354.DP-CF42)公正価値:売却可能なノウハウや研究、データ~STAP細胞研究の測定(3)測定の対象となる収入
2014/4/4
このところ、“円安株高”傾向が復活してきた。投資の世界では「うわさで売って、ニュースで買う」というらしいが、今の状況は、既に消費増税のリスクを十分織り込んで(=売って価格が下落)、実際に税率が上がったところで買いに転じたということだろうか。
このように市場価格はしばしば乱高下するが、公正価値も、インプットをなるべく観察可能な市場価格に頼らなければいけないので、その時々の市場の状況を反映して大きな変動がある。さて、STAP 細胞研究の価値は、この一連の動きの中でどのように変動するだろうか。ということで、本題に入ろう。
・研究プロジェクトの公正価値測定は理研の経営に役立つか。
役立つが弊害もある。要は使いようではないか。
理研(独立行政法人理化学研究所)が社会的役割を果たすためには第三者目線が必要であり、その意味では、公正価値測定は必要といって良いかもしれない。しかし、公正価値を独り歩きさせると、成果の出にくい画期的な研究や若手研究者の育成が阻害されるだろう。そうなると理研の経営にマイナスの影響を及ぼす。
この弊害を防ぐためには、公正価値を利用する一方で、研究テーマ選択や若手育成に関して、理研独自のポリシーを強く持つ必要がある。理研の経営者は、このバランスをうまく保たなければならないし、そのバランスのとり方が理研ブランドの強さの源泉になると思う。
公正価値測定を行わないとすれば、このようなバランスを経営者が意識することは少なくなるので、理研独自のポリシーを堅持しようとする意識も弱くなる。しかし、それでは理研ブランドも強くできないから、公正価値測定はあった方が良いと、僕は思う。理研独自のポリシーをアクセル、公正価値測定をブレーキと見做せば、アクセルとブレーキは両方強力でないと、素晴らしい自動車にならない。
・重要な仮定の追加
しかし、大問題がある。
公正価値は、ある一時点での経済的便益生成能力を測定して計算する。経済的便益は将来キャッシュフローのネット(=純額)の流入額なので、期待される収入から支出を差引いた差額を現在価値に割引いて計算するイメージになると思う(DCF法=Discounted cash flow 法のイメージ)。すると、研究活動をサポートするような収入(補助金や研究費の負担金など)は、研究費支出と相殺されてネットの流入額を生じないことがほとんどだと思う。元々理研は非営利研究機関なので、ほとんどすべての収入がこのようなものである可能性が高い。そうすると、ほとんどすべての研究が公正価値ゼロになってしまう。
ん~、そうなのだろうか。・・・そうなのだ。
ということで、みなさんの会社の研究プロジェクトについて考えるときは、補助金等の将来の支出と相殺される性格の収入は、獲得が決まった時に未収入金(/前受金)に計上すればよいのであり、公正価値測定の対象にする必要はないと思う。その代り、他社からの研究成果を譲ってほしいという申入れや、他社が上手に事業化した場合にどれぐらいの価値を生み出すかを想定することになる。しかし、非営利研究機関である理研について同様に考えると、公正価値測定は経営にほとんど役立たない。そしてなにより、STAP細胞研究の公正価値測定というこの検討も“的外れ”になってしまう。
しかし、思い出してほしい。そもそもこれは会計上の不確実性を検討するために設定したテーマであり、測定における会計上の不確実性の特徴をうまく切出せるなら、このまま検討を続けることもありなのではないか? 苦しい言い訳なのは分かっているが、IFRSから除去されて一部に批判のある“保守主義”とも関係して重要性が高いので、このまま進めさせていただきたい。
ということで、この検討においては、(実際とは異なる)仮定を一つ加えさせていただきたい。
理研の支出をサンク・コスト(=sunk cost、埋没原価)と見做す。
即ち、理研の支出は基本的には国等によって賄われるとし、その他に個別の補助金獲得に成功したり、研究費負担の申入れなどがあった場合は、追加の収入(=ネットのキャッシュインフロー)になると考えることにする。
こうすることで、STAP 細胞研究のような多くの派生研究を生む革新的な基礎研究に、公正価値測定による光を当てることができる。将来、多額の個別補助金を見込めるとか、多くの企業から研究費負担や共同研究などの申し出がありそうな研究プロジェクトは、その社会的影響の大きさを反映して、公正価値測定額も大きく計算されることになる。(ちょっと強引な仮定ではあるが。)
・公正価値測定の対象となる収入
ということで、くどいが、研究プロジェクトが生み出す経済的便益として僕が考えているのは、研究成果が評価された結果として獲得できる、プロジェクトに紐付いた個別の補助金収入や、共同研究の申入れ(研究費負担の申入れ)、委託研究の申入れ、寄付、研究成果等の売却収入、特許権収入等であり、理研が一括してもらい、理研の経営者の裁量で各プロジェクトに割当てられるようなものは含まれない。
さて、「うわさで売って、ニュースで買う」ということなら、小保方さんの株は、ネット(=インターネット)上で色々言われていた時に売られて十分に下がり、最終報告書が出たところで買戻しが入るということになる。実際は、どうだったのだろう。いずれにしても、論文発表時の史上最高値にはほど遠い。今後の本人の地道な努力に期待したい。
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