315.CF DP-16)会計上の不確実性~現在、過去、未来
2013/11/29
「現在、過去、未来」とくれば、我々の年代は、シンガー・ソング・ライター渡辺真知子さんの「迷い道」(1977年発売)を思い出す。この歌い出しが非常に印象的な名曲だ。当時は、ちょうど中学生になって英語を学び始めたころだったので、「現在完了と過去完了はなくていいのか?」などと突っ込みを入れていたのを思い出す。だが、いま改めて聴いてみると、過去の意地っ張りな自分を悔いて、思考が空回りする失恋の辛さがテーマであり、その彼との思い出から抜け出せない過去に捉われた女性の姿がイメージされる。即ち、過去ばかりで未来がない。(もちろん、現在完了や過去完了など問題外だ。)
この点は、会計を嫌いな人が会計に抱くイメージとかなりダブるのではないだろうか。会計は過去のことばかり問題にして、未来がない。しかし、大事なのは未来なのだと。これからどうするかが重要だと。こうしてみると、まるで会計は、失恋から立直れない後ろ向きの可哀想な人みたいだ。
こんなふうに書くと、「なんだ、それじゃ、かぐや姫の物語の主題歌から会計上の資産の定義を連想するような会計バカのおまえは、失恋バカなのか?(11/23の記事)」 そんな声が聞こえてきそうだ。まあ、確かに僕にも覚えはある。そして恐らくIASBにも自覚はあって、そのイメージの払拭に力を入れていると思う。現行の概念フレームワークの第1章では、一般目的財務報告書が提供すべき情報として次の2点を挙げている。
企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報(OB3)
企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報(OB4)
前向きだ。目線は将来へ向いている。1点目は、前向きであることに誰も文句が付けられまい。2点目は過去を見ているようだが、1点目の予測のために必要不可欠な情報だ。財務報告の利用者が、企業の将来を見るために、最低限これらの情報が必要なのだ。
しかし、実際はどうか。現状の会計、或いは、IFRSは、本当にこれらを表現できているだろうか。会計嫌いの人からは、「相変わらず過去をいじくり回しているだけで、見たいものが見えないなあ」と思われてないだろうか。僕は、このような情報の内容や情報の持つ方向性が利用者のニーズに合っているかどうかを扱う基本的な質的特性が、「目的適合性」だと思う。
IASBは、現行の概念フレームワークの第3章で、この「目的適合性」を次のように表現している。
目的適合性のある財務情報は、利用者が行う意思決定に相違を生じさせることができる。(QC6)
財務情報は、予測価値、確認価値又はそれらの両方を有する場合には、意思決定に相違を生じさせることができる。(QC7)
大雑把に言って、予測価値は上記1点目に貢献できることであり、確認価値は上記2点目に貢献できることなので(QC8~QC10)、僕の「目的適合性」のイメージは、IASBとそう違ってはいないと思う。
また、IASBは次のようにも言ってる。
しかし、一般目的財務報告書は、・・・情報のすべてを提供しているわけではなく、すべてを提供することはできない。それらの利用者は、他の情報源からの関連する情報を考慮する必要がある。例えば、・・・会社の見通しなどである。(OB6)
即ち、一般目的財務報告書は上記2点に関する情報を提供するのだが、それだけでは十分でなく、利用者は他からの情報(=非財務情報)とセットで財務情報を利用することが想定されている。しかし、IASBは、この他の情報と財務情報の関係をこれ以上詳しく説明していない。僕はここに問題があると感じている。
利用者はセットで利用するのだから、セットにした時の財務情報の位置づけをどうすべきかについて、深く考える必要があると思う。セットにした時に、より上記2点を分かりやすく表現するには、財務情報はどうあるべきかを追求すること、さらに、非財務情報の在り方にまで言及することもありかもしれない。それによって、「目的適合性」が改善される。
以前も記載した通り(1/8の記事)、IASBは、「経営者による説明(Management Commentary)についての実務ステートメント」を2010/12に公表し、非財務情報についても言及している(IFRSを構成しない任意の扱い)。しかし、セットで上記2点を目指すというより、財務情報を中心に据え、付随するものとして「経営者による説明」を位置づけいる。「経営者による説明」は補足情報ということのようだ。だが、それで利用者のニーズを満たせるのだろうか。両者をセットにして「目的適合性」を改善させることを、もっと積極的に考えるべきではないか?
ところで、問題は、以上の議論と会計上の不確実性がどう関わるかということだ。これも以前記載したように(1/10の記事など)、
将来情報 ≒ 非財務情報 ・・・主に「経営者による説明」はこちらに属する。
実績情報 ≒ 財務情報
というのが僕のイメージだが、将来情報は不確実性が高く、実績情報は不確実性が低い。そして、両者の境界を蓋然性の基準で分けるとすれば、会計上の不確実性とは、財務情報や会計の範囲を決める基礎となる重要な概念ということになる。一方、IASBは今回のディスカッション・ペーパーでこれを否定する提案をしている。そこで、将来情報と実績情報、非財務情報と財務情報を分けるものがなんであるかについて、改めて検討していきたい、という問題提起をすることが、今回の目的だ。会計上の不確実性をもっと深く理解することで、財務情報がもっと読みやすくなる、目的適合性を改善できる、即ち、「大事なのは未来だよ。これからどうするかが重要だ。」という人の満足度をもっと上げられることを期待している。
さて、冒頭の「迷い道」についての記載は、「現在、過去、未来」で歌い出すのに、結局過去のことしか歌ってないじゃないかと、僕が批判しているように誤解されそうなので、弁解して終わりたい。
この歌詞は、過去(=失恋)に溺れた女性の現在の姿を描写することで、この女性の未練、即ち、未来へ寄せる微かな復縁の望みが、いかに切ないか、そして儚いかを表現していると思う。この歌い出しは、聴き手にそう思わせる呼び水のような役割があって、見事に計算された配置だと思う。過去・現在の姿を記述しながら未来も想像させる。それはまるで、蓋然性の基準が財務情報の目的適合性を改善させるかのようだ。
なお、「迷い道」に関心を持たれた方は、下記をご覧になると3番までフルコーラスを聴くことができる(3分ほど、歌詞も表示される)。自動的に演奏が始まるので、周囲の迷惑にならないようご注意いただきたい。(最初の数秒間PRビデオが入るが、僕の収入になるわけではないので、ご容赦願いたい。)
http://www.youtube.com/watch?v=p7K-2NYYj6c
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