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2014年1月

2014年1月30日 (木曜日)

331.DP-CF26)会計上の不確実性~のれんの要素と時間軸

2014/1/30

号外(1/27の記事)とその続報(1/28の記事)は、「のれん代償却不要に」(1/27日経朝刊一面トップ)という突風に突き動かされて記載したのだが、書きながら、「のれんって変な資産だなあ」と改めて感じた。何も見えないし、収益に貢献してるのか、或いは、してないのかも、直接には分からない。ただ、「何かある」と感じるだけだ。しかし、感じるのは間違いないので、M&Aで発生するのれんが資産であることは否定できない。

 

この曖昧模糊としたものを、測定(評価・減損)するとか、償却する・しないを決めるというのは、非常に難しい。なにしろ、のれんは、“見えない、さわれない、臭いもない”ものなのだから。しかし、既に人類は、同様に“見えない、さわれない、臭いもない”ものを研究し、成果を残している。例えば“重力”だ。アイザック・ニュートン(1642-1727年)は、「りんごが枝か落ちるのを見て重力(万有引力)を発見した」と言われている。我々も、企業活動を見て“のれん”があるとは考えているが、重力ほどには、のれんの本質や働きを解明できていない。

 

Wikipedia(万有引力)によると、実は、“石が地面に落ちる”ことについては、古代ギリシャのアリストテレス(紀元前384年-同322年)も考えていたようで、その後 1604年には、ガリレオ・ガリレイによって、「落下速度が時間(の2乗)に比例する」ところまでその働き・性質が解明された。即ち、重力の存在はニュートン以前に認知されていたので、ニュートンが重力を発見したわけではないらしい。ニュートンの貢献は、そういう我々の身の回りで起こっている重力の働きが、夜空を飾る星々の間でも同様であると発見したこと(万有引力の法則、1687年「自然哲学の数学的諸原理」)にあるのだそうだ。(それまでは、“石が地面に落ちる”現象と、“惑星が太陽を回わる”現象は、別ものと考えられていた。)

 

面白いのは、重力の“働き”については日本の江戸時代から正確な把握ができているのに、その“本質”の説明については、研究が進むにしたがってどんどん変わってることだ。ガリレオは独自の概念「モメント」を使っていたが、アインシュタインは“時空の歪み”と表現しているという(1915-16年一般相対性理論)。

 

これをのれんでいえば、「のれんの経済効果は昔から正確に把握していたが、のれんの正確な定義は研究の深化と共に変化してきた」ということになる。実際には、確かにのれんの定義(というか、本質についての説明)は、研究の深化と共に変化してきたが、経済効果については把握が困難で、冒頭に記載したように、ただ“何かあると感じる”だけだ。そんな状況なのに、経済実態を忠実に表現する会計処理、即ち、償却・非償却を決めなければならない。会計規準設定主体は大変な仕事を要求されている。

 

話が横道に逸れてしまったが、僕が「変な資産」と思ったのは、実はそういうことではない。「のれんって、不確実性の塊みたいな資産だなあ」と思ったのだ。それには、上記のように経済効果の把握が困難ということもあるが、より決定的なのは“将来要素が多過ぎる”ことだ。将来要素の多さと不確実性の高さは、重力における落下速度と時間の如く比例するのではないか。

 

繰返しになるが、ここにIASBとFASBが合意している“コアのれん”の構成要素を 2012/11/17 の記事から再掲しよう。

 

=再掲開始=

① 前回(11/14説明した(買収される)会社が積上げてきたのれんに対する対価

IASBは、これを「被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値」と呼んでいる。前回記載したように、企業が存続しているのは、社会から相応の存在価値を認められているからだ。その面からこのような表現をしていると思う。

 

② 買収によるシナジー効果によって生まれる新たな価値に対する対価

 

(シナジー効果によるのれん)

①については前回説明済みなので、ここでは、②のシナジー効果によるのれんの特徴を説明する。IASBは、②について「取得企業と被取得企業の純資産及び事業を結合することにより期待される相乗効果およびその他の便益の公正価値。IFRS3 BC313)」といっている。IASBの説明につけ加えると、②ののれんは、買収側の事業や技術(経営技術を含む)と買収される側の事業や技術が接触することで発生する“化学反応”により期待される新たな将来キャッシュフロー(もちろんインフロー)だ。それは以下のような特徴があると思う。

 

 (①と同じ特徴)

・コアのれんに物理的実体はないが、買収対価として具体的に支出されている。

・買収する側には、コアのれんが将来キャッシュフローを生むとの期待がある。

・買収することで買収側がコアのれんを支配する(法的にも、経済実態的にも)。

 

 (①と異なる特徴)

・②は、買収時点では、まだ“期待”でしかない(化学反応は起こってない)。

・①は日常業務が源泉だが、②はだいたい意図的創出される。

・②の成果は買収する側の事業にも現われる。

=再掲終了=

 

M&Aで発生する買入のれんは、買収額と買収される企業の純資産(時価ベース)の差額だから、どちらも区別なく、というか、上記コアのれんの構成要素以外の不純物的な要素もすべて資産計上される。

 

お読みいただければ分かるように、特に、②は明らかに将来への期待、将来要素だ。しかも、実際の買収では、②の金額の比率が大きいケースがかなり多いと思う。

 

