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2013年8月

2013年8月29日 (木曜日)

282.【リースED】リース期間とサッカーの試合時間

2013/8/30 赤文字部分の表現を若干変更しました。

 

2013/8/29

今回は、前回(8/27の記事)記載した通り、この公開草案が野球タイプのリース期間を含めているかどうかについて、焦点を当てていきたい。野球タイプのリース期間等(=発注量等の数量で実質的に定められたリース期間や解約不能期間)を含めていないと、この基準の潜脱行為を容認することになりかねない。

 

リース期間は、「会社が決めるもの」であり、「解約不能期間±オプション対象期間」であることは、既に書いた(8/21の記事)。また、リースの定義(6項)には、「一定期間a period of time)」という、リース期間が「時間」であることを示す言葉が使用されている一方で、リース期間の定義(付録A)には、単に「期間period)」とあるだけだった(8/19の記事)。

 

ということで、今回は、野球タイプのリース期間等の扱いを確かめるため、「付録B-適用指針」の「リース期間」の B2項や B5項の記述を深掘りして行こうと思う。

 

では、まずB2項を転記する。

 

B2  企業は、リース期間を決定する際にリースの解約不能期間を決定しなければならない。リースの解約不能期間の長さを評価する際に、企業は、第6 項における契約の定義を適用して、契約が強制可能である期間を決定しなければならない。リースは、借手と貸手の双方がそれぞれリースを他方の承諾なしに重大ではないペナルティで解約する権利を有する場合には、もはや強制可能ではない。

 

新しい知識としては、次の点が挙げられると思う。

 

リースの解約不能期間の長さを評価する際に、企業は、第6 項における契約の定義を適用する。

 

双方が・・・他方の承諾なしに重大ではないペナルティで解約する権利を有する場合には、もはや強制可能ではない。

 

いずれも、解約不能期間に関するものだが、最初の方は、リースの定義に合うような取引内容に関する解約不能期間を決定するのであって、リース以外の取り決めは関係ないという意味だ。これは当たり前のことだが、一つ問題がある。「第6項の契約の定義を適用する」というのはショックだ。6項とは、例のサッカー・タイプの「一定期間a period of time)」が書いてある規定だ。もしかして、意外にあっけなく結論が出たのか。即ち、リース期間・解約不能期間は時間で決まるサッカータイプのみであり、野球タイプのリース期間・解約不能期間は、この公開草案に含まれないことになるのか? しかし、それでは、潜脱行為が容認されてしまうではないか?

 

動揺しているが、ちょっと落ち着くために、後の方の意味を考えてみよう。リースでは、借主が一定期間資産を使用する権利を支配する。支配しているのだから、その期間、借主は、貸主に対して契約を継続させる強制力を持っている。或いは、賃貸契約のように貸主の側が、解約を申し入れてから一定期間継続を継続させる強制力を持つ。このような状況を背景にして、上記の後の方の文章がある。即ち、両者とも強制力を持たなくなる時点で、リース期間は終了する。これ以降はもはやリース期間ではない。・・・こちらは問題ないと思う。

 

では、もう一度、最初の方の問題へ戻って、やっかいな 6項を見てみよう。

 

6  リースは、資産(原資産)を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約である。

 

主語は「リース」だから、この「一定期間」とは、リース期間のことに他ならない。リース期間は、この 6項を適用することで最終的に「一定期間a period of time)」になる。即ち、サッカー・タイプの、「時間」で決まる期間にならざるえない。これで、野球タイプのリース期間は否定された。ん~、万事休すか?

 

が、しかし、解約不能期間についてまで、「時間」とは書いてない。例えば、解約不能期間やオプション対象期間までは野球タイプで、最終的にリース期間を決めるときに、「時間」となっていれば良いではないか。

 

ん~、だが、「リース期間  解約不能期間 ± オプション対象期間」だから、左辺が時間なら右辺も時間か。そう、そう考えるのが自然だ。それでは、もはや絶体絶命か!?

 

だが、しかし、・・・。最後に「オプション対象期間」について考えてみよう。これも本当に時間なのだろうか。「往生際が悪い」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、可能性は試してみるものだ。

 

「オプション対象期間」について詳しく書いているのは、適用指針の B5項だ。B5項は長いので転記はしないが、これを読むと、いわゆるリース契約書には書いてない、一般的な経済事象、経営上の必要性の変化等々が例示され、それらを総合的に考慮してオプション行使・不行使に係る重大な経済的インセンティブの有無を評価するとしている。要するに、“状況証拠”で、オプションが行使されるかどうか評価せよと書いてある。

 

なるほど。

 

「オプション対象期間」は、通常、契約書に書いてある。何年とか、何か月、何日といった「時間」だ。しかし、その「時間」がどれぐらいになるかについては、契約書から離れて、関連するすべての“状況証拠”から判断する。“状況証拠”は、経済事象や経営上の必要性であって、「時間」ではない。だとすれば、この“状況証拠”のところに、野球タイプの発注量等の数量による条件や、生産能力、販売計画があってもよいわけだ。それらが最終的に「時間」に換算され、「リース期間  解約不能期間 ± オプション対象期間」の計算に繋がればよい。

 

ということは、実質的に、野球タイプのリース期間は、この公開草案の対象になっていると考えて良い。したがって、潜脱行為を許容することはなさそう。これが僕の今回の結論だ。

 

 

ところで、昨夜、僕の地元チームの清水エスパルスは、鹿島アントラーズに4-3で逆転勝ちした。開始早々、1分と6分に、次々にゴールを決められ、しかもその後も、自陣ゴール前に張付いたまま、アントラーズの猛攻をしのぐばかりの状況が続いた。15分を過ぎたころだろうか、あまりの劣勢に、地元テレビ局のアナウンサーが「もう1点入れられたら、試合は終わってしまう」と、弱音を吐いた。

 

僕は、「ゲーム時間は90分と決まっているのに」と苦笑した。もしかして、このアナウンサーは解約オプションでも持っていて、強制的に試合を終わらせられるのだろうか?

 

しかし、よく考えてみれば、確かにもう1点とられたら、僕はチャンネルを他に変えるかもしれない。そう、視聴者は解約オプションを持っている。もし、そのオプションを行使されたら、テレビ局にとっては試合が終わったも同然だ。アナウンサーはそれを心配していたのだ。

 

それでも視聴者の関心を惹き続ける努力をするのがアナウンサーの仕事だから、こんな弱音は褒めらない。と思いつつ、なるほど、サッカーの試合も思わぬ終わり方があるのだなあ、と感心した。

 

その後、エスパルスは、10番を背負う河合選手や新戦力のラドンチッチ選手、途中出場の高木選手などの活躍で、前半のうちに2ゴールをあげて同点に追いつき、さらに後半開始早々に逆転に成功したものの、PKを献上し同点に追いつかれた。しかし、試合終了間際に、高木選手が今夜のハットトリックとなる劇的な決勝ゴールをあげ、上述のスコアになった。テレビ局は放送時間を延長して、試合終了後も冷めやらぬ興奮を伝えたが、ある意味これは、サッカーの試合時間が伸びたようなものだ。

 

サッカーの試合については、終了オプションを視聴者が持ち、延長オプションはテレビ局が持っていた。Jリーグのルール・ブック上は90分と書いてあるのだろうが、見方を変えると、それは形式的なものであって、興行面から見た経済実態とは言えないのかもしれない。

 

 

今回、リース期間はサッカー・タイプ、と結論を出した。しかし、その経済実態を評価しリース期間を決めるためには、このゲームと同様、契約書以外のことや、時間以外の野球タイプの要素を含め、色々考慮する必要がありそうだ。

 

 

