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2013年12月

2013年12月31日 (火曜日)

323.DP-CF22)会計上の不確実性~ある件の②-1のケース

2013/12/31

今日は大みそか。したがって、新年にご覧になるみなさんには申し訳ないが、僕はまだ年末の気分で書いていることになる。ただ、僕はどちらかというと、いつも正月気分なので(少なくとも本人はそのつもりなので)、それほど文章に違いはないと思う。ということで、ご容赦願いたい。

 

さて、会計上の不確実性を(資産の)定義や認識規準から除外するというIASBの提案が妥当かどうかを検討するために、“ある件”を材料として提示した(12/17の記事)。ということで、それではさっさと②-1のケースの不確実性をおさらいしよう(ちょっと急いでる感じが年末気分か?)。 会社がある会計期間末に計上した多額のノウハウ等の売上には次の問題があった。

 

相手先がこのノウハウをビジネスにつなげるには、この会社のさらなるサポートが必要であり、その義務を果たすことが、この取引の前提になっているのではないかという疑念がある(契約書にはそのような記述はないが、取引の内容・経緯等に関する担当部署へのヒアリングで得た感触から、このような疑念を持った)。即ち、この取引は、ノウハウを記述したものを受渡せば終わりという単なる物品取引ではない。まだ会社の仕事は終わっていない。したがって、まだ売掛金は発生していない(=売上計上は早過ぎる)のではないか、という疑念があった。(以上、12/17の記事の①-1より)

 

このような状況が起こる理由には、次の2つが考えらえると思う。

 

1.会社の売上に関する会計規準の解釈が誤っている。

 

2.この取引の会計規準への当てはめを誤った。

 

この会社は、(通常の)製品を顧客ごとにカスタマイズする場合は、カスタマイズという作業が終了してから売上計上していた。その作業が不要な場合は通常の検収基準で売上計上していた。我々監査人は、そういう会社の売上基準に対する解釈を適切なものと評価していた。したがって、会社が会計規準の解釈を誤っている可能性はない。しかし、この“ある件”の取引については、会社は後者に該当すると判断して会計処理を行ったのに対し、監査人は前者に該当する可能性が高いと判断した。そして、このシリーズの前回(12/26の記事)の最後の方に記載したように、「その後のサポート不足が原因で売掛金が入金しなかった」旨の証言をした人が社内にもいた。ということは、やはり、この“ある件”は2の方へ該当するのだろう。

 

確かに2については良く経験するし、判断に迷うケースも多い。特にIFRSは原則主義とされているので(最近は結構細かいが)、IFRSを適用すると規準の行間を読むようなことも増えると言われている。すると、今回の記事は、「規準の意味は分かるんだけど、実際に当てはめるのは難しいねぇ~」という問題へ、どう対応していくか、IASBの提案がそういう問題を改善できるかどうかがポイントになる。

 

そこで、IASBの提案にあるシンプルな資産の定義に、“ある件”を当てはめてみよう。

 

現行の資産の定義を簡単に書くと「キャッシュを生む能力+キャッシュを回収できる可能性」の2つの要素からできているが、IASBの提案を受入れれば、「キャッシュを回収できる可能性」の部分が不確実性への言及になるので削除されて、「キャッシュを生む能力」だけになる。とてもシンプルだ。だが、恐ろしいことに、当てはめると、次の通り会計処理の解釈が変わる。

 

契約書や物品受領証がある状況は「キャッシュを生む能力」があると判断できる状況だと思う。即ち、売掛金が計上できる。会社の処理が正しい(貸倒引当金は不足しているが)。

 

なぜなら、契約書があって、異常でも回収条件が記載されており、物品受領証もあるから、キャッシュを生む能力について法的な裏付けとなる権利がある。そして、取引先が小規模で多額のキャッシュを支払える財政状況でなく、キャッシュが回収できるかどうかは取引先の新規ビジネスの成否によるなどという、その先の不確実性まで考えなくてもよい。(なお、契約書等に実態がないケースについては、このシリーズの前回(12/26の記事)、架空取引のケースで検討している。)

 

変わるだけでなく、実に解釈が易しい。「回収できる可能性」などという面倒なことを考慮外にできるのだから、当たり前と言えば当たり前だ(といっても、実際には貸倒引当金を設定する際に考慮するのだが)。だとすれば、IASBの提案は、当てはめの難しさを改善することになる。しかし、これで経済実態を忠実に表現したと言えるのか?

 

というのは、契約書に記載はなくても、この件の取引先は、その後のサポートがあることを契約の前提にしている可能性があったからだ。例えば、IFRSの収益認識に関する新しい公開草案では、収益実現の要件である充足すべき“履行義務”には、口頭による約束も含まれる(2011年公開草案の14(b))。これは、日本でも同様だ。

 

定型的な取引では、契約書に記載がない事項でも慣行から判断できるし、社内ルールも整備されている。しかし、この件のように非定型的な取引については、口頭の約束まですべて把握することがなかなか難しい。また、把握できても、このような事後的なサポートのなかには、その後の販売活動との区分が難しいケースもある。例えば、それほど手間のかからないサポートで足りると予想されるときは、「何かのついでにできますよ」なんて気軽な約束をして、しかし、実はそれが質的に重要だったりすることもありえないとはいえない。

 

ん~、といっても、頻発するものでもない。この件ではたまたま見逃され、しかも、結果としてもキャッシュの回収ができなかったが、通常なら“非定型的な取引用の内部統制手続”が発動されることになる。この件のようなことが起きてしまう可能性は、ゼロではないが、低くなるようコントロールされるはずだ。ん~。

 

ということは、どういうこと?

IASBの提案のようにシンプルな方が運用しやすいということか?