①についても、実は将来への期待の要素が大きい。過去分については既にP/Lで利益計上され、それが現金預金なり、他の資産へ投資・再投資されるなりして、B/S上は各資産科目の一部として計上済みなのだ。それに上乗せされるのが①だ。もちろん、M&Aの後の数年は、過去並みの業績を上げ続けるかもしれない。しかし、それを長期間維持することは簡単ではない。APPLE社でさえも、現在、革新的なIT企業という(自己創設)のれんの価値の維持に苦しんでいるし、どこの企業も同じだ。したがって、もし、10年後、20年後も価値を維持できていたとすれば、のれんの中味は相当入れ替わっている可能性が高い。即ち、経営環境の変化に対応して作り変えていくはずだ。しかし、M&Aの時点では、割引計算するものの、過去実績が将来もずっと続くと期待されて評価され、買収価格に上乗せされている。即ち、将来要素がかなり含まれている。

 

こんな「将来要素の塊」のような資産は、のれんだけだろうか? いや、ノウハウ、研究開発プロジェクトなど、IASBがこれから新たに資産計上させようと目を付けている無形資産に共通しているのではないか。

 

重力の研究では、落下速度が何と関連しているかというガリレオの視点が“モメント”の概念を生み、地上の落下現象と惑星の回転運動を比べてみるというニュートンの視点が“万有引力”を導き、さらにそれを光速に近い特殊な状況でどうなるかというアインシュタインの視点が“時空の歪み”という表現を生み、重力の本質に関わる説明を書きかえてきた。

 

一方、上記の議論は、のれんの測定(評価・減損、或いは、償却)に関するものだが、のれんの特徴たる将来要素と時間軸(=どこまでが実績で、どこからが将来か)を深掘りする視点は、のれんの本質や定義にも影響を与えうるような気がする。そしてそれは、のれんだけでなく、会計上の資産の定義や認識規準にまで波及するかもしれない。ということで、もう少しこれを続けていきたい。

2014年1月28日 (火曜日)

330.《号外の続報》のれんに頼れないアベノミクス

2014/2/17 ロイターの記事のリンクが無効になっていたので貼り直しました。記事が更新されたようです。

 

2014/1/28

昨日は、朝一番にわが国の会計基準の「のれんの非償却化」が目に飛び込んできて、思わず≪号外≫を出した。そこに、ASBJ(企業会計基準委員会会)はどう対応するのか、と、株価はどう反応するのか、の2点を書いたが、今日は、それを追いかけてみた。

 

 

1.ASBJはどうするか

 

会計基準は、財務情報の読者が求める情報を、企業の実態を忠実に表現するように設定されるべきなので、特定の利害や動機を持った個人や団体の影響をなるべく排除した状態で、開発・設定・運用される。たとえ政府組織であっても恣意的な関与は許されない。会計基準が、金融政策や経済政策の道具にされてしまうと、例えば、課税所得を増やすためや、特定業種保護のため、その弱点を隠すような会計基準の変更が行われかねない。これではリスクが隠されてしまい、経営者は正しい判断ができなくなるし、株主・投資家も安心して投資ができない。(そういえば、廃炉にされる原発の減損・償却問題はどうなっただろうか? また、気が向いたら見てみたい。)

 

ASBJの母体であるFASF(財務会計基準機構)は、民間組織として設立・運営されている。その理由は、上記のように財政面や人材面で政府組織や政治から独立するためだ。但し、金融庁だけは証券市場の監督者なので、そうもいかない。しかし、金融庁自身が、上記の趣旨を尊重し、予断をもって会計基準に関わらないよう自戒しなければならないだろう。むしろ、結果ありきのような議論がASBJで行われるのを防ぐのが、金融庁の監督者としての役割だ。・・・と思う。

 

企業会計審議会では、IFRSを日本へ導入する・しないで、金融庁のスタンスに翻弄された感があるが、そのようなことをASBJで繰り返してはならない。・・・と思う。

 

ということで、「ASBJはどうするか」というより、ASBJでどのような議論がなされるか、金融庁がどのようなスタンスをとるか(=結果ありきのプレッシャーをかけるか)、の方が、より正しい着眼点になりそうだ。

 

ちなみに、「のれんを償却するか否か」の議論は、日本基準の改正(かつ、日本版IFRSへの反映)として行うか、日本版IFRSでのみで行うか、が考えられる。ところが、すでにASBJでは日本版IFRSの検討が「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」で始まっている。その部会長の小賀坂敦氏が、1/10 に行われた企業会計基準委員会で検討の進捗状況を報告している Webcast を閲覧したので、下記に検討状況を要約する。

 

 のれんの償却・非償却問題について

 

事実確認

 

・ASBJは過去から償却を主張

・国内市場関係者の多くもそれをサポート

・一部に、事業買収条件を外国企業と揃えるために、非償却の意見もある

・米国では、非公開企業について償却制度(期間10年以内)を設けることになった

・米国では、公開企業においても今後検討する

 

今後の対応案

 

1)アドプションしない(=償却する)

2)適用レビューを踏まえたうえでアドプションする・しないを決める

上記以外の案もありえる。

 

今後の課題

 

・非償却の論拠のさらなる深掘り(特に米国)~どこが受入れられないか

・米国が非公開企業に償却を認めるに至った経緯や論拠の深掘り

 

 その他30余の課題を全体から俯瞰してグルーピングし、より適切な対応を探っていく

 

