になりそうであれば(きっとそういう方向性だと思う)、その時点でこのブログで扱うか考えたい。

 

 

<「事業セグメント」の適用後レビュー>

 

「適用後レビュー」というのは、新しい規準が適用されたあと、その規準がIASBの意図した効果を合理的な範囲のコストで達成できているかを確認する2007年に定められたIASBの正式な手続(=デュー・プロセス)と理解しているが、実際に行われるのは、今回が初めてとなる。しかも、その対象が、オックスフォード・レポートでやり玉に挙げられていた(マネジメント・アプローチの)セグメント情報だし(6/25の記事)、非常に僕の注目度は高い。

 

会計規準の「費用対効果」が調査されるというのは、それ自体実に興味深い。それをIASBが分析・評価するというのは、「自己評価」なので十分に内容を吟味する必要があるだろう。

 

すでに昨年のうちにコメントは募集されており、IASBはその結果を分析してレポートを作成中だ。工程表では第2四半期に公表予定となっている。しかし、その「適用後レビュー」のIFRS財団のホームページを見てみると、公表予定は第3四半期まで延びているようだ。もし公表されたら、このブログでも取上げたい。

 

 

 

以上が、僕が興味を持ったプロジェクトだが、他にも、多くのプロジェクトが進行中で、IFRSがムーヴィング・ターゲットと呼ばれるのも頷ける。しかし、上記以外の多くのものは、まだ進捗度合が低い。このブログで取上げるのは相当先のことになりそうだ。

 

 

<保険契約について>

 

ただその中で、保険契約については、最近公開草案が公表されているので、進捗度合は低くない。しかも、このブログを始めたころに、読者の方から取上げるようリクエストを受けていたので、公開草案が公表されてからは、どうするか考えていた。実は、僕は、監査法人時代に監査先の銀行が行っている保証債務契約が、IFRSでは保険契約として扱われる可能性があるということで保険契約には関心を持っていた。しかし、それは保険会社の経営、収益管理、リスク管理と密接に関連付いたものであるのに、僕には保険会社に関わった経験がない。これは大きな障害だ。

 

残念ながら、保険契約は僕の手には負えないだろうと思う。仮に取上げても、大掴みの概要程度になると思う。もし、その方が今も読みに来ていてくれていたら、大変申し訳ないが、その程度でご勘弁願いたい。

 

 

 

ということで、次回からは「リース」を取上げたいと思う。

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