 

何やら嫌な感じがしてきた。僕はIASBのこの提案に疑問を呈しようとしているのだが、前回に引き続き、またしてもIASBの提案でいいじゃないか、という結論になりそうだ。いや、誤解のないよう念のために記載すると、この件に関しては売上の要件を満たしていなかった可能性が高いと思うので、我々監査人の判断が間違ったとは言えない。しかし、一般的に考えると、このようなケースが、会計規準で考慮しなければならないほどたくさんあるわけではなさそうな気がしてきたのだ。但し、定型取引ばかりでなく非定型取引においても、口頭の約束まで把握できる内部統制がしっかり整備・運用されるという前提が必要ではあるが。(これは事後的な顧客とのトラブルを防ぐという意味でも有用な内部統制だ。)

 

いやいや、まさか、こんな形で今年を終えようとは。何か悪い夢でも見ているようだが、早く忘れて、初夢は楽しいものにしたい。今年よ、さようなら。早く去ってくれ。そして、みなさん、明けましておめでとうございます。強引だが、もう正月気分だ。

2013年12月29日 (日曜日)

322.【番外編】2014年に向けてWSJの記事から

2013/12/29

このブログは、土日や休暇中のアクセス数がとても少ない。そして、多くの企業はもう年末・年始の休暇に入っている。ということは、みなさんの多くは、この記事を2014年に読まれると思う。しかし、僕は年内にもう一本、会計上の不確実性についての記事を書くつもりだ。「新年早々調子が狂う」と思われた方には申し訳ない。そこで今回は、年末・年始らしい記事にしたい。WSJThe Wall Street Journal)の無料記事から、次のタイトルをご紹介したいと思う。

 

◆ボルカー・ルール、ひそかな債務削減策となるか

http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304299204579283492508040358.html?mod=djem_JapanWeekendDigest_t

 

◆【オピニオン】2014年は東アジアの緊張が高まる年に

http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304299204579283132169282624.html?mod=djem_Japandaily_t

 

もし、気が向かれた方は、お読みいただけるとありがたいが、「どうも翻訳ものは読みづらい」と思われる方は、下記に、僕流の要約を簡単に記載するので、参考にしていただければと思う。本当は、日本の2014年の経済について記載されている記事「日本の株高はまだ終わらない」も紹介したかったのだが、有料記事なので、本当に簡単な紹介だけ末尾に記載する。

 

 

<ボルガ―・ルール、ひそかな債務削減策となるか

 

これは、インフレ下の低金利は有効な政府債務削減策であり、ボルガ―・ルールにはその効果が期待できる、という内容だ。ボルガ―・ルールは金融規制を強化するルール。それがなぜインフレや低金利に関係するのか?と疑問を持たれたと思う。

 

ボルガ―・ルールでは、金融業界の過剰なリスクテイク抑制のために、金融取引に規制を掛けようとしているが、国債は最終段階でその規制の対象外となった。金融機関は従来通り国債を買うことができる。金利は国債の需給で決まる。したがって、ボルガ―・ルールでリスクの高い取引を禁じて、金融機関に国債を買わせれば、低金利を維持できるという話だ。低金利が維持できれば、国は利払いを節約でき、その分政府債務の増加を緩和できる。

 

しかし、低金利だけでは政府債務は減らない。むしろ利払い分だけ債務が増えることになる。ということは、上記はすべてインフレ下であることを前提にしている。但し、この論法では、インフレ率が金利を上回らない限り、政府債務が減ることはないはずだが、それは非常に例外的な現象だ。なぜなら、それでは実質金利がマイナスになってしまうからだ。それについては触れていない。その代りに、第二次大戦後の主要先進国における政府債務削減実績のインフレによる効果の分析を紹介している。それによれば、確かに、インフレの債務削減効果は大きいことになっている。なぜか?

 

その意味は、恐らく、累進課税構造のある税金はインフレで実質的な増税になるとか、インフレの方が消費税のような付加価値税の税収も増えるし、企業が利益を上げやすく課税所得が発生しやすいといった仕組みがあるので、政府債務は、インフレ率が金利を上回らなくても削減されてきたということだと思われる。

 

さて、この記事で感じたことは、次の点だ。

 

最近、FRB(米国の中央銀行)やECBEUの中央銀行)が、金融緩和の縮小や政策金利を決める際に、インフレ率が低いことを非常に気にしているが、その理由の一端が分かったような気がした。政府債務が多過ぎるという問題は、日本だけのものではなく、欧米でも重大な政治問題となっている。米国連邦政府の債務不履行危機や、欧州債務危機は記憶に新しい。巨額の政府債務を持つ政府にとっては、インフレではないと困るのだ。

 

かつて日銀は、呑気にデフレをしばらく放置していたが、欧米はデフレどころかインフレ率が1%を切ったぐらいから、非常に神経質な反応を見せている。脱デフレを目指したアベノミクスは、やはり重要だという思いを強くした。但し、インフレは貨幣価値の目減りを意味するので、預金者などには厳しい話だ。また、借入のある人にとっても、インフレによって収入が増える上記の税収のような仕組みがあれば良いが、普通はインフレになれば金利も上がるので、利払いばかり増えて酷な話となる。有権者としては、過度なインフレには注意をしなければならない。

 

2014年は東アジアの緊張が高まる年に>

 

この記事については、最後の手前の段落を引用する。

 

国際情勢のウォッチャーとしては、東アジア諸国は相互に脅し合いを続け、全面対立に少しずつ近づいているのではと結論付けざるを得ない。おそらく、これら諸国は、軍事衝突のリスクを深刻には受け止めていない。あるいは、国内で政治的な反発を招く恐れがあるため、一歩退いて平和的に物事を解決することはできないと思っているのかもしれない。非常に恐ろしいのは、東アジア諸国がひょっとすると面白半分に戦争を始めてしまうほど憎しみ合っているかもしれないことだ。

 

びっくりするような悲観的な内容だが、このように考えざるえない理由は、これより前の段落に記載されているので、詳しく知りたい方は申し訳ないが直接記事をご覧いただきたい。加えて印象深かったのは、最後の段落にある「米国が東アジア地域に長年提供してきた安全保障の毛布はすり切れたようだ。」という表現だ。このあとに「だから、新しい毛布を提供しなければならない」とは書いてない。

 

この記事を見て感じたのは、「米国からは想像以上に危なっかしく見えている」ということと、「米国は国益を超えて日本のために戦うことはないという当たり前の現実」の2つだ。

 

我々は、より当事者意識を高めて、危機に備えなければいけないようだ。色々な意味で好き嫌いの次元でなく、冷静に、想定外が無いようにやれる準備は進めて、その時が来たらタイミングを逃さないように。恐らく、この記事の記者が期待していたような短期的な関係改善は、今後も難しいだろう。そうしながら、チャンスを淡々と待つしかない。

 