のれん以外にも、退職給付の数理計算上の差異のリサイクリングや後発事象、子会社との決算日のずれ、開発費等の資産計上など、色々な項目についてのコンパクトで要領のよい報告があって、その後に委員との質疑応答に入った。すべて聞いたが、今回については委員からのれんの償却・非償却を特定した質問はなかった。

 

ということで、直近時点では、ASBJは償却する方向性を探っている。今後の議論のありように注目していきたい。(今後、フォローするつもり。)

 

 

2.株価の反応

 

今日は、先週末の米国株式市場の下落を受けて、日本市場もさらに386円も下落した。そんなにのれんのインパクトが大きいのか、まさか。ということで、下落の理由になにがあるか、のれんが関係しているかについて、ロイター、日経、WSJの各紙に掲載された記事から探してみた。

 

まずは、ロイター(記事はすべて無料提供)。

 

日経平均大幅続落で一時1万5000円割れ、新興国の先行きを懸念1/27 16:24

 

この記事が、昨日の東京株式市場を総括している。今回の株価下落のきっかけは、先週公表された中国の製造業PMIが、景況感の節目である50を切ったことで、それにアルゼンチン・ペソの急落も加わり、新興国のリスクが大きく意識された。これが(東京市場が閉まってから7~8時間後に始まる)NY市場にも連鎖して、先週金曜日はNYダウが318ドルも値下がりした。この流れを受けて、昨日の東京市場でも売りが広がったという。

 

その他、円相場の動きや、業種別やユニクロなどの代表銘柄の動き、買い戻しもある取引高を伴った下落であることなどが記載されている。記事の最後は、農薬混入問題で社長が辞任表明したマルハニチロ株について「いったん悪材料出尽くし感が出ている」と結んでいた。

 

むむっ!不思議だ。なんか相場全体も悪材料出尽くしで、下げ止まるような印象をもって読み終えてしまった。ちょっと感動的でさえある。株が下げ止まるとは全く書いてないのに。ところで、のれんの話は一切なし。どうも今日は、そんなことで相場が動くような日ではなかったらしい。

 

これで様子はつかめたが、念のために、日経で同様の記事を探してみた。

 

東証大引け、3日続落 新興国の先行き懸念 東証1部の98%値下がり1/27 15:31無料記事。早い!)

 

ほぼ似た内容だが、マルハニチロの話の代わりに、『市場では「中国のPMIが市場の予想を上回るようであれば、株価は再び上昇に向かうのではないか」(ちばぎんアセットマネジメントの奥村義弘調査部長)との見方もあった。』という“市場の声”を載せていた。ここにもPMIが出てくるが、ロイターの方はHSBC(香港上海銀行)が公表している“速報値”のことで、日経の方はその“確定値”か、多分、中国の国家統計局が公表するPMIのことを指していると思われる。ところで、こちらの記事も、のれんは無視。朝刊の1面トップに載せたくせに、一言のコメントもなし。

 

WSJでは、日本市場のみの総括的な記事はなかったが、アジア市場を鳥瞰する記事があった。

 

アジア株の下げ継続―日経平均は2.51%安・ハンセン指数は2.11%安1/27 19:56無料記事)

 

投資家は中国に幻滅しているようだ。」という一節が印象的。もちろん、のれんの話はない。

 

 

ちなみに、NYダウは、先週金曜日(1/24)の終値が 15,879 ドル。今回の株価上昇は、昨年の11/8 米国雇用統計の NFPnon-farm payroll;非農業部門の雇用者数)が予想外に増加し、それに株価が反応して 170ドルも上昇したところから弾みがついたと記憶している(12月の上旬に、FOMCの緩和縮小が早まるのではないかとの見方が台頭する一方で、連邦政府閉鎖の影響が11月の雇用統計を歪めて悪くしていることが危惧され、一時NYダウが乱高下し、このレベルまで下がったこともあったが、これは経済実態によるものというより人為的・政策的要因なので除いて考えた)。その 11/8 の終値は15,761ドル。即ち、あと100ドルほど下がると、米国議会がオバマ・ケア(米国の新しい医療保険制度)を巡って混乱し、米政府の債務不履行危機の余韻や連邦政府機能がマヒした後遺症が残っていたころ、即ち、11/8 まで戻ってしまうことになる。(いま、早速下げている。12月の新築住宅販売件数という統計が期待外れだったようだが、そのせいか?)

 

一方、その日(11/8)の日経平均の終値と東京市場のドル円の終値は、14,086円と98円台だった。即ち、昨日の 15,005円(日経平均)とは、まだ 1,000 円近くも差があり、11/20前後までしか逆戻りしていない。ということは、日本株は米国より下げがきつくないということか。その理由はなんだろう。もしかして、のれん?

