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2014年1月30日 (木曜日)

331.DP-CF26)会計上の不確実性~のれんの要素と時間軸

2014/1/30

号外(1/27の記事)とその続報(1/28の記事)は、「のれん代償却不要に」(1/27日経朝刊一面トップ)という突風に突き動かされて記載したのだが、書きながら、「のれんって変な資産だなあ」と改めて感じた。何も見えないし、収益に貢献してるのか、或いは、してないのかも、直接には分からない。ただ、「何かある」と感じるだけだ。しかし、感じるのは間違いないので、M&Aで発生するのれんが資産であることは否定できない。

 

この曖昧模糊としたものを、測定(評価・減損)するとか、償却する・しないを決めるというのは、非常に難しい。なにしろ、のれんは、“見えない、さわれない、臭いもない”ものなのだから。しかし、既に人類は、同様に“見えない、さわれない、臭いもない”ものを研究し、成果を残している。例えば“重力”だ。アイザック・ニュートン(1642-1727年)は、「りんごが枝か落ちるのを見て重力(万有引力)を発見した」と言われている。我々も、企業活動を見て“のれん”があるとは考えているが、重力ほどには、のれんの本質や働きを解明できていない。

 

Wikipedia(万有引力)によると、実は、“石が地面に落ちる”ことについては、古代ギリシャのアリストテレス(紀元前384年-同322年)も考えていたようで、その後 1604年には、ガリレオ・ガリレイによって、「落下速度が時間(の2乗)に比例する」ところまでその働き・性質が解明された。即ち、重力の存在はニュートン以前に認知されていたので、ニュートンが重力を発見したわけではないらしい。ニュートンの貢献は、そういう我々の身の回りで起こっている重力の働きが、夜空を飾る星々の間でも同様であると発見したこと(万有引力の法則、1687年「自然哲学の数学的諸原理」)にあるのだそうだ。(それまでは、“石が地面に落ちる”現象と、“惑星が太陽を回わる”現象は、別ものと考えられていた。)

 

面白いのは、重力の“働き”については日本の江戸時代から正確な把握ができているのに、その“本質”の説明については、研究が進むにしたがってどんどん変わってることだ。ガリレオは独自の概念「モメント」を使っていたが、アインシュタインは“時空の歪み”と表現しているという(1915-16年一般相対性理論)。

 

これをのれんでいえば、「のれんの経済効果は昔から正確に把握していたが、のれんの正確な定義は研究の深化と共に変化してきた」ということになる。実際には、確かにのれんの定義(というか、本質についての説明)は、研究の深化と共に変化してきたが、経済効果については把握が困難で、冒頭に記載したように、ただ“何かあると感じる”だけだ。そんな状況なのに、経済実態を忠実に表現する会計処理、即ち、償却・非償却を決めなければならない。会計規準設定主体は大変な仕事を要求されている。

 

話が横道に逸れてしまったが、僕が「変な資産」と思ったのは、実はそういうことではない。「のれんって、不確実性の塊みたいな資産だなあ」と思ったのだ。それには、上記のように経済効果の把握が困難ということもあるが、より決定的なのは“将来要素が多過ぎる”ことだ。将来要素の多さと不確実性の高さは、重力における落下速度と時間の如く比例するのではないか。

 

繰返しになるが、ここにIASBとFASBが合意している“コアのれん”の構成要素を 2012/11/17 の記事から再掲しよう。

 

=再掲開始=

① 前回(11/14説明した(買収される)会社が積上げてきたのれんに対する対価

IASBは、これを「被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値」と呼んでいる。前回記載したように、企業が存続しているのは、社会から相応の存在価値を認められているからだ。その面からこのような表現をしていると思う。

 

② 買収によるシナジー効果によって生まれる新たな価値に対する対価

 

(シナジー効果によるのれん)

①については前回説明済みなので、ここでは、②のシナジー効果によるのれんの特徴を説明する。IASBは、②について「取得企業と被取得企業の純資産及び事業を結合することにより期待される相乗効果およびその他の便益の公正価値。IFRS3 BC313)」といっている。IASBの説明につけ加えると、②ののれんは、買収側の事業や技術(経営技術を含む)と買収される側の事業や技術が接触することで発生する“化学反応”により期待される新たな将来キャッシュフロー(もちろんインフロー)だ。それは以下のような特徴があると思う。

 

 (①と同じ特徴)

・コアのれんに物理的実体はないが、買収対価として具体的に支出されている。

・買収する側には、コアのれんが将来キャッシュフローを生むとの期待がある。

・買収することで買収側がコアのれんを支配する(法的にも、経済実態的にも)。

 

 (①と異なる特徴)

・②は、買収時点では、まだ“期待”でしかない(化学反応は起こってない)。

・①は日常業務が源泉だが、②はだいたい意図的創出される。

・②の成果は買収する側の事業にも現われる。

=再掲終了=

 

M&Aで発生する買入のれんは、買収額と買収される企業の純資産(時価ベース)の差額だから、どちらも区別なく、というか、上記コアのれんの構成要素以外の不純物的な要素もすべて資産計上される。

 

お読みいただければ分かるように、特に、②は明らかに将来への期待、将来要素だ。しかも、実際の買収では、②の金額の比率が大きいケースがかなり多いと思う。

 

①についても、実は将来への期待の要素が大きい。過去分については既にP/Lで利益計上され、それが現金預金なり、他の資産へ投資・再投資されるなりして、B/S上は各資産科目の一部として計上済みなのだ。それに上乗せされるのが①だ。もちろん、M&Aの後の数年は、過去並みの業績を上げ続けるかもしれない。しかし、それを長期間維持することは簡単ではない。APPLE社でさえも、現在、革新的なIT企業という(自己創設)のれんの価値の維持に苦しんでいるし、どこの企業も同じだ。したがって、もし、10年後、20年後も価値を維持できていたとすれば、のれんの中味は相当入れ替わっている可能性が高い。即ち、経営環境の変化に対応して作り変えていくはずだ。しかし、M&Aの時点では、割引計算するものの、過去実績が将来もずっと続くと期待されて評価され、買収価格に上乗せされている。即ち、将来要素がかなり含まれている。

 

こんな「将来要素の塊」のような資産は、のれんだけだろうか? いや、ノウハウ、研究開発プロジェクトなど、IASBがこれから新たに資産計上させようと目を付けている無形資産に共通しているのではないか。

 

重力の研究では、落下速度が何と関連しているかというガリレオの視点が“モメント”の概念を生み、地上の落下現象と惑星の回転運動を比べてみるというニュートンの視点が“万有引力”を導き、さらにそれを光速に近い特殊な状況でどうなるかというアインシュタインの視点が“時空の歪み”という表現を生み、重力の本質に関わる説明を書きかえてきた。

 

一方、上記の議論は、のれんの測定(評価・減損、或いは、償却)に関するものだが、のれんの特徴たる将来要素と時間軸(=どこまでが実績で、どこからが将来か)を深掘りする視点は、のれんの本質や定義にも影響を与えうるような気がする。そしてそれは、のれんだけでなく、会計上の資産の定義や認識規準にまで波及するかもしれない。ということで、もう少しこれを続けていきたい。

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