むしろ、中国や韓国は、これからもずっと「日本嫌い」と思っていた方が良いかもしれない。もしかしたら、いまに始まったことではなく、明治以前の過去からずっとそうだったのかもしれない。西郷隆盛の征韓論や福沢諭吉の脱亜入欧も、既に同じような関係や意識が背景にあったのかもしれない。もちろん、日清戦争などの戦争の繰返しは絶対に避けたいが、一方でへりくだる必要もない。「あいつは嫌いだけど、こういう良いところもあるんだよね」というお互いの感情から、徐々に良いと思われるところを増やしていくしかない。相当時間がかかりそうだから、一喜一憂せず、個人のレベルでも戦略性をもって淡々と。中国や韓国と直接関係のない方も、今まで以上に日本という共同体を良くしていく努力が重要になると思う。

 

<日本の株高はまだ終わらない>

 

この記事は、アベノミクスを振返ったうえで、2014年も米国の金融緩和の縮小や日銀の追加緩和の可能性に触れ、日米金利差拡大の期待から円安傾向が今後も継続すると予想している。但し、懸念事項としては、最近の日本の経済指標(成長率、経常収支)から、実体経済の回復は進んでいないこと、さらに、2014年は消費増税の景気への影響や成長戦略への不安を挙げている。成長戦略については、労働部門や農業部門の規制改革への取組みが不透明と例示されている。

 

 

ということで、2014年の着目点は、インフレ率が上がり過ぎないこと(ちょっと気が早いか?)、東アジアの地政学リスク、成長戦略への取組み具合ということだが、基本的には景気は上向きのようだ。ということで、みなさんにも良い年になるようお祈りいたします。

2013年12月26日 (木曜日)

321.DP-CF21)会計上の不確実性~ある件の②-2のケース

2012/12/26

昨日はクリスマス。日本では宗教行事というより、そろそろ年末の挨拶を交わしだすころ、といった感じだろうか。季節の移り変わりを知らせる風物詩だ。しかし、このブログはマイ・ペース。みなさんは「もういいから、次のテーマへ移ってくれ」と思われているかもしれないが、いましばらくは、このままいきたい。新年明けてもこのままかもしれない。

 

さて、今回は、“ある件”に関する②-2の不確実性(12/17の記事)、「売掛金は架空取引によるもので、実在しないかもしれない」という疑念と会計規準の関係について考えたい。

 

12/17 の記事にも記載したが、このような不正会計を防ぐことは会計規準の守備範囲ではないのではないか、という疑問について考えたい。僕は、確かに会計規準のみで解決できるものではないが、会計規準の役割も見過ごせないと思っている。恐らく、みなさんも同じだと思う。ただ問題は、このことが“不確実性を(資産の)定義や認識規準から取り除く”という今回のIASBの提案に関係するかどうかだ。

 

 

1.不正会計と会計規準の関わり

 

みなさんもご存じのとおり、エンロンやワールドコムの不正事件は、米国会計基準のルールの裏をついたものであり、当時はUS-GAAPの細則主義が批判の対象の一つとなった。実態は売上でなくても、ルール通りに形式を整えれば売上として会計処理できる、当時のUS-GAAPでは、そういうことが可能だったとされている。それに対して、IFRSは経済実態重視の原則主義。IFRSならそうはならなかったということで、米国がIFRSへ目を向けるきっかけとなった。したがって、不正をやりやすい会計基準、やりにくい会計規準、そういう考え方はありそうだ。

 

2.IASBの提案と不正会計の関わり

 

では、今回のIASBの提案が、IFRSをより不正が行いにくい会計規準へ導くだろうか。現行の定義や認識規準は、不確実性の逆の“確実性”を数値的に表現した“蓋然性”の要件を含んでおり、IASBの提案はそれを除去しようとしている。厳密には数値基準ではないが、一定レベルの、即ち、数値基準的ともいえる蓋然性への要求は、上記で批判の対象となったような細則主義的な要素と言えるだろう。したがって、不確実性を定義や認識規準から除き、よりシンプルな定義や認識規準にすることは、より不正が行いにくい会計規準へ向かっていると考えることが可能だ。

 

3.“ある件”で考えてみると・・・

 

しかし、以上のような議論は、ある意味ちょっと高級な議論であり、あからさまな作り話、架空取引のような低俗なケースには当てはまらないことが多いと思う。“ある件”が不正かどうかは分からないが、仮に不正、即ち、架空取引だったとすれば、会計規準で防止するのは困難だろう。架空取引をする人は、経済実態がないのを承知で、実態があるかの如く偽装して売上計上するのだから。グレーを狙うのではなく、会計規準を犯そうとして犯すのだから。

 

“ある件”では、契約書や物品受領書があった。契約書の回収条件はおかしかったが、一応それを説明するストーリーもあった。しかし、その時点の会社の状況や、それ以前の我々の経験が、売掛金の回収可能性だけでなく、売掛金の存在自体までを疑わせた。だが、こんなことまで売掛金の要件として会計規準に書けるわけがない。会計規準だけで不正防止はできない。

 

さらに言えば、もし、この“ある件”が架空取引だったとして、定義や認識規準から不確実性を外せば防止しやすいかというと、そうでもない。むしろ、逆だ。「回収できない可能性が高いなら売掛金じゃない」と考えられる方が、即ち、蓋然性の基準がある方が、売掛金を否定しやすい。

 

ということで、シンプルな会計規準を開発することは不正の防止に役立つが、実務はそればかりではない。今回のIASBの提案は、この点で良い面もあるが、そうではない面もある。どちらの面がより重要かについては、難しいところだ。もちろん、このケースだけでは判断ができないので、他のケース(12/17の①や②-1)についても検討が必要だ。

 

 

ちなみに、入金分を売上計上することになった“ある件”は、その後、少額の売上が計上された。少額でも入金があったということは、まったくの架空取引ではなかったかもしれない。会社の公式見解は、「取引相手の新規ビジネスが目論み通りにはいかず、契約通りに支払ってくれない」だった(12/17の①の不確実性のケース)。しかし、「売上が取消されてしまったのでその後のサポートに力が入らず、結局、この取引相手のビジネスも萎んでしまった」と、非公式ながら説明してくれる人もいた(12/17の②-1の不確実性のケース)。蛇足ながら付け加えると、この件で、会社は債権取立ての法的手続を執ることはなかった。

 

これらのケースについては、また次回以降に検討する。

 

