301.【CF DP】IASBの提案の概要(1/3)
2013/10/24
前回(10/21の記事)記載した僕の混乱は収まらないが、「そんなことよりこのディスカッション・ペーパーに何が書いてあるのか、簡単に知りたい」という方々のために、とりあえず、そうすることにした。「ファー」なんて叫ぶような(僕の)ヘボな話より、まずは普通にコースの様子を知りたい、というのは尤も話だ。
ということで、まずは全体像として、このディスカッション・ペーパーの冒頭にある「要約とコメント募集」に記載されている、目次の大見出しと、IASBによる「重大な変更の提案(=予備的見解)」をご紹介したい。但し、これらは“主な”提案であって、IASBのすべての提案を含むものではない。例えば、「現状を変更しない」という提案は、ピックアップされていない。
セクション1――はじめに
(予備的見解)
(a) 改訂「概念フレームワーク」の主たる目的は、IASB がIFRS の開発及び改訂を行う際に一貫して使用することとなる概念を識別することにより、IASB を支援することである。
(b) 「概念フレームワーク」は、IASB 以外の関係者が次のことを行うのにも役立つ可能性がある。
(i) 現行のIFRS の理解と解釈
(ii) 特定の取引又は事象に具体的に当てはまる基準又は解釈指針がない場合の会計方針の策定
(c) 「概念フレームワーク」」は基準でも解釈指針でもなく、具体的な基準又は解釈指針に優先するものではない。
(d) 稀な場合において、財務報告の全体的な目的を果たすために、IASB は「概念フレームワーク」のいくつかの側面と矛盾する新基準又は改訂基準の公表を決定する可能性がある。こうした場合には、IASB は「概念フレームワーク」の当該側面からの離脱及びその理由を、当該基準に関する結論の根拠において記述することになる。
上記については、既に10/7の記事に記載した。
セクション2――財務諸表の構成要素
このセクションからは、2つの予備的見解が紹介されている。
(資産と負債の定義に関する予備的見解)
・・・IASB の予備的見解では、次のことをもっと明示的に確認するように定義を修正すべきだとしている。
(a) 資産又は負債は、基礎となる資源又は義務であり、経済的便益の最終的な流入又は流出ではない。
(b) 資産(又は負債)は、経済的便益の流入(又は流出)を生み出す能力がなければならない。当該流入(又は流出)は確実である必要はない。
IASB は次のような定義を提案している。
(a) 資産とは、企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源である。
(b) 負債とは、企業が過去の事象の結果として経済的資源を移転する現在の義務である。
(c) 経済的資源とは、経済的便益を生み出すことのできる権利又は他の価値の源泉である。
(不確実性の扱いに関する予備的見解)
IASB の予備的見解は次のとおりである。
(a) 資産及び負債の定義は、流入又は流出が「予想される」という考え方を維持すべきではない。資産は、経済的便益を生み出す能力がなければならない。負債は、経済的資源の移転を生じる能力がなければならない。
(b) 「概念フレームワーク」は、資産又は負債が存在するかどうかが不確実である稀な場合について蓋然性の閾値を設定すべきではない。特定の種類の資産又は負債が存在するのかどうかに関して重大な不確実性がある可能性がある場合にはIASB はその種類の資産又は負債に関する基準を開発又は改訂する際に、当該不確実性の処理方法を決定することになる。
(c) 認識規準は、現行の蓋然性への言及を維持すべきではない。
このセクションの予備的見解は既に記載したように(10/10の記事)、いずれも定義から「経済的便益(或いは、経済的便益を有する資源)が企業に流入(或いは、流出)すると期待される」という部分を除くことに関しての提案だ。
前者は、定義が「資産は資源」、「負債は義務」を表すことをシンプルに表現し、経済的便益(≒将来キャッシュ・フロー)の発生への予想や期待ではないことを明確にしたいという意図がある。後者は、さらに進めて、経済的便益の発生可能性(≒蓋然性、不確実性)への言及を概念フレームワークから除去し、必要な場合は個別のIFRSで規定することを提案している。
このようにして、IASBは「(蓋然性に関係なく)すべての資産と負債を会計上認識すべき」と整理したいようだ。この点でIASBが意識している具体的項目は、このセクション2 の中味を見ると次のようなものらしい。
・オプション取引(権利は資産、義務は負債という観点で見直したいらしい)
・先渡購入契約(同上)
・研究開発費(「将来の収益ではなく、ノウハウが資源だ」としている。資産計上したいらしい)
・抽選券(発行者と、券の保有者にとっての蓋然性の違いを問題提起している)
・訴訟(過去に起因するのに、まだ結果が確定しない権利・義務)
これらは例示であるし、かなり広範囲にわたっていると思うが、なぜ、概念フレームワークから不確実性、蓋然性を削除し、個別基準へ閉じ込めるのだろうか?
