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2014年5月14日 (水曜日)

362.CF-DP46)純損益とOCI~包括利益の誕生

2014/5/14

一昨日は、ブラジルW杯の日本代表メンバー 23 人が発表された。みなさんもご存じのとおり、昨季のJリーグ得点王で今季も好調を維持している川崎フロンターレの大久保嘉人選手(170cm)が選ばれた。その一方で、ジュビロ磐田の前田遼一選手(183cm)やサガン鳥栖の豊田陽平選手(185cm)、アルビレックス新潟の川又堅碁選手(183cm)は漏れた。ザッケローニ監督は体の大きなワントップが好みと思っていたので意外だが、僕は、多くのみなさんと同様に、大久保選手が選ばれるといいなあと思っていた。恐らく、大久保選手のシュートのうまさ、決定力、そして気持ちの強さが評価されたのだと思う。僕は柿谷曜一朗選手や大迫裕也選手も好きだが、しかし、FWの軸は大久保選手に期待したい。

 

それにしても、難しい選考だったと思う。ザッケローニ監督も悩み、「(国際サッカー連盟の)ブラッター会長にも23人以上呼べないかと電話した」と記者会見で冗談交じりに語ったらしい。しかし、選ばれる選手の方はもっと厳しいし、キツイ。それでも事前に決められたルールとプロセスに従って、権限があり、かつ、一定の信頼と尊敬を受けている人が決めたのだから、選手それぞれの思いはあるとしても、従うしかない。落選した選手たちの悔しさ、辛さは想像するに余りある。選出された選手にはW杯で応援するので、今は、落選した選手のこれまでの頑張りに拍手を送りたい。

 

辛い決定を受入れるには、公正なルールとプロセス、決定者に対する信頼が欠かせない。尖閣諸島の問題もそうだが、ベトナムやフィリピンと中国の間で問題になっている南シナ海における領有権や資源開発の問題も同じだ。さらにいえば、ウクライナ東部の住民投票も。

 

「そんなことは分かってるから、早く本題に入れ!」

 

そんな声が聴こえそうだが、実は、“包括利益”誕生の裏には、厳しい立場に立たされた人々がいた。1990 年代後半の英国や米国の経営者たちだ。それまでの“純利益”は、経営者の視界の範囲で起こっていた事象、経営者の意思決定と直接関連する取引を集計していた。支出と収入に紐付いた取得原価主義の会計処理だ。これなら、経営者も責任がとりやすい。

 

それが、英国や米国で、外部環境の変化という経営者の視界から漏れがちな事象も含めて会計処理し、“包括利益”を計算することが要求されるようになった。背景には企業活動のグローバル化やデリバティブなどの金融商品の発達がある。外部環境の変化自体は経営者の責任とは言い難い。しかし、それが経営者の成績表たるP/Lに入ってくるようになる。これには当時の経営者は、かなり抵抗感があっただろうと思う(日本の今の経営者もそうかもしれない)。しかし、FASB(=米国の財務会計基準審議会)は 1970 年代から着々と研究を進め、1990 年代に英国や米国で会計基準化されることになる。それがIFRSへ伝播し、日本基準にも入ってきた。今では、世界中の経営者がこの立場に立たされている。

 

さて、この流れでP/Lに追加されたものにどのような項目があるかというと・・・

 

・長期保有の市場性ある有価証券の評価とその変動(関係会社を除く一般投資)

・退職給付債務と外部拠出年金資産の評価とその変動

・デリバティブの評価とその変動

・為替レートの変動、特に長期海外投資(固定資産・負債)の評価とその変動

・割引率を使用して評価する(長期性の)資産・負債の評価とその変動

など。

 

古い方は懐かしいと思われるのではないか。当初、これらは取得原価主義で、支出額或いは収入額に基づいてB/Sに計上されたり、デリバティブのように簿外処理されていた。そして外部環境の変動、即ち、市場価格の変動(商品市場、金利市場、為替市場の変動)による評価損益や変動額は、会計上無視されていた。その後はB/Sで財政状態をより適切に表現する観点から改善されるが、それでもP/Lを通さず、直接B/Sの資本の部を増減させたり、ヘッジ取引については、ヘッジ対象の簿価に契約条件を反映させることで、やはり市場価格の変動をP/Lに影響させないようにしていた(これらの改善は、日本では 2000 年の会計ビックバン以降に行われた。例えば投資有価証券時価評価損益の資本直入処理や在外子会社等の固定資産・負債の為替換算差額を資本の部の為替換算調整勘定計上する処理など。しかし、その評価損益や変動額はP/Lを通さなかった)。