 

しかし、実は、我々監査人側のこの考え方には、いくつか問題がある。もしかしたらみなさんもお気付きかもしれないが、売掛金を取消すことで、この取引が不正かどうかが徹底的に追及されなかった。

 

・今なら、内部統制報告書制度や内部統制監査制度があって、不正があれば内部統制の評価に重要な影響がある。したがって、不正かどうかは徹底的な追及が必要だ。それらがないこの時点であっても、不正かどうかがウヤムヤにされたままというのは、内部統制の改善の機会を活かせなかったという意味で、会社にとっても好ましい状態とは言えないだろう。

 

・「回収できる可能性が高くないから、売掛金ではない」というなら、例えば貸倒引当金を90%も計上するような不良債権は、もはや売掛金ではないからB/Sから取り除く必要がある。しかし、実際にはいったん計上した売掛金は、法的に存在する限り、B/Sから除かれることはない。このように、同じ状況のものについて異なる判断が容認される規定は、不正に利用される可能性がある。この件の場合でいえば、「不正が行われたのに隠された」という新たな不正を容認したことになるのかもしれない。

 

売掛金をB/Sから除去するときの規定に合わせるなら、売掛金を計上するときに蓋然性の基準は不要だ。ここまで考えると、この②-2の不確実性において、IASBの提案に、より妥当性があると言うべきかもしれない。

2013年12月24日 (火曜日)

320.DP-CF20)会計上の不確実性~ある件の会社とのミーティング

2013/12/24

最も会計上の資産らしい資産“売掛金”。これで会計上の不確実性について考えてみようということで始まった“ある件”の話だが、いよいよ今回は、監査人と会社との事実上の最終ミーティングの場となる。この売掛金と会計上の不確実性の関係については、前々回(12/17の記事)に記載した。また、繰返しになるが、これは事実そのままではない、即ち、脚色している。

 

 

さて、このような問題(前々回の記事に記載)が発生すると、監査人は会社へ色々な角度から質問したり、資料を依頼したりするので、その過程で監査人の抱いた懸念の内容が会社へ伝わることになる。また、社長にミーティングの出席を依頼するには、要件を明確にしておく必要があるので、そこでも懸念の内容を予め説明している。そのせいか、ミーティングが始まると、まず口火を切ったのは社長だった。

 

通常は、監査人側から改めて懸念の内容や経緯を説明してから議論が始まる。それを遮るように社長が話し始めるのは、まあ、社長のキャラクターにもよるが、社長の切迫感の現われだ。かなり前のめりになっている。我々にも緊張が走る。

 

社長の主張は以下のとおり。

 

・売上には実態があり、新しいビジネスを生み出す革新的なものである。

・会社の業績を左右する取引であり、適切に会計処理したい。

・売上が適切なものと認められるには何が必要か。できる限り監査人に協力する。

 

正直言って、我々の一番の泣き所は、革新的なビジネス最前線の話を拠り所にされることだ。さらに、大所高所に立った、その会社の所属する業界を見下ろすような視点で長期展望や経営者の夢へ話がジャンプしてしまうと、気持ちよく話しているだけに遮りずらくなる。この時も、そうなる兆候があったので、取引先名などの具体的な固有名詞を、合いの手代わりに挿んで、話を現実に引戻した。

 

そして、この流れの中で、我々が時々口を挿んで社長に意識してもらえるよう仕向けたのは、次の点だ。

 

・売掛金回収にリスクがあり、そのリスクの大きさは取引先の新規事業の成否のリスクに等しい
 (前々回の記事の①の不確実性)

 

新規事業を成功に導くことの難しさは、社長自身が一番よく分かっている。それと同じリスクが、この売掛金の回収にもあることに意識を向けてもらう。しかも、その新規事業は取引先のもので、会社がコントロールできるものではない。

 

・出荷基準で売上計上できない取引の可能性
 (前々回の記事の②
-1の不確実性)

 

売掛金が回収できるという見込みは、取引先経営陣への信頼と、取引の対象となったノウハウ等への自信によるものだった。しかし、いくらノウハウ等が良いものでも、そして取引先が信頼できても、相手が利用方法を理解でき、かつ、利用できる形になっていなければ、機能しない。しかし、社内にあるノウハウ等は、普通はそういう形になっていない。すると相手の新規事業は成功しない。それでは困るから、サポートが必要となる可能性がある。即ち、売掛金回収を考えると、単に、契約書、物品受領書があれば良いといった物品取引では済まずに、その後のサポート・サービスまでを含む売上取引である可能性がある。

 

・業績に与えるインパクトの大きさ

 

仮に、あとから多額の貸倒引当金を計上せざるえなくなったらどうなるか。

 

結局上述のように、社長は「売上の正当性を検証して確かめてくれ」と締めくくったので、この流れの中では、我々の懸念が受け入れられるには至らなかった。

 

そこで、僕は、売上の正当性を証明するために、そのノウハウ等を出荷するまでのすべてのプロセスが明らかになるような社内記録を提出してほしいと言った。相手との、或いは社内での電子メール等のやり取りや訪問記録などを含めて。そこに、取引先が期待していること、具体的な要求事項、それに会社がどう対応したか、すべて対応できたかなどの片鱗が現われているはずだった。

 

僕は、実はこの段階でも、売上の実在性と売掛金の回収可能性は分けて考えていたので、もしこの取引が架空取引でなく、これらの資料から売上取引の実在性と会社がやるべきことをやったとの確認できるならば、売上を全額計上したうえで、売掛金の回収可能性、即ち、貸倒引当金をいくら計上するかに集中できる可能性があると思っていた。これは前々回の記事の①の不確実性に焦点を当てたアプローチだ。しかし、直前の監査人側のミーティング(12/19の記事)では、①の不確実性の問題ではないと、このアプローチは否定されていた。

 

そこで、パートナーAや主任は、続けて、この取引はまだ確実に実現したといえないのではないか、という疑念を改めて会社に伝えた。これは前回の記事の②-1の不確実性だ。さらに、この前にIT企業の循環取引による不正が話題になっていたので、そのことに話題を移して、この取引についても慎重に考えるよう強く勧めた。これは前回の記事の②-2の不確実性だ。

 

