355.【番外編】STAP細胞論文の調査報告書
2014/4/8
小保方さんは、明日(9 日)記者会見するそうだ。どんな内容になるか、ちょっとハラハラする。会見といえば、今日は日銀黒田総裁の記者会見がある。これは例の黒田バズーガ砲(=異次元の金融緩和)から1年の区切りの会見になるが、僕にとっては小保方さんの方が気になる。もし、小保方さんがバズーガ砲を発射するなら、理化学研究所の組織風土の闇を白日の下にさらして欲しいが、被告人席に座らされているような今の状況では無理だろう。
一応、理研ホームページの「研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について」にある報告書にざっと目を通してみた。残念ながら、科学的内容は難しくてよく分からない。しかし、研究データの扱い・管理に問題があったことは分かった。
ご存じのように、報告書で研究不正とされたものは2つある。その一つは、ある画像の一部が切取られ、別の画像に都合よく尺が合わされ合成されていたこと。報告書はこれを「改竄(かいざん)」と判断している。2つの画像はそれぞれ異なる種類の細胞に由来する画像なので、素人感覚では、それを合成することはありえないように思える。なので「捏造(ねつぞう)か?」と思ったのだが、「改竄」とされた。違う細胞でも、同じ「T細胞受容体遺伝子再構成を示すポジティブコントロール」というものを重ね合わせて合成したものだからなのか。残念ながら、僕にはその合成画像がどの程度研究に重要なのかは分からない。
しかし、もう一つの方は、僕にも重要性が分かる。こちらは“酸性溶液に浸すだけで STAP 細胞ができる”というこの論文の主張の根幹に係る画像だからだ。“酸性溶液に浸した”のではなく、“機械的ストレスをかけた”実験の画像を貼ってあったようだ。これは「捏造(ねつぞう)」と判断された。ただ、良く分からないのは、“機械的ストレス”は小保方さんの学位論文のテーマなので、“学位論文のデータを使用した”と書いてある一方で、“学位論文の画像に酷似している”とも書いてある。“使用”と“酷似”ではかなり違う。もしかしたら、画像の出所が(調査委員会にも小保方さんにも)正確に分からないのではないか。この辺りが、研究データの扱い・管理が「杜撰(ずさん)」と表現された理由の1つなのだろう。
会計でいえば、いくつかの重要な伝票が、証憑書類が残されていないうえに明らかに間違っており、この影響が財務諸表全体の信頼性を揺るがしている状況だ。こういう場合、監査意見は出せない。みなさんもご存じの通り、不正確な財務諸表が公表されたら、その責任は伝票起票者に留まらない。伝票をチェックする上司にも、内部統制やその環境を整備・運用する経営者にも及ぶ。そして多くの場合、組織風土に重大な問題がある。しかし、この報告書はそこまで掘り下げてないし、改善策もない。起票者を悪者にし、上司に管理責任を問うただけでは再発防止はできない。
報告書を読んだ感想は、“研究を客観的に評価する内部統制がなさそう”ということだ。研究の信頼性は、各研究者個人の倫理観に頼っている感じだ。例えば、報告書に添付されている「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」を見ると、次のようなことが想像できる。
・第4条に研究者の所属長の責務が規定されているが、この報告書では所属長の責任に触れていない。
会計でいえば、証憑書類をちゃんと保管し、いざ問い合わせがあったら対応できるように、所属長は教育し、確認することとされている。今回は明らかにここに問題があるが、小保方さん以外の関係者に対し、共同研究者としての責任追及はあっても、この観点の指摘はない。報告書のまとめの文章でも、研究データ保管の杜撰さは小保方さん個人の責任にされている。ということは、第4条は機能していないのではないか?
・第15条に調査の方法が規定されているが、調査対象が研究者個人に集中している。
会計であれば、証拠書類の保管は、営業担当者や出納担当者にはさせない。いわゆる“職務と権限の分離”とか、“内部牽制を働かせる”といった仕組みから物的証拠を得られ、また、内部規定に沿った手続きがとられているかどうかを確認できる。すると、個人がいなくても、かなり外堀(金の動き、承認状況、進捗状況等)を埋めることができる。しかし、第15条では「科学的に適正な方法及び手続」とか「科学的根拠」を研究者個人が説明することが主となっており、証拠資料(研究データ等)の保管も個人任せが前提のように感じられる。
報告書のまとめの文章は、小保方さん以外の共同研究者について「担当研究者(小保方氏)以外の研究者(本件共著者等)が慎重にすべての生データを検証するという、当然発揮することが予定されている研究のチェック機能が果たされていなかった」と批判しているが、この「当然発揮する・・・チェック機能」というのが曲者だ。恐らくこれに関して内部規定もないのだろうし、このようなチェックは殆ど行われてないのだろう。実態が透けて見える書き方だ。
理研は、組織として対応しなければならない課題がたくさんあるのだと思う。実験や研究データ管理に第三者を介在させる牽制機能の設計・整備、研究の進捗管理の方法、STAP 細胞論文のような重要な研究論文の内部審査の方法、そして、研究者に対する倫理的な教育や、こういうものを疎かにさせてきた環境的要因の改善(研究予算獲得の仕組みなど)。理研に、そういうところまで目が届くプロの経営者はいるのだろうか。
科学技術立国日本にとって、理研は大事な組織だと思う。改善するには、監督官庁も含めた対応が必要かもしれない。
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