2013年8月27日 (火曜日)

281.【リースED】野球タイプの合理性

2013/8/27

民主化か、秩序か。いや、現実はこんな単純な図式ではない。大統領を解任されたエジプトのモルシ氏は本当に民主的だったか。或いは、暫定政府はもっと融和的にモルシ派と向き合えなかったのか。いずれにしても、ご存じの通り、エジプトの平和的な事態打開の方向性はまだ見えてこない。それは両者の対話が成立していないためだ。

 

宗教に基づく統治か、否か。宗教絡みの国の支配権をめぐるテーマをまともに議論しても対話にならない。そこで、両者共通の利益になる別の議題を中心に据え、宗教については共通利益を実現するためにお互いに妥協するという枠組みで対話する必要がある。しかし、この枠組みの設定自体が難しい。

 

 

ところで、国の支配権をめぐる対話は難しいが、ビジネスなら共通の利益を見つけやすい。例えば、耐用年数が10年の機械を5年だけ使いたいAさんについて考えてみよう。

 

Aさんに対して「10年使えるものは10年使いなさい、だから、代金を100%支払って購入しなさい。」と言ったら、宗教の議論と同じで、話が先に進まない。Aさんは事業戦略上10年も使いたくないのだから、100%の支払は割に合わないと思っている。

 

そこに、「では、代金の8割を支払ってくれるなら応じましょう。」というBさんが現われる。Bさんは5年後に2割なら、転売するなど別に回収できる事業戦略上の見通しがあるのだ。

 

Aさんは8割でも支払い過ぎと思っているが、Bさんとなら話ができる。この取引が成立することで、Aさんは事業の可能性が広がるし、Bさんもこの機械を購入してもらうほどではないが利益を得られる。共通の利益が生まれる。そこでAさんは「5年間賃借料として支払うのはどうか。代金の8割相当になる。」と提案してみる。Bさんは信用コストを含む金利相当額は不利になるものの、「5年間支払い続けてくれるならいいですよ、即ち、5年間は解約不能期間ですね。」と応じる。

 

これは、解約不能期間が5年という「時間」によって決まるサッカー・タイプのリース期間だ。解約不能期間は、両者に事業戦略上の共通の利益をもたらす連結環、或いは、利益調整弁のような存在になっている。さて、同じような対話が野球タイプ(=最低発注量等の「数量」を決める)でも成立するだろうか。

 

ということで、この野球タイプの対話パターンをこの数日考えていたが、なかなか思いつかない(それで前回の記事から間隔が空いてしまった)。例えば、次のような話を考えてみたが、最終的に合理性がなく、国の支配権をめぐる話と同様、話がまとまらないような気がするのだ。

 

Cさんは、ライバルが真似をするまでに数年はかかりそうな革新的な機能を持つ製品を開発した。市場調査の結果、最初に百万人の顧客、ユーザーを確保した企業が、その後も市場の主導権を握れる可能性が高いことが分かった。そこでCさんは、市場の主導権を握りつつ、かつ、原価を抑えるために、次のことを考えた。即ち、この製品の中核部品について、百万個まではCさんのみに供給することを外注業者へ義務付け、百万個を超えたら、他社へ販売してもよいとすることで、この部品の固定費負担を軽減し、外注加工単価を下げることができる。

 

このようなケースで、部品百万個の生産能力やCさんの販売計画から割出した期間をリース期間と言えるだろうか。・・・と、続けたいが、その前に考えなければいけないことがある。果たしてこれは合理的だろうか?

 

その製品の革新性や将来性に賛同できたとして、外注業者が最も困るのは、営業活動をやりにくいことだ。Cさんへの供給だけでは元を取れない。だからCさん以外の顧客を見つけなければならないから営業活動をしたい。なるべく早く始めた方が有利だから、Cさんへの供給が百万個になる前から始めたい。しかし、百万個の供給が終えられるのは、Cさんの製品の売れ具合に依存しているので、Cさん以外の顧客に供給開始時期を明確に伝えられない。営業がしにくい。営業されても、顧客の側が困ってしまう。

 

よって外注業者は、「百万個を供給するまでの間」ではなく、明確に何年、とか、何か月といった時間で期間を明示して欲しいと希望するだろう。Cさんにしても、部品コストを下げるには外注業者の言い分に耳を傾けざるえないに違いない。すると、時間でリース期間・解約不能期間が決まることになりそうだ。ということは、結局、野球タイプのリース期間になりそうにない。

 

これは、このケースに限らず、かなり一般的な気がする。というのは、時間によるリース期間・解約不能期間はいつ終わるのかはっきりしているが、生産量とか発注量によるリース期間・解約不能期間は不安定で将来予測が難しいからだ。両者が共通して利益を出せるための連結環であるべきリース期間や解約不能期間が、野球タイプにすることで不安定になってしまう。その結果、一方(このケースでは外注業者)が著しく不利になる可能性があり、利害調整が難しい。利益調整弁としてはふさわしくない。ということで、野球タイプの解約不能期間を設定する契約は、あまり一般的になりそうにない。

 

それでも野球タイプの契約が成立するとすれば、次のようなケースに限定される気がする。

 

 1.解約不能期間が、この契約に関する両者の利益にとってあまり重要でない場合

 2.解約不能期間を野球タイプにすることで、会計上リースとして扱われなくなる場合

 

1については、次のような場合が考えられる。

 ○ そもそも、その契約はリースに該当しないか、

 ○ 或いは、リースには該当するが、

・リース料を高く設定できるので、比較的短期間で投資回収が可能なケース。

・解約されても容易に他の借手・貸手を見つけられ、かつ、他の借手・貸手へ乗換えるのにあまりコストがかからないケース。

(これらのケースでも、実際の契約では野球タイプより、サッカー・タイプの方が好まれるはず。)

 

2については、この公開草案が、野球タイプで解約不能期間が表現されている契約をリースとして扱わない場合が当たる。B/Sに使用権資産やリース負債を計上すると投資家が行う財務分析で不利になるとか、リースとして扱えば会計処理他手続が複雑になるとか、そういう意図が働いて、リースとして扱われないように契約の形式を調整してしまうケースだ。即ち、もし、この公開草案が野球タイプの契約をリースから除外しているとすれば、このような潜脱行為を行う手段を自ら提供することになりかねない。

 

前回(8/21の記事)では最後に、「それではいよいよ、野球タイプのリース期間はありえるか、という問題に移りたい」と書いた。そして今回その結論は、「ありえるが、少なそう。少ないとしても公開草案がそれをリースに含めないと、変なことになる」ということになった。よって、次回は「公開草案は、野球タイプの契約をリースに含めているか」に移ることになる。次回はその点に絞って、公開草案を読み解いていきたい。

 

 

冒頭、大上段に構えて「民主主義か、秩序か」で始めたが、宗教が絡んだ国の支配権をめぐる争いと違い、ビジネス上の対話は多様だし、アイデア次第で色々な可能性が出てくる。重要なのは対話できることで、それができないエジプトの道のりは、残念ながら、まだ遠いに違いない。エジプトばかりではない。日本の尖閣問題や竹島問題の道のりも、同様だ。

 

ただ実際には、ビジネスにおいても、アイディアや能力を持つ多様な人々とのチャネルは、簡単に発見・獲得・維持できるものではない。また提供する方も、顧客ごとに特有の要望に応えながら利益を確保するには大変な苦労がいる。ビジネスでも、決して簡単に問題解決しているわけではない。比較するのはおかしいかもしれないが、エジプトも、日本も、なんとか対話の糸口を見つけて欲しい。そして“戦略”によって共通の利益を見い出し、お互いに“妥協”が許される枠組みが設定できることを願いたい。シリアのようにならないうちに・・・

