287.【リースED】リースの分類方法⇒訂正あり!
2014/5/7
2014年3月のIASBとFASBの合同会議で明らかにされた“暫定決定”では、下記の内容の一部は変更若しくは提案取下げの対象となっています。詳細は 5/6の記事をご覧ください。
2013/9/18 タイプBの費用計上方法および割引の巻戻しに関係する説明を訂正した。赤文字の部分。
2013/9/12 細かい字句の訂正等を行った。例えば、「Aタイプ」を「タイプA」へ訂正したなど。
2013/9/10
このシリーズの前回(9/6の記事)では、リース取引の経済実態は幅が広く、特にP/Lの表現として、単一の方法では無理がある。そこで、2つに分類するということだった。その2つとは、期間が経過するにつれて逓減的に費用計上される方法と、毎期安定的に計上される方法だった(これらの詳細は後日)。今回は、この2つに分類するために、個々のリース取引のどのような状況や性質に注目するかがポイントになる。
実は、IASBやFASBが着目したポイントは、目新しいものではない。というのは、この2つの費用計上方法は、従来のファイナンス・リースやオペレーティング・リースの会計処理の延長と考えられるからだ。ただ、従来のファイナンス・リース的な費用計上方法を採用するリース取引の対象範囲が拡大されて、タイプAとなり、従来のオペレーティング・リースのような概ね定額の費用額が計上される方法の対象が縮小され、タイプBとなった。(ちなみに、使用権資産・リース負債の計上は、いずれのタイプでも要求される。)
即ち、リースが資産購入のための資金調達方法に見えるか、一時的なレンタルに見えるかによって、費用計上方法を分けたといえると思う。前者の場合は従来のファイナンス・リース的な費用計上方法(使用権資産の償却+割引の巻戻し⋆1による利息計上)(42項(a))、後者の場合は従来のオペレーティング・リースと同じような費用額が計上される方法(毎期首再計算が必要だが、基本的には定額の費用化か、割引の巻戻し⋆1の大きい方)が適用される(42項(b)、B15)。
なお、以上は借手から見たものとしての説明だが、貸手から見た場合も、概ね裏表同じになる(詳しくは会計処理を検討するときに)。
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⋆1 割引の巻戻し(unwinding of discount)
これは、聞き慣れない言葉だ。そこで調べてみると、weblio(の英和生命保険用語辞典)には、次のように説明されている。
【会計】時間の経過によって解き放たれた割引分((Embedded valueの保有契約価値等の計算では,将来収支の割引合計(Discount sum)が用いられる.1年後これらの値は仮に前提条件が予想通りに推移した場合でも,割引率分が時間の経過によって開放され,価値が増加することをいう))
例えば、3年間100円ずつ支払う債務の現在割引価値は、割引率が10%の場合次のように計算される。
1年目の支払予定額の現在割引価値 100 /(100%+10%)=91
2年目 91 /(100%+10%)=83
3年目 83 /(100%+10%)=75
―――――――――――――――――――――――――――――――
合計 249(額面300)
翌年、この債務は上記の1年目の支払いが終わるので、次のように計算される。
1年目の支払予定額の現在割引価値 100 /(100%+10%)=91
2年目 90 /(100%+10%)=83
―――――――――――――――――――――――――――――――
合計 174(額面200)
この249と174の差額は75、即ち、1年後に債務は75減少する。しかし、実際の支払は100だし、現在割引価値でも91だ。この91と75の差26が割引の巻戻しとして金利コストになる(100と91の差9は前年度の金利コストに含まれる)。割引期間が3年から2年に短縮されたことで、債務額は26増額される。奇妙に感じるが、これが、上記weblioの説明にある「時間の経過で解放された価値」、即ち、割引の巻戻しということになる。
支払いが進むごと、即ち、負債の減少に応じて、逓減していくという意味では、利息法による金利コスト計算と似たイメージ。(但し、利息法は債務額に金利を乗ずるが、割引の巻戻しは割引計算なので上記のように除算となる。)
―――――――――――――――――――――
さて、以上を踏まえたうえで、どのように分類することになっているかを見てみよう。どのようなものが、資産購入資金調達手段としてのリースで、また、どのようなものが、一時的なレンタルとされているだろうか。規定を要約すると次のようになる。
|
着眼点 |
タイプA |
タイプB |
項 |
原則 |
原資産 |
不動産以外はタイプA |
不動産はタイプB |
29、30 |
例外1 |
リース期間 |
経済的耐用年数のうち、重大ではない部分の場合は タイプB |
残りの経済的耐用年数の大部分である場合は タイプA |
同上 |
例外2 |
リース料総額の現在価値 |
原資産の公正価値に比べて重大ではない場合は タイプB |
原資産の公正価値のほぼ全額である場合は タイプA |
同上 |
例外に優先する特則 |
原資産の購入オプション |
オプション行使の重大な経済的インセンティブを借手が持つ場合は タイプA |
同左 |
31 |
公正価値モデルを選択する場合の特則 |
会計方針の選択 |
公正価値モデルを選択した場合は分類しないが、表示および開示に際しては タイプAとして扱う |
同左 |
35 |
上記の他、32項では、リース構成部分に複数の原資産の使用権を含む場合、“主要な資産”の性質(=上表の“着眼点”)で判断するとされている。また、33項では、そのようなケースで原資産に土地と建物の両方を含む場合、経済的耐用年数についての判断は建物で行うとされている。
なるほど、タイプAは耐用年数や支出予定額から見て従来のファイナンス・リースに近いものであり、そうでないタイプBを、一時的なレンタル取引と考えているようだ(この着眼点は、現行のリース会計と同じ)。ただ、耐用年数やリース料総額のどれぐらいの割合を“重大”(或いは“重大でない”)と判断するのかについては明確でない。これが原則主義たるIFRSの特徴であり、数値基準がない。
ところで、リース期間を決める際の「オプション行使の重大な経済的インセンティブ」については、8/21の記事に、文脈から「“重大”=50%以上見込まれる」と推測したが、間違いであることが分かった。もっとハードルが高い(=もっと可能性が高い。「合理的に保証された」及び「合理的に確実」と類似のもの)とされている(BC171、BC140)。8/21の記事に、お詫びして、訂正をさせていただいた。
ということで、リース期間を決める際の「オプション行使の重大な経済的インセンティブ」は、かなり高いハードルになっている。ということは、上表の黄色の背景色を付けた“重大”も、単に半分以上ということではなく、もっと大きな割合を意味するのだろうか? 例えば経済耐用年数の8割、9割をリース期間が占める場合とか、リース料総額の現在価値が公正価値に比べて8割、9割になっているとか。しかし、もし、そうだとすると、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分と大差ないではないか!?
答えは「否」だ。これは推測ではなく、ちゃんと以下の根拠があるので、ご安心戴きたい。
結論の根拠のBC125項(b)には“重大”となる例示、「経済的耐用年数が10 年のトラックの4 年間のリース」がある。半分以下でも“重大”とされている(正確には「重大ではないとはいえない」と記述されている)。
では、いったいどのように考えればよいのだろうか?
どうやら、“重大”を測るさらに根源的なものがあるようだ。もっと、タイプAとタイプBを分類する意味、即ち、何をもって、資金調達手段としてのリースと一時的なレンタルとしてのリースを区分しているかを掘り下げて考える必要がある。が、これは次回。
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