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2013年9月17日 (火曜日)

289.【リースED】“タイプB”への反対意見(代替的見解)⇒訂正あり!

2014/5/7

2014年3月のIASBとFASBの合同会議で明らかにされた“暫定決定”では、下記の内容の一部は変更若しくは提案取下げの対象となっています。詳細は 5/6の記事をご覧ください。

 

2013/9/178時過ぎに末尾の赤文字の部分を訂正しましたので、その前に読まれた方はご確認ください。

僕の印象では、この公開草案には反対意見(代替的見解)が多い。しかも、リースの分類及びタイプBへ批判が集中している。反対意見(代替的見解)とは、公開草案や確定後の各IFRSの「結論の根拠」の末尾に記載された、公表へ反対票を投じたIASBメンバーの見解だ(このリースのようにFASBとの合同プロジェクトの場合は、FASBメンバーの反対意見も記載される)。今回は、これらを理解することが特に重要と思うので、ちょっと立ち寄っていきたい。

 

(今回のポイント)

 

★ 分類原則(=分類に関する規定)には、リースの本質、償却方法や利息費用の会計処理の合理性、規準運用などの面から、IASB・FASB両審議会メンバーの反対意見がある。批判はタイプBの分類方法や借手の会計処理に集中しており、タイプBの範囲の縮小や廃止が求められている。(今回は取上げないが、タイプBの貸手の会計処理への批判も多い。)

 

★ これらは、将来、規準を実際に理解し運用する際に、財務諸表の読者や監査人の注目を浴びやすい。特に、規準の趣旨が曲解されるような問題が発生すれば、タイプBの存続は危うくなるかもしれない。よって、慎重な解釈・運用が期待される。

 

 

反対票を投じたメンバーの意見(=代替的見解)のうち、タイプBに関する部分を下記に要約する。(以下は、僕が勝手な理解で要約しているので、正確に知りたい方は、この公開草案の結論の根拠の末尾をご覧いただきたい。)

 

 

(IASBメンバー)

 

● プラブハカー・カラバチェラ氏(元KPMGパートナー、アメリカ)

● 張為国氏(元中国証券規制委員会(CSRC)の主任会計士及び国際業務部長?)

 

カラバチェラ氏と張氏は、借手と貸手の両方について提案されている二本立ての会計モデルに反対している(即ち、“分類”規準を修正すべきとしている)。理由は、使用権モデルの原則を損ない、運用が複雑で、ストラクチャリング(=取引形態の操作)の機会を作り出すものだから、としている。

 

具体的には、次の理由で、短期リースと土地を除き、すべてのリースをタイプAで処理すべき。そのために、不動産以外のリースがタイプBに分類される規定は廃止し、不動産リースについては、土地と建物に区分し、土地部分のみをタイプBと分類する。

 

(理由)

 

・タイプBの借手のリース費用(=使用権資産の償却費+利息費用)は概ね定額で計上される。利息費用はリース負債の支払いに応じて逓減していくので、残りの使用権資産の償却部分は逓増的になると考えられる。しかし、IASBは逓増的(将来に行くほど費用が増加する)償却方法を合理的と考えていない。よって、償却資産をタイプBに分類することは避けるべき。

 

・分類の規準の運用に疑問を持っている。即ち、例の「重大ではない」とか、「ほとんどすべて」及び「大部分」の意味がちゃんと理解され運用されるか。また、不動産の場合には、リース期間を原資産の“残り”の経済的耐用年数との比較で行うが、不動産以外の資産の場合には、原資産の経済的耐用年数“全体”との比較で行う。これは恣意的で複雑である。

 

・解約不能期間が短いリース取引のリース期間の決定に際して、借手は、例の“重大な”経済的インセンティブという高いハードルを理由に、延長オプションを行使しないと評価して、リース期間を短くすることができる。するとタイプBへ分類されやすくなる。その後リース期間延長のオプションを行使しても分類の変更は禁止されているので、タイプBが維持される。この弊害を減少させるため、リース期間を変更する場合は、分類の見直しも行うべき。

