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2014年2月 5日 (水曜日)

333.【番外編】中国監査、何が起こってる?

2014/2/5

先月の23日といえば、中国の経済指標(製造業PMI)が悪化して、株価が大幅に下落した日だ。その陰に隠れて、僕には気になるニュースがあった。

 

米国の判事、会計大手4社の中国部門に業務停止命令1/23 WSJ有料記事)

 

米国SEC(証券取引委員会)の判事が、大手監査法人の4社(業界では Big4 と呼ばれている)に、それぞれの中国部門による米国上場企業の監査業務を半年間禁止する判決を下したという。理由は「一部顧客についての文書のSECへの提出を拒み、SECの調査への協力を拒むことで米国の法律に違反したから」だという。大手4法人とは、デロイト・トウシュ・トーマツ、KPMG、プライスウォーターハウスクーパーズ(PwC)、アーンスト・アンド・ヤング(EY)だ。

 

それらの監査が禁じられれば、米国に上場している中国企業、例えば、ネット検索最大手の百度(独立監査人:Ernst and Young Hua Ming)やポータルサイト運営大手の新浪(同:PricewaterhouseCoopers Zhong Tian CPAs Limited Company)は、監査を受けられなくなるかもしれない。さらに、中国で大規模に事業展開している米国企業にも影響があるはずだ。最悪の場合は、上場廃止もありえる。

 

それにしても、監査資料の提出を拒むといえば重罪だ。例えば、あの有名なエンロン事件では、当時大手5法人の一角だったアーサー・アンダーセンが、一部の監査調書を廃棄して提出しなかったとされて解散に追い込まれた。数万人の巨大組織が蒸発するように消滅した。Big4 は、いったいどうしてそんな危険なことをしたのだろうか?

 

昨日、続報が出て様子が少し分かった。

 

中国関係の監査業務を丸投げか―4大会計事務所の香港部門2/4 WSJ有料記事)

 

中国の法律では、監査調書は国家機密に当たるらしい。もしそれをSECに提出すると、多大な罰金を科される恐れがあるという。大手4法人の中国部門とは、それぞれの“中国支店”ではなく、各監査法人グループに加盟・提携している独立した中国の監査法人なので、米国のためにこのような罰金を科されるのは御免こうむりたいということなのだろう。それに、監査法人が違法行為を犯したとなれば、クライアントが離れていくのは確実だ。国営企業の多い中国では、特にリスクが大きいだろうと思う。

 

ちなみに、「丸投げ」と印象の悪い見出しになっているが、監査の一部を現地の海外監査法人に依頼することは、普通に行われている。これを如何にスムーズに行うか、シームレスに行うかが、監査法人の国際的な組織化、即ち、Big4 誕生・成長の大きな動機になっている。

 

また、それによってメインの監査人の責任が限定されることはない。国際監査基準にも依頼先の現地監査人の能力を評価する手続、監査結果を評価する手続などが規定されていて、4大法人の監査マニュアルも、それに沿って、それ以上の成果が上げられるよう規定されているはずだ(同じ監査法人グループに所属している現地監査人にも適用される)。したがって、メインの監査人は、監査計画を策定し、中国の現地監査人へ重点項目などを含めた具体的な指示をするだけでなく、その監査調書をレビューしたり、自ら往査して監査結果や品質を評価していると思う。

 

そうすると、それが機密漏えいに当たらないのか気になるところだ。監査調書が国家機密だというなら、それをレビューするメインの監査人(外国人)は、国家機密を不当に盗み取ったとして中国当局のお尋ね者にならないだろうか。スパイとなれば、罰金だけで済むだろうか?

 

それとも、そうなることを避けるために、メインの監査人は現地監査人の監査調書レビューをやっていなかったのだろうか。そして、その状況を「丸投げ」と表現したのだろうか。それが重要であれば、監査報告書に監査範囲の除外事項として開示する必要があるし、予め普通の意見表明ができないと分かっていれば、現地監査人への業務依頼を含むような監査契約は締結しないことになる。(しかし、そんな話は聞いたことがない。)

 

まだまだ謎は深いが、この業務禁止の判決は控訴が認められており、確定するまでは業務を継続できるらしいので、今後も続報があり、徐々に明らかになるかもしれない。

 

いずれにしても、企業の監査資料が国家機密になるというのは、国有企業を中心に経済発展してきた中国らしい発想だ。しかし、国際的に資金調達するのなら、国際的なルールにも従う必要がある。共通インフラとしての監査環境もそろえてもらった方が良い。

 

 

参考までに、関連するロイターの記事も紹介する(無料)。

 

米国市場上場の中国銘柄が急落、会計の透明性めぐる懸念嫌気1/24

米会計事務所の中国業務禁止、商業会議所が外交解決求める1/24

中国証監会、米会計事務所めぐるSECの禁止決定に「大変遺憾」1/24

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