また、研究開発費の資産観については、どうも合点がいかないし、これは他の事象にも応用され、一部は悪用され、実務が混乱しそうな気がする。例えば、仕損品にだって、それを再発させないためのノウハウは残る(研究開発プロセスでは9割以上が仕損品だ)。仕損品も(ノウハウとして)資産計上するのか? みなさんも、僕が「ファー」と叫びたくなるのをお分かりいただけるのではないか。
セクション3――資産及び負債の定義を補助するための追加的なガイダンス
セクション3 では、次のことを提案している。
(a) 資産の定義を補助するため、以下についてのガイダンスを示すべきである。
(i) 「経済的資源」の意味
(ii) 「支配」の意味
(b) 負債の定義を補助するため、以下についてのガイダンスを示すべきである。
(i) 「経済的資源の移転」の意味
(ii) 推定的義務
(iii) 「現在の」義務の意味
(c) 両方の定義を補助するため、以下についてのガイダンスを示すべきである。
(i) 契約上の権利及び契約上の義務の実質の報告
(ii) 未履行契約
従来明確な解説がなかったり、個別基準で定義されていた基本的用語の解説を、概念フレームワークに加えることを提案している。
セクション4――認識及び認識の中止
セクション4 では、次のことを論じている。
(a) 認識:どのような場合に、企業の財政状態計算書は、経済的資源を資産として、又は義務を負債として報告すべきなのか
(b) 認識の中止:どのような場合に、企業は資産又は負債を財政状態計算書から除去すべきなのか
認識に関するIASB の予備的見解は、企業はすべての資産及び負債を認識すべきだというものである。ただし、IASB が、特定の基準を開発又は改訂する際に、次の理由により、企業は資産又は負債を認識する必要がない、又は認識すべきではないと決定する場合は除く。
「次の理由」とは、簡単にいえば次の場合だ。
(a) 重要でない場合
(b) 測定可能でない場合
現在、“重要性”は概念フレームワークに規定されており、IASBはそれを修正するつもりはないようだ。しかし、上記の記載の仕方は、それを実質的に無効にし、“重要性”についても個別のIFRSにIASBが指定したときのみ考慮できると解される可能性があるように思う。
測定可能性については、測定できないときは測定できないのだから、IASBが個別のIFRSで指定したとき、という形で、項目を限定するのは良くないのではないかと思う。
これらは実質的に“重要性”や“測定可能性”に関する現場の判断が許容されなくなるような怖さがある。しかし、IASBは、これらが乱用気味であることを懸念しているのだろう。それも分かる気はするが、一方で、これらに実務を成り立たせる重要な役割があることも否定できないと思う。やはり「ファー」と叫ぶべきポイントではないかと思う。
普通のコースのことを書くと言いながら、ついつい、ファー・ポイントまでも記載してしまった。しかし、ファー・ポイントについては後日もう少し詳しく検討するつもりなので、その頭出しということでご了解願いたい。
ちなみに、ディスカッション・ペーパーは、公開草案の前にIASBが色々可能性を探るために公表する討議資料であるため、プロ・ゴルファーの練習ラウンドのようなもの。一般のゴルファーなら、練習場のショットのようなものだ。うまくなければ(=もらったコメントの反応が良くなければ)直してから、公開草案を出す。さらにそれに修正を加えて、規準の確定へと作業が進んでいく。したがって、ディスカッション・ペーパーの内容に一喜一憂するのは、我ながら、ちょっと可笑しいのだが、まあ、練習場でも真剣さは必要であろうかと思う。みなさんはご不審に思われるかもしれないが、ご勘弁願いたい。
以下、次のような目次が続くが、これらについては次回以降にご紹介させていただきたい。ラフやバンカーが危ない場所もあるかもしれないが、いまののところ、これ以上喉を嗄らす内容は認識していない。
セクション5――持分の定義及び負債要素と持分要素の区別
セクション6――測定
セクション7――表示及び開示
セクション8――包括利益計算書における表示
セクション9――その他の論点
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