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2014年4月10日 (木曜日)

356.【番外編】2つの記者会見の“不確実性”~日銀黒田東彦総裁と小保方晴子さん

2014/4/10

2つの記者会見とは、日銀黒田東彦総裁と小保方晴子さんの会見だ。みなさんは、「この両者を比べる意味があるのか?」と思われたかもしれない。僕の着眼点は次の通り。

 

将来を自信を持って語る黒田氏と、その将来が不安で仕方ない小保方さん。果たしてどちらの記者会見が成功したのだろう。

 

 

まず、黒田氏の会見は8日の午後に行われた。僕は初めて黒田氏をじっくり拝見したが、ゆっくりとした穏やかな口調で、予想以上に紳士的な印象が残った。しかし、その内容は「日銀の量的質的緩和政策は予想通りの成果を上げており、消費税増税の影響を含め今後の見通しにも自信がある。よって追加緩和は考えていない。」というもので、語り口のソフトさとは異なり、強い自信に満ちていた。

 

その後円は欧州・米国時間に1円以上円高に振れた。その原因について新聞は、一部にウクライナ情勢の緊迫化を挙げる見方もあるものの、ほぼ、黒田総裁の会見の影響という意見を紹介していた。

 

日銀総裁が日本経済の先行きに自信があるなら円高も当然だ(し、それは日本経済にとって良いことだ)。

 

と思われた方はいらっしゃるだろうか? 僕はそう思った。お陰で、昨日9日の日経平均は 300 円以上の暴落となったが、黒田氏の言うとおり増税の影響も十分乗越えられるのであれば、中長期的には良いことには違いない。しかし、それだけでは割り切れないことがある。日銀には「市場との対話力向上」というテーマがあったからだ。

 

今回の会見は、初めて生中継が日銀から許可された。市場とのコミュニケーションを重視する欧米の中央銀行総裁の会見は既に可能になっていたが、今まで、日本の場合は会見が終わるまで記者は会場を出られず、記事や映像を公表することが禁じられていたという。そもそも、黒田氏が日銀総裁に選ばれた理由の一つが「市場とのコミュニケーション能力」だった。政権側は、従来の日銀総裁のこの能力に不満があったのだ。これは、そういう期待に応えた措置ともいえるし、日銀が対話力向上に取り組んでいる一つの現われでもある。

 

しかし、結果は円高・株安という形で現れた(一時的かもしれないが)。もちろん、日銀はこの結果を望んでいなかっただろうから、なぜこうなってしまったのか、分析しているに違いない。反省材料は何か。新聞を読む限り、それは、黒田氏の「自信たっぷりな話しぶり」のようだ。

 

市場では、アベノミクスの評判が低下する中で、日銀の量的・質的緩和政策は相変わらず信頼されている。したがって、第3の矢に期待できなくても、日銀の追加緩和が市場の円安期待を繋いでいる。とはいえ、今回追加緩和がないことについては、市場の大方の予想と一致していたから、一部の過剰な期待を持った人々を除き、この結論に驚きはなかった。しかし、そのあまりの「自信たっぷりさ」に、今回だけでなく将来もなさそう、或いは、あっても時期が後ずれするという見方に変わったらしい。それが円安期待を後退させ、株安に繋がった。

 

実は、僕が会見の映像を見た感想は「黒田総裁は紳士で自信にも溢れて頼もしい」だった。「そうか、我々はもっと自信を持っていいんだ」とさえ思えった。最近、ECB(=欧州中央銀行)議長のドラギ氏のオオカミ少年ぶり(ユーロが高すぎ、かつ、 インフレ率も低すぎるので、会見のたびに金融緩和する雰囲気を醸し出しながら、結局何もしない)に苦笑していたこともあり、なおさらそういう思いを強くした。

 