ここで、「どうやらこの売上を認める気はないらしい」と察知したIR担当の取締役から、「もし、そうであれば、どういう会計処理になりますか」という質問があった。パートナーAは、売掛金を回収できるまでは売上が実現したといえるかどうか分からないので、回収できた分について売上計上することになると回答した。そして、この取引をこのまま売上計上するか、それともいったん売上を取消して、今後入金した分を売上計上するかを社内で再検討するよう依頼した。それは、事実上、売上を取消して、その後入金した分だけ売上計上してください、という申入れだった。

 

 

さて以上を題材にして、このディスカッション・ペーパーの(資産の)定義や認識規準から不確実性の要素を外すというIASBの提案を考えたい。IASBの提案を前提としても、監査人のこの判断は同じだろうか? それとも変わるだろうか。

2013年12月19日 (木曜日)

319.DP-CF19)会計上の不確実性~ある件の監査人側のミーティング

2013/12/19

売上の実態があるのかないのか、会計処理はどのように修正されるべきか。現在であれば、内部統制報告書制度や内部統制監査制度があるし、このブログでも基準の検討段階で話題にした「監査における不正リスク対応基準」もある(2012/10/20の記事)。したがって、これから記載する経緯・顛末は、現在のみなさんの感覚とは少々違うかもしれないが、ご容赦願いたい。また、繰返しになるが、脚色についてもご了解願いたい。

 

それでは、前回(12/17の記事)の続きへ進もう。まず、監査人側の4人(主任、パートナーA、B、僕)のミーティングはどうだったか。

 

最初に主任が説明を行った。前回記載したような契約書の回収条件や取引内容が異常さ、それに対する会社の説明、業績に与えるインパクト、経営環境等々。次に、細かい点への質問がパートナーA、Bから寄せられる・・・と僕は予想していた。しかし、そうならなかった。なんと、この会社と最初からずっと付き合ってきたパートナーBが口火を切って、「これはおかしい。売上取消だ。」と言ったのだ。続いて、僕の上にサインしていたパートナーAもこれに同調した。

 

僕は、もし売上に実態があれば、売上をそのままにし、貸倒引当金を追加計上することも考えられるので、売上に実態があるかどうかについてもっと突っ込むべきという主張をしたが、退けられた。そして結論としては、次のような方針で会社とのミーティングに臨むことになった。

 

 ・とりあえず、売上は否定する。

 ・その後は、相手先からの入金に応じてその都度売上計上する(現金主義?)。

 

みなさんは、もしかしたら「随分ラフだな」と思われたかもしれない。しかし、パートナーBも会社のこと(製品とその特長、経営者の性格や会社の体質等)を良く知っていたし、前回の記事でみなさんも感じられたかもしれないが、この件は、取引自体も経営環境も不正の特徴を色々備えていた。前回の記事の①のケースに該当し貸倒引当金を追加計上する方が正しいという可能性があっても、②の売上を取消す修正をした方が、会社にとっても投資家や債権者といった利害関係者にとっても、財務状況を理解するうえで害が少ないと判断された。加えて、正確に事実関係を把握し、その上、回収不能見込み額を見積って貸倒引当金を計上していては、決算発表や四半期報告書の提出の遅れにつながる可能性があるなど、反って弊害があると考えられた。その代りに、経営者が、投資家や債権者から業績改善の厳しい要求を受け続けることになったとしても。

 

「それにしても、現金主義で売上計上することになったら、それはそれで会計基準違反ではないか?」と思われた方もいるかもしれない。そういう方は鋭い。そう、当たり前だが現金主義は発生主義ではない。しかも十分に重要性のある取引だ。もしこの取引に実態があって、「入金の都度売上計上」が現金主義なら、我々は会計基準違反の処理を会社に提案することになる。②の可能性が高いと考えているとはいえ、これも確かに問題だ。

 

ということで、この点については、会計上の不確実性の本質に絡む重要な問題として、あとからもう一度取上げることになる。次回は、これを受けた会社とのミーティングから。

 

2013年12月17日 (火曜日)

318.DP-CF18)会計上の不確実性~“ある件”の不確実性

2013/12/17

2週間ぶりにこのテーマに戻ってきた。ということは2週間この問題から頭が離れていたということだが、久しぶりに戻ってみて、ふっと頭に浮かんだのは、“売掛金”だった。売掛金こそが、最も会計上の資産らしい資産といえるのではないか。ならば、売掛金を例にこのテーマを考えてみよう。

 

資産の定義と認識規準から不確実性の要素を取除くべきだとIASBは主張していて、僕はそれは違うんじゃないかと思っている。では、これを売掛金で具体的に考えてみるとどうなるだろうか。即ち、なにが売掛金か、どういうものが売掛金かを考えるにあたり、不確実性が関わっているかどうか。関わっていないのか、或いは、その関わり方によって、IASBの主張を検証できる。

 

こう思った時に、ある件がふっと頭に浮かんだ。もうかなり前の話、まだ内部統制報告書制度が始まる前だが、循環取引による不正は既に大きな話題になっていた。そんな頃のことだ。僕が監査人としてサインをしていたある会社で、主任がおかしな売上取引を発見し、それが監査チーム内で、そして会社との間で議論になり、結局、会社が売上に関係する会計処理を修正したことがあった。今考えてみると、この件は“売掛金の不確実性”がテーマだったのかもしれない。

 

この“ある件”を、少々、ぼかして紹介する。また、簡潔にするために脚色もさせていただく。しかし、みなさんには、これから書くようなことが、実際に起こったとお考えいただけるとありがたい。

 

 

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主任がおかしいと気付いたのは、金額の大きな売上取引の契約書の回収条件が、通常と著しく異なるからだった(回収期間が長い)。そこで取引内容を見てみると、通常は顧客ごとの仕様に仕上げた製品を納品するのに対し、その取引に限っては、開発中でまだ製品の形になっていない状態のものが売上の対象となっていた。仕掛品というよりは、生産するためのノウハウとか、生産を効率化するツールといった方がイメージに合うかもしれない。非常に特殊な売上だ。

 

会社が言うには、この取引の相手先は、得意分野こそ違うが広くいえば同業であるため、このノウハウ状態のものをその相手先の得意分野へも活用できるという。そして、相手先はこれを活用することで、大きなビジネスができると見込んでいる。回収条件が特殊なのは、この相手先が小規模なので財務的な負担が大きく、ビジネスが具体的になるまで支払いを待ってあげるからだという。