 

残念だが、それは素人の僕でも分かる。まったくのはずれだ。ドル円相場の違い(11/898円台、昨日は102円台)が当たりだろう。

 

11月上旬といえば中間決算の発表直後であり、今は第3四半期の発表中だ。その間に、企業業績の予想、即ち、予想利益の水準も上がったことだろう。予想利益が上がれば、株価も上がる(株価収益率が安定していると仮定して)。米国企業も今のところは、好調が予想されていると思うが、円安の下駄をはいている日本企業の方がより増益率が高い。その分、日本株の方が戻りが少ないのではないだろうか。

 

会計基準の話題で株価が変動するというのは、実際にあることではあっても、好ましいことではない。だから、ちょっとほっとした。しかし、その反面、残念な気持ちも大きい。もし、こんな時期でなければ「のれんの償却問題を成長戦略に」というアイディアを、市場がどう見るかを垣間見られたかもしれない。なぜこんなタイミングで、この情報がリークされ、一面トップの記事なったのだろう。まさか、「のれんの会計処理で新興国の経済不安に起因する株価の下落を止めよう」などと思った政治家や官僚がいたのか? いや、そんな音痴はいないだろう。昨日の号外記事で株価に触れた僕ぐらいのものだ。

 

 

ということで、残念ながら株式市場の反応を見る機会は失われたが、今後はASBJで行われる議論の内容に注目していくことになる。

 

 

それにしても世界同時株安は気になってしまう。ここで踏みとどまるのか、さらに調整が続くのか。後者だと気が重い。そうなると、日本にどんな影響があるか。消費税率アップの影響を乗り越えられるか、構造改革を加速できるか。

 

新興国の中でも、アルゼンチンとかトルコなどの中国以外は正直言って、それほど気にならない。注目の中国政府は、意外ときめ細かくシャドーバンキングの債務不履行問題に対応しているようだ。ただ、なかなか実態は分かりづらい。これに関する記事は、以下のものがある。

 

中国政府、「影の銀行」のデフォルト回避に乗り出すWSJ1/24有料記事)

訂正:中国の中誠信託、デフォルト懸念の高利回り商品めぐり投資家と合意(ロイター1/27無料)

「理財商品」、債務不履行回避へ 中国 (日経1/28無料)

 

デフォルト案件が3つあるのではなく、一つの案件について WSJ とロイター2側面からの記事になっている。日経はロイターの面からさらに詳細に報じている。WSJは、理財商品の投資先になっている石炭会社の操業再開でデフォルトが回避される可能性を報じ、ロイターは、逆にデフォルトする可能性を報じている。日経は新しいだけあって、一番わかりやすい。が、債権の大きさが書いてない。31 日が満期なので、どちらになるかが直に分かる。もしデフォルトしたら、中国社会にどのような影響があるのか、或いは、ないのか、注目だ。しかし、富裕層相手に 500 億円程度のデフォルトが発生しても、大問題に発展するには、まだ時間がありそうな気がする。

 

一方、米国にも心配はある。これは全くの素人の妄想レベルの話なのだが、2/7 の雇用統計の NFPnon-farm payroll;非農業部門の雇用者数)は、1/10 並みに悪いのではないだろうか、という気がする。それが今の株安連鎖に上乗せされて、株式市場や外国為替市場にさらなるショックを与えるのではないか。

 

一般には、1/10 に公表された NFP は、12月の寒波の影響の可能性が高く、統計上の異常値であり、米国経済の実態は悪くないと言われている。しかし、1月にも米国は強い寒波に何度か見舞われている。それに、米国も日本同様、正規雇用が減り、臨時雇用が増加していることが、統計ではっきりしている。正社員になりたいけどなれずに臨時雇用されている人を失業者として失業率を計算すると(=U6失業率)、普通の失業率と異なり、12月に公表された統計から減ってないという(1/13 WSJ無料記事「不安要素の多い1月の米雇用統計」)。これは 1/10 NFP が寒波に悪影響を受けたとする見方とも整合する。なぜなら、アルバイトのように週単位で雇用される人が多いから、寒波の影響が強く統計に表れたと考えられるからだ。正社員なら寒波で会社が休みになっても失業者にはならない(=NFP の減少項目にはならない)が、臨時雇用者は調査対象の週に寒波で仕事がないと失業者にカウントされる。ということで、2/7 に公表される1月の NFP も寒波の影響を受けるそうな気がする。

 

ただ、寒波が来ていない週に調査が行われると、逆の結果もありえる。しかし、それも経済実態を現わしていることにはならないから、副作用を誘発しかねない。要するに 2/7 発表の米国雇用統計はどちらに出ても、市場が反応しないような雰囲気にならないと、怖い。

 

臨時雇用者の生活は、1月も寒波で雇用期間が短くなり、収入減に直面しているはずだ。米国の GDP の7割を占める消費統計に与える影響はコンマ以下かもしれないが、悪影響を与えるだろうと思う。ただ、昨年は財政の崖(給与税等)のマイナスの影響があったし、明らかに昨年の方がマイナス幅が大きいと思う。今年はそれらの影響を相殺しておつりがくるので、GDP はたぶん大丈夫ということだと思うが、GDP の統計は3か月ごとだから、公表されるのは当分先だ。それに、現在のリスク・オフの雰囲気の中で、日米の株式市場や為替市場は (少なくとも短期的には)2/7 NFP を見て反応してしまうのではないか。

 

う~ん、すると一番心配なのは、日本経済だ。アベノミクスは、景気の“気”に働きかける政策だ。その“気”を支えてきたのは、株価やドル円相場と言われる。消費増税を控えて、これらのショックで調整が深くなると、“気”も萎える。果たして、給料を増やせるか、構造改革の議論と実行をどれだけ加速できるか。日銀がその時間稼ぎのためにタイミングよく貢献できるか。そして、日本企業が為替差益だけでなく、数量ベースでの業績改善を果たせるか。課題は多い。

 

残念ながら、中国製造業PMIの悪化で状況は一変したようだ。のれんの会計基準では太刀打ちできそうにない。いよいよ、アベノミクスは、本格的に中味(構造改革・成長戦略)が問われ始めるのかもしれない。

2014年1月27日 (月曜日)

329.《号外》政府がのれん不償却をASBJへ要請!?

