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2014年5月

2014年5月30日 (金曜日)

366.CF-DP49)純損益とOCI~リサイクリングの3アプローチ(IASB)

2014/5/30

収益認識規準は、予告通り IFRS15として 5/28 に公表された。早く日本語で見たい。

 

キプロス戦は、ご存じのとおり 1:0で SAMURAI BLUE が勝利した。僕はバック・スタンドで観戦、応援したが、気になったのは本田選手。鹿児島キャンプがハードだったそうだが、パスやシュートの精度など、精彩を欠いたように感じだ。但し、老眼には5階席は遠すぎる。他の選手と見間違えている可能性がある。(そろそろ老眼鏡が必要か?) 一方、長友選手はポジション的に見分けがつきやすい。1:1は頼りになる。さすがだ。しかし、セリエAでは長友選手に対して相手ディフェンスは2人で対応することが多いが、キプロスはそういう感じではなかった。それでも長友選手を得点に絡ませなかったから、キプロスの守備の固さは想像以上と感じた。それから、大久保選手にはスタンドが盛り上がる。愛されてるなあ、と思った。

 

 

さて、本題に入るとしよう。

 

このディスカッション・ペーパー『「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直し』(以下、DPと記載する)では、純損益とOCIの区分を行うために、リサイクリングの考え方の整理を大変重視している旨、このシリーズの前回(5/22 の記事)に記載した。今回は、そのIASBの整理を紹介させていただきたい。

 

IASBは、12A2B という3つのアプローチを、橋渡し項目、ミスマッチのある再測定、一時的な再測定という3種類の会計事象をOCIに計上し、リサイクリング対象とするかどうかという観点で説明している。この関係を図にすると以下のようになる。

 

                               
 

アプローチ

 
 

OCI として扱う項目

 
 

リサイクリング対象項目

 
 

特徴等

 
 

 1

 
 

 ------------------

 
 

一切、リサイクリングしない。

 
 

リサイクリングを否定するアプローチ。純利益の表示を否定する考え方と親和性がある。

 
 

 2A

 
 

橋渡し項目

 

ミスマッチのある再測定

 
 

橋渡し項目

 

ミスマッチのある再測定

 
 

このアプローチの特徴は、OCIに計上したものはすべてリサイクリングして最終的には純利益に計上するとしている点。逆にいえば、リサイクリングすべき項目のみをOCIに計上する。

 
 

 2B

 
 

橋渡し項目

 

ミスマッチのある再測定

 

 

 

一時的な再測定

 
 

橋渡し項目

 

ミスマッチのある再測定

 

 

 

一時的な再測定の"一部"

 
 

このアプローチの特徴は、リサイクリングしない項目(=一時的な再測定)もOCIに計上する点。その分、OCI項目の範囲は広い。一時的な再測定に該当するか否か、及び、該当する場合にリサイクリングの対象とするか否かの判断をするために、IASBの裁量を広げることになり、利用者や作成者などにとっては複雑性が増す。

 

 

(アプローチ1 について)

 

このアプローチは、IASBの予備的見解と両立しない。即ち、IASBは、このアプローチを採用しないとしている。恐らく、IASBのこの意見に同意するとのコメントをもらいたくて、DPに記載したと思われる。それだけ、純利益やリサイクリングを否定する意見が有力ということだろう。

 

参考までに、このアプローチをサポートする意見を紹介しておく。

 

  1. リサイクリングをなくすと複雑性が減少する。例えば、リサイクリングは当期に係る収益及び費用を不明瞭にする場合がある。

 

  1. 収益及び費用のすべての項目が包括利益計算書に1 回だけ認識されるので、財務諸表の理解可能性が高まる可能性がある。

 

  1. 組替調整額は収益又は費用の定義を満たさない場合がある。

 

  1. 純損益が利益操作の影響を受けにくくなる。

 

D の“利益操作”は、主に“利益の平準化”(英語ではスムージングというらしい)を想定したものと思われる。例えば、純利益を増やしたいときに、OCIに評価益を計上していた投資株式を売却するような益出し取引を指す。

