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2014年1月28日 (火曜日)

330.《号外の続報》のれんに頼れないアベノミクス

2014/2/17 ロイターの記事のリンクが無効になっていたので貼り直しました。記事が更新されたようです。

 

2014/1/28

昨日は、朝一番にわが国の会計基準の「のれんの非償却化」が目に飛び込んできて、思わず≪号外≫を出した。そこに、ASBJ(企業会計基準委員会会)はどう対応するのか、と、株価はどう反応するのか、の2点を書いたが、今日は、それを追いかけてみた。

 

 

1.ASBJはどうするか

 

会計基準は、財務情報の読者が求める情報を、企業の実態を忠実に表現するように設定されるべきなので、特定の利害や動機を持った個人や団体の影響をなるべく排除した状態で、開発・設定・運用される。たとえ政府組織であっても恣意的な関与は許されない。会計基準が、金融政策や経済政策の道具にされてしまうと、例えば、課税所得を増やすためや、特定業種保護のため、その弱点を隠すような会計基準の変更が行われかねない。これではリスクが隠されてしまい、経営者は正しい判断ができなくなるし、株主・投資家も安心して投資ができない。(そういえば、廃炉にされる原発の減損・償却問題はどうなっただろうか? また、気が向いたら見てみたい。)

 

ASBJの母体であるFASF(財務会計基準機構)は、民間組織として設立・運営されている。その理由は、上記のように財政面や人材面で政府組織や政治から独立するためだ。但し、金融庁だけは証券市場の監督者なので、そうもいかない。しかし、金融庁自身が、上記の趣旨を尊重し、予断をもって会計基準に関わらないよう自戒しなければならないだろう。むしろ、結果ありきのような議論がASBJで行われるのを防ぐのが、金融庁の監督者としての役割だ。・・・と思う。

 

企業会計審議会では、IFRSを日本へ導入する・しないで、金融庁のスタンスに翻弄された感があるが、そのようなことをASBJで繰り返してはならない。・・・と思う。

 

ということで、「ASBJはどうするか」というより、ASBJでどのような議論がなされるか、金融庁がどのようなスタンスをとるか(=結果ありきのプレッシャーをかけるか)、の方が、より正しい着眼点になりそうだ。

 

ちなみに、「のれんを償却するか否か」の議論は、日本基準の改正(かつ、日本版IFRSへの反映)として行うか、日本版IFRSでのみで行うか、が考えられる。ところが、すでにASBJでは日本版IFRSの検討が「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」で始まっている。その部会長の小賀坂敦氏が、1/10 に行われた企業会計基準委員会で検討の進捗状況を報告している Webcast を閲覧したので、下記に検討状況を要約する。

 

 のれんの償却・非償却問題について

 

事実確認

 

・ASBJは過去から償却を主張

・国内市場関係者の多くもそれをサポート

・一部に、事業買収条件を外国企業と揃えるために、非償却の意見もある

・米国では、非公開企業について償却制度(期間10年以内)を設けることになった

・米国では、公開企業においても今後検討する

 

今後の対応案

 

1)アドプションしない(=償却する)

2)適用レビューを踏まえたうえでアドプションする・しないを決める

上記以外の案もありえる。

 

今後の課題

 

・非償却の論拠のさらなる深掘り(特に米国)~どこが受入れられないか

・米国が非公開企業に償却を認めるに至った経緯や論拠の深掘り

 

 その他30余の課題を全体から俯瞰してグルーピングし、より適切な対応を探っていく

 

のれん以外にも、退職給付の数理計算上の差異のリサイクリングや後発事象、子会社との決算日のずれ、開発費等の資産計上など、色々な項目についてのコンパクトで要領のよい報告があって、その後に委員との質疑応答に入った。すべて聞いたが、今回については委員からのれんの償却・非償却を特定した質問はなかった。

 

ということで、直近時点では、ASBJは償却する方向性を探っている。今後の議論のありように注目していきたい。(今後、フォローするつもり。)

 

 

2.株価の反応

 

今日は、先週末の米国株式市場の下落を受けて、日本市場もさらに386円も下落した。そんなにのれんのインパクトが大きいのか、まさか。ということで、下落の理由になにがあるか、のれんが関係しているかについて、ロイター、日経、WSJの各紙に掲載された記事から探してみた。

 

まずは、ロイター(記事はすべて無料提供)。

 

日経平均大幅続落で一時1万5000円割れ、新興国の先行きを懸念1/27 16:24

 

この記事が、昨日の東京株式市場を総括している。今回の株価下落のきっかけは、先週公表された中国の製造業PMIが、景況感の節目である50を切ったことで、それにアルゼンチン・ペソの急落も加わり、新興国のリスクが大きく意識された。これが(東京市場が閉まってから7~8時間後に始まる)NY市場にも連鎖して、先週金曜日はNYダウが318ドルも値下がりした。この流れを受けて、昨日の東京市場でも売りが広がったという。

