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2013年11月14日 (木曜日)

309.CF DP-12)会計上の不確実性~IASBの小さな捉え方

2013/11/15 赤文字部分(最後の方にある)を追加しました。

 

2013/11/14

IASBは、このディスカッション・ペーパーの色々な箇所で、財務報告の目的(正確には「一般目的財務報告の目的」だが端折る)に遡って問題を整理している。より上位の概念に立ち戻って問題を捉え直すのは、正しいアプローチだ。ただ、そうすればすべての人が同じ結論に到達するかというと、そうは限らない。残念ながら、今回は“不確実性”に関して、そういう例をお見せすることになると思う。

 

ではまず、現行の概念フレームワーク(第1章)が、財務報告の目的をどのように記載しているかを見てみよう。これについては、このディスカッション・ペーパーの中で簡素に要約されている(1.35)が、それを更に大雑把だが平易に要約して下記に記載する。

 

(財務報告の目的)

 

財務報告の利用者(=株主や投資家、一般取引先を含む債権者)が、出資や融資、その他の取引を行う際に有用な、報告企業についての財務情報を提供することである。

 

(財務情報)

 

企業の資源(=資産)、企業に対する請求権(=負債)、

これらの変動(=損益やキャッシュ・フロー及び持分変動)

 

(利用者の利用目的)

 

・将来の正味キャッシュ・インフローに関する企業の見通しを評価する

 

・企業の経営者及び統治機関が企業の資源を使用する責任をどのように効率的かつ効果的に果たしたのかを評価する

 

即ち、利用者の利用目的に有用な財務情報を提供することが、財務報告の目的と考えればよい。そして、僕はここまでは異論がない。

 

次に、IASBが“不確実性”に関連するセクション2(資産等の定義)、セクション4(認識規準)、セクション6(測定)のそれぞれに、財務報告の目的をどのように問題の整理に使用していたかを振返ってみよう。

 

 

セクション2の資産及び負債の定義から“不確実性”を削除する提案に関して

 

冒頭から申し訳ないが、実は、この点に関してIASBは財務報告の目的を利用していない。一応、資産等の定義がどのように会計基準に役立つかの説明としては引用しているが、現行の定義から“不確実性”に関連する文言を削除することに関しては、既に11/5 の記事に記載したとおり、現状の問題点を指摘し、どう改善するかという議論を行っているだけだ。

 

その議論のプロセスでは、“不確実性”を「存在の不確実性」と「結果の不確実性」に区分し、前者は滅多にないし、後者も前者よりは頻繁に出てくるが、個々の項目によって状況は異なるため、それに合わせて個別規準で扱う姿勢を示している。

 

確かに、常により上位の原則に立ち返って議論することは必要ないかもしれない。しかし、本来であれば、定義という基本事項を変更したことで、財務報告の目的に悪影響を与えないかを確認する議論は必要だろう。(僕はこの点に懸念を抱いている。)

 

セクション4の認識規準から“不確実性”を削除する提案に関して

 

IASBは、11/7の記事に記載したとおり、“不確実性”を概念フレームワークの認識規準の文言から削除し、必要な場合に個別規準に記載すれば足りると主張している。そのために、会計的には大テーマである「自己創設のれんを資産計上しない理由」を、“不確実性”ではなく、財務報告の目的を利用して説明している。(従来は、蓋然性、即ち、“不確実性”で説明していた。)

 

セクション6の測定規準においても“不確実性”を個別規準レベルで扱う提案に関して

 

ここでは、11/12の記事に記載したとおり、IASBは資産(及び負債)の測定について、単一ではなく複数の方法を適用することを正当化し、どの資産にどの測定方法を適用するかは、(財務報告の目的を考慮した)目的適合性によって決定するという考え方を示した。恐らく、この部分は概念フレームワークの中に取り込まれるのだろう。

 

そして、将来キャッシュ・フローの見積りやその割引に関して生じる“不確実性”を資産等の種類ごと(例えば金融資産、有形固定資産、棚卸資産・・・)に個別規準で扱う姿勢を明示し、具体的な事例では、発生確率、即ち“不確実性”を所与のものとして扱った。

 

 

最後に、上記のような“不確実性”の扱い方から、IASBが“不確実性”をどのように捉えているかを“想像”してみる。

 

“不確実性”は扱いにくい。

 

セクション2では蓋然性の基準について、すべての項目に共通で“ほぼ確実”、“可能性がある(=半分より高い”)とした場合、項目によってこれらを使い分けた場合などを検討し、いずれの案にも反対意見があって、取り纏めが困難な状況を提示していた。暗に、概念フレームワークに書き込めるような一般的な“不確実性”の基準は、開発困難と言っているようだった。

 

“不確実性”は計算技術上の問題として片隅に閉じ込めたい。

 

