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2013年9月26日 (木曜日)

292.【リースED】貸主の会計処理-大家さんの経営戦略の適切な表現

2014/5/7

2014年3月のIASBとFASBの合同会議で明らかにされた“暫定決定”では、下記の内容の一部は変更若しくは提案取下げの対象となっています。詳細は 5/6の記事をご覧ください。

 

2013/9/26

このシリーズの前回(9/19の記事)では、借主と貸主の会計処理を表にしてみた。その結果、次の2点が非対称になっていると思われた。

 

① 借主については、タイプAとBの両方について、(使用権資産と)リース負債をB/Sに計上するのに対し、貸主については、タイプAでは借主の処理に見合ったリース資産(=リース債権+残存資産)を計上するが、タイプBのB/Sの処理には特に定めがない。

 

② 貸主のP/Lの処理は、タイプBについては借主の処理と概ね対称になっているが、タイプAについては「貸主の事業モデルを適切に反映する方法」と記載されているのみ。

 

このように、借主と貸主の会計処理には非対称の部分がある。特に貸主に対して、IASBは自由や多様性を認めているかのように見える。IFRSには経済実態を忠実に表現するという基本的な質的特性があるから、自由や多様性を認めているのであれば、そうすべき経済実態があるということなのだろうか。

 

今回から、そこに如何なる経済実態があるのか、或いは、経済実態ではなく他の理由によるものか、そして、借主にはそれがないのか、について考えてみたい。今回はまず、①のタイプBの貸主のB/Sについて。

 

今回の結論としては、タイプBのB/Sの表現(=会計処理)について、不動産賃貸の貸主には、公正価値モデルか原価モデルかを選択する自由がある。賃貸用不動産には、投資不動産(IAS40)の規定が適用されるからだ。IAS40の結論の根拠には、公正価値モデルの方が好ましいが、B/Sに計上するほどの信頼できる公正価値が計算できないなどの実際の制約から原価モデルの選択肢が残されているような感じのことが書いてある。しかし、僕は、選択肢があるのは貸主の事業モデルの差ではないかと思う。

 

即ち、公正価値モデルが相応しい貸主の事業モデルと、原価モデルが相応しい貸主の事業モデルがあり、企業が自らの事業モデルをどちらに分類しているかで、会計方針が決定される。そう思った方が、この公開草案を前向きに捉えられると思っている。

 

不動産賃貸以外のタイプBの貸主については、従来のオペレーティング・リースと同様の処理が継続される。但し、あまり重要な取引はなさそうだ。

 

ということで、以下で、より詳細に検討してみよう。

 

 

今まで見てきたように(9/13の記事など)、タイプBは、概ね不動産賃貸に適用される。不動産の貸主といえば“大家さん”だから「大家さんの財政状態が忠実に表現されるにはどのようなB/Sであれば良いか」というのが今回のメイン・テーマだ。ところが、①に記載したように、この公開草案には、大家さんのB/Sの処理については記載がない。

 

実際には、93項に「貸手は、リース料をリース期間にわたりリース収益として純損益に認識しなければならない。」などと、そして96項に「貸手は、タイプBのリースの対象となっている原資産の測定及び表示を、他の該当する基準に従って継続しなければならない。」とは書いてあるが、これだけ読むと、何も書いてないに等しいと思ってしまう。即ち、大家さんは、普通に有形固定資産の会計処理(IAS16)を適用すればよいのではないか、と。

 

ところが、この「他の該当する基準」が、主にIAS40「投資不動産」であることに気付くと、相当に印象が変わる。この規準は、賃貸不動産等を「投資不動産」と呼び、会計方針として公正価値モデルと原価モデルを用意し、いずれかを大家さんに選択させる。原価モデルを選択した場合でも、公正価値の注記が必要になるので、いずれの場合も賃貸不動産について、(できる限り)公正価値を計算しなければならない(IAS40.3253)。

 

IAS40は、この公開草案の影響による変更が多数に及ぶので、その変更案もこの公開草案の末尾に添付されている。その5項では、投資不動産の定義は次の通りとされている。

 

投資不動産とは、次の目的を除き、賃貸収益若しくは資本増価又はその両方を目的として(所有者又はリースの借手が)保有する(土地若しくは建物又は建物の一部又はそれら両方の)不動産をいう。

 

