310.【番外編】不確実性への対応
2013/11/16
今週も、多くのビック・ニュースがあった。例えばフィリピンの台風30号の被害は、日本の東日本大震災にも匹敵する酷いものになりそうだ。国内に目を移せば、選挙違反で注目を集めている徳洲会は、元々、過疎地医療も積極的に手掛ける住民の見方の良い団体だったらしい(11/14放送のNHKクローズアップ現代による)など。しかし、僕がここで取上げたいのは、先週末から今週末にかけての日経平均株価(以下「N225」と記載する)の上昇だ。
先週の終値が14,086円、そして今週の終値が15,162円。1000円以上も上昇した。ドル円も久しぶりに100円を超えて円安となった。もし、N225のインデックス・ファンドを100万円持っていたら、僅か一週間で8万円の儲けになっていた。これは大金である。昨年は11月から5月までに9千円ぐらいのものが6000円以上上昇したから、同じことが起これば、43万円にもなる。JR九州のななつ星にも手が届きそうだ。
「おいおい、先週末にアベノミクスに注文付けたばかりじゃないか(11/9の記事)」と思われた方も多いに違いない。「舌の根も乾かないうちに、能天気な」と・・・。そっ、その通りだ。
そこで、何故こんなに上がったのか、僕も不思議に思って新聞などを色々調べてみた。すでにご存じの方も多いと思うので、簡単に箇条書きをすると以下のようなことらしい。
・11/8(日本時間の深夜)公表の米国雇用統計がビック・サプライズ
農業以外の新規雇用者数が市場の予想を大幅に上回る改善。過去分の公表値も合わせて上方修正。米国連邦政府機関閉鎖の影響を受けず、米国景気回復の底堅さを示した。
最近は、良い景気指標が公表されると、米国の金融緩和が縮小される時期が早まると連想され、米国金利上昇、米国株下落となり、新興国から投資資金が流出して日本株(特にアセアンなどに対する輸出が多い企業)にも良い影響はなかったのだが・・・。しかし、ドル円は99円台に下落し、翌月曜日は日本株が上昇した。
・11/13(日本時間の深夜か翌日未明)にイエレン氏が突然の声明公表
ジャネット・イエレン氏は、既にオバマ大統領から来年2月からの次期FRB議長に指名されているが、この人事は、米国上院に承認権があるので、11/14に上院公聴会での証言が予定されていた。イエレン氏は、その証言の要旨を、突然、事前公表した。内容は、上記の雇用統計の改善を踏まえても、雇用改善はもっと必要で、金融緩和も必要な限り続けるというものだったので、金融緩和縮小の時期はまだ先になると受け止められた。
最近は、金融緩和縮小の時期が遠のくと、米国株高にはなるが、米国金利が低下して円高にもなるので、日本株に良い影響があるとは限らなかったのだが・・・。しかし、ドル円は100円台に下落し、日本株も高騰した。
・最近公表のEU諸国のインフレ率の異常な低下
半月か1ヶ月ほど前までは、ギリシャ国債が凄い値上りで、その保有者が世界で一番儲けた、みたいな記事が出ており、そろそろEU株が買い時という見方も出ていた。しかし、その後公表されたインフレ率が1%前後とかそれ未満といった非常に低い率でデフレ懸念が台頭し、加えて回復を始めたとされていた失業率も、過去に遡って訂正され、回復が確認できない状況に戻ってしまった。そこから「EUの日本化」などと言われるようになり、一気にEU経済及びその経済政策の評判が下った。(「日本化」の「日本」というのはアベノミクス以前の日本を指すらしい。)
この低インフレ率をきっかけに、EUと日本は少子高齢化の進行という共通性が強調され始めた(米国は積極的な移民政策もあり、それほどでもない)。一方で経済政策の面では、アベノミクス及び日本経済が、信用危機は脱したと言っても景気の底の見えないEUより、スピードは遅くとも回復を続ける米国に近い、と評価されたようだ。少なくとも日本は何かをやろうとしているように見えると。しかし、EUはいつまでも古臭いと。
最初の2つは、「景気が回復しているのに金融緩和は続く」という良い面だけが、将来シナリオに織り込まれる、いわゆる「リスク・オン」の状態になり、投資家がリスク資産を買いやすくなったという解釈が成立つ。3つ目は、EUとの比較で日本の評価が上がり、「リスク・オン」の投資資金が日本へ入りやすくなったということらしい。(即ち、日本の要因で日本の評価が上がったわけではない。)
以上を整理すると、次のようになる。
・米国の経済回復が続くと日本株にプラス。
・米国の金融緩和が続くと日本株にプラス。
・EU経済が回復しないと間接的に日本株にプラス。
(EU経済指標で日本株が直ちに動くということではない。)
加えて、次のような情報も見つけた。
・米国の景気は、毎年年末から春にかけて拡大し、夏場に鈍る傾向がある。
