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2013年8月19日 (月曜日)

279.【リースED】リース期間~a period of time

2013/8/19

あっという間にお盆休みはもう終い。楽しみにしていた14日のウルグアイ戦は、うかつにも前半の45分間を見逃してしまい、後半の45分間のみを観戦した。しかしそのおかげで、強豪ウルグアイと2-2の引分試合を見たような感じになった。実際は前半に2失点していたので4-2の敗戦だが。

 

ところで、サッカーはこのように試合時間が決まっている。しかし、他のスポーツでは“時間”以外の要素で試合が終了するものも多い。例えば、野球は同点でない限り9イニングで終了し、普通は3時間から3時間半ぐらいかかるが、1イニングは双方が3アウト獲得するまで行われるのであって、サッカーのように時間で決まるのではない。しかも同点の場合は延長もある。バレー・ボールやテニスも同様だ。

 

さて、今日のテーマは「リース期間」だが、このサッカーと野球の違いに関連する疑問がある。リース期間はサッカー・タイプだろうか、それとも野球タイプだろうか。

 

「何をばかな。リース“期間”というぐらいだから、時間、即ちサッカー・タイプに決まっているだろう」と思われるかもしれない。実は僕もそう思っている。しかし、ちょっと自信がない。リース期間がサッカー・タイプであることは間違いないが、野球タイプのパターンをまったく含まないのだろうか。

 

「それなら、野球タイプのリース期間というのはどういうケースか?」と思われるだろう。僕が思うには、生産量などの“数量”で契約の期間が暗に示されるケースだ。これが頭に浮かんだのは、公開草案の次の規程を読んだ時で、これは「使用を指図する能力」について記載されている 13 項~ 17 項の 15 項の一部だ。太字の部分に注意してほしい。

 

開始日後の資産の使用に関して行うべき実質的な意思決定が(あるとしても)ほとんどない一部の契約では、顧客が資産の使用を指図する能力をその日又はそれ以前に得る場合がある。例えば、顧客が使用する資産の設計又は当該契約の条件の決定に関与していることにより、当該資産の使用に関する意思決定のうち使用から得られる経済的便益に最も重大な影響を与える決定が事前に決定されている場合がある。そうした場合には、顧客は、当該契約の開始時又はそれ以前に行った意思決定の結果として、当該契約の期間全体を通じて当該資産の使用を指図する能力を有する。

 

太字の部分は、特定顧客用に設計された特注品や特注設備をイメージさせる。小売業や飲食業、金融機関の店舗のリースが典型例(小売業や飲食業では内装・外装や厨房設備が、金融機関では頑丈な金庫室が特注のケース)と思うが、それ以外にも、この公開草案の設例ではこのブログで取上げた鉄道車両、取上げていない発電所、タービン工場の設例にも、特注がリースになるケースが記載されている。そして、これらの他に僕の頭に浮かんだのが、アップル社とフォックスコン社(=鴻海精密工業)のような外注加工契約だ。

 

フォックスコン社は、アップル製品組立専用工場を中国にいくつか建設した。想像だが、アップル社は稼働前に入念な、厳しいテストを行うので、恐らく、設計にも実質的に関与しているし、その生産ラインの設備はアップル社の一定の製品の組立にしか使えないに違いない(=開始日後の資産の使用に関して行うべき実質的な意思決定がほんとどない)。そこでフォックスコン社は、投資を回収できるようアップル社と次のような条件を交わしている可能性がある。

 

A.サッカー・タイプ

最低何年間は一定量以上の発注を行うことをアップル社に義務付けるとか、生産数量に関係ない固定的な費用の支払いを一定期間義務付ける。もちろん、違反する場合は相応の違約金を支払わせる。

 

B.野球タイプ

具体的な期間は定めないが、工場の能力から逆算して投資回収できる期間となるような発注量の保証を受ける(明文化されない暗黙のケースを含めて)。約束が果たせなければ、相応の違約金を支払わせる。

 

(ちなみに、スティーブ・ジョブズ氏は、生前、5年先のことは分からないと言われていたので、上記のような将来の発注量を保証する契約は一切していないかもしれない。即ち、製品が売れ続けるかどうかという将来の不確実性からくる投資リスクをフォックスコン社が負担する契約になっている可能性もある。またフォックスコン社も、工場の建物は転用が効くし、組立ラインだけなら比較的投資額は小さいので、そのようなリスクを受入れやすいかもしれない。)

 

このような場合、期間の明示がある A はもちろん B のように期間の明示的な定めがないとしても、その稼働期間中その工場はアップル社の自社工場に等しい。であるならば、工場を(使用権資産として)アップル社のB/Sに計上すべきではないか。

 