 

以上の2名のIASBメンバーの意見は、規準を単純化できるが、タイプBの分類を土地に限定する。

 

 

(FASBメンバー)

 

● トーマス・J・リンズマイヤー氏

 

タイプAとタイプBがあることで、以下のように財務諸表が複雑になるので、どちらかに統一すべき。

 

・P/Lの会計処理が短期リースやタイプA・Bなどで異なる。これを理解しないと、リース契約の影響の総額を算定することができない。

 

・C/S(キャッシュ・フロー計算書)にも問題がある。タイプAの元本の返済は財務キャッシュ・フローだが、割引の巻戻しやタイプB、短期リースなどは、営業キャッシュ・フローの区分に表示される。

 

・注記においても、包括的な開示を1か所で要求するようにしておらず、リース契約に固有のすべての権利及び義務並びに関連する損益上及びキャッシュ・フロー上の影響を理解するのに必要な情報を財務諸表利用者に提供する形になっていない。

 

リンズマイヤー氏は、リースの本質・経済実態に関して定見がないので、財務諸表の読者が、リースに関する自らの見解(金融機能か、一時的なレンタルか)に基づいて財務諸表を容易に組み替えることができるよう、会計処理の単純化(=統一)と注記の充実を求めている。(説明は省くが、同氏のリースの理論・見解は、かなりユニーク。)

 

● R・ハロルド・シュレーダー氏

 

リース負債はタイプAとタイプBで同じ性質なのに、P/Lにおける利息の取扱いが異なる。また、タイプBの単一のリース費用(=使用権資産の償却+利息)が毎期一定になることについて、理論的な根拠がないと考えている。即ち、タイプBの単一のリース費用の定額償却は、貨幣の時間的価値と使用権資産の価値の減少を合理的に反映していない(上記のIASBメンバーの見解と同じ)。即ち、経済実態を反映していない。このことを理由にタイプBに反対している。短期リースについても同様の懸念を示している。

 

シュレーダー氏は短期リース及びタイプBを廃止し、すべてをタイプAへ統一することを求めている。もしそれができないのであれば、財務諸表の読者が短期リースやタイプBをタイプAに組み替えられるよう、注記などの充実(単一の包括的なリース開示注記)が必要としている。

 

以上のFASBメンバーの反対意見をまとめると次のようになる。

 

(a) リースの本質や経済的実態の見方について、リンズマイヤー氏はまだ定見がないと考え、シュレーダー氏はタイプAが実態を現わすと考えている。しかし、注記をより充実させ、財務諸表の読者が容易に組替できるようにすべきと主張している点は共通している。

 

(b) シュレーダー氏は、長期負債には金利コストは費用逓減的な(=先に行くほど費用が減少する)利息法で測定すべきで、費用逓増的な(=先に行くほど費用が増加するような)処理は合理的でないと考えている。そして短期リースを含め、すべてタイプAに統一すべきとしている。しかし、リンズマイヤー氏はユニークな理論で、短期リースを含むすべてのリースに関して、タイプAもタイプBも肯定できるが、どちらかに統一が必要としている。

 

 

以上の指摘は、それぞれに重要な意味を持っている。しかし、この公開草案の提案には、短所ばかりでなく長所もある。そのバランスが取れているかどうかが重要だ。一応、両審議会の多数派は、リースには幅の広い経済実態があって、(P/L面で)1つの会計処理に統一するの困難で、リースを2つに分類することでバランスが取れる、との意見であることは既に記載した(9/6の記事)。

 

僕は、IASBのカラバチェラ氏と張氏の意見に、かなり魅かれた。なんといっても、シンプルで運用しやすい。不動産を土地と建物等に区分する方法に実務上の新たな課題があるが、従来も不動産購入時に両者を区分する実務上の工夫は行われているので、それをリースに応用すれば対応可能だ。(借上げ社宅契約など、貸主が個人・中小企業となるような取引に適用するのは厄介だが・・・。)

 

