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2014年5月21日 (水曜日)

363.CF-DP47)純損益とOCI~純利益の変質?

2014/5/21

Jリーグは中断し、欧州でも主要リーグはシーズンを終了した。これから世界的にW杯モードに突入する。しかし、肝心の開催地ブラジルは、デモやストライキが意外な広がり(地域・職種)を見せており、スタジアムなどの関連施設工事の遅れだけでなく、ブラジル社会全体の安定感に黄色信号が点灯し始めたようだ。デモやストライキは、通貨安などを原因とするインフレに、W杯便乗の異常なインフレが上乗せされ、庶民の暮らしを追い詰めているらしい。既に報道されているように、例えば、家賃が数倍に上がって元の借主が住めなくなることもあるらしい(W杯観戦にくる外国人に貸すために追出しにかかってる?)。世界的な「サッカー王国ブラジルでのW杯」の盛上りに期待して、一攫千金を狙うような人々が多いのだろう。FIFAによれば、チケットの需要は過去最高とのこと(WSJ 5/15無料記事)だから、あながち的外れなプランでもない。しかしそれにしても、激しい利益至上主義だ。果たして、この大会は無事に終えることができるだろうか。大会が始まってからも、サッカーに限らず色々な話題を提供し、世界の衆目を集め続けそうだ。

 

それに比べると地味なのが「純損益とOCI」の議論だ。ん、比べる方がおかしい? そっ、その通りだ。しかし、IASBとFASB、そしてASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)という世界主要地域の会計規準設定主体が集まって、「企業の財務業績をどのように表現するか」という会計の基本テーマを議論するのだから、もっと盛上ってもよいように思う。もちろん、世間一般の人には関係の薄い話だが、会計に携わったり、会計から影響を受ける人たちは、もっと関心を強めてもよいはずだ。しかし、思いのほか静かだ。僕はそう思うのだが、みなさんはどうだろうか。

 

ん~、静かな理由は、前回(5/14 の記事)記載したこと(=P/Lの末尾を純損益から包括損益へ変更すること=経営者に辛い決定を受入れてもらうこと)こそが最難関、決勝戦であり、それはもうとっくに終えているからかもしれない。そう考えると、今回の「包括損益を純損益とOCIに区分する議論」の重みは、敗者復活戦から勝ち上がって3位決定戦に挑むぐらいの感じだろうか(サッカーW杯に敗者復活戦はないが)。

 

でも、3位決定戦だって大事は大事。そこで、前回、単に「使い勝手が悪い」とか「不純物が多過ぎる」とだけ書いた包括利益の弱点、純損益の必要性に関する議論の様子を見てみよう。これは、このディスカッション・ペーパー『「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直し』(以下、DPと記載する)の8章からの抜粋となる。

 

まず、IASBは、「アジェンダ協議2011」に寄せられたコメントを次のように要約している(DP8.3)。

 

(a) 多くの作成者が業績を説明するために非GAAP 指標を使用していることは、純損益及び包括利益合計が企業の業績の有用な指標ではないかもしれないことを示すものである。

 

(b) 企業の業績の測定及び報告における純損益及びOCI の役割について明瞭性が欠けており、これはOCI が論争の多い事項の「ごみ捨て場」と認識されていることを意味している。

 

(c) 多くの財務諸表利用者がOCI で報告される変動を無視している。長期的な趨勢を推定する材料となる営業フローから生じたものではないからである。

 

(d) 純損益とOCI との間の相互関係が不明確である(特に、リサイクリングの概念と、どのような場合にどのOCI 項目をリサイクルすべきかについて)。

 

(a) を見ると、作成者は、純損益にも包括利益にも、両方に満足していない。だが、(b) 以降を見ていくと、その問題はOCIにあると考えられているようだ。OCIは「ごみ捨て場」で、財務諸表利用者に無視され、純損益の性格を不明確にしている。そして、この問題にリサイクリングが関係している。

 

以上は、寄せられたコメントの紹介だが、IASBはこれらの指摘について次のように考えている(DP8.7)。

 

