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2014年3月28日 (金曜日)

352.DP-CF40)公正価値:売却可能なノウハウや研究、データ~STAP細胞研究の測定(1)

2014/3/28

今回のテーマは“売却可能なノウハウや研究、データ”だが、このテーマを見て、ふっと「小保方晴子さんの STAP 細胞の研究なら、どのように評価されるだろう?」と思い浮かべた方は、少なくあるまい。「ちょっと酸性溶液に漬けただけで簡単に万能細胞が作れるなんて、この研究には素晴らしい価値があるに違いない」と。もちろん、その後、研究の信頼性について問題が発覚していることは僕も知っている。しかし、だからこそ、面白い。例えば・・・

 

 もし、1/28 の記者会見時点と、その後発覚した問題の検証中である現在の2時点で公正価値測定をしたら、評価額は極端に変わるのか。

 

変わるとすれば、それは財務情報(=資産計上対象)として相応しいか、即ち、有用な財務情報の基本的な特性である目的適合性と忠実な表現を満たした情報といえるか?

 

1/28 や現時点で財務情報に相応しくない(=資産計上しない)とすれば、今後のどのタイミングで相応しくなるか?

 

理化学研究所(以下「理研」と略す)によって行われている調査が確定することが最低条件だろう。恐らく、その後論文は修正され、第三者的な研究者によって追試が行われる。その結果が確定したときだろうか?

 

WhatsApp 社からすっかり離れてしまったが、僕は 2/7 の記事で「WhatsApp 社には、計上すべき“売却可能なノウハウや研究、データ”はないかもしれない」と書いている。したがって、このテーマではWhatsApp 社は出てこない。このテーマは、WhatsApp 社とは全く関係のない内容になることをご了解いただきたい。

 

 

さて、このディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」がそのまま認められれば、資産は“資産の定義”に合致したものすべてが資産計上される(正確には、“IASBが資産に計上すべきでないと判断したもの以外は”という条件が付いている。4.26~)。その提案されている資産の定義とは、次のようなものだった。

 

資産の定義:過去の事象の結果として企業が支配している現在の経済的資源2.11

 

経済的資源:権利又は他の価値の源泉で、経済的便益を生み出す能力があるもの(同上)

 

したがって、企業内で行われている研究開発は、“経済的便益を生み出す能力がある”と判断されれば、(IASBが個別に否定しない限り)資産の定義に合致するので、資産計上されることになる。例えば、M&Aの規準では(取得企業という買い手があったという理由で)研究開発プロジェクトは、経済的便益を生み出す能力があると判断される(IFRS3.BC152)。STAP 細胞の研究は、1/28 の時点なら、買い手がいたかもしれない(理研がこの研究を売ろうとしているかどうかは関係ない)。或いは、「この研究に対し巨額の補助金や投資があるだろう」と予想することは、この研究の経済的便益を生み出す能力を認めることになる。

 

 

ここで、ちょっと立ち止まって整理してみよう。

 

お気付きのように、最初のシンプルな疑問(以降“前者”と記載)と、その後に記載したディスカッション・ペーパーに沿った考え方(以降“後者”と記載)では大きな開きがある。前者は、研究プロセスにはいくつかの区切りがあって、そのどこかに資産計上のタイミングがあると考えている。一方、後者は、研究プロセスの区切りには関係なく、買い手が現われるとか、補助金や投資を受けられるといった外部からお金を引出す能力の有無に関心を集中させている。

 

この違いは大きい。これを意識しないと、ディスカッション・ペーパーの意味するところを理解できないに違いない。

 

我々は、前者の考え方に馴染みがあるので、自然とそういう思考をしがちだ。しかし、それは後者とは相容れない。後者は、市場参加者目線で最有力使用の仮定を使用する公正価値測定の考え方だ。仮に、理研が「現時点でこの研究には価値がない。むしろ、損失を生む」と考えているとしても、もし、市場参加者の中に買いたい人がいると分かれば資産計上されることになる。逆にいえば、1/28 の時点で、理研が「この研究には極めて大きな価値がある」と考えていたとしても、それだけでは資産計上の根拠にはならない。誰か外部にお金を出す人がいるかどうかこそが重要だ。即ち、徹底的に第三者目線であることが求められている。

 

僕は、この“徹底的な第三者目線”は、経営に必要な視点だと思う。これは、顧客のニーズや技術動向を探る、業界での位置を把握する、社会の未来像を想像するといった経営戦略立案に不可欠な要素であり、自己の希望や楽観を介入させてはいけないところだ。部門や個人レベルの予算・目標管理にも必要だ。第三者目線を強く意識しなければ甘えてしまう。しかし、これを苦手とする企業は多いのではないか。もし、会計規準がこの“徹底的な第三者目線”を通じて、企業の経営戦略の策定やもっと日常的な管理の精度を上げることに役立つとすれば、その意義は大きいと思う。

 

一方で、不確実性への対処は実務的に非常に困難な問題だ。しかし、IFRS13号「公正価値測定」では、それを“市場参加者の想定”みたいな簡単な言葉で片付けている。例えば、次のような書き振りだ。

 

・・・。用いる評価技法に関係なく、企業は、適切なリスク・プレミアムを含めなければならない。これには、市場参加者が資産又は負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対して対価として要求するであろう金額を反映するリスク・プレミアムが含まれる(B17項参照)。そうしないと、その測定は公正価値を忠実に表さない。場合によっては、適切なリスク・プレミアムを決定するのは困難である。しかし、困難の度合いだけは、リスク調整を除外する十分な根拠とはならない。リスク調整は、現在の市場の状況下での測定日における市場参加者間の秩序ある取引を反映するものでなければならない。IFRS13.B39

 

要するに、「市場参加者はいつも不確実性を評価して行動しているのだから、企業(=作成者)も同じようにやればいいでしょ」と言われているようで、面白くない。それが一番難しいのに「みんなやってるじゃん」と言われてるように感じる。「そんなに簡単じゃない!」と、叫びたくなる。「経営は正にその不確実性と戦ってるんだ!」と言いたい。

 

しかし、ちょっと冷静になってみると、「その最も難しいチャレンジを首尾よくこなすコツは“徹底的な第三者目線”を持つことだ」とIASBが言っているようにも思える。小難しい計算理論や技法ではなく、“徹底的な第三者目線”こそが、問題の本質であり、重要な解決策だ。

 

 

ということで、今回は、市場参加者目線、第三者目線の重要性を強調することに留め、次回は STAP 細胞の研究について、さらに突っ込んで考えてみたい。

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