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2014年2月13日 (木曜日)

337.DP-CF28)会計上の不確実性~ASBJの考え

2014/2/13

無念だ。ジャンプの高梨沙羅さんが4位に終わった。圧倒的な実力・実績を持ちながら、追い風という不運に見舞われた。しかし、試合後のインタビューで、高梨さんは次のように語ったという。

 

「本当に実力があれば関係はないと思うので、実力が足りなかったのだと思います」
 
NumberWeb2/12より

 

益々、応援したくなるコメントだ。

 

さて、このブログは長々と会計上の不確実性を書いてきた。IASBの提案に対し、上村愛子さんのような不屈の闘志を燃やしたいところだが、残念ながら、今のところ炎はIASBのそそり立つ壁を焦がすことさえもできない。ところが、先月17日にASBJ(日本の企業会計基準委員会)がIASBへ提出したこのディスカッション・ペーパーに対するコメント(ASBJのHPに掲示された文書)を見ると、ASBJも、IASBの不確実性の取扱いに異議を申し立てている。今回は、それを紹介することにしたい。

 

 

まずは、全体像から。「全般的なコメント」というプレゼンテーション資料のエグゼクティブ・サマリーのような場所の第 5 項に、次のように記載している。

   
 

 (1)

 
 

DP   4.24 項は原則としてすべての資産及び負債を認識するとしているが、我々は原則として認識規準に蓋然性規準が含まれるべきと考えているため、IASB の予備的見解に同意しない(第 45 項から第 50 項を参照)。

 

さすがだ。短い文章で書き尽くしている。中でも、これだ。

 

原則として認識規準に蓋然性基準が含まれるべき

 

勇気が湧いてくる。よく「大声援に背中を押される」というが、大声援を受けるオリンピック選手の気持ちとは、こんな感じだろうか。不確実性に拘っているのは僕ばかりかと思っていたので、非常に心強い。テンションが上がる。

 

それでは、早速、「 45 項から第 50 項を参照」してみよう。これは、ディスカッション・ペーパーのセクション4「認識及び認識規準の中止」についてのIASBの質問(質問8)に対するコメントを述べているところだ。(なお、蓋然性とは不確実性の反対で、確実性の度合いのこと。)

 

僕の理解で勝手に要約して箇条書きにすると次のようになる(ASBJの意見を正確に知りたい方は、上記文書の 15 ページをご参照ください)。

           
 

  理由

 
 

蓋然性の閾値を設けないと、翌期以降戻入による損益が生じる可能性が高まり、翌期以降の損益計算書が使いにくくなる(目的適合性が低下する)。

 
 

  逆提案

 
 

①認識規準に、最低限の蓋然性の閾値を設けるべき。
    (例としてだが、「可能性が高い(=
50% 超)」を挙げている)

 

②より適切な蓋然性の閾値は、各個別規準で(必要に応じて)設定する。
    (ASBJは資産と負債で蓋然性の閾値が異なることに肯定的。)

 

③会計単位(=蓋然性を評価する資産や取引のグルーピング)を考慮する。

 

④デリバティブについては、その性格から例外的に蓋然性の閾値は不要。

 
 

  補足

 
 

IAS37「引当金、偶発負債及び偶発資産」を 2005 年に改訂したときに、認識規準に蓋然性規準を含めるべきというコメントがたくさん寄せられた。そのときと状況は変わっていないのではないか(日本では変わっていないと考えられる)。

 

 

   
 

質問3について付け足し

 
 

上記は質問8に対するコメントだが、定義や認識規準から不確実性への言及を削除することについて、より直接的な質問となっている質問3に対するコメント(上記文書の7ページ)では、次の趣旨を述べている。

 

・定義から削除しても、認識規準からは削除すべきでない。

 

・「存在の不確実性」と「結果の不確実性」の区別は困難。認識規準で一緒に扱うべき。

 

 

なるほど、そう来たか。IASBよりは、ASBJの意見の方が、僕には遙かに納得感がある。思わず飛びつきたくなるが、残念ながら100% ではない。もしかしたら、まだこのコメントの読み込みが足りないだけかもしれないが、何か違う感じだ。

 

とはいえ、ASBJのコメントを読むことで、一つはっきりしたことがある。それは、僕がIASBの不確実性に関する提案に引っかかっていた本当の理由だ。それを自覚できた。「資産かどうか(または、負債かどうか)をIASBが決定する」という部分が問題だったのだ。それが受入れらなかったために、定義や認識規準から不確実性への言及を削除することに抵抗感を持っていたのだ。それが分かっただけでも、読んでよかったと思う。

 

なぜもっと早く読まなかったのか? 一足先に公表された日本公認会計士協会のコメントではこの問題はスルーされていた。そのため、まさかASBJがこの問題を拾っているとは思わなかったのだ。残念。

 

話を戻すと、その点、ASBJの逆提案は、蓋然性の閾値を設けることで、企業にその判断を要求するため、従来通り資産かどうか(或いは、負債かどうか)を、最終的に企業が決定することになる。やんわり、IASBの大胆な提案(或いは、野望?)を退けた感じだ。とてもスマートだと思う。

 

それならいいじゃないか! とみなさんは思われるかもしれない。でも何かが引っ掛かっている。恐らく、蓋然性の閾値とは比べ物にならない程度の僅かなレベルなのだが、微妙に背中を押される方角が違っているような気がしている。(但し、そもそも、ASBJが僕の背中を押すことなど、ありえないが。)

 

 

ということで、ジャンプでいえば、素晴らしい向かい風と思ってジャンプ台を滑り下りてきたが、飛んでみたら横風が混じってたような感じで、今僕は体勢を崩しかけている。高梨沙羅さんなら、この程度にびくともしないだろう。しかし、半年もこの問題で頭を悩ましている僕の実力では、そうはいかない。ついつい、「ASBJのおっしゃる通りです」と自分の姿勢を崩してしまいそうになる。それは、高梨沙羅さんのいうように自分に実力がないからだ。それは分かっているが、崩れたくない。みなさんは、「いい加減に次へ進め」というかもしれないが、悪あがきをもう少し続けようと思う。そこだけは、上村愛子さんのような不屈の闘志で。(上村さんを引合いに出すのは、恐れ多いが。)

 

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