除かれる「次の目的」の不動産とは、仕掛不動産を含む販売用不動産と、生産活動や営業活動などで使用する自己使用不動産(従業員社宅用賃貸不動産を含む)だ。これら以外はすべて投資不動産に含まれる。

 

さらに、上記の投資不動産の定義では、「…リースの借手…が保有する…不動産」も対象となっている。これは、主に転貸不動産(=リースの借手がさらに又貸しする不動産、使用権資産)のことだ。

 

ということで、投資不動産には、転貸の大家さんも含めた大家さんが保有する賃貸用不動産が含まれることになる。これらは、この公開草案で原則タイプBに分類されるが、残存耐用年数や公正価値などの例外規定に該当するとタイプAになるものもある(293031項。或いは9/10の記事の表)。

 

 

以上をまとめると、大家さんの財政状態を表現する会計処理・会計方針は、次のように整理できる。

 

           
 

タイプBの賃貸不動産

 
 

「公正価値モデル」か
    「原価モデル+公正価値の注記」の選択

 
 

タイプAの賃貸不動産
    (例外規定に該当したもの)

 
 

リース資産(=リース債権+残存資産)

 
 

転貸不動産(使用権資産)

 
 

「公正価値モデル」か
    「リース資産(=リース債権+残存資産)」の選択

 

 

投資不動産の会計方針の選択、公正価値モデルや原価モデルの適用については、IAS40の30-56項に記載されている(上述したように、この公開草案にも変更案が添付されている)。

 

公正価値モデルは公正価値でB/S計上し、その変動を純損益とする会計方針(リース収益は別途純損益に計上)。原価モデルは取得原価でB/S計上し、お馴染みの減価償却と減損を行う会計方針で、IAS16「有形固定資産」で規定されている。

 

リース資産とは、リース債権の回収キャッシュ・フローや返還された賃貸資産のその後の運用・処分キャッシュ・フローを現在価値に割引いたものであり、計算の形式は、市場価格のない資産の公正価値を見積る方法に似ている。参考までに、公正価値と異なる点を以下に記載する。

 

・公正価値には売却時の利益を含むが、リース資産の残存資産の見積りでは利益相当額が控除される。

 

・理論上、公正価値の見積りの方が、より客観性が高いと位置付けられている。(使用価値は、その会社固有の見積りだが、公正価値は、理論上、市場の見積り、独立した第三者による見積りとされている。)

 

・公正価値は毎期見直し変動分を純損益に計上するが、リース資産で毎期見直されるのは割引の巻戻しと減損テストだけ。(一定の場合以外は、リース資産の見積りにおけるリース料総額や割引率などの見直しは行われない。)

 

こうしてみると、大家さんの財政状態について表現するときに、次の3つのタイプの経済実態が想定されているように思われる。(下表の「~タイプ」という名称は、僕が勝手に付けたもの。)

 

                 
 

公正価値タイプ

 
 

タイプB及び転貸不動産の一部

 
 

公正価値モデルの適用が適切な経済実態

 
 

原価タイプ

 
 

タイプBの一部

 
 

原価モデルの適用が適切な経済実態

 
 

リース資産タイプ

 
 

タイプAと、転貸不動産の一部

 
 

リース資産の計上が適切な経済実態がある

 

 

 

さて、公正価値とは、「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格」(IFRS13.9から抜粋)、平たく言えば「時価」だ。しかし、時価をB/S価額にした方が適切な表現になるような経済実態、即ち、上表の公正価値タイプとは、一体どんなものだろうか。そもそも、そんなものは本当にあるのか? という疑問が浮かぶ。

 

それについては、まず、次の事実を上げておきたい。

 

・債権者として、銀行は、不動産会社が保有する投資不動産の時価を確認する。

・投資家は、地価が上がると上場不動産会社の株を買う(株価が上がる)。

 

確かに、不動産会社の投資不動産の時価は重要な財務情報だ。だが、これだけのことなら、原価モデルによる公正価値額の注記情報があれば十分だ。公正価値モデルによって、公正価値の変動を純損益に計上するような会計処理までは必要ないと思う。

 

しかし、債権者や投資家より重要な会計の利用者がいる。それはその会社自身、或いは、その会社の経営者だ。会社や経営者にとっては、どうなのだろうか。

 