2014/1/27

あれっ、会計規準って、政治の影響から排除され、独立してるのでは?

 

M&A、のれん代償却不要に 再編支援へ政府検討 会計基準見直し企業負担軽減

(日経電子版 1/27 有料記事)

 

驚いた。こんなのが、成長戦略の一環らしい(税務上の負担軽減も検討)。

 

さて、ASBJ(企業会計基準委員会)はどうするか?

そして、株価は、どちらへ反応するか。

 

実に興味深い・・・。

2014年1月23日 (木曜日)

328.【番外編】寒さ対策

2014/1/23

寒い日が続いているが、みなさんは大過なくお過ごしだろうか。僕は元々冬が苦手だったが、最近はそうでもない。というのは、体を温める良い方法を知ったからだ。首を温めることである。「な~んだ、そんなことか」と思うことなかれ。本当に背中の芯からポカポカ暖かくなる。しかも、コストはたったの700円。それで、この冬を乗り切れる。

 

まず、首を温めることの重要性と効果を考えてみよう。・・・と、ここで説得力を高める材料をネットで検索するも、なかなか良いネタに出会えない。例えば、血液の20%が首を通ることが分かったが、あの暖かさはそんな低い割合ではない。もっと60%とか70%とか、首を温めるだけなのに、全身が暖かくなるようだ。

 

「首を温めれば健康になる」(松井孝嘉著)という本を紹介したブログもいくつか検索された。どうやら、頭痛、めまい、慢性疲労、ドライアイ・・・と様々な病気とも言えないレベルの生活の不快感を取り除く効果があるようだ(僕は確認していない)。しかし、ドライヤーとかホットタオルで温めると書いてある。そんなの一時的に温まるだけじゃないか? 通勤中の寒さが防げない。それで冬は凌げない。

 

マフラーを巻いて通勤する方は多いが、巻方がどうの、隙間がスースーするの、ぶらぶらが鬱陶しいのと、色々不満はないだろうか。しかも、室内でマフラーはしない。しかし、首を温めれば、上着やセーターやベストが要らなくなる。1枚、身軽でいられるのだ。

 

それなら、スヌードというマフラーを輪っかにしたような、ゆったり巻くやつもある。優雅だが、しかし、似合う、似合わないがありそうだ。残念ながら、僕は後者。顔がごつい。

 

「じゃ、なんなの?」と焦れたところで、核心に入りたい。

 

答えは、セブンイレブンが700円で販売しているネック・ウォーマーだ。これは、とっくりセーターの首の部分を切取ったようなもので、スヌードのような大袈裟なものではない。Yシャツの襟の内側にも入るから通勤でも室内でもOKだし、就寝中でさえつけられる。発熱素材を使用していて、とても暖かい。毎朝、布団から出るために悪戦苦闘されている方は、付けたまま寝ればよい。あの、果てしない苦悶の時間から解放される。逆に、「ああ、今朝も暖かい」と幸福感に包まれて起きられる。

 

ところで、なぜ首だけでこんなに暖かいかだが、色々読むうちに一つの答えに辿り着いた。人間は寒いと感じると末梢血管を収縮させるので、血の巡りが悪くなり、余計に体が冷えるらしい。一方、暖かいと感じると、逆に血管を拡張させ血流量を増やすので、体が温まるのだそうだ。そして、首は暖かさを感じる温点と呼ばれる触覚器官の密度がとても高い。ということは、その首を温めると、脳が「暖かい」と騙されるのではないか。それで血流量が増えて体が温まるということかもしれない。ということで、首を温めることは、人体の知覚システムと循環器システムのツボを押さえた、実に効率的でスマートな寒さ対策といえよう。

 

ただ、誤解しないでいただきたい。寒中水泳でもするような裸同然の格好で首だけ温めても、効果は限定的だ。「寒いかな?」というのを、「いやあ、暖かいじゃないか」と脳を騙すのだから、相応の環境を整えてやる必要がある。あまり薄着で風邪をひかないようご注意いただきたい。

 

 

さて、気候も寒いが、伊藤博文暗殺犯の安重根記念館開設で、東アジア情勢も増々温度が下がっている。

 

日本を悩ませる中国での安重根記念館開設

WSJ 1/22 無料記事。現在の国際的な歴史観がベース。)

 

各国政府高官の舌戦はホットだが、これで暖まっては後が怖い。ネック・ウォーマーのようなツボを突いたスマートな温まり方はないだろうか。いやいや、まだまだ、その環境は整っていない。こちらは、焦れずにじっくり環境づくりに励むしかなさそうだ。構造改革等々・・・、時間を無駄にしないで。

 

 

(ファミリーマート、ローソン、ミニストップで確認したら、若干高いが同じようなものが置いてあった。良いものを発見したと思って報告させてもらったが、意外に一般的なもののようだ。みなさんも既にご存じだったかもしれないが、あしからず。)

2014年1月19日 (日曜日)

327.【番外編】不易流行

2014/1/19

録画してあったNHKスペシャル「ニッポンの若者はどこへ?」(1/11放送)を見て、若い人たちの前向きな感性とその柔軟さに感心した。殺処分される犬に新しい飼い主を探す仕事、季節ごとに色々な仕事をこなす若者、世界の料理を研究する出張シェフ・・・、さらには、コスプレ趣味が高じて事業になるとは。ほんの一部の成功例といえども、我々の社会が“能動的に”変わっていける可能性を感じることができた。