 

2013年8月21日 (水曜日)

280.【リースED】リース期間を決定する

2013/9/9「重大な経済的インセンティブ」についての推測が誤っていたので、大変申し訳ないが、訂正箇所を棒線で示し、赤字で記載を追加した。

 

2013/8/21

僕の関心は、前回(8/19の記事)記載したように、時間で期間が決まるサッカー・タイプのリース期間が原則だが、発注量等で実質的に期間が設定される野球タイプのリース期間がありえるか、という点にある。しかし、今回はそこへ行く前に、「リース期間を決めなければいけない」という、実際にこの公開草案でやってみるとかなりの会社が戸惑うのではないかと思われる点に注意を向けたい。

 

前回の後半に記載した付録Aのリース期間の定義と同じような文章が、規準案の 25 項にある。但し、こちらは、下記のように「企業は~しなければならない」と、企業に対する強制規定となっている。

 

25 企業は、リース期間を、リースの解約不能期間に次の両方を加えた期間として決定しなければならない。

 

(a) リースを延長するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合)

 

(b) リースを解約するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使しない重大な経済的インセンティブを有している場合)

 

恐らくみなさんは「重大な経済的インセンティブ」に関心が向かったと思う。これの有無を判断する方法は、付録Bの「適用指針」B5 項に記載があるが、「どの程度を重大と判断するか」については記載がないので、上記に引用した部分の文脈で判断するしかないだろうと思う。即ち、経済的インセンティブを総合的に判断した結果、オプション行使の可能性が高いか低いか(=延長又は解約する確率が 50% を超えるほどか、或いは、超えない程度か)のイメージではないだろうか。もしかしたら、高・中・低と分けて、中の場合は期間の一部を含めるなどという考え方もあるかもしれない。

詳しくは結論の根拠のBC140項やBC171項などに記載があるが、前回の公開草案では毎期リース期間を見直すとしていたが、作成者の手間がかかり過ぎるために、「重大な経済的インセンティブ」の有無に変化があった場合だけに、見直すことにした。この結果、「確率が50%を超える」ではなく、「合理的に保証された」や「合理的に確実」レベルまでハードルが上ったとされている。以上は毎期の決算時の処理だが、新規リースに対してリース期間を決定する際も、日本基準でいうところの、予想に「合理的な根拠」(=重大な経済的インセンティブの判断)が必要ということ。

 

「リース期間を決めなければならない」とされているが、これは有形固定資産の経済的耐用年数、自主耐用年数を決めるのと同じで、事業戦略、製品戦略と言った先行きの見通しを持っていないと決めるのは難しいことがあると思う。これについては、減損戻入シリーズなどでくどくど書いた(例えば4/29の記事など)ので繰返さないが、税法の耐用年数に頼ってきた日本企業は、苦手な会社が多いと思う。

 

現行のリース会計基準のファイナンス・リースでは、取敢えずリース会社が税法の耐用年数の75%程度のリース期間の契約書を持ってくるので、会計上もそのままそれをリース期間とすることができる。しかし、この公開草案では、延長する可能性が高ければもっと長いリース期間を、逆に中途解約する可能性が高ければもっと短いリース期間を会計上設定する必要がある。法定耐用年数4年の乗用車に20万キロ乗るつもりなら(例えば、過去がそういう実績で4年を超えて使用しており、それを変更する必要もないなど合理的な根拠があれば)、会計上のリース期間を延長することになるだろう。(本来は、リース契約上のリース期間をその合理的な予想期間に設定することが自然と思う。但し、あまり短過ぎたり長過ぎたりすると、税務上不利な扱いをされることもある。)

 

そしてこの公開草案にいうリースは、現行基準のファイナンス・リースだけでなく、オペレーティング・リースも含むことを改めて思い出していただきたい。みなさんの会社では「先のことは分からないから、取敢えずレンタルにする」ということはないだろうか。このような場合でも、レンタル期間が1年を超える見込みで、その見込みに合理的根拠があれば、「リース」として扱うことになるため、リース期間を決める必要がある。

 

それともう一つ。日本のリース会計基準では、独特の重要性の基準があり、それに満たないファイナンス・リースは、資産計上を要さないなどの簡便的な処理が認められる。特に、リース適用指針の 35項(3)の「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引 」は、ご存知の方が多いと思う。しかし、この公開草案の結論の根拠(BC91)には、企業の事業内容に照らして重要かどうか、という判断は企業によってばらつくとして、「・・・原資産が企業の営業にとって中心的なものなのかどうかに基づく会計処理の区別は提案していない。」(BC92)としていることも注意が必要だ。したがって、従来資産計上処理の対象から除外していたもの、例えば、営業回り用の車両や事務用のコピー機にまでリース期間を決定してやる必要があるかもしれない。

 

しかし、リース用の(有形固定資産と異なる)重要性の社内基準を定めることを一切否定しているわけでもないような気もする。但し、日本基準のように、形式的にリース契約1件単位で重要性を測るのでは、8/14の記事にある「契約の構成部分の区別」に書いた管理単位の考え方と矛盾するため、従来の社内基準は見直しが必要になると思う。そして、この公開草案の基本的な発想は、有形固定資産と共通なので、両者の重要性の基準はかけ離れたものにはならないはず。

 

 

さて、それではいよいよ、野球タイプのリース期間はありえるか、という問題に移りたい。が、大変申し訳ないが、次回とさせていただきたい。

 

今回このテーマに先んじて「リース期間を決定する」を取上げたのは、リース期間は会社が主体的に見積るもの、というイメージを持っていただきたかったからだ。現行の日本基準では、税法の法定耐用年数やリース会社との合意(=契約)で決まってくるもの、という受動的なイメージがあると思うが、これを変えて欲しかった。野球の試合時間は、ゲームの参加者の戦略・戦術で変わってくる。サッカーの試合時間のようにサッカー協会やリーグ組織に決められるものではない。リース期間にも、ちょっと、そんなところがある。

2013年8月19日 (月曜日)

279.【リースED】リース期間~a period of time

2013/8/19

あっという間にお盆休みはもう終い。楽しみにしていた14日のウルグアイ戦は、うかつにも前半の45分間を見逃してしまい、後半の45分間のみを観戦した。しかしそのおかげで、強豪ウルグアイと2-2の引分試合を見たような感じになった。実際は前半に2失点していたので4-2の敗戦だが。

 

ところで、サッカーはこのように試合時間が決まっている。しかし、他のスポーツでは“時間”以外の要素で試合が終了するものも多い。例えば、野球は同点でない限り9イニングで終了し、普通は3時間から3時間半ぐらいかかるが、1イニングは双方が3アウト獲得するまで行われるのであって、サッカーのように時間で決まるのではない。しかも同点の場合は延長もある。バレー・ボールやテニスも同様だ。

 

さて、今日のテーマは「リース期間」だが、このサッカーと野球の違いに関連する疑問がある。リース期間はサッカー・タイプだろうか、それとも野球タイプだろうか。

 

「何をばかな。リース“期間”というぐらいだから、時間、即ちサッカー・タイプに決まっているだろう」と思われるかもしれない。実は僕もそう思っている。しかし、ちょっと自信がない。リース期間がサッカー・タイプであることは間違いないが、野球タイプのパターンをまったく含まないのだろうか。

 

「それなら、野球タイプのリース期間というのはどういうケースか?」と思われるだろう。僕が思うには、生産量などの“数量”で契約の期間が暗に示されるケースだ。これが頭に浮かんだのは、公開草案の次の規程を読んだ時で、これは「使用を指図する能力」について記載されている 13 項~ 17 項の 15 項の一部だ。太字の部分に注意してほしい。