ただ、不動産以外の設備や機器などのリースについて、本当にタイプBの可能性を否定してしまってよいのか。前回(9/13の記事)見たように、「重大ではない=ささいな」であり、この公開草案でも、不動産以外の取引がタイプBに該当するケースはあまりたくさんないと思う。しかし、その可能性を残しておくことは重要ではないか。リースの本質・経済実態は幅広で、統一できる定見がないのだし。いや、むしろ、この提案内容でも、不動産以外をタイプBに分類するハードルが高過ぎると思われる方の方が多いかもしれない。

 

加えて両氏の代替的見解では、不動産リースでも、建物など、土地以外はすべてタイプAに分類することになる。建物などリース期間が長期のものは、利息法によって計上される利息費用が、最初のうちは多額になるかもしれない。割引率が低いうちは良いが、将来金利が上昇してくると、新規賃貸物件については馬鹿にならないかもしれない(割引率は、リース期間の変更に大きな影響を与える経済インセンティブ要因の変化などの一定の場合以外は見直さない)。それでも、移転予定のない本社や主要事業所に賃貸物件があれば、それが経済実態で、タイプAへの分類が正しいことも多いと思うが、従来考えても見なかったこと、例えば、賃貸は本当に得だろうか、どういう時に有利だろうか、といった根本までを考えさせられることになるだろう。

 

これは良いことかもしれないし、逆に、益出し(=過年度に計上した利息費用の戻入)のために、リース期間の短縮を促すことがあるかもしれない。益出し目的だけでリース期間を短縮するのであれば、移転費用の支出を増やすだけの見せかけの利益であり、企業の財務実態にはマイナスだ。また、同時に貸手には新たなリスクを生むことになる(借手の益出しと逆の効果)。この結果、賃貸契約の解約条件が厳しくなるかもしれない。これらはリース期間が長いほど影響が大きい。すべての建物を強制的にタイプAに分類するのは行き過ぎのように思う。

 

 

ところで、反対意見のFASBメンバーは、短期リースを含め、会計処理をすべて統一しようとしている。一人は理論的にタイプBを全く認めていないので、最小公倍数を取れば、会計処理をタイプAへ統一する方向になる。

 

また、IASBメンバーによってタイプBの分類に関する規準解釈や運用の恣意性が問題提起された。これで財務諸表の読者や監査人の注目がタイプBへ向かうに違いない。問題があれば、或いはその可能性が散見されれば、話題になりやすい。

 

このように考えると、タイプBの立場は意外に危ういかもしれない。公開草案の提案通りにリース規準が確定したとしても、運用面で悪い評判が立てば、縮小又は廃止の方向で見直される可能性が高まりやすいだろう。タイプBに価値を感じているユーザー、特に財務諸表作成者には、リース期間決定におけるオプション行使の経済的インセンティブの適切な評価と“消費の原則”を踏まえた慎重な分類原則の運用が期待される。

 

例えば、解約オプションを借手のみが保有し(=借手が解約を通知しない限り強制的に継続される契約で)、解約不能期間(=解約通知期間)が6ヶ月の不動産リースを、移転予定がないのに安易に短期リースやタイプBに分類すれば、タイプBどころか、短期リースさえも絶滅危惧種リスト入りするかもしれない。とはいえ、上述の通り、常に残りの経済耐用年数の大部分をリース期間に決定して、タイプAに分類することが良いとも限らない。事業の見通しや経済実態を慎重に検討し、根拠づけすることが求められると思う。但し、B2BC109によれば、貸手も、ささいなペナルティの範囲で契約を解除できるなら、このケースには該当しない(=借手のみが解約オプションを持っている状況ではない)。日本の不動産賃貸契約は、借地借家法による借主保護の制度もあり、どちらに該当するか確認が必要かもしれない。

 

これに関連して、経済耐用年数の評価は、税法基準から脱却が促される可能性があるように思う。経済耐用年数は、単に鉄筋や鉄骨などの構造材の種類等で決まるものではなく、耐震設計の優劣や陳腐化等による経済価値の低下の可能性を考慮するなど、もっと建物の個性に合わせて決定されるべきではないだろうか。

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