 

その他、円相場の動きや、業種別やユニクロなどの代表銘柄の動き、買い戻しもある取引高を伴った下落であることなどが記載されている。記事の最後は、農薬混入問題で社長が辞任表明したマルハニチロ株について「いったん悪材料出尽くし感が出ている」と結んでいた。

 

むむっ!不思議だ。なんか相場全体も悪材料出尽くしで、下げ止まるような印象をもって読み終えてしまった。ちょっと感動的でさえある。株が下げ止まるとは全く書いてないのに。ところで、のれんの話は一切なし。どうも今日は、そんなことで相場が動くような日ではなかったらしい。

 

これで様子はつかめたが、念のために、日経で同様の記事を探してみた。

 

東証大引け、3日続落 新興国の先行き懸念 東証1部の98%値下がり1/27 15:31無料記事。早い!)

 

ほぼ似た内容だが、マルハニチロの話の代わりに、『市場では「中国のPMIが市場の予想を上回るようであれば、株価は再び上昇に向かうのではないか」(ちばぎんアセットマネジメントの奥村義弘調査部長)との見方もあった。』という“市場の声”を載せていた。ここにもPMIが出てくるが、ロイターの方はHSBC(香港上海銀行)が公表している“速報値”のことで、日経の方はその“確定値”か、多分、中国の国家統計局が公表するPMIのことを指していると思われる。ところで、こちらの記事も、のれんは無視。朝刊の1面トップに載せたくせに、一言のコメントもなし。

 

WSJでは、日本市場のみの総括的な記事はなかったが、アジア市場を鳥瞰する記事があった。

 

アジア株の下げ継続―日経平均は2.51%安・ハンセン指数は2.11%安1/27 19:56無料記事)

 

投資家は中国に幻滅しているようだ。」という一節が印象的。もちろん、のれんの話はない。

 

 

ちなみに、NYダウは、先週金曜日(1/24)の終値が 15,879 ドル。今回の株価上昇は、昨年の11/8 米国雇用統計の NFPnon-farm payroll;非農業部門の雇用者数)が予想外に増加し、それに株価が反応して 170ドルも上昇したところから弾みがついたと記憶している(12月の上旬に、FOMCの緩和縮小が早まるのではないかとの見方が台頭する一方で、連邦政府閉鎖の影響が11月の雇用統計を歪めて悪くしていることが危惧され、一時NYダウが乱高下し、このレベルまで下がったこともあったが、これは経済実態によるものというより人為的・政策的要因なので除いて考えた)。その 11/8 の終値は15,761ドル。即ち、あと100ドルほど下がると、米国議会がオバマ・ケア(米国の新しい医療保険制度)を巡って混乱し、米政府の債務不履行危機の余韻や連邦政府機能がマヒした後遺症が残っていたころ、即ち、11/8 まで戻ってしまうことになる。(いま、早速下げている。12月の新築住宅販売件数という統計が期待外れだったようだが、そのせいか?)

 

一方、その日(11/8)の日経平均の終値と東京市場のドル円の終値は、14,086円と98円台だった。即ち、昨日の 15,005円(日経平均)とは、まだ 1,000 円近くも差があり、11/20前後までしか逆戻りしていない。ということは、日本株は米国より下げがきつくないということか。その理由はなんだろう。もしかして、のれん?

 

残念だが、それは素人の僕でも分かる。まったくのはずれだ。ドル円相場の違い(11/898円台、昨日は102円台)が当たりだろう。

 

11月上旬といえば中間決算の発表直後であり、今は第3四半期の発表中だ。その間に、企業業績の予想、即ち、予想利益の水準も上がったことだろう。予想利益が上がれば、株価も上がる(株価収益率が安定していると仮定して)。米国企業も今のところは、好調が予想されていると思うが、円安の下駄をはいている日本企業の方がより増益率が高い。その分、日本株の方が戻りが少ないのではないだろうか。

 

会計基準の話題で株価が変動するというのは、実際にあることではあっても、好ましいことではない。だから、ちょっとほっとした。しかし、その反面、残念な気持ちも大きい。もし、こんな時期でなければ「のれんの償却問題を成長戦略に」というアイディアを、市場がどう見るかを垣間見られたかもしれない。なぜこんなタイミングで、この情報がリークされ、一面トップの記事なったのだろう。まさか、「のれんの会計処理で新興国の経済不安に起因する株価の下落を止めよう」などと思った政治家や官僚がいたのか? いや、そんな音痴はいないだろう。昨日の号外記事で株価に触れた僕ぐらいのものだ。

 

 

ということで、残念ながら株式市場の反応を見る機会は失われたが、今後はASBJで行われる議論の内容に注目していくことになる。

 