 

そんな時に、WSJThe Wall Street Journal)で、1/16付の肥田美佐子さんという方の下記のタイトルの記事を読んだ(無料記事)。

 

激変する米労働市場―全職種の約半数が20年以内にIT化で淘汰

 

10日に公表されて、株式市場に衝撃を与えた米国雇用統計。その後の株価の推移をみると、もしかしたら、みなさんは一過性のものと軽くみられるかもしれない。しかし、この方は、その底流に流れる米国労働市場の変化の方向性を、米労働省や、英オックスフォード大学の研究者によるレポートから紹介している。このブログに来られるみなさんは、会計系の方が殆どだと思うが、簿記・会計・監査事務という職種についてもさらりと触れている。なんと恐ろしいことに、今後10年から20年の間に、コンピュータ化・自動化される確率が 98% とされ、淘汰されるリスクの高さは米国の702職種のうち32位という。もちろん、わが国の労働市場の将来にも無関係ではないだろう。関心を持たれた方にはご一読をお薦めする。準備がないと、変化の波を“受動的に”受けることになる。

 

「大企業なら今でも安定していると思うか?」

 

この質問を、実際に大企業の中にいる人と、世間一般の人にぶつけたら、その回答には、恐らく相当大きな開きがあるに違いない。大企業でも辞めていく人はたくさんいる。僕は、社会の変化が激しい以上、安定的な仕事など、ほんの一部に過ぎないと考えた方が後悔がないように思う。幸いなことに、上記の番組を見る限り、ニッポンの若者も同様に考えている人が多いようだ。金商法や会社法で法定されている監査という仕事でさえ、過去20年の IT の影響は大きかったし、今後はさらに変化が加速するに違いない。もちろん、IT 以外にも変化の種はたくさんある。

 

いや別に、将来への不安感を煽ろうというのではない。変化するのは当然で、むしろ、変化しなければ窮屈だ。それに、何もかもが変わってしまうということでもない。

 

ここで、もう一つテレビ番組を紹介しよう。それは、『BS歴史館 江戸のスーパー変革者(1)「松尾芭蕉~17文字で日本を変えた男」』BSプレミアム1/17)だ。この中では、芭蕉の「不易流行」という言葉が紹介されている。芭蕉は、俳諧によって当時の文学の価値観に大変革をもたらしたというが、実は、俳諧の本質は既に1000年の伝統のある和歌と同様に「心を詠むもの」としているとのこと。「変化して見える人の世も、その実、季節が巡りくるように何も変わらない」という。芭蕉は、伝統のルールでがんじがらめに縛られた和歌の本質を、時代に合わせてシンプルに解き放ったということだと思う。

 

会計の世界でいえば、

 

・財務情報の読み手が何を求めているか(目的適合性)

・どう表現したら経済実態に近づくか(忠実な表現)

 

を、常に念頭に置いて、どうすべきかを考えている人にとっては、これから起こる変化についても不易流行と思えるに違いない。細かなルールやテクニックばかりを追いかければ、逆に時代の変化に追い付けなくなるのではないか。

 

今のニッポンの若者は、社会貢献への意識が高いという。僕が同年代のときより高い目的意識を持っているようだ。社会との関わり方、働き方の形式は僕らの頃とは違ってくるかもしれないが、しかし、より社会の不易な部分に近いところにいて、新しい流行を起こしてくれそうに感じる。

 

おもしろや今年の春も旅の空(芭蕉)

 

この回のBS歴史館はこの句で終わる。オヤジとしても、変化を楽しむこんな気持ちで、日々を過ごしたい。

2014年1月15日 (水曜日)

326.DP-CF25)会計上の不確実性~のれんやノウハウ

2014/1/15

日本の昔話には、人と動物との関わりがテーマになっているものが多い。例えば、鶴の恩返しや桃太郎、金太郎・・・。しかし、今でもあるらしい。Twitterに、現代のおとぎ話とでもいうべきものがあったので、夫婦喧嘩や株価暴落に動揺して心が波立っている方など、ほっこり、ほんわかしたい方にはご覧いただきたい。これは言わば鶴の恩返しならぬ「ねずみのチョコレート返し」。(すでにご覧になった方はごめんなさい。)

 

pic.twitter.com/JNI7eOXJJN

 

どうだろう、心が安らいだだろうか。「ホントか? 信じられるか!」と猜疑心がこみ上げて楽しめなかった方は、左脳が強過ぎるかもしれない。でも、恐らくACミランのエース、本田選手のような Little boy の気持ちが少し蘇って、クスっと口元がほころんだ方が多かったと思う。

 

 

さて、遠回りしてきたが、どうやら無形資産の資産性の議論を整理したいというのがIASBのゴールらしい。血の巡りの悪い僕の頭にも、ようやくイメージが浮かび始めた。不確実性を(資産の)定義と認識規準から削除したいというIASBの提案を言い換えれば、次のようになるのではないだろうか。(少なくとも狙いの一部、しかも大きな部分はこれに違いないと思う。)

 

① 無形資産をもっと資産計上したいが、評価(=測定)が難しいことがネックになっている(=多くの反論がある)。しかし、資産かどうかと、評価が難しいことは別問題で、区別して考えるべきだ。

 