・イエレン新議長が金融緩和縮小を決めるのは3月以降という見方が多い。
・日銀が4月の消費税率アップの悪影響を緩和するために、新たな金融緩和へ踏込むという見方が多い。
(即ち、投資家が日銀にそう期待している限り、投資資金は日本株市場から出て行かない。)
う~む、すると、少なくとも2月までは株や投資信託を持っていてもよいのではないか? イエレン氏の方針によっては、桜の頃までいけるも。まあ、ななつ星は無理かもしれないが、偽装なしの本物の高級料理は何度かいただけるかもしれない。
さて、以上は、大変長くて申し訳ないが、前置きに過ぎない。これからが今回の本題となる。
最近、“不確実性”について書いているので、「将来の不確実さ」を良く考えるようになった。そんな時に、「将来は不確実なので、事業計画や予算を作っても仕方ない。だから作るのをやめる企業が増えている。」というようなことが書いてある記事を読んだ。恐らく、IRのためだけに作っている、という企業も含めてのことだろう。
企業、或いは経営者は、事業によってどのような社会を実現するかを経営目標に据える。そしてそこまでの道筋のイメージを従業員に伝達し共有する。それらの一部は事業計画や予算として具体化され、Plan-Do-Check-Actionされていく。一般にはそんなイメージで語られる企業経営だが、「将来の不確実さ」を考えると机上の空論ということになるのだろうか?
確かに、事業計画や予算は、「将来の不確実さ」以外の面でも弊害を起こすことがある。事業計画や予算として数字になると、数字が独り歩きする面は否めない。前提条件の変化を考慮せずに、ひたすら決められた数値目標のみが絶対的なものとして扱われてしまう。するとそのうち、中身が問われず、数値目標を達成したか否かだけしか注目されなくなる。それが不正の元になるし、気付くと、元の経営目標とかけ離れた方向を持つ、社会の害になるような組織になっているかもしれない。もしかしたら、徳洲会にもそういう面があったのかもしれない。
しかし、必達の数値目標というハードルを置くことで、創意工夫やイノベーションを引出したいという気持ちも分かる気がする。追い詰められて初めて生まれる発想や、プレッシャーがあったのでそこまでやれた、ということもあるだろう。
さらに、組織間のコミュニケーションのツールになる。事業計画や予算は、使い方次第で、組織同士がより大きな目標のために協力したり競争したりするきっかけにできる。組織の統廃合、新設のシュミレーションにも使える。
だが、何といっても重要なのは、前提条件と現実の相違を発見し、将来予測を修正し、その精度を上げていくツールとしての面ではないだろうか。将来が不確実であればあるほど、なにか比較するものが欲しくなる。比較するものがあれば、より精緻な分析が可能になる。新たな方向性が出しやすくなる。その評価もできる。
不確実といえば、株価の変動はその最たるものといえるだろう。みなさんのなかには、「買うと下がるし、売れば上がる」などという体験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれない。実は、僕にもそういう嫌な思い出がある。株価ボードの裏側で誰か意地悪してるんじゃないか?と思うほどだ。
そんな株価なので、もし、みなさんの前にいきなり「3ヶ月後の株価が上がるか下がるか」と問う人が現われたら、「そんなことは分かるわけない」と答える方が多いのではないだろうか。まるで、半か丁かのサイコロ賭博だ。
しかし、上記のような(いい加減ではあっても)将来の見通しを示され、それについて問われたらどうだろう。「ん~、中国のシャドウ・バンキング問題が考慮されてないね」とか、「フィリピンの復興需要が立ち上がるかもしれない」とか、「通貨下落が落ち着いて、アセアンの景気も回復するよ」とか、中国経済の見通しなど、それぞれの見方を加味して、「上がると思う」とか「下がると思う」などと答えられる方が増えるのではないだろうか。
僕のテキトーな見通しと、事業計画や予算を比較するのはおかしいが、しかし、そういうものがないと増々将来は混沌としてしまい、不確実性なものに思えてしまう。そうなれば、打つ手が遅れて変化に対応できにくくなる、というのはお分かりいただけただろうか。
ということで、不確実な将来を少しでも見えやすくするため、経営者が目標への道筋を示し、それに事業計画や予算で肉付けしていくことは、不確実性に対処するための重要な手段と僕は思う。それを止めてしまう企業が増えているというのは、それが本当なら由々しき事態だ。経営のサイコロ賭博化であり、経営者の怠慢にしか思えない。やはり、買わない方が良いか?
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