 

割引率の変動を会計処理に反映するということは、国債などの債券市場の変動と一般企業経営者の成績を関連付けることになる。一体この両者に何の関係があるのか? 決算日の為替レートを長期の海外投資の評価に反映させるのは、数年、或いは十数年以上かけて回収する長期投資の本質に合うのか? 経営者にしてみれば、このようなものが混じりこんでくる“包括利益”で業績評価されることは、相当辛いことに違いない。

 

ところが、基本に立ち返ってみると、資本の部に色々な取引が直接記帳されることはおかしい。僕は次のように考えている。

 

ご存じのとおり、損益取引と資本取引は明確に区別されなければならない。資本取引とは、株式の払込や配当金の支払いのように、株主との取引から生じるものだけであり、それ以外に資本の部を増減させる取引は、すべて損益取引のはずだ。であれば、上記のような項目は損益取引なのに、資本の部に直接加減されるなどの方法で処理され、P/Lに現われない。これは分かりにくい。株主の持分である資本の部が増減しているのに、その理由が読み手には不明になってしまう。

 

さらに、株式会社制度にまで立ち戻ってみると、株主は、所有と経営の分離で、経営者に経営を任せている。簡単にいえば、「出資するから、あとは配当を宜しくね。でも、ちゃんと結果報告してね」ってことになる。確かにすべてが経営者に任されるわけではなく、一部の意思決定は株主総会決議事項とされている。だが、それには外部環境変化への対応は入っていないから、外部環境の変化を把握し対応するのは経営者の担当領域だ。外部環境の変化が会社の財政状態や経営成績に影響を与えているなら、ちゃんと報告する必要がある。経営者自身も、その影響を把握しておく必要がある。

 

そう考えると、一見「そこまでは経営者の責任じゃないよ」と思われる項目であっても、資本直入などのP/Lを通さない処理によって分かりにくく報告することは、好ましいことではない。また、会計処理をしないと、経営者にもリスクがリスクとして見えないことがある。或いは、リスクの大きさの程度を見誤る可能性がある。

 

例えば、退職給付制度は、従業員に会社に対するロイヤリティを持ってもらう有効な手段だが、支出がずっと先のことなので、リスクを感じにくい。また、デリバティブなどの金融商品は、一見うまい話のようで、実は大きなリスクがあることが多い。日々変動する為替レートに逐一の対応はできないが、グローバル企業として活動するなら、長期的にはコントロールしていかなければならない。或いはより積極的に利用していく。それなら、こういう項目を、経営課題としてまな板に載せておく必要がある。それには、会計処理の対象にすることだ。

 

ということで、資本取引以外のすべての損益取引を集計した“包括利益”が、“純利益”とは別に誕生することになった。米国の財務会計基準委員会(FASB)が、実際にどのように“包括利益”を誕生させるに至ったかなどについて、ちゃんとした知識として知りたい方は、下記をお薦めする。僕も、参考にさせてもらった。

 

早川豊氏 「拡大包括主義損益計算書への改訂」

(これは1998年、早川氏が北海道大学経済学部教授時代に発表したものらしい。ネットで検索して見つけた。)

 

ところが、ここから話は大きく変わる。折角誕生した“包括利益”だが、いざ、包括利益計算書を作ってみると、投資家や株主には使い勝手が良くないことが分かったのだ。不純物が多過ぎる。IASBも、一時はP/Lにおいて“純利益”を禁じ、“包括利益”のみを表示する方針を見せたが、現在は違っている。“包括利益”の中に“純利益”という区分利益を表示することの有用性を認めるようになった。それが、今回の概念フレームワークのディスカッション・ペーパーの議論に繋がっている。

 

一つ強調しておきたいのは、前回(4/29 の記事)も触れたが、“包括利益”は、会計理論として、或いは、株式会社制度の趣旨から明確に定義できるが、“純利益”はそうではないことだ。我々は、“純利益”に慣れ親しんでいるので、「純利益に何かを足したものが包括利益」と考えがちだが、実際には「包括利益から何かを引くと純利益」になる。この“何か”というのは、OCI(=その他の包括利益)だが、なにをOCIとするかが問題だ。さて、IASBやその他の人々はどのように考えているだろうか。

 

次回以降は、それを追っていきたい。

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