類似しているか又は類似した予測価値を有する収益及び費用の項目を一緒にグルーピングすることにより、情報の理解可能性を高め利用を容易にすることができる。情報を構成する考えられる効果的な方法の1 つは、純損益などの小計を使用することである。

 

要するに、収益や費用の分類を工夫して、もっと使い勝手の良い小計(=純利益)を表示することが解決策になりえると考えている。即ち、「純損益がもっと意味のあるものになるようOCIを整えていくこと」が、IASBの方針となったようだ。

 

ここまでを読むと、「純損益に焦点が当たってきた」「純損益の重要性が理解されてきた」という感じがするが、このあとで風向きが変わる。それは、寄せられたコメントに潜む「財務業績=純損益 or 包括利益」という期待に対して、次のように反論するところに現われている。

 

・・・。彼らの考えでは、財務業績の定義は、純損益に認識すべき項目とOCI に認識すべき項目との間の区別の基礎を提供するものとなる。・・・DP8.11

 

本ディスカッション・ペーパーは、財務業績を、「包括利益合計」若しくは「純損益」のいずれか又は他の合計、小計若しくは他の一般に使用されている業績指標と同一視していない。その代わりに、本ディスカッション・ペーパーは、認識した収益及び費用のすべての項目を、合計及び小計を用いて、財務諸表利用者が企業への資源の提供に関する意思決定を行う際に有用な方法で、どのように表示することができるのかを検討している。DP8.18

 

彼ら”は、我々にもお馴染みの「B/Sは財政状態、P/Lは経営成績を表す」という単純な見方を前提にコメントを述べている。一方、IASBは、それに違和感を覚えている。IASBは、それを間違っているというのではないが、実際にはそんな単純な利用のされ方にはなってないという現実を提示している。財務業績は、財務諸表全体から読み取られるべきもの、もっと言えば、非財務情報も含めた入手可能なすべての情報から判断されるべきものと考えている。これは、過去及び現行の概念フレームワークでも(垣間)見られるIASBの一貫した考え方だ(と僕は思う)。

 

これが意味することは、もともと“××利益”だけで業績を判断することはできない、業績のすべてを表現できる1つの利益指標などそもそもありえないというIASBの主張だ。「財務業績は、もっと色々複合的に、多面的に見てください、“純利益”に過大な期待を抱かないでください、ハードルを下げてください」と言っていると思う。その上で、“数ある指標の1項目としてより良い”純利益とはどういうものかを検討するとしている。

 

「なんだ、“泣き”が入ってるのか」と思われる方もいるかもしれない。しかし、IASBにしてみれば、実際に利益指標はそのように数ある業績指標の一つとして利用されているし、複雑な企業業績を単純化しすぎると反って利用者のリスクになると考えていると思う。

 

会計学の授業では、(昔は)上記のような単純化された見方で教えられた(今でも?)。日本の企業会計原則にもそう書いてあるし(第二 損益計算書原則一、第三 貸借対照表原則一)、教育としてはそれで良いのかもしれない。海外でも同様の状況なのだろう。しかし、財務分析の教科書は、昔から違っていたはずだ。純利益は確かに非常に重要だが、もっと色々な観点から分析せよってことになっていたはずだ。利益指標だけでも、経常利益、営業利益、売上総利益と色々あるし、セグメント別利益という切り口もある。さらに、これらをB/S要素と掛けたり割ったりするなど組合わせた指標も多い。IASBは、その矛盾をコメント提供者であるに“彼ら”へ言いたかったのだと思う。

 

しかし、そのおかげでますます“純利益”の影は薄くなってしまった。なぜなら、純利益を「企業業績を表す(代表する)利益」と簡単に定義できない現実を示されてしまったからだ。そして、ますます、純利益の輪郭はぼやけてしまった。“純利益”にかっちり理論的な裏付けを与えるというより、使い勝手の良い実用的な“純利益”を求めて検討していくという姿勢が見える。

 

一時は存続も危ぶまれた純利益は、このDPで、とりあえず生き残ったことが分かった。それは2011年に行われたアジェンダ協議の成果だ。しかし、どうもそれは、我々が従来イメージしてきたような“絶対的な存在感のある”純利益とは、違うものになっていくのかもしれない。

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