 

なお、このノウハウ等は、この会社の過去における研究開発活動や他の顧客に対する業務から派生したものであり、原価は研究開発費として、或いは、他の顧客に対する製品の製造原価の一部として費用処理済み。したがって、売上額は、そのまま利益となる。業績へのインパクトがデカい。逆にいえば、この取引のための追加支出は殆どない(販売費用は除く)。即ち、宝くじに当たったような儲けものということになる。

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一応以上だが、ここで、不確実性との関係を整理しながら追加の説明も加えよう。さて、何が不確実か。

 

 回収が不確実

 

この相手先は、このノウハウの活用に成功した段階で、支払いの原資が確保できる。或いは、その成功が具体的に見込めなければ、この支払いのための金融機関の融資が受けられない企業規模、経営状況だ。即ち、この売掛金が回収できるかどうかは、その相手先のビジネスの成功如何にかかっているところが不確実だ。

 

この場合、会計処理としては売上及び売掛金をいったん満額計上するとともに、回収不能額を見積って貸倒引当金も計上することになる(会社は貸倒引当金の見積りを行っていないので、それが修正となる)。これは、資産に将来便益が流入するか否かに関するもの、即ち、全額貸倒引当金を計上する可能性も排除できないので、IASBのいうところの“結果の不確実性”に当たると思う。

 

 売掛金の存在が不確実

 

これには2つのケースが考えられる。しかし、いずれも会計処理としては、会社の計上した売上を取消すことになる。これらは、そもそも売掛金が存在しているかどうかに関することなので、IASBのいうところの“存在の不確実性”に当たるのではないか、と思う。(但し、IASBにとって、このようなケースは想定外、或いは、対象外かもしれない。)

 

-1) 相手先がこのノウハウをビジネスにつなげるには、この会社のさらなるサポートが必要であり、その義務を果たすことが、この取引の前提になっているのではないかという疑念がある(契約書にはそのような記述はないが、取引の内容・経緯等に関する担当部署へのヒアリングで得た感触から、このような疑念を持った)。即ち、この取引は、ノウハウを記述したものを受渡せば終わりという単なる物品取引ではない。まだ会社の仕事は終わっていない。したがって、まだ売掛金は発生していない(=売上計上は早過ぎる)のではないか、という疑念があった。

 

-2) そもそも、この取引は作り話ではないかという疑念もあった。早い話が、架空取引ではないかという疑いだ。ちょっと話が飛躍しているように感じられるかもしれないが、実は、次のような状況もあった。

 

・会社は、ちょうど投資家や債権者から、業績を改善するよう特別に強いプレッシャーを受けている時期だったし、この取引によって営業損失が営業利益になった。事業部門にもこういうプレッシャーは伝播する。即ち、不正を行いたくなるような典型的な外部環境があったし、この取引は正に業績を作っていた。

 

・我々は、次のような経験をしていた。会社は、ある期の期末に大きな売上取引を行った相手先から、翌期早々に大きな金額の設備を購入した。しかも、その設備があまり必要性の高くないもので、かつ、価格が高過ぎるのではないか、即ち、業績を良く見せるために、無理なバーター取引を行ったのではないかという疑念を持っていた(もちろん、会社は正当性を主張し証拠も提示したが、五月晴れのようにすっきりとはせず、むしろ梅雨時のジメッとしたいや~な印象が残っていた)。

 

これに対し、主任と僕の意見は割れた。

 

主任は取引の実態はなく架空売上の可能性が高いから、直ちに売上は否定されるべきと考えた。即ち、②-2か、良くても②-1のケースに当たると判断できると考えた。一方、僕はその可能性は考えられるが、結論を出す前に、取引の実態があるかないかをもっとよく確認すべきと主張した。即ち、まだ①の可能性を捨てきれないと考えた。いずれにしても修正は必要になるだろうが、この後の監査の進め方や、修正内容について意見が合わない。

 

とはいえ、時間は限られている。早速、次の4人で相談することにした・・・主任と、僕の名前の上にサインをしていたパートナーAと、既にサインはしていないがその会社と最初からずっと付き合ってきたもっと上位のパートナーBと、そして僕。同時に、その結果を受けた会社とのミーティングのアポ取りも行った。業績が大きく変わるので、社長にも出席してもらわなければならない。

 

 

さて、これらの議論はどのような結論へ向かっていっただろうか。貸倒引当金の追加計上か、それとも売上の取消か。もしみなさんが、内部監査人やIR責任者、或いは、監査人としてこのようなケースに当たったとしたら、どう判断されるだろうか。もしよかったら、考えてみていただきたい。

 

そして、もし余裕のある方がいらっしゃれば、会計規準はこのようなケースをどう扱うべきかについても考えていただきたい。例えば②-2のケースは、会計規準というより監査基準の範疇だから、対象外・守備範囲外だとか。では、①や②-1のケースはどうだろう? 

 

あとは次回に。

2013年12月16日 (月曜日)

317.再開します。

2013/12/16

前回(12/3の記事)の末尾に、中旬ぐらいまで中断させていただく旨記載したが、そろそろ再開させていただこうと思う。もし、中断期間中に寂しい思いをされた方がいらしたら、大変申し訳ない(けど、本当にそんな方がいたら嬉しい)。

 

ところでこの間、W杯予選リーグの組合わせが決まったり、Jリーグも終了したりと色々なニュースがあった。そのなかで僕にとって最も大きなニュースは、来年から本田圭佑選手がACミランへ移籍することだった。ACミランといえば、イタリアの超名門クラブだ。

 

ところで、ACミランの試合は、ACミラン・チャンネルBS12ch TwellV)で、セリエAだけでなくチャンピオンズ・リーグまで無料放送されている。これは見ものだ。来年から楽しみが一つ増える。・・・というのは、実は不確実な情報だ。なぜなら、リンクを貼ったHPを見ると、来年の放送予定がまだ掲示されていないのだ。もしかしたら、本田選手が移籍した途端に有料なんてことにならないだろうか。心配だ。(なお、今季のチャンピオンズ・リーグには、CSKAモスクワで出場したため、ACミランでは出場できないらしい。)

 