 

開始日後の資産の使用に関して行うべき実質的な意思決定が(あるとしても)ほとんどない一部の契約では、顧客が資産の使用を指図する能力をその日又はそれ以前に得る場合がある。例えば、顧客が使用する資産の設計又は当該契約の条件の決定に関与していることにより、当該資産の使用に関する意思決定のうち使用から得られる経済的便益に最も重大な影響を与える決定が事前に決定されている場合がある。そうした場合には、顧客は、当該契約の開始時又はそれ以前に行った意思決定の結果として、当該契約の期間全体を通じて当該資産の使用を指図する能力を有する。

 

太字の部分は、特定顧客用に設計された特注品や特注設備をイメージさせる。小売業や飲食業、金融機関の店舗のリースが典型例(小売業や飲食業では内装・外装や厨房設備が、金融機関では頑丈な金庫室が特注のケース)と思うが、それ以外にも、この公開草案の設例ではこのブログで取上げた鉄道車両、取上げていない発電所、タービン工場の設例にも、特注がリースになるケースが記載されている。そして、これらの他に僕の頭に浮かんだのが、アップル社とフォックスコン社(=鴻海精密工業)のような外注加工契約だ。

 

フォックスコン社は、アップル製品組立専用工場を中国にいくつか建設した。想像だが、アップル社は稼働前に入念な、厳しいテストを行うので、恐らく、設計にも実質的に関与しているし、その生産ラインの設備はアップル社の一定の製品の組立にしか使えないに違いない(=開始日後の資産の使用に関して行うべき実質的な意思決定がほんとどない)。そこでフォックスコン社は、投資を回収できるようアップル社と次のような条件を交わしている可能性がある。

 

A.サッカー・タイプ

最低何年間は一定量以上の発注を行うことをアップル社に義務付けるとか、生産数量に関係ない固定的な費用の支払いを一定期間義務付ける。もちろん、違反する場合は相応の違約金を支払わせる。

 

B.野球タイプ

具体的な期間は定めないが、工場の能力から逆算して投資回収できる期間となるような発注量の保証を受ける(明文化されない暗黙のケースを含めて)。約束が果たせなければ、相応の違約金を支払わせる。

 

(ちなみに、スティーブ・ジョブズ氏は、生前、5年先のことは分からないと言われていたので、上記のような将来の発注量を保証する契約は一切していないかもしれない。即ち、製品が売れ続けるかどうかという将来の不確実性からくる投資リスクをフォックスコン社が負担する契約になっている可能性もある。またフォックスコン社も、工場の建物は転用が効くし、組立ラインだけなら比較的投資額は小さいので、そのようなリスクを受入れやすいかもしれない。)

 

このような場合、期間の明示がある A はもちろん B のように期間の明示的な定めがないとしても、その稼働期間中その工場はアップル社の自社工場に等しい。であるならば、工場を(使用権資産として)アップル社のB/Sに計上すべきではないか。

 

A であれば、恐らく従来でもリース契約とか、賃貸借契約として認識されている可能性があると思う。この公開草案がこのまま固まれば、増々そのように判断されるだろう。

 

問題は、Bのように“量”で期間を決めるという野球タイプの契約の場合だ。果たして“量”から推定される期間もリース期間と考えるのだろうか。どうも気になるので、アップル社のアニュアル・レポートに何か書いてないか見てみよう。

 

あった。だが、結論から言えば、野球タイプの契約がどのように扱われているかは分からないし、そもそも、そういう契約があるかどうかも分からない。さらに言えばサッカー・タイプの契約があるかどうかも分からない。一応、下記に状況を小さめのフォント記載するが、お忙しい方は読み飛ばしていただきたい。

 

15ページ目の下の方に「Off-Balance Sheet Arrangements and Contractual Obligations」という見出しがあり、2012/9 期末の状況に関する表も掲げてある。

 

表の1行目はドンピシャの「Operating leases」。総額が44億ドルで、内訳は5年を超える長期のものもある。これが日本でいうところの解約不能オペレーティング・リースの未払残高だろう。注記を読んでみると、このうち31億ドルが小売スペースの賃借に係るものとされている。しかし、残り13億ドルについては不明だ。

 

表の2行目は「Purchase obligations」。すべて1年以内の短期のもので総額が211億ドル。注記から判断すると、(実質的に)発注したものの、まだ納品されていない状態のもの、いわゆる発注残の数字ということらしい。

 

表の3行目は「Other obligations」だが、1年を超える金額が少額で、あまりリースに関係なさそうなので、これについての説明は割愛させていただく。

 

ということで、もし B の野球タイプの契約が存在して集計の対象になっているとすれば、1行目の不明の13億ドルのなかではないかと思うが、あるかどうか残念ながら分からない。それだけでなく、A のサッカー・タイプの契約についても、あるかないか分からない。フォックスコン社がアップル社のために投資し、未回収の部分が13億ドル(約1300億円)というのは少な過ぎる気もするが、回収が進んでいるかもしれないし、A B の契約は一部製品に限定されているかもしれない。或いは、そもそもこの手の条項を含む契約はないのかもしれない。(ちなみに、この期の売上は1,565億ドルで約15兆円、総資産は1,760億ドル、有形固定資産は154億ドル。)

 

要するに、良く分からない。ただ、分かったのは、A B の契約はあるかないか分からないし、少なくとも明示されていないという事実だけ。

 

 

分かっていただきたかったのは、野球タイプのリース期間がありえるかどうかという僕の問題意識だ。投資リスクを負う方(=貸主)は、投資を回収できる計算が立たなければ投資しない。特定顧客専用の賃貸資産へ投資するか否かを決めるときは、その顧客がどれぐらい使ってくれるかという判断は極めて重要だ。

 

フォックスコン社のように、ある程度の規模があり、仮にアップル社用資産への投資の見込みが外れても、転用するなどなんとか会社を存続できる見込みが立ち、リスクを引受けられる場合は良いが、日本の系列内の下請け会社のように、見込みが外れれば倒産必至で、それを発注側(=借主)も理解している場合は、何らかの保証をするケースがありえると思う。その保証の仕方が、サッカー・タイプであればリースと判定しやすいが、野球タイプだと判断に迷う。

 

ちなみに、この公開草案の規準の末尾にある付録A「用語の定義」の「リース」を見ると次のように書いてある。

 

「資産を使用する権利(使用権資産)を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」

 

このうち、「一定期間」がリース期間のことになるが、英語の原文ではそこを「a period of time」と表現している。これを見て、「a cup of tee」と言えば、主役は「tee」であり、「cup」ではない。だから、「a period of time」も「time」が主役、即ち、時間が主役のはずだ。カップがあっても、そこにコーヒーが入っていれば「a cup of tee」ではないのと同様に、「a period of time」も時間で指定された期間でなければ意味がない。野球タイプでは「a period of time」にならないという解釈も成り立ちそうだ。

 

一方、同じ付録Aの「用語の定義」の「リース期間」は、次のようになっている。

 

借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の両方を加えた期間

a) リースを・・・

 

こちらは、単に「period」であり、時間「time」は出てこない。それに、保証の目的が、投資回収リスクをある程度減らし貸手に投資を促すことであるとすれば、それを時間で指定しようが発注量で指定しようが、実質的に結果は同じではないか。

 

ということで、この問題意識を解消できるかどうかは分からないが、引続き、この点に焦点を当てて、この公開草案のいう「リース期間」がなんであるかについて検討を続けたい。ちょっと細かいところに拘り過ぎかもしれないが、恐らく何かの足しになることもあるだろう。

2013年8月14日 (水曜日)

