335.【番外編】タイ政府、コメ相場で大火傷?
2014/2/7
今日はいよいよソチ五輪の開幕だ。サッカーの放送枠が削られるのではないかと心配な面もあるが、ジャンプやフィギュア及びスピード・スケート、スノボなど、多くの種目で日本選手の活躍が期待されるのだから、贅沢な悩みといえる。しかし、自国の選手が1名しか参加しないタイは、冬季オリンピックで浮かれてなどいられない。みなさんもご存じのように、タクシン派・反タクシン派の政治闘争に収まる様子が見られない。
ところで、民主主義国であるタイで、民主主義の象徴である選挙をも否定する反タクシン派に、なぜこれほどのパワーがあるのか、即ち、一定の国民の支持や理解があるのか、みなさんは不思議に感じられなかっただろうか?
ニュースの解説では、タクシン派のバラマキ政策を巡る農民と都市中流層・知識層の対立などというが、その程度なら、時間はかかっても何度も選挙を繰返して議論を尽くして、政権交代を目指すべきだと思う。タイ国内でも、そう考える人が多いのではないか。しかし、国王も、軍も、警察も、裁判所も、選挙管理委員会でさえ、恐らく違法行為を繰返しているであろう反タクシン派に優しいように感じる。中東のように選挙を求めてデモをするのではなく、選挙を妨害するために政府機能をマヒさせているのだから。
そう思っていたところに、この違和感をちょっと解消できる記事が見つかったので、もし、みなさんが僕と同じような疑問をお持ちであれば、参考までに紹介させていただきたい。
裏目に出たタイ政府のコメ市場支配の企て-農民の借金かさむ(2/6WSJ無料記事)
どうやらインラック政権は、コメの国際市場で勝負に挑み、国家財政に最大で120億ドル(1.2兆円)もの損失を与えることになったらしい。これを反タクシン派から見れば、ちょうど、売上1,000億円の上場企業が、財テクで100億円の損失を計上したようなものだろう。それで資金不足に陥り、恩恵を受けるはずの農民への支払も滞り、この記事にあるような悲劇が起こっている。例えれば、従業員への給料の遅配を来たしたようなものか。これでは、経営者は自ら辞めざるをえない。しかし、辞めない。
日本の規模に置き直して考えてみると、政府が投機行為で10兆円ほどの損失を出したことになる。ちょっと考えられない。比較になりそうな事例がないかと考えてみると、政府の投機行為ではないが、バブル期の不良債権処理のために、6,850億円の公的資金を投入する予算が成立したことがある。これは1996年(橋本内閣)だが、初めてこの問題の重要性を認識したのは1992年の宮澤政権で、その後、現在都知事選に立候補している細川氏、羽田氏、村山氏、橋本氏と4回総理大臣が変わった。リーマン・ショックのときの欧米の雰囲気がまだ記憶に新しいが、日本でもこの頃は、銀行や農協を助けるために公的資金を投入するなどとんでもない、という雰囲気だった。政府自身が投機行為をしたわけではないが、バブルに踊った銀行や農協を監督する立場にあった大蔵省や農林水産省、そして政治家への怒りも強く政権交代に繋がったし、この時期に多くのスキャンダルが暴かれ、社会的な糾弾を受けた。
反タクシン派が、「この巨額の損失の責任を取ろうとしないタクシン派に、どう責任を取らせるか」を考えているとすれば、タイのデモは、単なる国内利益配分の不満といったレベルの問題ではない。国家指導者の人間としての資質を問うているのだろう。普通はそれを選挙でやるわけだが、選挙では目的を果たせる見込みが薄いとなれば、閉塞感に苛まれる。
僕は、ようやく、反タクシン派やデモ隊に寛大な目を向けている人々の気持ち、即ち、国家財政に大損害を与えてなお居座ろうとする指導者を許せない人々の気持ちが、分かってきたような気がする。
=(参考)タイの経済統計=
名目GDP |
119,990億バーツ (= 4,009億ドル) (= 42兆円…105円/$換算) |
|
歳出総額 (2013) |
28,702億バーツ (= 10兆円…上記と同じレートで換算) |
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