338.DP-CF29)会計上の不確実性~混迷から脱出!
2014/2/18
葛西紀明さんは凄い。ジャンプ(ラージヒル)で史上最年長メダリストになった(銀)。日本はそのレジェンド葛西を中心に、団体戦も期待できるという。楽しみだ。もちろん、フィギャー・スケートの羽生結弦さん(金)も、ノルディック複合の渡部暁斗さん(銀)も、そして他の方々もそれぞれドラマがあって素晴らしい。(しかし、恐れていた通り、BS1のヨーロッパ・サッカー放送枠は減ったようだ。)
さて、前回は(2/13の記事)、IASBの「不確実性への言及を定義・認識規準から削除すべき」という提案に対し、ASBJ(企業会計基準委員会)は「不確実性への言及を定義からは除外してもよいが、認識規準には残すべき」と主張していることを紹介した。これからは、僕なりの理解で、具体的な勘定を想定して、もう少し掘り下げてみたいと思う。但し、今回は現時点における着眼点のみ記載したい。
【売掛金 vs. 進行基準売掛金】
2011公開草案「顧客との契約から生じる収益」の31項では、収益の認識規準を次のように表現している。
企業は、企業が約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することにより企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)収益を認識しなければならない。資産は、顧客が当該資産の支配を獲得した時に(又は獲得するにつれて)顧客に移転される。
IASBの提案とASBJの主張では、履行義務を充足した売掛金と、履行義務を充足するにつれて発生する進行基準の売掛金で、違いが現われるだろうか。特に後者については、進行中の案件に対する収益認識なので、不確実性がより強く関わってくるような気がする。
【のれん(買入のれんと自己創設のれん)】
IASBはすべての資産・負債はB/Sに計上すべきであるとしたうえで、本来資産の定義に当てはまる自己創設のれんを資産計上しない理由を次のように述べている(当ディスカッション・ペーパー 4.9c)。
・・・IASB は、自己創設のれんを認識することは、財務諸表の目的を満たすためには不要であると結論を下した。財務諸表は、報告企業の価値を示すようには設計されていない。自己創設のれんを測定するには、報告企業の価値の見積りが必要となる。したがって、自己創設のれんを認識することは、目的適合性のある情報を提供しない。・・・
では、現行のIFRSで自己創設のれんの資産計上を禁じている根拠を見てみよう。IAS38号「無形資産」49項には次のように記載されている。
・・・自己創設のれんは、信頼性をもって原価で測定できるような、企業が支配する識別可能な資源ではない(例えば、分離可能でも契約その他の法的権利から生じたものでもない)ことから、資産として認識されない。
4.9cは「価値」と言い、IAS38.49は「原価」と言っている。そして、同じようなことを言いながら、実は違うポイントで資産性を否定している(前者は目的適合性の観点、後者は信頼性、即ち、忠実な表現の観点)。即ち、見解を変更していると思われる。実は、僕は前者(=このディスカッション・ペーパー)の方が説明としては良いと思うのだが(但し、完全には納得していない)、問題は、その見解の変更が、次の無形資産にも及んでいると思われるところだ。
即ち、(M&Aによって取得した無形資産だけでなく)自己創設した無形資産の資産計上をさらに進めようとしていて、しかも、どうも原価ベースではなく公正価値ベースの測定が意識されている気がする。
M&Aによって取得した無形資産については、M&Aによるものであるために公正価値評価になっているが、M&Aのときにできるならば、自己創設のものについてもできると考えているのではないか。それが、「原価」から「価値」へ言葉が置き換わった理由ではないかと僕は勘繰っている。
【評価(=測定)が難しい無形資産】
これに関しては、IASBは次のように記載している(4.9d)。
一部の自己創設した無形資産を測定することの便益は、その結果生じる測定値が財務諸表利用者にとって目的適合性がない場合、又は当該資産の識別及び測定にコストがかかり過ぎる場合には、コストを上回らない可能性がある。
自己創設のれんと自己創設無形資産を、最初から違うものとして記載しているようだが、両者の区別は簡単だろうか。予想されるのは、M&Aの個別規準(IFRS3号のB31~)と同様に、分離可能性を持つ要素、契約やライセンスなどの法的権利に起因する他の一般企業より有利な要素を識別可能資産としたうえで、公正価値で評価させようとすることだ。
また、IASBは、次のように記載しているので(4.11)、仮に不確実性への言及が概念フレームワークに残っても、一端、IASBが個別規準で資産計上すべきと決めれば、IASBが自己創設無形資産と指定したものは、資産計上しなければならない。
「概念フレームワーク」は基準ではなく、基準に優先するものではない。したがって、基準が資産又は負債の認識を要求している場合に、作成者が「概念フレームワーク」における認識規準を、当該要求事項を覆すために使用することはできない。
目的適合性と測定コストは、企業によって違うと思うが、IASBが一律に決めてしまってよいものだろうか。もちろん、個別規準は所定のデュー・プロセスを経て設定されるので、公開草案等で一般の意見も寄せられるし、一部は反映されるとは思うが。
このディスカッション・ペーパーに直接記載されていないことまで心配してしまっているが、これが単なる杞憂、取り越し苦労であれば幸いだ。或いは、杞憂などと表現するのは間違いで、新しい会計、さらには新しい経営手法への入り口をIASBが示唆しているという結論に至るかもしれない。
ASBJの含蓄の深いコメントを読むことで、ようやく僕は長い混迷から抜け出せ、焦点を絞れたような気がする。今まで長々とお付き合いいただいたみなさんには大変申し訳ないが、今まではトレーニングで、これからが本番ということかもしれない。漸く、これから僕にとってのオリンピックが始まるようだ。但し、オリンピックはきっとすぐ終わる。恐らく、あと数回ぐらい・・・。
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