② もっと多くの無形資産が新しい資産の定義を満たす。この提案によって、IASBは評価方法に絞って議論を進めることができるので、規準化をスピードアップできる。(IASBは具体的な評価方法を企業任せ、或いは外部評価頼みにするので、評価方法を議論する時間などあまり必要ないかもしれない。)

 

ちなみに、ここでいう無形資産には、自己創設のれんや研究開発費、ノウハウなどが含まれるが、このうち自己創設のれんについては、会計上の資産として扱うべきではないという立場を目的適合性の観点から採用すると、IASBはこのディスカッション・ペーパーで明らかにしている。(しかし、その他が資産かどうかについては、IASBの判断に任せて欲しいと主張している。)

 

僕は、売掛金が発生主義の産物であることから最も会計的な資産であるとして、細かく検討してきた。その結果、法的な権利やCashの入金金額のはっきりしている売掛金では、定義や認識規準に不確実性がなくても、いやむしろ、ない方がスッキリして規準の運用もスムーズになると思われた。では、その権利や金額のはっきりしない(自己創設のれんや)研究開発費やノウハウはどうだろうか。果たして、上記のIASBの目論み通り、資産かどうかと、評価の問題を別々に考えた方がスッキリするのだろうか。

 

僕はスッキリしないと思う。IASBは目的適合性がないことを根拠に、自己創設のれんを会計上の資産から除外したが、そもそも研究開発費やノウハウは自己創設のれんの一部だったものだ。区別はどうするのか? 自己創設のれんが会計上の資産から除外されるのなら、同様に研究開発費やノウハウも除外されてよいではないか? しかし、IASBは、この点をIASBに委ねよと言っている。恐らく新しい規準ができたり、現行規準が改定されると、外部評価や内部統制が新たに必要となるだろう。これらは、財務情報や経営に有用だろうか。ん~、スッキリしない。ゴール・ポストに阻まれた、本田選手のミラン・デビュー戦のシュートのように。

 

 

シツコイとか、理屈っぽいとか、お前こそポンコツなくせに左脳が強すぎるとか、言われそうだが、こればっかりは、左脳を働かせねば。そうそう、脳といえば、以前「スウェーデンの女子大生が開発した見えないヘルメット」の記事を紹介させていただいたのを、みなさんは覚えていらっしゃるだろうか(2013/8/9の記事)。リースの公開草案を理解するにあたって発想の転換が必要だったので、その例として紹介した。WSJThe Wall Street Journal)にその続報が載ったので、最後に紹介させていただく(無料記事)。いよいよ日本でも発売されるそうだ。

 

スウェーデン社が開発した首に巻く自転車用エアバッグ、日本でも発売へ(1/14

 

ポンコツでも守るべきものは守らなければ。

2014年1月10日 (金曜日)

325.DP-CF24)会計上の不確実性~ある件のまとめ

2014/1/10

監査法人を退職した頃のこと、僕は自分が老眼になったことに気が付いて、愕然とした。いま、そのときのことを思い出している。

 

最初のきっかけは、月食があると聴いて夜空を見上げてみたら、三日月が4~5個も重なって見えたことだった。いつの間に月の数が増えたのだろう。こんな大ニュースを知らなかったなんて。。。一応、そう思ってみたが、頭を傾げてみると三日月の重なり具合も一緒に変化する。ん~、これは月じゃなくて、僕の問題だ。

 

世間的には些細な出来事だが、僕には大事件だった。目だけは良かったのに。しかし、このときは単に乱視だと思った。そう思うことにした。

 

その暫く後のこと。国民年金へ加入するために年金事務所で書類を書き込んでいると、どうもペン先が見えにくい。ちょうど良い具合に、「見えにくい方はお使いください」と張り紙があって、脇にメガネが置いてある。「ふ~ん」と思って架けてみると、凄くスッキリ見える。感動して窓口の女性に「このメガネ、凄いですね」というと、笑いながら「老眼用です」という。絶句である。これでトドメを刺された。もう、現実を受入れるしかない。

 

会計上の不確実性を(資産の)定義や認識規準から削除するというIASBの提案は、僕には無謀なことに思えた。しかし、この“ある件”で検討してみると、どうやらそうではないようだ。少なくとも売掛金という資産に関しては合理性がありそうだ。老眼並みにショックだが、今や、それを受入れざるえない。ということだが、一応、まとめをしておこう。

 

 

-2のケース

 

不正防止の観点からは、シンプルな規定、売掛金の発生と消滅の両時点での考え方に矛盾のない会計基準が、より好ましい。この点で、IASBの提案は評価できる。

 

-1のケース

 

規準の適用面からは、やはり、シンプルな規準は適用が容易で間違いにくい。現行のように収益認識時に債権の回収可能性まで考慮すると複雑になる。この点で、IASBの提案は評価できる。

 

①のケース

 

会計理論面からは、発生と消滅の両時点の考え方が相違しているのはおかしい。この点でも、IASBの提案は評価できる。現行の定義や認識規準では、発生時に回収の確実性の程度によって資産計上の是非を判断させるのに、消滅時の実務では100%回収不能になるまで資産から除去しない。もし、不確実性を定義や認識規準に残したままにするなら、もっと早く資産を除去すべきだ。しかし、それでは現実に存在する資産を帳簿から除去する(しかし、管理は続ける)という実務を増やすことになる。

 

 

さて、さらに往生際悪く抵抗を続けるか、それとも、ここで降参するか。

 