しかし、8日夜から9日の市場の反応を見ると、オオカミ少年でも市場をうまくユーロ安方向へ動かすことができているドラギ氏の方が、黒田氏より上手なのではないか、と思い始めている。恐らく、黒田氏は、将来の不確実性に対する謙虚さに欠けているのではないかと思うようになった。

 

もちろん、黒田氏は「必要があれば躊躇なく(金融政策を)調整する」と繰り返し述べている。したがって、追加緩和の可能性を否定しているわけではない。しかし、その前に枕詞のように「従来から言っているように」を付けている。そう、日銀のスタンスの一貫性・継続性を強調しているのだ。しかし、市場が見たいのは変わらない日銀ではなく、状況の変化に柔軟に対応する日銀、動く日銀なのではないだろうか。ちょうどそれは、IFRSが、継続性より実態の忠実な表現を重視するので、会計方針の変更を厭わなくなっているのと同じように。(これについては、以前このブログに記載した(2012/1/27 の記事~)。日本基準も、ゆっくりとだが、変わりつつあると思う。)

 

この観点から見ると、黒田氏が、現時点の生産・消費・在庫状況や、労働市場の需給、GDPギャップ、ミクロ情報などから、自信たっぷりに「このままでも増税の影響は乗り切れる、インフレ率目標は達成可能だ」と言うより、「このようなあらゆる情報を慎重に検討するので、今後の状況の変化にも対応可能だ」という姿勢にこそ一貫性を持たせ、そこに胸を張った方が良かったのではないか。即ち、将来の不確実性に対して謙虚であることをアピールした方が良かったと思う。

 

 

一方、小保方さんの会見は、昨日(9日)に行われ、体調が悪くて入院しているにもかかわらず、2時間半も続いたという。僕が見たのは冒頭部分だけだ。小保方さんは、もちろん、黒田氏のように胸を張るわけにはいかず、ひたすら謙虚に自己の非を謝罪し、理研や調査委員会の面子を潰さぬよう気を使いながら、しかし、指摘されている論文の問題には故意や悪意はなく、STAP 細胞は存在することを主張した。

 

今の小保方さんの将来は不確実だ。200 回以上 STAP 細胞作製に成功しているにもかかわらず、今後の検証チームに参加できないかもしれない、理研からは何も知らされていないそうだ。考えてみれば、研究不正が認定されてしまえば、検証チームやその後の研究には、参加できないと考えるのが当然だろう。小保方さんは、STAP 細胞が誰かの役に立つような技術になるまで研究を継続したいと希望しているが、現実は厳しそうだ。小保方さんの希望する将来は崖の向こうにあり、その崖の幅は広い。不確実性に満ちた将来だ。

 

そんな小保方さんの言葉の中で気になったのは次のところだ。

 

STAP 現象が論文の体裁上の間違いで否定されるのではなく、科学的な実証・反証を経て、研究が進むことを何よりも望んでおります。

 

なるほど。確かに重要なのは STAP 細胞が作製できたことであり、論文の画像の不備など些細な問題だ。

え~っ、そうかあ? これは弁護士のアドバイスかもしれないが、科学技術の信頼性のために極めて重要ではないか。まだ反省が足りないのではないか? 僕は職業柄か、不正をした人に暖かい目を向けることはできない。

 

まあ、しかし、この研究は、山中伸弥教授の iPS 細胞にも匹敵するというから、科学的価値は大きい。この会見で小保方さんの不服申し立ての通り、小保方さんに弁明の機会を与えるのは良いのではないかと思った。即ち、理研がもう一度研究不正かどうかを見直すことに賛成だ。それに、前回(4/8 の記事)記載した通り、理研自身の反省がまだ足りないと僕は思っているから、この問題を簡単に収束させたくない。

 

 

将来を自信を持って語った黒田氏は、不確実性への配慮が不足していたようだ。一方、小保方さんは、不確実性に満ちた将来を認めたうえで、それを少しでも確実にしようと努力した。

 

結局、小保方さんの会見は成功だったと思う。

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