278.【リースED】契約の構成部分の区別

2013/8/14

このシリーズの前回(8/9の記事)で、「以上で、リースの識別に関する規程はすべてとなった」と書いたが、会計処理をするための準備作業はまだ終わっていない。リースの識別は、「契約にリースが含まれるか否か」を判断することだったが、今回は、会計処理するために「含まれているリースを取出す作業」になる。

 

これに関する公開草案の規準の段落番号は、僅かに 20 24 までの5つだけ。楽勝と思いたいが、会計処理関係の記載にも目を配りながら慎重に進めていこうと思う。さて、規準の 20 24 は以下の構成になっている。

 

2021) リース構成部分を区分する(=取り出す)規準

22     貸手側の、リース構成部分についての対価の配分

2324) 借手側の、リース構成部分についての対価の配分

 

ということで、「リースが含まれる」と判定されたら、契約からリース構成部分を区分する基準に照らしてリース構成部分(=使用権資産)を取出す。しかし、それができない場合は、他の部分(=非リース部分、サービス部分)と一緒に会計処理を行うことになる。

 

そして、区分して会計処理を行う場合は、そのリース構成部分の取得原価がいくらであるかを算定することになる。なお、リース構成部分とは「資産を使用を支配する権利」のことだから、取得原価を算定すればその金額で資産計上されることになる。(もちろん、これらの結果、非リース部分に対応する対価金額も算定されうるが、サービスは資産計上されないので、敢えて「取得原価」を配分・算定する必要はない。)

 

う~む。良く考えてみると、これらは、実は、ありふれた作業だ。建物や構築物の最終見積書から、資本的支出と収益的支出を区分するのと意味合いは変わらない。ただ、次の2点が違う。

 

 金額情報

リース契約書やサービス契約書には、建物や構築物の最終見積書のような便利な金額情報付の明細がない(のが普通)。さて、どうやって入手するか。入手できない場合にどのような影響があるか。

 

 管理単位

建物や構築物は、実務上、耐用年数や勘定科目が異なれば、償却計算やB/S科目への集計を適正に行うために、区分して管理単位を設定する(例えば固定資産台帳へ登録する)。これは直接そう書いてあるわけではないが、間接的にそういうことになる。この点、リース(=使用権資産)もそのような直接的な記載はないが、同様のはずだ。

 

しかし、リースには有形固定資産(IAS第16号)にはない記載がある。それは、使用に当たっての独立性(他の資産に依存せずに、便益を得られる状況かどうか)で管理単位(=記帳単位)を決める(20 項)とか、時価が分かり(=価格が観察可能)対価の配分が可能な単位を管理単位とする(23 項)とされていることだ。これは何を意味するか。有形固定資産となにか違うのか。

 

 

まず、①について考えてみよう。これに関連して 24 項が気になるので、転記する。

 

24 価格が観察可能であるのは、それが貸手又は類似の供給者のいずれかが同様のリース、財又はサービス構成部分について単独ベースで課す価格である場合である。

 

リース契約書やサービス契約書には最終見積書のような金額情報付の明細がない、と書いたが、この 24 項を見ると、必要な金額情報は、貸手(或いは、競合させた他の貸手候補者)から入手できると想定されているようだ。

 

例えば、特殊用途の自動車を3年間だけ使用したいとき、純粋な賃貸契約だけのケースと賃貸契約にメンテナンス・サービスも加えたケースのどちらが良いか検討するために、複数の貸手候補者から両方のケースの見積もりを取る。検討の結果、メンテナンス付の契約の方が良いと意思決定し、契約を締結したとすると、この契約にリースが識別され、自動車の賃貸部分のみをリース構成単位として、メンテナンス部分から区分することになる。その区分に必要な「観察可能な価格」は、意思決定時に入手した賃貸契約だけのケースの見積り資料として入手されていることになる。

 

しかし、すべての「リースが含まれる契約」について、こううまく事が運ぶとは限らない。例えば、代替案が「3年と5年のどちらが良いか」という観点で設定された場合、メンテナンス込か抜きか、という場合分けは行われないかもしれないし、面倒だから期間3年の条件についてはメンテナンス抜きのケースを入れなかったが、結局、3年で決まってしまった、などということもあるだろう。

 

それなら、あらゆるケースについて「サービス抜き価格、或いは、賃貸のみの価格を必ず提示してくれ」という依頼を貸主候補者へ行えばよい、ということになる。

 

う~ん、貸主候補者が快く受けてくれれば良いが・・・。

 

複雑な案件などでは、営業秘密で提示できない、手間がかかり過ぎるなどと言われることもあるかもしれない。その場合は、リース構成要素を区分できないため、メンテナンス分も含めて使用権資産の取得価額とすることになる(23 bⅲ)。そのため、より大きな金額の使用権資産が資産計上される。

 

「資産が増えるならいいじゃないか」と喜ぶ前に、使用権資産の減価償却やリース負債の利息費用の認識で、P/Lにどのような違いが出てくるか、確認しておく必要があるだろう。

 

また、監査人には悩みの種になりそうだ。「あっちの会社では同じような価格が分かったのに、なぜこっちの会社では分らないのだろう」といったことが起こるのではないか。やはり、リース構成単位に観察可能な価格がある場合とない場合で、B/SやP/Lにどのような影響があるか、しっかり理解しておく必要がある。

 

これについては、会計処理を検討する際に、改めて取り上げることにしたい。

 

 

次に②だが、これは意外と奥が深い。償却単位(=管理単位)については、減損戻入シリーズ(例えば 4/19の記事など)で色々検討したが、やはりIFRSは、減価償却やB/Sの表示を適正に行うという目的に沿っていれば、その会社の事情を反映した柔軟で幅の広い実務を受入れそうな“気がする”。しかし、これを書き始めると長くなりそうだし、減損戻入シリーズと重複するので、今回は簡単に2点について記載する。

 

リース構成単位を決める“独立性”の規準は、有形固定資産(IAS第16号)に同様の表現はないが、リース固有の規準ではないと思う。

 

リース構成単位を決める“独立性”の規準は、この公開草案には次のように記載されている。

 

20 ・・・企業は、次の両方の要件に該当する場合には、資産を使用する権利を独立のリース構成部分と考えなければならない。

 

(a) 借手が、当該資産単独又は借手が容易に利用可能な他の資源との組合せのいずれかにより、当該資産の使用により便益を受けることができる。容易に利用可能な資源とは、別個に(貸手又は他の供給者により)販売又はリースされている財又はサービス、あるいは借手がすでに(貸手から又は他の取引又は事象により)入手している資源である。

 

(b) 原資産が、当該契約の中の他の原資産に依存しておらず、高い相関もない。

 

僕はこれを簡単に「他の資産に依存せずに、便益を得られる状況かどうか」と書いてきたわけだが、これは有形固定資産を固定資産台帳へ登録する際に、みなさんが気を付けていることと同じだと思う。特に (a) については、癖のある書き方になっているが、これは収益認識の公開草案の収益の認識単位と表現を合わせているためで、特に高度な、或いは、特別な内容を含んでいるというわけではないと思う。

 

 

1つの契約から複数のリース構成単位(=使用権資産)を識別する可能性がある。

 

一つの契約に複数のリース(=それぞれに、使用に当たって独立性があり、かつ、便益を享受できる状況にある)が含まれていれば、それらを区分し、それぞれ独立したリース構成単位(=使用権資産)として扱う。もしかしたら、一つの契約にリース期間や耐用年数が複数あるようなケースもないとはいえない。

 

ちなみに、この公開草案では、「リース期間=耐用年数」ではない。使用権資産の償却(タイプA)は、リース期間と耐用年数の短い方で行うとされている(48 項)。

 

「1契約、1リース」ではないし、「リースだからリース期間で償却」ではないので、リース構成単位を区分する際に注意が必要だ。

 

 

さて、これで会計処理の準備ができた、と書きたいところだが、もう一つ「リース期間」について内容を確認してからにしたい。また、このシリーズの前回(8/9の記事)で、庸車取引や外注加工取引がリースを含むと判定されるかどうかを今回検討すると予告していたが、この「リース期間」が重要ポイントになりそうな気がするので、それを済ませてから、或いは、それに合わせて、ということにさせていただきたい。

2013年8月12日 (月曜日)

277.【番外編】消費増税のために国債増発?