もし、経営者が、投資不動産を公正価値評価した方が適切と考える場合があるとすれば、経営努力が、或いは、経営戦略が、投資不動産の時価に重大な影響を与えることを目指している場合だろうと思う。経営努力や経営戦略の成果を測定・評価をするのに、発生主義による不動産収益と原価モデルによる減価償却と減損では不十分で、不動産価値の上昇にも目を向ける必要があると考える場合だ。

 

だが、時価は、通常市場参加者の需給で決まるものであり、その変動は、会社の外部の出来事だ。それをその会社の経営努力だとか、経営戦略の成果だとかと、言い得るものなのだろうか。そんなことを目指している会社はあるのだろうか。

 

そこで僕は、大手不動産会社のホームページを何社か閲覧してみた。以下は、経営方針や中長期計画などから気になったところを抜き出したものだが、特に、オレンジ色にしたところに注目していただくと、投資不動産の価値を上げることが、経営的に強く意識されていると想像できる。(以下、五十音順。)

 

 (住友不動産)

基本使命

より良い社会資産を創造し、それを後世に残していく

 

 (三井不動産)

GROUP STATEMENT

都市に豊かさと潤いを

 

主要な取り組み(の一部)

街づくりの推進

「多機能、多彩なコンテンツの融合」、「コミュニティの創造」、「経年優化」の好循環による付加価値の高い街づくりを基本姿勢としつつ、・・・

 

 (三菱地所)

トップメッセージ(の末尾)()

・・・そして、当社グループの全ての行動のベースにはコーポレートブランド・スローガンに掲げる「人を、想う力。街を、想う力。」に込められた価値創造への決意と不断の自己革新があります。

 

中期戦略(の一部)

丸の内地区の価値最大化

 

 (森ビル)

トップメッセージ(のタイトルの一部)

都市を創り、都市を育む

 

歴史(の冒頭)

森ビルの歩みは、今の感覚から言えば比較的小さな、1棟のビル建設からはじまりました。

やがてビル単独の「点的開発」は、複数の街路や街区を合わせた「面的開発」へ、そして「都市づくり」へと進みます。・・・

 

特徴的なのは、三井不動産や森ビルの「街」とか「都市」とか、自社の不動産物件に限らない、周辺地域を含めた“価値”にフォーカスしていることだ。住友不動産はそれを「社会的資産」と表現しているし、三菱地所は「丸の内地区の価値最大化」と、より直接的に公正価値をイメージさせるような表現をしている。これらの会社の経営成績を測る際に、不動産の公正価値の変動は必要ないだろうか。償却・減損後の簿価が付されたB/Sで、これらの会社の財政状態を表現できるだろうか。

 

不動産単体として、工場用の土地・建物を貸しているとか、物流センターとして賃貸しているといった場合は、経営上、その不動産への投資を回収できるかどうか、或いは、投資をどれだけ上回ってキャッシュ・フローを生み出せるかに着目すればよい。このような事業モデルでは、原価モデルの減価償却と減損会計で、投資回収管理をすれば良い。森ビルの言葉にある「点的開発」であれば、原価モデルが、経済実態を表現するのに適切だと思う。

 

しかし、上記の各社は、少なくともホームページを見る限り、その範囲を超えた目標を掲げて開発・運営している不動産があるようだ。即ち、公正価値モデルが、経済実態を表現するのに適切となるような事業モデルがあると、僕は思う。

 

以上が僕の考えだが、みなさんはいかが感じられただろうか。

 

最後に、上表にはもう一つ、「リース資産タイプ」という経済実態がある。これはどういうものかというと、そのリースの実態が、金融取引、或いは、資金調達の手段の提供であると見なされたケースだ。タイプAに分類された不動産リース(貸主側)と、転貸不動産(又貸しの貸主が計上する使用権資産)の一部が該当する。

 

 

さて、長くなって恐縮だが、実はもう一つ問題がある。それは、「不動産以外でタイプBに分類されたリースがもしあれば、その貸主はB/S上の処理をどうすれば良いか」という問題だ。9/13の記事でみたように、可能性は「ささい(些細)」だと思うが、全く否定することはできない。

 

公開草案には、上述した93項、96項の記述しかないので、その場合は、従来のオペレーティング・リースの処理と同様の、その原資産の種類に対応した会計処理を継続することになる。ちょっと肩すかしにあったような感じもするが、IASBも、不動産以外のタイプBにあまり重要性を感じていないのかもしれない。

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