274.【リースED】対象資産の物理的な区別
2013/8/1
公開草案は、7 項がリースを識別する要件として (a) と (b) の2つを掲げており、余分とも思える (a) を、この数回で見てきた。その結果、どうしてもファイナンス・リースのイメージが残る「リースのイメージ」を変えなければいけなさそうなことになってきた。特に前回(8/31の記事)は僕にとっては衝撃的だった。庸車契約や外注加工契約などのサービス契約も「リース」を識別する対象になるかもしれない。
僕と同じように衝撃を受けた方は、今回も「何処まで広がるんだ」と心配しているかもしれない。でも、前回広がった範囲をさらに広げようということではない。かといって、著しく範囲を狭めてくれるものでもなさそうだ。ちょっと残念かもしれないが、確かに、リース識別の判断を助けてくれる材料にはなると思う。今回は、上記 (a) の説明をしている 8 項~11 項から抽出された2つ目のポイント「物理的な区別が可能なこと」についてだ。
さて、有形の“もの”を賃貸するというなら、その資産が物理的に区別・特定できるものでなければ、権利も義務も設けようがない。これは今まで意識していなかったが、賃貸契約やリース契約にとっては当然の、或いは、暗黙の前提だったと思う。それが改めて持ち出されているのは、前回見たようにリースを識別する対象が、従来はリースと無関係と思われていたサービス契約まで広がったため、ということなのだろう。では、これを持ち出さないとリースかどうか判断できないケースとは、どういうものだろうか。
早速設例を見よう。設例4は、光ファイバーに関する契約例を2種類示し、一方はリース契約を含む、もう一方はリース契約を含まないとしている。
(リースを含む契約)
東京-香港間の光ファイバー・ケーブル3本を通信会社から15年間提供される契約。ポイントは、光ファイバーの端末をユーザーが自らの電子機器に接続している。即ち、その3本を完全に支配している。ただ、その3本を維持管理する義務は通信会社側にある。
(リースを含まない契約)
東京-香港間の光ファイバー・ケーブル3本分の能力を通信会社から15年間提供される契約。通信会社はこの区間に15本の光ファイバー・ケーブルを保有しており、(記述はないが状況から)これらの光ファイバーの端末は通信会社の電子機器に接続されている。
なるほど、これは分かりやすい。
前者は、3本が物理的に顧客専用の光ファイバーであることが明らかで、メンテナンス付ではあるが、確かに特定の資産に依存した賃貸契約の要素がある。一方、後者は、15本全部がこの顧客用ではないことは明らかで、どの光ファイバーを使うかは通信会社の都合で決められる。3本の光ファイバーを物理的に提供するというよりは、3本に相当する“能力”を提供する内容だ。確かに物理的にどの部分が賃貸の対象なのか区分できない。よってこの契約はリースを含まないサービス契約だ。
う~ん、ただ、前回の「供給者の入替権」と実質的に内容がダブってる気がしないでもない。
厳密には、前回の貨車は物理的に入れ替えが可能だから入替権で、光ファイバーは端末機器やソフトフェアでコントロールするのであって、物理的に入替えているわけではないから入替権ではない。よって、ダブらない、ということかもしれない。
ただ、いずれにしてもサービス提供する際に、特定できる資産が絡んでくるとリースの可能性が生まれる。これが理解しなければいけない本質なのではないだろうか。ここで、リースを識別する要件である上記の (a) を改めて引用すると次のようになっている( 7項)。
(a)当該契約の履行が特定された資産の使用に依存するかどうか(第8項から第11項に記述)
ということで、この (a) を理解するために、「供給者の入替権」と「物理的な区別が可能なこと」について検討してきたが、また (a) に戻ってきた感じだ。しかし、この検討により以前より (a) の意味が具体的にイメージできるようになった気がする。
ところで余談になるが、実は僕は光ファイバーを保有して通信事業を行っている会社の監査を担当していたことがあり、ちょうどそのときに日本で賃貸等不動産の時価開示の注記が開始された(2010/3/31終了事業年度から)。そのとき、光ファイバーが賃貸資産として時価評価の対象になるのかどうか悩んだ経験がある。
確かに、光ファイバーは売買の対象にもなるので、賃貸借契約の対象にもなりえるし、通常の会話でも“回線を貸す”とか“借りる”などという言葉が使われる。しかし、通信速度の保証さえない(ベスト・エフォート方式の)契約も多く、それは本来の意味での“回線を貸す”とか“借りる”のとは違うだろうと思っていた。回線品質を保証する契約や専用回線契約という名称のものもあったが、それらは、ソフトウェアや電子機器でそうなるようコントロールし、顧客が余計なストレスを感じずに通信できるようにする“サービス”だ。顧客は物理的な回線を欲しがっているのではなく、そういうサービスを求めて契約している。ということで、光ファイバーを含む通信設備全般は、時価注記の対象資産ではないだろうというのがそのときの判断だった。
この「物理的な区別が可能なこと」というポイントは、凡そ、そのときのイメージとも合う。しかし、僕には、ここまですっきり分かりやすい考え方の整理はついていなかったから、物理的に特定できる形での専用回線契約がどれぐらいあるかは調べていない。もし、この公開草案がこのまま確定すれば、その会社はIFRSを導入するにあたって、或いは、日本基準に新しいリース規準が導入される際に、再調査が必要になるかもしれない。
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