2013/8/12

消費税率を予定通り上げるために、財政支出で景気対策をしたいそうだ。ん~、なんとなく合点がいかない。みなさんはどうだろう? 財政支出を増やすということは当然国債増発になる。しかし、国債を増発しないために消費税を上げるのではなかったのか?

 

何を言っているか良く分からない、という方は、下のリンクの日経新聞の記事をお読みいただきたい。これには有料記事の表示はないので、どなたでもお読みいただけると思う。

 

国民負担9兆円増 14年4月、予定通り消費税8%なら 景気対策が不可欠(8/9 日経電子版)

 

まるで「借金を返すから、その前にさらに借金させてくれ」といわれているような気がする。しかも、収入の倍以上の借金を積重ねた債務者から。気が短い債権者なら、ドアを指さして「お帰りください」というのではないか。しかし、僕が債権者なら、これを承諾する前に次の質問をすると思う。

 

 ・借金を追加せずに済む方法はないのか、追加で借金した方が良いと判断する理由は何か?

 

この趣旨は、借金を追加せずに済む方法が十分検討されたのかを把握したいこと、これらの方法の実現可能性を判断したいということだ。前者は債権者が債務者にあまりに寛大に対応することは、反って債務者のためにならない、もちろん、債権者のためにもならないので、「まさか、安易に金を借りに来たんじゃないでしょうね」という確認だ。後者は「実際に金が返ってくるかどうか、債権者として判断したい」という趣旨だ。まあ、僕でなくてもほとんどの方がこの質問をすると思う。あまりに当然の質問だ。

 

ちなみに、この記事では、次の4つの方法を比較している。

 

1)は最初に3%、15年10月に2%、(2)は最初に2%、その後は毎年1%ずつ、(3)は毎年1%ずつ上げる想定だ。消費税率を5%に据え置き、金利が急騰しない場合と比べた。

 

1)が追加の借金が必要なメイン・シナリオ、(2)は良く分からないが、追加の借金が必要だが額が少ないケースだろう、(3)は恐らく追加の借金が最も少ないか、不要なケースだろう。そして、それぞれについて「消費税率を5%に据え置き、・・・」のケースに比べて、GDPがどう変化するかを予想している。

 

ん~、これじゃ、税収がどうなるか分からない。聴くところによると、税収はGDPの変化率より数倍増減するらしい。国債発行額が減るのか増えるのか、景気対策にいくら使うのか、その費用対効果はどうなのか。まったく答えがない。検討がズレている。IFRS流にいえば「目的適合性」のない記事だ。

 

そしてこの記事は次のように締め括っている。

 

1%ずつなら理論上は経済の振れが小さくなるが、それには国会で消費増税の修正法案を通す必要がある。増税の影響が大きい小売業界でも「消費者を惑わせるので、当初予定どおり2段階か、1段階の引き上げが望ましい」(三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長)との声が出ている。

 

債権者は言うだろう。「修正案を通す必要があるならそれをやりなさい」と。「お金を借りる前にもっとやることがあるでしょう」と。また、「小売業にはこれ以外の意見はないのですか、例えば、消費者が惑わされることはないし、安い方を歓迎するだろう、という人はいないのですか」と。

 

結論としては、この回答で債権者が追加の融資をすることはまずあるまい。代替案のズレた検討結果を示され、真剣味のない言い訳レベルの分析や、全く一般的でない見解を拾ってこられても納得できない。世の中、この新聞が思ってるほど甘くない。こんなレベルの議論を、果たして、国債投資家はどう思うのだろうか。

 

そして、なにより納税者が納得しないだろう・・・か? ん~、先月の参議院選挙の投票率の低さや結果からすると、納税者は意外に呑気かもしれない。見過ごしてしまうかも。

 

すると、結局、新聞の思い通り、か。

 

しかしみなさん、増税して財政支出を増やす(=景気対策を行う)ということは、所得を納税者から公共事業の引受先に移すということに他ならない。一体誰が得をするのだろう。少なくとも納税者ではない。しかも、消費税の税収ばかりが増えても、不景気になって他の税収が減るようなことになれば、国債の増発は抑えられない。国の財政は反って揺らぐ。消費税の増税は一体何のためにやるのか。財政支出(=景気対策)なしで税収を増やす方法が真剣に検討されるべきではないか。ここは考えどころではないだろうか。

2013年8月 9日 (金曜日)

276.【リースED】資産の使用を支配する権利

2013/9/4末尾の赤文字部分を追加。

 

2013/8/9

みなさんは『目に見えないヘルメット』なるものをご存じだろうか。もしよろしければ、下のリンク(ITproのニュース記事)を、一瞬でよいので、ご覧いただきたい。冒頭に美人モデルが自転車に寄りかかって遠くを眺めている写真があるが、このモデルは『目に見えないヘルメット』を装着しているという。確かにヘルメットは見えないが、驚いたのは、モデルの髪が全く乱れていないことだ。ヘルメットを被っているのに風が吹けばそよぐのではないか?

 

「目に見えない」自転車用ヘルメット:スウェーデンの女子大生が発明(WIRED.jp)

 

一体どうなっているのか。謎解きはこの記事に任せるが、僕が強調したいのは発想の転換だ。『目に見えない』というのは、単にヘルメットが見えないというより、『ヘルメットを被っているように見えない』のだ。実は実際に被ってないので、これをヘルメットと呼ぶのか疑問がある。しかし、頭部は安全だという。目的は果たされている。その意味ではヘルメットを被っている。

 

『リース』も、そういう発想の転換の産物と思う。生産するには製造設備が必要だ。それには製造設備を所有しなければならない、と考えずに、所有しなくても使えればよいと。しかも、従来は、所有するのとほぼ同等な場合に限って『リース(=ファイナンス・リース)』と言って資産計上していたが、この公開草案では、一時的であっても特定期間使用を支配する権利があるなら、資産計上となる可能性がある。資産の本質が、『所有』ではなく、『キャッシュフローの生成能力』(=使用の支配)にあるという発想の転換の結果が、ここに見える。(これは、概念フレームワークの資産の定義と整合する。)

 

ということで、今回は、7/25の記事に記載したリースを識別する2要件の2つ目「b)当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうか(第12項から第19項に記述)」(7 項)について考えてみたい。

 

 

この b)について 12 項では、『資産の使用を支配する権利』の内容を2つのポイントで示しており、それらが、借手(=顧客)に移転していれば、リース契約になるとしている。

 

12 契約は、当該契約の期間全体を通じて、顧客が次の両方を行う能力を有する場合には、特定された資産の使用を支配する権利を移転する。

 

(a) 特定された資産の使用を指図する能力(第13 項から第17 項に記述)

 

(b) 特定された資産の使用により便益を得る能力(第18 項から第19 項に記述)

 

即ち、一定期間、特定された資産の使用を支配する権利を顧客(=借手)に移転している(=資産をどのように使うか顧客が決められ、その結果をすべて顧客が享受する)なら、リース契約ということになる。あまり難しいことではないと思うが、今まで引用した設例をもう一度思い出しながら、ここにいうリース契約のポイントについても確認してみよう。