しかし、同じ資産でも研究開発やノウハウを想定した場合、同じ結論に至るかどうか。将来のキャッシュ・フローをもたらす可能性の低いものまですべて資産として認識するのか。それらの価値を測定することが可能かどうか。そうだった、これが問題なのだ。この点を素通りするわけにはいかないだろう。

 

乱視であることは認めよう。だが、老眼と決め付けるのはまだ早い。

2014年1月 7日 (火曜日)

324.DP-CF23)会計上の不確実性~ある件の①のケース

2014/1/7

正月に入って、僕のところでは過ごしやすい陽気が続いている。みなさんのところはいかがだろうか。

 

一方、株式市場は大荒れだ。なんと昨日、大発会から日経平均が382円(2.3%)も下げた。(本来上昇することが多い)大発会に下落するのは2008年以来6年ぶりだそうで、この年にはリーマン・ショックが起こった。さらに下げた年を遡ると、2001年(ITバブル崩壊)、1998年(日本債券信用銀行や日本長期信用銀行の破綻)も下げていて、それぞれ経済的な大事件が起こった年と重なる(以上、「株をはじめる前に読むブログ」や、その他のネット情報を参考にさせていただいた)。さらにはバブルが崩壊した1990年も下げているとのこと。大発会での下げは大事件の予兆か? なにやら、きな臭い。

 

但し、1999年も下げたが、そこまでの大事件はないようだ(人によっては、「ジャイアント馬場さんが亡くなったじゃないか!」と言われるかもしれない。確かに色々偉大な人だった)。また、1997年(アジア通貨危機、山一證券や北海道拓殖銀行の破綻)は大事件が起こり始めた年だが上げているし、上記の2001年のITバブル崩壊は主に米国のことであり、日本への影響は軽微だったと思う。やはり、偶然か。ん~、これでは、きな臭いというより、うさん臭いと言われてしまう。

 

まあそもそも、たった一日の株式相場の上げ下げだけで、不確実な将来が分かるはずがない。しかし、会計はその不確実性を処理しなければならない。企業は不確実な将来にチャレンジし、収益獲得の確実性を高めていく。そこには、たった一日の株式相場の上げ下げ以上の豊富な判断材料がある。(それでも予測が難しいことは多いが。)

 

ということで、本題に戻りたいと思う。IASBは、不確実性への言及を、概念フレームワークの資産や負債の定義、認識規準から削除し、個別規準に記載される測定方法の中に閉じ込めたいと提案している。僕はそれに疑問を感じ、“ある件”を例にして、IASBの提案を批判的に検討している。今回は、そのうち、①のケースがテーマとなる。①の不確実性とは、次のようなものだった(12/17の記事)。

 

 回収が不確実

 

この相手先は、このノウハウの活用に成功した段階で、支払いの原資が確保できる。或いは、その成功が具体的に見込めなければ、この支払いのための金融機関の融資が受けられない企業規模、経営状況だ。即ち、この売掛金が回収できるかどうかは、その相手先のビジネスの成功如何にかかっているところが不確実だ。

 

この場合、会計処理としては売上及び売掛金をいったん満額計上するとともに、回収不能額を見積って貸倒引当金も計上することになる(会社は貸倒引当金の見積りを行っていないので、それが修正となる)。これは、資産に将来便益が流入するか否かに関するもの、即ち、全額貸倒引当金を計上する可能性も排除できないので、IASBのいうところの“結果の不確実性”に当たると思う。

 

ここでは、売上計上と売掛金の回収を分けて考え、売掛金の回収のみに不確実性があるとしている。一方、現行の概念フレームワークの資産の定義は「キャッシュを生む能力+キャッシュを回収できる可能性」の2つの要素を含むので、売掛金を回収できる可能性が低ければ、売掛金という資産自体が成立しないことになる。したがって、現行の資産の定義に従えば、売掛金を計上できないので、上記のような考え方は採用できない。

 

一方、IASBの提案している資産の定義は「キャッシュを生む能力」のみのため、「キャッシュを回収できる可能性」を考慮せずに売掛金は資産計上される。即ち、売掛金の回収可能性が低くても計上が可能だ。ということは、上記の考え方は、むしろIASBの提案と合っている。

 

ん~、これは驚きだ。というのは、これを考えているうちに、次のことに気が付いたからだ。

 

・現行の定義は、売掛金を帳簿から落とす会計実務と合わない。

 

「回収可能性の低い売掛金は資産ではない」とすれば、一端計上した売掛金でも、債務者の財政状況が悪化して回収可能性が低くなった時点で、資産ではなくなる。即ち、回収可能性の低い売掛金は帳簿から消去しなければならない。しかし、実際には100%貸倒引当金を計上することもある。即ち、回収できない売掛金も、法的に債権が消滅するまでB/Sに残っていたりする。もう、(現行の)資産の定義に合わなくなっているのに。

 

この会計実務を正当化するのは、現行の資産の定義ではなく、IASBが提案している新しい資産の定義だ。

 

・僕はIASBの提案を否と思っているのに、当時は①を主張した。

 

僕に「論理的思考が欠けていた」、或いは、「知識不足だった」というだけのことだが、本人にしてみれば驚きだ。現行の資産の定義がちゃんと頭に入っていれば、①を主張をするようなことはなかったはずだ。この“ある件”では、売掛金の回収可能性が低いことだけは確実だったのだから。

 

 

ということで、大発会も大荒れだが、このブログも(僕にとっては)大荒れで始まった。

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