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2014年3月 7日 (金曜日)

345.DP-CF34)公正価値~市場参加者目線の経営への役立ち

2014/3/7

タイトルをご覧になって「なんじゃ、こりゃ」とお思いになった方は多いだろう。“会計上の不確実性”シリーズはどこへ? 急に“公正価値”へ変えられては困る、と。

 

まず、目的地はあくまで“会計上の不確実性”であると改めて確認申し上げる。ただ、ちょっと公正価値の奥が深そうなので、数回続く可能性がある。そこでタイトルの付け方をちょっといじったということをご了解いただきたい。

 

そして今回は、公正価値と不確実性の関係と、公正価値の見積りは、(IFRS13号「公正価値」の規定の仕方によっては)経営との関係が深いかもしれないということを説明したい。

 

 

まず、公正価値と不確実性の関係について。IASBは、不確実性は資産等の“定義”や“認識”というより、“測定”の問題と考えている。そして“測定”とは、財務諸表に計上する際の“金額の決め方”のことなので、“原価か、公正価値か”というようなことだ。

 

さらにIASBは、次のように公正価値には不確実性が反映されていると考えている。

 

・市場価格には、市場参加者の将来予想が反映されている(不確実性も考慮されている)。

 

・市場価格がなくそれを見積る場合は、上記と同様の不確実性が考慮されなければならない。

 

即ち、市場で売買が成立している価格は、購入者がその財・サービスを利用・転売して利益が出せるという将来予想に基づいた価格であり、利益が出せるかどうかという不確実性は、購入者によって考慮されている。公正価値を見積る作業は、そういう(企業外部の)市場参加者目線に立つことなので、公正価値と(企業外部者にとっての)不確実性は関連していることになる。

 

 

しかしみなさんは、「IASB目線の話は分かったが、それは市場参加者という外部者の話だろう。それと企業自身、即ち、経営がどう関わるのかと、それがどう役立つのかを説明してくれ」と思われているかもしれない。

 

公正価値には、「市場価格がある場合」と、「ないので見積る場合」があるが、前者にはあまり深みはないように思う。しかし、後者は実に深い。その理由は、前者は不確実性を市場参加者が考慮した結果の価格を企業が入手できるが、後者は不確実性を企業自身が考えなければならないからだ。しかも、その不確実性は、その企業が認識する不確実性ではなく、市場参加者にとっての不確実性だ。即ち、企業が資産を売却する場合に、相手(=第三者)はその資産(とその不確実性)をどう考えるかという第三者目線で自らの資産を考えることになる。

 

「相手(=顧客)から自分(=我社)がどう見えるか」を直接考える機会は、あるようでないと思う。特に管理部門はそうではないか。しかも、このシリーズで話題にしているのは、自己創設ののれんや無形資産だ。資産計上されていないし人的要素の側面が強いので、企業の公式な仕組みとして意識されることは、通常、あまりない分野だと思う。しかし、相手(=顧客)はそれを企業イメージとして感じているし、企業価値の重要な部分を占めることもある。

 

個人のレベルでは、“自分を客観視する”ことの重要性はしばしば強調される。一時、“サラリー・マンの市場価値”が随分話題になったが、これもその一形態といえるだろう。また、配偶者から厳しい指摘を受けて反省した経験を多くの人が持っているようだ。反省したということは、指摘を受けて良かったと感じたのだと思う。そのとき配偶者から「他の人からどう見えるかを意識しなさい」と(クドクド)言われた方も多いだろう。しかし、実際にはなかなか難しい。

 

企業でも同じだ。重要なのに難しいので、監査法人から提出される“マネジメント・レター”に期待をかけている会社は多いし、お金をかけて外部の診断を受けることもある。しかし重要なのは、そのような外部の指摘を受けて「企業自身がどう行動するか」だ。外部者に見てもらえるのはほんの一部だし、ある一時点の姿に過ぎない。そこで、その他の部分については、企業が自らを客観的かつ継続的に観察できるようになることが必要になると思う。

 

どうも、“自分を客観視する”精神においては、公正価値の見積りと企業経営には関係がありそうだ。(ちょっと話題が逸れるが、“外部取締役制度”にも、同じような意味があるのかもしれない。“配偶者からの厳しい指摘”が、ちょうどイメージに合う。だから嫌がってるのか・・・)

 

事業レベルで考えると、自らの事業を客観視できることが、良い戦略、良い事業計画を策定する基礎になるのではないか。また、企業レベルでそれができれば、ブランディングにおおいに役立つ。日本企業はしばしば戦略不足とか、ブランディングが苦手と言われるが、公正価値の見積りに関連付けてこれらをもっと上手にできるようにならないだろうか。もしなるなら、経営に役立つことになる。コストをかけてやる価値がある。

 

僕は、公正価値の見積りがそういう役立ち方をするのであれば、自己創設無形資産の評価に適用されるのは、受け入れられるように思う。むしろ、どんどん推進したいと思うかもしれない。しかし、そうでないならば、経営にとって無駄なコストになりかねない。財務報告のためだけに公正価値を見積るとすれば、企業はコストをなるべくかけないようにするので、仮に最初は良くても段々形骸化していく。目的適合性のない情報、投資家にとってさえ役立たない、むしろ害になりかねない情報になると思う。

 

公正価値の見積りが経営に役立つかもしれない。だが、これは僕の希望に過ぎない。問題は、IFRS13号がどのような規定になっているかだ。次回こそ、それを見てみたい。

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