 

まず、供給者の入替権(7/31の記事)で引用した鉄道車両の設例(設例1)について。

 

この設例では、ABC の3パターンから、どれがリース契約を含むかを説明していたが、リース契約を含むとされた A は、一定期間、車両を貸しっぱなしにするという設定だった。貸しっぱなしにしている間、車両を輸送に使ってもよいし、倉庫代わりに何かの保管に使うこともできた。即ち、車両をどのように使うかを顧客が決めることができた。また、輸送や保管の結果得られた便益は顧客に帰属する。一方、リース契約を含まないとされていた B C では、車両は輸送にしか使えないという設定だったので、使用を指図することが完全にはできない。ということで、この面から見ても B C はリース契約ではなかったし、A はリース契約の要素を備えていた。

 

次に、対象資産の物理的な区別(8/1の記事)で引用した光ファイバー・ケーブルの設例(設例4)について。

 

この設例では15本の東京-香港間の光ファイバー・ケーブルのうちの3本分に関する2つのパターンの契約を示し、一方はリース契約を含むがもう一方は含まないとされていた。リース契約を含む方は、3本の光ファイバー・ケーブルの両端がいずれも顧客の端末機器に繋がれていたが、含まない方は、15本すべてが通信会社(=貸主)の端末機器に繋がれ、通信会社の管理下で3本分の通信能力を顧客に提供する契約だった。

 

両端を顧客の端末機器に接続されているリースを含むとされた契約では、その3本は、使用する・しないは顧客が決定し、その結果も顧客に帰属している。一方、リースを含まないとされた方の契約では、15本すべての光ファイバーは通信会社が管理し、顧客の求めがあったときに3本分の通信能力をその顧客に配分できればよかったので、空いていれば他の顧客のために使うことができた。どの光ファイバーを使うかは通信会社が決定し、その結果も通信会社に帰属している。したがって、指図する能力、便益を得る能力のいずれも、前者はリース契約の要素も持ち、後者は持っていなかった。

 

以上を見ていると、(これまで見てきたリースを識別する要件2つ、その2つを判断するポイントもそれぞれに2つずつの)計4つのポイントは、バラバラに、或いは、契約条件と個別対応するものというより、「1つの事象の様々な面」という形で表れてくるようだ。

 

それから、この4ポイントを考えるうえで重要なのは、「一定期間」、或いは、「期間全体を通じて」有効なことだ。この“期間”は、契約書に記載された期間というより、「4ポイントが有効な期間」こそが、この公開草案でいうところの「リース期間」ということかもしれない。僕はこの“期間”も、リース契約を識別するうえで重要な要素になると思う。

 

 

さて、以上で、「リースの識別」に関する規程はすべてとなったので、上記の設例に加えて、7/31の記事で「引続きフォローする」としていた庸車契約や外注加工取引についても考えてみよう。供給者に入替権がなく、或いは、対象資産が物理的に特定できる状況で、顧客(=借主)がその資産の使用を指図でき、かつ、その便益を得る能力がある状況は、これらの契約においてもあり得るのだろうか。

 

結論から言えばあり得る(が、そう多くない?)と思う。特に外注加工取引では殆どないのではないか(僕の意見)。

 

さて、具体的な検討内容については次回としたい(※1。来週から夏休みに入る方も多いと思うが、申し訳ないが休み明けにご覧いただきたい。このブログは、(これ以上暑さが厳しくならない限り、)来週・再来週も続ける予定だ。

 

(※1)具体的な検討内容については、9/4の「283.【リースED】リース取引の識別のまとめ~庸車取引、外注加工取引」をご覧ください。

 

2013年8月 6日 (火曜日)

275.【リース】リースの目的と消費税率(閑話)

2013/8/6

急に、消費税率を予定通り上げるかどうかについての報道が賑やかになった。きっかけは、安倍首相が消費増税の影響を試算するよう指示していたことが 日経新聞で7/27 に報じられたことだ(が、本来は、参議院選挙前にやって欲しかった)。その後の日経新聞を読む限り、ありとあらゆる人が「予定通り税率を上げよ」と言っている感じだが、どうも不思議だ。もし、税率を上げても税収が増えなければ、元も子もないのではないか。その影響をしっかり確認しようとする安倍首相の判断や指示に賛同する人が、なぜこんなに少ないのだろうか? 消費税を負担するみなさん、折角高い消費税を払ってもやっぱり国債の発行額は減りませんでした、なんてことになったら悲しくないですか?

 

さて、こんな出だしで面食らった方もいらっしゃると思うので、リースへ戻ろう。とはいえ、実は、僕にしてみれば、リースと消費税率アップの問題は全く無関係というわけではない。なんとなくつながっているのだ。

 

う~む、そこに触れないわけにはいくまい。やはり、寄り道させていただくことをお許し願いたい。

 

 

常々、僕は、より大きな目的を意識することを大事だと思っているが、このリースの公開草案を読むにあたっても、そういうスタンスを持とうと努力している。例えば、なぜリースをするのか、リース取引を選択する目的は何か、なぜ購入じゃないのか。

 

会計規準にそんなことが書いてある? 或いは、そんなことが書いてある会計規準が適切な規準といえる? そう思われる方も多いと思う。その通りだ。そんなことは書いてないし、会計規準はビジネス指南書ではない。しかし、なぜリースをやるかを理解せずに会計処理だけ覚えても、試験には受かるが実務はこなせない、というのが僕が感じていることだ。

 

それに、会計規準を作る人たちが、こういうことを理解してないはずはない。理解している人たちが作っているなら、規準の中にジワリと滲み出てきているはずだ。そういう規準が良い規準、というイメージも持っている。

 

 

という観点で、この公開草案に目を通してみると、(今の時点で)引っかかっていることが3つある。

 

 ・使用権(=使用を支配する権利)で因数分解を行ったこと

 ・利息法で金利コストを認識するパターン

 ・リースとサービスを区分すること

 

この中で、物理的な、或いは、権利としての資産から使用権を括りだしたことについて取り上げたい。ここでは、借手企業の無駄を排除しようとするしたたかな戦略と、それに対抗する貸手企業のプロフェッショナルなリスク管理能力を前提としているように感じる。そして以前(7/18の記事)に記載したように、この括りだしによって、従来のファイナンス・リースだけでなく、オペレーティング・リースでも借手に資産計上させることが可能になった。

 

大雑把に言って、資産価値は使用から生ずる価値と売却・処分から生じる価値があるが、この公開草案が想定しているリースの借手は、その資産を特定期間使用することで得られる価値を見極めているように思う。その資産を使う事業のライフ・サイクルを意識している感じがする。もっと長い期間使用することの価値やリスクがどうなるか、売却するときの価値とリスクはどうなるか、といった購入した場合の不確定要素を固定化し、特定期間の事業戦略に意識を集中させてる感じだ。(もちろん、その後の事業環境の見込みの変化に応じて、リース期間を延長することを否定しようというつもりはない。)

 

一方、貸手がリース料を計算するには、リース期間終了後の(他の借手を含めた)再リースや売却・処分取引から得られる将来キャッシュフローの見積りが必要になる。甘く(過大に)計算すればリスクを抱えるし、辛くし過ぎれば借手は他のリース会社と契約するだろう。

 

従来のファイナンス・リースのように、その資産の経済価値の大部分を消費できる長期のリース期間を想定するなら、借手も貸手も難しくない。借手は購入と同じ思考でよいし、貸手は信用リスクを見ればよい。しかし、この公開草案では賃貸期間が1年を超えればリースになる。中途半端な期間のリース取引には、恐らく特別なノウハウが求められる。

 