A であれば、恐らく従来でもリース契約とか、賃貸借契約として認識されている可能性があると思う。この公開草案がこのまま固まれば、増々そのように判断されるだろう。

 

問題は、Bのように“量”で期間を決めるという野球タイプの契約の場合だ。果たして“量”から推定される期間もリース期間と考えるのだろうか。どうも気になるので、アップル社のアニュアル・レポートに何か書いてないか見てみよう。

 

あった。だが、結論から言えば、野球タイプの契約がどのように扱われているかは分からないし、そもそも、そういう契約があるかどうかも分からない。さらに言えばサッカー・タイプの契約があるかどうかも分からない。一応、下記に状況を小さめのフォント記載するが、お忙しい方は読み飛ばしていただきたい。

 

15ページ目の下の方に「Off-Balance Sheet Arrangements and Contractual Obligations」という見出しがあり、2012/9 期末の状況に関する表も掲げてある。

 

表の1行目はドンピシャの「Operating leases」。総額が44億ドルで、内訳は5年を超える長期のものもある。これが日本でいうところの解約不能オペレーティング・リースの未払残高だろう。注記を読んでみると、このうち31億ドルが小売スペースの賃借に係るものとされている。しかし、残り13億ドルについては不明だ。

 

表の2行目は「Purchase obligations」。すべて1年以内の短期のもので総額が211億ドル。注記から判断すると、(実質的に)発注したものの、まだ納品されていない状態のもの、いわゆる発注残の数字ということらしい。

 

表の3行目は「Other obligations」だが、1年を超える金額が少額で、あまりリースに関係なさそうなので、これについての説明は割愛させていただく。

 

ということで、もし B の野球タイプの契約が存在して集計の対象になっているとすれば、1行目の不明の13億ドルのなかではないかと思うが、あるかどうか残念ながら分からない。それだけでなく、A のサッカー・タイプの契約についても、あるかないか分からない。フォックスコン社がアップル社のために投資し、未回収の部分が13億ドル(約1300億円)というのは少な過ぎる気もするが、回収が進んでいるかもしれないし、A B の契約は一部製品に限定されているかもしれない。或いは、そもそもこの手の条項を含む契約はないのかもしれない。(ちなみに、この期の売上は1,565億ドルで約15兆円、総資産は1,760億ドル、有形固定資産は154億ドル。)

 

要するに、良く分からない。ただ、分かったのは、A B の契約はあるかないか分からないし、少なくとも明示されていないという事実だけ。

 

 

分かっていただきたかったのは、野球タイプのリース期間がありえるかどうかという僕の問題意識だ。投資リスクを負う方(=貸主)は、投資を回収できる計算が立たなければ投資しない。特定顧客専用の賃貸資産へ投資するか否かを決めるときは、その顧客がどれぐらい使ってくれるかという判断は極めて重要だ。

 

フォックスコン社のように、ある程度の規模があり、仮にアップル社用資産への投資の見込みが外れても、転用するなどなんとか会社を存続できる見込みが立ち、リスクを引受けられる場合は良いが、日本の系列内の下請け会社のように、見込みが外れれば倒産必至で、それを発注側(=借主)も理解している場合は、何らかの保証をするケースがありえると思う。その保証の仕方が、サッカー・タイプであればリースと判定しやすいが、野球タイプだと判断に迷う。

 

ちなみに、この公開草案の規準の末尾にある付録A「用語の定義」の「リース」を見ると次のように書いてある。

 

「資産を使用する権利(使用権資産)を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」

 

このうち、「一定期間」がリース期間のことになるが、英語の原文ではそこを「a period of time」と表現している。これを見て、「a cup of tee」と言えば、主役は「tee」であり、「cup」ではない。だから、「a period of time」も「time」が主役、即ち、時間が主役のはずだ。カップがあっても、そこにコーヒーが入っていれば「a cup of tee」ではないのと同様に、「a period of time」も時間で指定された期間でなければ意味がない。野球タイプでは「a period of time」にならないという解釈も成り立ちそうだ。

 

一方、同じ付録Aの「用語の定義」の「リース期間」は、次のようになっている。

 

借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の両方を加えた期間

a) リースを・・・

 

こちらは、単に「period」であり、時間「time」は出てこない。それに、保証の目的が、投資回収リスクをある程度減らし貸手に投資を促すことであるとすれば、それを時間で指定しようが発注量で指定しようが、実質的に結果は同じではないか。

 

ということで、この問題意識を解消できるかどうかは分からないが、引続き、この点に焦点を当てて、この公開草案のいう「リース期間」がなんであるかについて検討を続けたい。ちょっと細かいところに拘り過ぎかもしれないが、恐らく何かの足しになることもあるだろう。

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