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2013年11月 7日 (木曜日)

306.CF DP-10)会計上の不確実性~IASBの考え「セクション4-認識及び認識の中止」

2013/11/7

野球の日本シリーズに沸いている間に、ブンデスリーガ(ドイツのサッカー・一部リーグ)でも凄いゴールがあった。一つは、日本の酒井宏樹選手が2シーズン目にしてあげた初ゴールだ。これはペナルティ・エリアの外からゴール・キーパーの頭上を突き刺した豪快なシュートで、あまりの強烈さに場内アナウンスが福島原発に喩えたほどだった(そのアナウンサーはあとで不適切な表現として謝罪した)。ブンデスリーガ公式ホームページで、ベスト・ゴール候補に挙げられているという。

 

もう一つは、ゴールのサイド・ネットに小さな穴が開いていて、そこから入り込んだボールを主審がゴールと認めてしまったゴールだ。試合終了後にビデオを確認した主審が誤審を認めて謝罪したが、まさかネットに穴があってシュートが当たり、しかも突き抜けるとは。主審はいろんなことに注意を払うので、ボールばかりを見ていられない。ゴールの中にボールがあれば、ゴールと思うだろう。(しかし、より同情したいのはゴール・キーパーだ。このシュートは防ぎようがない。)

 

両方とも凄いゴールではあるが、サッカーを楽しむという意味では、やはり酒井選手のゴールが凄い。それどころか、もう一つの方は楽しむどころではない。その誤審が試合の勝敗を決めてしまった。このゴールをあげたチームが1点差で勝ってしまったのだ。負けたチームやそのサポーターは悔やみきれないし、主審も苦しんだに違いない。

 

凄いといえば、IASBが不確実性、或いは、蓋然性を概念フレームワークから外そうとするのも大胆だ。IASBはこれをディスカッション・ペーパーに書き込むことで、強烈なシュートを放ってきた。果たしてこのシュートは止められるのだろうか。

 

 

前回(11/5の記事)同様、IASBの立場から、セクション4「認識及び認識の中止」に記載されている不確実性(或いは蓋然性)の取扱いについて紹介したい。IASBがセクション2において、資産や負債の「定義」から不確実性や蓋然性に言及した部分を削除することを提案し、認識規準からも同様に外し、不確実性や蓋然性は個別基準のみで必要に応じて扱いたいと提案していることは、すでに紹介した。

 

実はこのセクション4には、「蓋然性」という見出しはあるが、この不確実性の問題について改めて論じられてはいない。「既にセクション2で説明した」とされているだけだ(4.8)。しかし、「目的適合性及びコストの制約」という見出しのところで、関連する議論が行われている(4.94.11)。

 

その議論は、現行のIFRSが買入のれんを資産計上する一方で、自己創設のれんの資産計上を禁じているのは、自己創設のれんの見積りに不確実性が高いためではなく、自己創設のれんを資産計上しても、目的適合性のある情報にならないとIASBが判断したためである、という主張になっている。即ち、不確実性や蓋然性を持ち出さなくても、IASBが目的適合性という基本的な質的特性を考慮して個別規準を開発すれば、概念フレームワークの認識規準にこれらへの言及を含める必要はないとの考えだ。今回は、これを少々詳しく紹介したい。

 

この辺でちょっと、テクニカル・タームの整理をしよう。もしかしたら、「何を言ってるのか分からん」と、この記事を閉じようとしている方もいらっしゃるかもしれない。ちょっと我慢して次をお読みいただきたい。

 

                   
 

認識

 
 

(会計事象を識別し、内容を正しく理解し、)会計帳簿に記帳すること。

 
 

蓋然性

 
 

不確実性(の度合い)を逆から表現したもの。確実性の度合い。蓋然性を数値で表せば、確率になる。ASBJは、英語の「probability」をこのように訳している。

 
 

買入のれん

 
 

企業買収で発生したのれんのこと。対価を支払って購入したのれんなので、のれんの頭に“買入”をつけて表現する。

 

企業買収額-買収された企業の純資産額=買入のれん

 
 

自己創設のれん

 
 

のれんは英語で「goodwill」と表現されるが、要するに財務諸表に現われないその企業に対する(良い)評価。企業の信用。のれんのうち、上記の買入のれんを除いたものが、自己創設のれん。内部のれんなど他の呼び方もある。

 

企業の時価総額-会計上の純資産=自己創設のれん

 
 

目的適合性

 
 

IFRSには、日本の企業会計原則の一般原則(真実性の原則、正規の簿記の原則…)のような基本的な概念として、財務情報の“質的特性”というものがある。“質的特性”には、“基本的”と“補強的”の2種類があるが、このうち基本的な質的特性はたった2つしかなく、非常に重要(目的適合性と忠実な表現)。

 

目的適合性は、読者が情報を利用する目的との関連性、目的に対する有用性を指す。財務諸表の読者が意思決定を違えるような情報が、目的適合性があるとされる。

 

提供しても意思決定に影響を与えない情報や、提供するためのコストがメリットを上回るほどにメリットが少ない情報、即ち、重要性のない情報には目的適合性がない。このため、目的適合性には重要性の概念が含まれるとされている。