借手にとってはリース料が割高になる。しかし、それでもリースを採用するという経営判断は、期間は短くてもその事業の将来に明確な見通しを持てているか、割高なリース料をより確実に回収できるビジネス・モデルを持てなければならないだろう。その事業の将来(の顧客の変化)をより確実に予想できるノウハウが必要だ。

 

一方、貸手は中古市場があるとか、なければ自ら整備するとか、リース期間後のその資産の価値をなるべく客観的で確実に予想できたり、他のリース業者より多額のキャッシュフローを得られる工夫や仕組が必要だ。恐らく、対応できる資産の種類は限られるだろう。その道(=資産)に特化したプロとしての能力が求められる。金融機関の子会社のイメージはあまりない。その資産の使い方を熟知しているメーカーの子会社がその資産を運用するサービスと一緒にリースを提供するとか、もしかしたら処分価値を最も高められる資源回収・再生事業者の子会社が、貸手になるかもしれない。

 

 

このように考えていくと、この公開草案によって、新たにリース取引を行っていると識別される借手・貸手企業は、真剣に顧客ニーズに向き合い、将来の不確実性に備え、極力無駄を排除して事業を深く掘り起こしているイメージが膨らんでくる。ん~、素晴らしい企業たちだ。

 

まあ、これはあくまで僕の想像というか妄想レベルの話であり、果たして当たっているかどうかは分からない。でも、そんなことを考えながら、僕は公開草案を読んでいる。そんなときに消費税率アップに関する日経新聞の記事やコラムへ目を移すと、どうも、内容がアバウトに見えていけない。

 

三党合意がどうの、国際公約がどうの、市場関係者の見込みがどうのというが、いずれの関係者にとっても、消費税率が予定通り上がるかどうかより、税収が増えて(歳出も減って)、国債発行額が減らせられるかどうかの方が大事ではないか。税率を上げたい財務省の試算だけを頼りにしてよいのだろうか。安倍首相の指示をきっかけに、なぜそこへ注目させないのだろう。将来の不確実性を見極めようとするのは、無駄のない効率的な経営に繋がるのに。日経も変な新聞だな。

 

が、良く考えてみると、僕は自分の妄想との比較で“アバウト”と非難している。これでは、日経新聞も割が合わない。

 

2013年8月 1日 (木曜日)

274.【リースED】対象資産の物理的な区別

2013/8/1

公開草案は、7 項がリースを識別する要件として (a) (b) の2つを掲げており、余分とも思える (a) を、この数回で見てきた。その結果、どうしてもファイナンス・リースのイメージが残る「リースのイメージ」を変えなければいけなさそうなことになってきた。特に前回(8/31の記事)は僕にとっては衝撃的だった。庸車契約や外注加工契約などのサービス契約も「リース」を識別する対象になるかもしれない。

 

僕と同じように衝撃を受けた方は、今回も「何処まで広がるんだ」と心配しているかもしれない。でも、前回広がった範囲をさらに広げようということではない。かといって、著しく範囲を狭めてくれるものでもなさそうだ。ちょっと残念かもしれないが、確かに、リース識別の判断を助けてくれる材料にはなると思う。今回は、上記 (a) の説明をしている 8 項~11 項から抽出された2つ目のポイント「物理的な区別が可能なこと」についてだ。

 

 

さて、有形の“もの”を賃貸するというなら、その資産が物理的に区別・特定できるものでなければ、権利も義務も設けようがない。これは今まで意識していなかったが、賃貸契約やリース契約にとっては当然の、或いは、暗黙の前提だったと思う。それが改めて持ち出されているのは、前回見たようにリースを識別する対象が、従来はリースと無関係と思われていたサービス契約まで広がったため、ということなのだろう。では、これを持ち出さないとリースかどうか判断できないケースとは、どういうものだろうか。

 

早速設例を見よう。設例4は、光ファイバーに関する契約例を2種類示し、一方はリース契約を含む、もう一方はリース契約を含まないとしている。

 

(リースを含む契約)

 

東京-香港間の光ファイバー・ケーブル3本を通信会社から15年間提供される契約。ポイントは、光ファイバーの端末をユーザーが自らの電子機器に接続している。即ち、その3本を完全に支配している。ただ、その3本を維持管理する義務は通信会社側にある。

 

(リースを含まない契約)

 

東京-香港間の光ファイバー・ケーブル3本分の能力を通信会社から15年間提供される契約。通信会社はこの区間に15本の光ファイバー・ケーブルを保有しており、(記述はないが状況から)これらの光ファイバーの端末は通信会社の電子機器に接続されている。

 

なるほど、これは分かりやすい。

 

前者は、3本が物理的に顧客専用の光ファイバーであることが明らかで、メンテナンス付ではあるが、確かに特定の資産に依存した賃貸契約の要素がある。一方、後者は、15本全部がこの顧客用ではないことは明らかで、どの光ファイバーを使うかは通信会社の都合で決められる。3本の光ファイバーを物理的に提供するというよりは、3本に相当する“能力”を提供する内容だ。確かに物理的にどの部分が賃貸の対象なのか区分できない。よってこの契約はリースを含まないサービス契約だ。

 

う~ん、ただ、前回の「供給者の入替権」と実質的に内容がダブってる気がしないでもない。

 

厳密には、前回の貨車は物理的に入れ替えが可能だから入替権で、光ファイバーは端末機器やソフトフェアでコントロールするのであって、物理的に入替えているわけではないから入替権ではない。よって、ダブらない、ということかもしれない。

 

ただ、いずれにしてもサービス提供する際に、特定できる資産が絡んでくるとリースの可能性が生まれる。これが理解しなければいけない本質なのではないだろうか。ここで、リースを識別する要件である上記の (a) を改めて引用すると次のようになっている( 7項)。

 

(a)当該契約の履行が特定された資産の使用に依存するかどうか(第8項から第11項に記述)

 

ということで、この (a) を理解するために、「供給者の入替権」と「物理的な区別が可能なこと」について検討してきたが、また (a) に戻ってきた感じだ。しかし、この検討により以前より (a) の意味が具体的にイメージできるようになった気がする。

 

 

ところで余談になるが、実は僕は光ファイバーを保有して通信事業を行っている会社の監査を担当していたことがあり、ちょうどそのときに日本で賃貸等不動産の時価開示の注記が開始された(2010/3/31終了事業年度から)。そのとき、光ファイバーが賃貸資産として時価評価の対象になるのかどうか悩んだ経験がある。

 

確かに、光ファイバーは売買の対象にもなるので、賃貸借契約の対象にもなりえるし、通常の会話でも“回線を貸す”とか“借りる”などという言葉が使われる。しかし、通信速度の保証さえない(ベスト・エフォート方式の)契約も多く、それは本来の意味での“回線を貸す”とか“借りる”のとは違うだろうと思っていた。回線品質を保証する契約や専用回線契約という名称のものもあったが、それらは、ソフトウェアや電子機器でそうなるようコントロールし、顧客が余計なストレスを感じずに通信できるようにする“サービス”だ。顧客は物理的な回線を欲しがっているのではなく、そういうサービスを求めて契約している。ということで、光ファイバーを含む通信設備全般は、時価注記の対象資産ではないだろうというのがそのときの判断だった。

 

この「物理的な区別が可能なこと」というポイントは、凡そ、そのときのイメージとも合う。しかし、僕には、ここまですっきり分かりやすい考え方の整理はついていなかったから、物理的に特定できる形での専用回線契約がどれぐらいあるかは調べていない。もし、この公開草案がこのまま確定すれば、その会社はIFRSを導入するにあたって、或いは、日本基準に新しいリース規準が導入される際に、再調査が必要になるかもしれない。

 

 

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