 

それにしても世界同時株安は気になってしまう。ここで踏みとどまるのか、さらに調整が続くのか。後者だと気が重い。そうなると、日本にどんな影響があるか。消費税率アップの影響を乗り越えられるか、構造改革を加速できるか。

 

新興国の中でも、アルゼンチンとかトルコなどの中国以外は正直言って、それほど気にならない。注目の中国政府は、意外ときめ細かくシャドーバンキングの債務不履行問題に対応しているようだ。ただ、なかなか実態は分かりづらい。これに関する記事は、以下のものがある。

 

中国政府、「影の銀行」のデフォルト回避に乗り出すWSJ1/24有料記事)

訂正:中国の中誠信託、デフォルト懸念の高利回り商品めぐり投資家と合意(ロイター1/27無料)

「理財商品」、債務不履行回避へ 中国 (日経1/28無料)

 

デフォルト案件が3つあるのではなく、一つの案件について WSJ とロイター2側面からの記事になっている。日経はロイターの面からさらに詳細に報じている。WSJは、理財商品の投資先になっている石炭会社の操業再開でデフォルトが回避される可能性を報じ、ロイターは、逆にデフォルトする可能性を報じている。日経は新しいだけあって、一番わかりやすい。が、債権の大きさが書いてない。31 日が満期なので、どちらになるかが直に分かる。もしデフォルトしたら、中国社会にどのような影響があるのか、或いは、ないのか、注目だ。しかし、富裕層相手に 500 億円程度のデフォルトが発生しても、大問題に発展するには、まだ時間がありそうな気がする。

 

一方、米国にも心配はある。これは全くの素人の妄想レベルの話なのだが、2/7 の雇用統計の NFPnon-farm payroll;非農業部門の雇用者数)は、1/10 並みに悪いのではないだろうか、という気がする。それが今の株安連鎖に上乗せされて、株式市場や外国為替市場にさらなるショックを与えるのではないか。

 

一般には、1/10 に公表された NFP は、12月の寒波の影響の可能性が高く、統計上の異常値であり、米国経済の実態は悪くないと言われている。しかし、1月にも米国は強い寒波に何度か見舞われている。それに、米国も日本同様、正規雇用が減り、臨時雇用が増加していることが、統計ではっきりしている。正社員になりたいけどなれずに臨時雇用されている人を失業者として失業率を計算すると(=U6失業率)、普通の失業率と異なり、12月に公表された統計から減ってないという(1/13 WSJ無料記事「不安要素の多い1月の米雇用統計」)。これは 1/10 NFP が寒波に悪影響を受けたとする見方とも整合する。なぜなら、アルバイトのように週単位で雇用される人が多いから、寒波の影響が強く統計に表れたと考えられるからだ。正社員なら寒波で会社が休みになっても失業者にはならない(=NFP の減少項目にはならない)が、臨時雇用者は調査対象の週に寒波で仕事がないと失業者にカウントされる。ということで、2/7 に公表される1月の NFP も寒波の影響を受けるそうな気がする。

 

ただ、寒波が来ていない週に調査が行われると、逆の結果もありえる。しかし、それも経済実態を現わしていることにはならないから、副作用を誘発しかねない。要するに 2/7 発表の米国雇用統計はどちらに出ても、市場が反応しないような雰囲気にならないと、怖い。

 

臨時雇用者の生活は、1月も寒波で雇用期間が短くなり、収入減に直面しているはずだ。米国の GDP の7割を占める消費統計に与える影響はコンマ以下かもしれないが、悪影響を与えるだろうと思う。ただ、昨年は財政の崖(給与税等)のマイナスの影響があったし、明らかに昨年の方がマイナス幅が大きいと思う。今年はそれらの影響を相殺しておつりがくるので、GDP はたぶん大丈夫ということだと思うが、GDP の統計は3か月ごとだから、公表されるのは当分先だ。それに、現在のリスク・オフの雰囲気の中で、日米の株式市場や為替市場は (少なくとも短期的には)2/7 NFP を見て反応してしまうのではないか。

 

う~ん、すると一番心配なのは、日本経済だ。アベノミクスは、景気の“気”に働きかける政策だ。その“気”を支えてきたのは、株価やドル円相場と言われる。消費増税を控えて、これらのショックで調整が深くなると、“気”も萎える。果たして、給料を増やせるか、構造改革の議論と実行をどれだけ加速できるか。日銀がその時間稼ぎのためにタイミングよく貢献できるか。そして、日本企業が為替差益だけでなく、数量ベースでの業績改善を果たせるか。課題は多い。

 

残念ながら、中国製造業PMIの悪化で状況は一変したようだ。のれんの会計基準では太刀打ちできそうにない。いよいよ、アベノミクスは、本格的に中味(構造改革・成長戦略)が問われ始めるのかもしれない。

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