定義では、より上位の財務報告の目的との整合性という観点で検討せず、認識では「結果の不確実性」というほぼ計算技術上の問題の中に閉じ込め、測定でも個別項目ごとの将来キャッシュ・フローや割引率といった計算技法の中にまとめて見せた。さらには、発生確率を所与のものとして扱うことで、そもそも“不確実性”は会計規準の外で決まるものであると考えているかのような姿勢を見せた。(IASBのこの姿勢は金融減損の公開草案の中でも顕著だった。但し、金融減損の場合はバーゼル規制があるので、それとの重複を避けるためにそうしていると捉えていたのだが・・・。)

 

そしてその結果、何が起こるだろうか?

 

“不確実性”と格闘する企業経営と会計の乖離。

 

企業は経営目的に向かって邁進していく。その目的までの道筋は、一応イメージはあっても未確定で状況次第で常に変更されるし、廃棄されることもあるし、新たに開発されることもある。そして、その未確定なものが確定すると実績になっていく。このうち、企業の資源や義務に影響を与えるプロセスと将来の見通しを評価しようというのが、上述の財務報告の目的にある「利用者の利用目的」だろう。会計はその確定したものを、企業の資源、企業に対する請求権及びこれらの変動として記録し報告する。

 

しかし、具体的にどんな状況になったら「確定」というのか。「実績」というのか。未確定なものを確定させる企業のプロセスは“不確実性”との戦いだ。それなのに“不確実性”が、資産の定義や、認識規準として表現されなくてよいのだろうか。

 

即ち、経営者が負う経営責任は、一面から見れば“不確実性”との戦いであり、それを効率的かつ効果的に行ったかを利用者が評価できるようにするために、会計は“不確実性”を根本的な要素として扱うべきではないかと思う。単なる計算技術上の要素ではなく。

 

“不確実性”と重要性の判断はIASBが個別規準の中で行う。企業は行えない。

 

従来、資産計上するか否かについて企業が行っていた“不確実性”と重要性の判断は、IASBの提案が通ると行えなくなると思う。IASBの提案によれば、“不確実性”は定義からも認識規準からも削除され、資産は経済的便益を生み出す能力のみで定義される。その結果、IASBが個別規準で重要性の観点(=目的適合性)から「資産計上しない」と決めない限り、すべて資産計上される。恐らく、企業の会計実務、財務諸表の監査基準(及び監査実務)、内部統制の評価基準(及び評価実務、内部統制監査実務)にも、大きな影響があるに違いない。(なお、注記に関しては、企業の裁量を尊重している。10/29の記事をご覧いただきたい。)

 

例えば、無形資産の評価も、特に研究開発費も(もしかしたら仕損じ品も)、一端IASBが「ノウハウは資産だ」と決めれば、企業に選択の余地なくすべてその測定方法による金額評価を行い、資産計上しなければならない。重要性の判断を企業は行えない。棚卸差異の原因追究は、どこまで行えばよいだろうか。収益認識において「企業が財・サービスを移転し履行義務を充足したとき」とは、あの公開草案の規程で個々の取引をすべて解決できるだろうか。規準に書かれていない様々なケースを企業が“不確実性”や重要性の観点から、目的適合性のある財務情報となるよう判断するのではないか。IASBはこれら様々なところに「存在の不確実性」、「結果の不確実性」があるとは認識していない。認識しようにも、認識しきれないだろう。

 

財務諸表監査上も、量的な重要性と質的な重要性のうち、少なくとも質的な重要性はIASBの判断に拘束されるはずだ。しかし、監査人が個々の状況において重要性の判断を行えなくなったら、試査の範囲は限界的なところ(=労力の割に効果の上がらないところ)でも拡大せざるえない。

 

内部統制評価についても、試査の範囲に関して企業は重要性の判断を行えるのだろうか? 行えるとすれば、会計上の重要性と内部統制評価上の重要性が異なることになる。しかし、いずれの重要性も、投資家の判断に影響を与えるかどうかという考え方の根本は共通だ。一方はIASBが決め、もう一方は企業が決めるという考え方、制度はありえるのか。もし、IASBの決定に企業が従うとか、IASBの決定に企業の判断が強い影響を受けるのであれば、財務諸表監査以上に限界的なところの労力に影響を与えるだろう。

 

IASBは、“不確実性”の扱いを検討するのに、上位概念である財務報告の目的を、定義では考慮せず、認識や測定では都合よく利用した。その結果、“不確実性”は不当に小さく見せられているように思う。そして、その巻き添えで重要性の判断は企業から奪われそうだ。では、本当の姿とは? ということで、次回以降、会計で扱うべき“不確実性”の本当の姿を求めてさらに掘り下げていく。

 

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