ACミランは今、財政問題から有力選手を大量に放出し、リーグ戦の成績は厳しい状況にある。その中で10番を背負うことになった本田選手には、名門再建の重圧がかかる。無料放送が有料放送になれば、その重圧を少し軽くしてあげられるかもしれないが、できればこれからも無料で見たい。

 

などと、勝手なことを書いたが、IFRSについても、引続き、時々?勝手なことを書かせていただきます。お見限りなきよう、よろしくお願いします。

2013年12月 3日 (火曜日)

316.DP-CF17)会計上の不確実性~目的適合性の深掘り

2013/12/3

かぐや姫の物語の主題歌によれば、過去のすべてが現在に繋がっており(11/23の記事)、1977年の名曲「迷い道」では、過去と現在の状況から将来を透かして見ていた(11/29の記事)。これらは、科学的に何の証明もないが、「人はそう感じるもの」とはいえそうだ。会計も、過去と現在を記述して、利用者に将来の見通しを示唆するものだが、但し、将来の何を見通したいのかによって、過去や現在の何をどのように記述するかが変わってくる。それを考えるのが、目的適合性だった。何を見通したいかについては、前回(11/29の記事)でも記載したように下記の2点(一般目的財務諸表の目的)と考えて良いと思う。

 

企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報OB3

 

企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報OB4

 

読んでわかるように、前者は「将来」だが、後者は「過去」のことを述べている。後者は、前者の見通しを評価するために必要な実績情報ということになる。即ち、後者は過去の経営者等の実績から経営者等への信頼性を評価したいのであり、それによって、前者の経営者等の述べる将来の見通しに対する信頼性も評価できるようになる、というロジックだ。

 

そうすると、次に以下の2つが問題になる。

 

1.経営者等が述べる将来の見通しは、どこに書いてあるのか。

 

2.経営者等の信頼性は、何をどう見れば評価できるのか。

 

目的適合性を考えるうえでは、この2つの問題は非常に重要だと思うが、不思議なことに現行の概念フレームワークにはこれらを掘り下げた記載がない。そのため、このあとは僕の想像になる。

 

 

<1は非財務情報として企業に開示が期待されている。しかし・・・>

 

繰返し記載してきたように、将来情報は、後発事象などの例外を除き非財務情報だ。したがって、1は財務諸表の中には組込めないはず。現在の日本の制度でいえば、決算短信で開示される業績予想やホームページなどに任意に公表される事業計画や企業の将来像のようなもの(経営理念など)が、これに当たるように思う。

 

しかし、この一番大事なことが、会計の世界で全く検討されていない。単に「将来の正味のキャッシュ・インフローの見通し」というだけだ。もし、これを決算短信で公表される業績予想というなら、投資家も経営者も短期志向の投資、経営活動に誘導されてしまう。しかし、もっと長期の会社の将来像と繋がっているなら、長期的観点の行動が行いやすくなる。こういう発想は、まさに統合報告(6/11の記事など)の目指すところだが、とても重要なことだと思う。本当に長くて1年先程度の業績予想がこの「経営者等の将来の見通し」で良いのか。

 

<2は主に財務情報を見ることになるが、でも、どう見ればよい?>

 

財務情報の利用者が企業の経済実態を理解するには、何かと比較しながら分析することになる。財務情報では、その比較対象としてその企業の過去実績や、他の企業の財務情報が想定されている。

 

しかし、ビジネスの世界であるならば、通常、有言実行の状況こそが相手の信頼性を測る最も重要な、直接的な尺度だ。銀行なら、債務者が契約通りに借入を返済することだし、仕入先を評価するなら、発注通りの品質と納期だ。ところが、2の経営者等の信頼性は、経営者等が掲げた目標に対する進捗状況や達成状況、即ち、有言実行の状況ではなく、過去実績の推移や他企業との比較しか想定されていない。これが現状の開示制度(IFRSでも、日本の開示制度でも)における財務情報だ。このままで良いのか?

 

もう一つ、「正味のキャッシュ・インフロー」の実績をどこで見ればよいかという問題もある。当期純利益か包括利益か、それとも持分か。しかし、当期純利益か包括利益かという問題は、このディスカッション・ペーパーでも結論は先送りされているし、持分に至っては、このディスカッション・ペーパーに例えば、現行の要求事項では、純資産の合計額として表示される金額にはあまり意味がない。」(6.12)とまで書かれている。何てことだ!

 

僕はもしかしたら、1がはっきりしないから、2も整理がつかないのではないかと思っている。

 

 

従来会計がこういうことを蔑にしてきたのは、「経済実態を表現する方法は、すべての企業で共通である」という前提があったからだと思う。即ち、あまり財務諸表利用者の視点(=目的適合性)を持たずに、適切な資産・負債は何か、収益・費用はどう計上すべきか(=忠実な表現)ばかり考えてきたことが問題だと思う。

 

しかし、実は利用者が「正味のキャッシュ・インフローの見通しを評価したい」と考えているとか、「経営者等の信頼性を評価したい」と考えているというところから出発すれば、財務情報を改善するための、もう少しいろいろ違ったアイディアが出てくる可能性があると思う。例えば・・・

 

・企業の見通しの開示

会計上の要請として、企業に長期的な「将来の正味キャッシュ・インフローの見通し」を示すよう促す。それは、何らかの形で財務諸表によって、有言実行の状況、即ち、目標に対する進捗状況が確認できる形のものにしなければならない。統合報告とうまく融合できると良いと思う。

 

・当期純利益と包括利益

企業が既にリスク管理の対象としているもの、即ち、経営で対応しているものと、一時的な外部環境の変化によるもので企業が対応しなくても問題がないと判断しているもの、或いは、まだ経営で対応できていないものを、企業の判断で区分してもらい、それを当期純利益と、その他の包括利益にする。この判断は企業間でばらついてもよいし、期間ごとに変化してもよい。そのばらつきや変化自体が経営者等の信頼性を判断する材料として有用なので、そこを分かりやすく開示する、という考え方を採用する。

 

・持分の開示方法

「正味のキャッシュ・インフロー」は、キャッシュ・インフローとアウトフローをネットしたものだが、インフローを生むものが資産、アウトフローを起こすものが負債と考えれば、正味のインフローは持分ということになる。しかし持分は、配当支払いや自社株買い、払込資本からの振替などの資本取引で増減するので、過去に事業活動から生み出した正味インフローを累積したものではない点が問題だ。そこで、過去の資本取引による累積的な増加減少項目も合わせて開示することで、事業による「正味のキャッシュ・インフロー」の実績を示すことが考えられる。

