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2014年3月11日 (火曜日)

346.DP-CF35)公正価値~“最有効使用”の仮定(非金融資産)

2014/3/11

3年前のこの日、僕は3度驚かされた。最初は揺れ、次は津波の映像、最後は原発事故のニュースだ。これに加え、首都圏のみなさんは、帰宅困難で異常な状況に疲労困憊だっただろうと思う。さらに被災地では、自分と親族・友人、或いはたまたま居合わせた人々の命のために、神仏に祈る思いをされたと思う。しかし、段々、世の中の東日本大震災への思いが薄れてきたと言われる。それじゃ、まずいということで、最近では「被災地は東北じゃない、日本だ」と言われるようになった。「みんなで当事者意識を持とう」ということだろうと思う。

 

僕は、この言葉は言い得て妙だと思う。確かに、被害を受けたのは日本全体だ。例えば、円安になっても輸出が伸びないのは、被災地企業と共通の原因があるようだ。被災地企業の多くは、震災後に操業を再開できても、すでに顧客が別の仕入先に切替えてしまい、以前のような売上を上げられない。日本企業も、リーマン・ショック後の需要蒸発と円高に加え、東日本大震災による供給不安が加わり、世界のサプライ・チェーンから弾き出されてしまった、或いは、従来より不利な立場に立たされたと、当時報道されていた。そして現実にも、“日本企業の製品には代替品がある、強力な競争相手がいる”という事実を突き付けられた。

 

東北では、“元に戻る”復旧ではなく、“新しく興す”復興が行われているという。農水産系の製品であっても、従来とは異なる生産方法、販売方法・経路、協業体制を開発し、がんばっている人たちがいるのだそうだ。また、東北を“日本社会が抱える課題の先進地域”と捉えて、イノベーションを起こそうとしている企業もあるという。

 

Biz+ サンデー 復旧から復興へ/東北被災地発の新ビジネス

NHK オンラインの HP にジャンプ)

 

最近は、こういう視点の番組を時々見るようになった。だが、注意深く見ていると、どうも、まだ成功例というには時期早尚のようだ。試行錯誤の最中、或いは、ようやくあるべき姿らしきものが見えるようになった、ぐらいの感じかもしれない。イノベーションは、簡単に、短時間でなされるものではない。しかし、チャレンジしないことには新しいものは生まれない。

 

日本企業にとっても同じことかもしれない。新興国経済が急成長し、米国経済がリーマン・ショック前の規模を上回り(2011 年の実質 GDP )、欧州経済の危機も去ろうとしているが、アベノミックスで円安になっただけでは、日本企業の輸出は簡単には増えない。円高対策や供給能力分散のために海外生産が進んでいるし、なにより、イノベーションには時間がかかる。日本企業も、今、チャレンジの真っ最中ということかもしれない。

 

 

さて、前置きが長くなったが、前回(3/7の記事)は、市場参加者の視点の重要性がテーマだった。今回は、公正価値の見積りにおける“最有効利用”の仮定だ。これについてIFRS13号「公正価値」の 27 項には次のように記載されている。

 

非金融資産の公正価値測定には、当該資産の最有効使用を行うこと又は当該資産を最有効使用するであろう他の市場参加者に売却することにより、市場参加者が経済的便益を生み出す能力を考慮に入れる。

 

これは、平たく言えば、“誰が、最も高い値段をつけるか”を想定することだと思う(但し、関連当事者を除く。あくまで市場参加者、自己の利益を最大化する第三者のイメージ)。

 

加えて、その最有効利用を行うために必要なその他の資産・負債(=補完的な資産及び関連する負債)は、その“誰か”がすでに保有している、或いは、独自に調達できると仮定する(IFRS13.31(a))。したがって、その資産がその企業特有の特殊な環境で使用されており、それが最有効利用の方法だとしても、その“誰か”は、その特殊な環境を持っていると仮定できる(IFRS13.BC78)。その代り、企業が特殊な環境を実現するその他の資産・負債をセットで売却できるとしても、そのプレミアム分を公正価値に上乗せすることはできない(IFRS13.BC77 )。

 

これを、このシリーズの前々回(3/5 の記事)の「WhatsApp 社が自己創設無形資産を計上する場合の公正価値の見積り」で考えたらどうなるか。前々回の結論だけ要約すると次のようになる。

 

(顧客リスト)

 

WhatsApp 社は、ユーザーとの契約上外部へ販売できないから、自己創設無形資産に計上することはできないと判断した。(M&Aのときは買収側が購入すると仮定できる。)

 

・仮に契約上外部販売ができるとしても、市場参加者の資金調達能力やビジネス・モデル(ユーザー当たりの収益性や新規ユーザー獲得確率など)に、どこまで都合の良い仮定を置けるのか。

 

(一般より有利な契約等…借上げ社宅)

 

・あまり重要な金額にはならないが、計上する可能性はある。

 

・但し、個々の物件に個性があるので、有利・不利、或いは、その程度を厳密に測定するのは困難かもしれない。

 

(売却可能なノウハウや研究、データ)

 

・企業ごとに個性があるが、都合の良い特別な買い手を想定することは可能か、疑問がある。

 

 

ん~、なんとなく、疑問を呈したところは、最有効使用の仮定でなんとかなりそうな気がしてきた。しかし、前回の市場参加者目線という制約がある。もう少し深化させる必要がありそうだが、それは次回にさせていただきたい。それに、このような公正価値を見積りと経営の関係、そして重要性の判断についても、検討していきたい。第三者目線と最有効使用の仮定は、被災からの復興を目指す日本と日本企業のイノベーションに役立つだろうか。

 

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