 

なお、コストをかけて提供しても信頼できる情報にならず、むしろディメリット(=誤解)を生むような情報(≒不確実性が高い情報)は、もう一方の基本的な質的特性である忠実な表現の問題になる。

 

 

さて、それではIASBの主張の紹介に戻ろう。

 

IASBはのれんの会計処理(=買入のれんと自己創設のれんの扱いの相違)を例にして、概念フレームワークの認識規準に蓋然性の要素を含めなくても問題ないと主張している。だが、そのためには、現行のIFRSにおいて自己創設のれんの資産計上が禁止されたのは、蓋然性の規準によってではなく、もっと別の理由(=目的適合性がないため)であることを示さなければならない。この主張のポイントは次の3点だ。

 

A.のれんは、買入のれんも自己創設のれんもIFRSの資産の定義に該当する。但し、自己創設のれんは企業価値評価(=株価算定)を目的とする情報である。

 

B.財務報告は、将来への期待や予測を含む企業価値評価ではない。企業価値評価は財務報告の目的には含まれない。即ち、企業評価のための情報は、財務報告としての目的適合性がない。

 

C.IASBは、資産の定義に該当する場合でも目的適合性がないものは、個別に資産計上しないと判断することができる。よって、自己創設のれんを資産計上しないと決定した。

 

ん~、完璧だ。これを覆すのは何人たりとも容易ではない。なぜなら・・・

 

自己創設のれんの算定は、企業価値評価として行われるが、財務報告では行われない。

 

過去に欧米企業は自己創設のれんを資産計上していた時期があるらしい。しかし、現在は禁止されている。信頼性のある見積りが不可能で、ほとんど粉飾決算のようになるからだ。しかし、企業買収の実務では、買収金額の目安として、買収相手企業の自己創設のれんを含む価値を計算する。これは理論というより現実だ。よって誰も否定できない。

 

企業価値評価のための情報は財務報告ではないことに、誰も反対できない。

 

財務報告は企業の過去の一時点の実績情報であり、その企業の将来への期待や予測も含む企業価値評価情報ではない。財務諸表だけでなく、決算短信などのIR情報、有価証券報告書でも、企業が将来情報に言及することは、非常に慎重でなければならないとされている。したがって、誰もこれに反対できない。

 

このように、誰も否定できない論拠を積上げて、自己創設のれんが資産計上されない理由を説明した。しかも、蓋然性に一切触れないで。(但し、「資産の定義に該当するものでも、IASBの判断で資産計上させない」という部分については、現在、それが可能であると権威付けされていないので、概念フレームワークに明記させてほしいと、IASBは提案している。)

 

一般的には、自己創設のれんの資産計上を否定する理由は、上記のような目的適合性ではなく、蓋然性の問題として論じられているのではないかと思う。実際、IASBも以前はそう説明していた(IAS38.49)。 このことは、このブログでも2012/12/6「のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(9)自己創設のれんの裏口入学」で取上げた。しかし、その記事にも書いたが、「自己創設のれんの見積りは不確実性が高く、信頼性がないから、(本来は資産でも)資産計上しない」という蓋然性による理由づけは、このケースに関してはどうも納得しにくい。それに比べれば、今回の目的適合性による主張は明快だ。

 

 

但し、それでも僕は納得できていない。

 

「資産の定義に該当するものでも、IASBは否定できる」のは、規準設定主体としてのあるべき能力だと思う。しかも、IASBはその都度ちゃんと理由まで説明してくれるに違いない。したがって、この提案を受入れるのには抵抗はない。

 

しかし、このような経緯で権威を与えられた場合、今後IASBは、不確実性、或いは、蓋然性によって資産計上を否定することはできにくくなるのではないだろうか。いや、そんな小さなことより、もっと重要な本質的な問題が隠れている。財務報告の利用者が本当に求めているのは、IASBが目的に非ずと否定した企業価値情報の方なのではないのか。

 

確かに企業は将来情報を含む企業価値情報を安易に提供することはできない。それが実績情報であるべき財務報告ならなおさらだ。しかし、財務報告の利用者は、財務諸表で不足している部分を各々(の頭の中で)補って企業価値をイメージし、意思決定しているはずだ。財務報告が目的適合性を持つためには、財務報告と、補う情報の境界をはっきりさせる必要がある。企業価値情報に対する財務報告の位置づけが明確になっている必要がある。その境界や位置づけが、概念フレームワークに明示されず、個別IFRSのなかに規程が埋没していたら、しかも、IASBの判断によってケースバイケースのように書き込まれていたら、分かり難いではないか。しかし、もしそれを明確にしようとするなら、概念フレームワークの中で、不確実性に触れないわけにはいくまい。

 

不確実性という一般的な問題で資産性が否定される、しかも、それが個別規準の中にIASBの判断として書き込まれるというのは、財務諸表の読者にとって、サイド・ネットの穴を突き抜けたゴールのようなものだろう。意思決定のあとに、個別規準を詳しく読み返したら(=ビデオを詳しく見返したら)、間違っていたなんてことになりかねない。

 

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