 

・公正価値、市場価格要素に関する注意喚起

公正価値を使ったり、市場価格要素を会計上の見積りに利用した項目については、それがある一時点の状況に過ぎず、主に企業の外部要因の変動に大きな影響を受けるものであることに注意が向けられるような開示が必要。

これらによる評価損益の一部は上述のように、企業によって当期純利益に含められず、その他の包括利益とされるケースが出てくる。決済損益は、決済によって経営上の対応がなされたことになるので、当期純利益に含められる(その他の包括梨利益に区分されていたものは、リサイクルされる)。

 

・使用価値に関する注意喚起

一方で、使用価値が会計上の見積りに利用されている項目については、見積り時点の状況を将来に引延ばしたものではあるものの、見込み違いなど主に企業の内部要因で実現できない可能性がある旨の注意喚起が必要。

これらによる損益は、当期純利益に含まれることが多いだろうと思う。しかし、一時的な市況の改善などによる減損戻入が発生し、近い将来また減損を繰返すことが予想されるものは、企業の判断によってその他の包括利益に区分されるかもしれない。

 

・自己創設のれん

自己創設のれんは、「将来の正味のキャッシュ・インフローの見通し」を財務諸表の利用者が評価して算定するものであり、企業自身が財務情報として作成すべき情報ではない。要するに、自己評価は信頼性のある実績数値にはならない。非財務情報を記載する場所で、企業の将来像として開示するなら、ありえるが、現在若しくは過去の情報として企業が開示することはありえない。

これはこのディスカッション・ペーパーに記載されたIASBの自己創設のれんをB/Sに計上しない理由(11/7の記事の後半に記載)とかなり似ているように見えるが、IASBより直球勝負の感じだと思う。

ここで重要な点は、自己創設のれんの範囲だ。例えば研究開発費を自己創設のれんと考えれば、研究開発費の資産計上は否定される。その他の無形資産も同様だ。では、どういうものが自己創設のれん、即ち、自己評価の対象になるのか。単に第三者の鑑定書があれば自己評価にならないのか。

この問題は、企業が評価すべきものと利用者が評価すべきものの境界を決めることなので、とても重要だ。企業が評価すべきとなれば資産計上される。一方、利用者が評価すべきとなれば費用処理され、どう開示すれば利用者の便宜に適うかを考えていくことになる。

 

 

上記と同様に、会計上の不確実性を利用者の観点から考えるとどうなるだろうか。

 

「経営者等による正味の将来キャッシュ・インフローに関する見通しを評価するために、実績を財務情報で確かめたい。」

 

これが利用者のニーズだとすれば、財務情報を「実績」と言えるかどうかが重要になる。不確実性が低ければ実績(=ほぼ確実なら実績)と言って差し支えないと思う。不確実性が高いものを実績と言ってはならないというのが一般的な理解だろう。したがって、実績を評価するという目的がある限り、会計上の不確実性は軽視できないはずだ。そして、その会計上の不確実性は、経営上の不確実性と密接な関係を持っている。経営上確実と思える時点で、実績になるのだから。

 

もし、他の項目と不確実性の程度が異なるもの、相対的に不確実性の高いものを「実績」に含めたのなら、どういう点が不確実なのか、そしてなぜそれを実績にしたのか、そしてその後も継続的に経過説明を要することになる。このような「正味のキャッシュ・インフロー」の実績に不確実性を与えるものとは、以下のものだ。

 

・キャッシュ・インフローを生むかが通常より不確実なのに資産計上したもの

 

・キャッシュ・アウトフローを避けられるか通常より不確実なのに負債計上しなかったもの

 

これは、資産側と負債側で逆の見方をしている。資産側では、キャッシュ・インフローを生む確からしさ(=蓋然性)に注目しているのに、負債側ではキャッシュ・アウトフローを避けられる確からしさに注目している。

 

IASBは、資産と負債をパラレルに考えすぎて、目的を見誤っている面がある。即ち、中立性を盾に、資産と負債の蓋然性の基準が共通でなければならないように考えているが、それは違う。目的は正味のキャッシュ・インフローにあるのだから、上記のように資産と負債は見方が逆にならなければならない。IASBは、現在のIAS37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の規定について、資産側と債務側で蓋然性の基準が違うから矛盾している(資産より負債が、蓋然性が低くても計上される例が示されている)と自己批判しているが(11/5の記事)、上記のとおり、そんなことはない、その規定は矛盾していないと僕は思う。

 

このような点から考えると、「他の項目と不確実性の程度が異なるもの」には、IASBが主に想定している訴訟絡みで発生する資産や負債や、推定的債務、他社の推定的義務から生じる権利の他に、シナジー効果に対する期待までも評価して資産計上する買入のれんや無形資産、もし資産計上するなら研究開発費なども含まれるのではないかと思う。こういうものには、経営者も、そして投資家や債権者も関心が高いはずだ。不確実性は、会計にとっても個別項目に限られない、実に重大な影響がある。

 

こういう利用者のニーズは、企業の決算発表などで対応されている。しかし、なぜ会計自体がもっとニーズに貢献できるように改善されないのだろう。この場合の目標とは、現在は決算発表で公表される事業計画や予算のことになるが、確かにこれらは将来情報なので財務情報にはならない。しかし、そういうことを超えて利用者の満足を目指していかなければ、無駄な作業(=多くの資料の作成など)を企業に強いるように思う。

 

 

ちょっと角度を変えてみると、即ち、冒頭の2つの一般目的財務諸表の目的を深掘りしたところから見てみると、色々改善のアイディアが湧いてくるし、今回のディスカッション・ペーパーの矛盾も見えてくる。といっても、これらのアイディアが使い物になるかどうかは、細部を詰めていかなければ分からない。また、企業にしても、制度外で自由にやっていることを規制され、責任が重くなるようで、いやがるかもしれない。したがって、これらのアイディアは、今の段階では、道端に転がっている石ころほどの価値しかない。これからより多くの検討が必要だ。

 

こんな大風呂敷を広げたところで申し訳ないが、実は今月の中旬ぐらいまで、集中してやらなければならない用事ができてしまった。このブログをしばらく中断させていただくことを、お許し願いたい。

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