 

(アプローチ2A2B について)

 

これらを採用した場合は、純利益の表示も必然になる。

 

橋渡し項目やミスマッチのある再測定については内容が明確であり、IASBはその内容に従って個別規準を開発する。しかし、一時的な再測定については、輪郭がぼやけているので、IASBが各個別規準の開発時に判断することになる。

 

 

純利益を表示することに目的適合性があればあるほど、リサイクリングを行う意味も高まる。では、純利益の目的適合性とはなんだろうか。IASBは、純利益を「企業が自らの経済的資源に対して得たリターンに関する主要な指標」と考えているようだ。具体的には、純資産利益率(ROA)とか、(ネットの資産という意味で)純資産利益率(ROE)として利用できるような純利益を表示したいということだろう。これらの指標は、企業が将来どれほどのリターンを稼ぐかを予測するのに役立つ。

 

逆にいえば、こういう目的にそぐわない項目をOCIへ追い出したい、また、OCIからリサイクリングすることで、純利益の目的適合性が高まるようにしたいということでもある。しかし、まあ、これだけでは漠然とした話だ。こうなると“橋渡し項目”、“ミスマッチのある再測定”、“一時的な再測定”とは何ぞや、ということになるが、それは次回に譲りたい。

2014年5月27日 (火曜日)

365.米国のIFRS停滞に変化の兆し? ~SEC 委員長ホワイト氏のスピーチ

2013/5/27

みなさんもご存じのとおり、25 日にはなでしこJAPAN がアジア杯を勝ち取り、本日はいよいよ SAMURAI BLUE が、W杯へ向けて国内最後の壮行試合を行う。相手はキプロスだ。キプロスといえば、一年ほど前に「銀行預金をカットし国家の歳入に充てる(=不良銀行の整理原資に充当する)」という恐るべき離れ業をやってのけたあの国だ(2013/3/30 の「231.【番外編】キプロスの実験」)。

 

サッカーでも凄い技を繰り出してくるのかと思って、FIFAランキングを調べたら 130 位(5/8 発表)。みなさんは、「なんだ、そんな国か」と思われたかもしれない。しかし、ザッケローニ監督によれば「しっかり守って、走力で飛び出すチーム。W杯予選でも勝ち点こそ少ないが、大敗した試合が少ない。簡単には勝たせてくれない」(時事ドットコム 5/26)とのこと。対戦成績を調べてみると、欧州予選でグループEの2 位のアイルランド(プレーオフでW杯出場を逃した)と失点数 15(/10 試合)で変わらない。ただ、得点力が際立って低い。

 

参考までに、今後の SAMURAI BLUE の試合予定は、米国で 6/3 コスタリカ(34 2014W杯出場国)、6/7 ザンビア(79 位)と親善試合をこなし、そして、いよいよ本番へ突入する(スポニチHP には日本時間による試合開始時刻も載っている。なお、日本の FIFAランクは 47 位)。

 

ということで、今日は、二年前のヨルダン(64 位)戦(6-0で日本の勝利)のようなど派手で大味な試合にはならない可能性が高い。恐らく、ゴール前を大人数で固めて守る相手チームをどうやって崩すかがテーマなのではないだろうか。SAMURAI 達が、鹿児島キャンプの成果として、どんな連携を見せてくれるか楽しみだ。

 

 

さて、楽しみといえば、SEC(米国証券取引委員会)が久々に動きそうだ。以前、それまでIFRSに前向きだった米国が停滞し始めたときのSEC委員長メアリー・シャピロ氏の上院証言(2009 年)を、Oxford Report から転載して紹介したことがあった(2012/8/11 の記事の末尾)。そのときは(それまでの方針を)「深呼吸してもう一度見直したい」とのことだったが・・・。

 

ちなみに、そのシャピロ氏は 2012/12 にすでに退任しており、そのあと暫定的にエリス・ウォルター氏が職を継いで、2013/4 に現在のメアリー・ホワイト氏が正式に上院から委員長就任の承認を受けている。そこから1年、ようやくIFRSがホワイト氏の優先課題になったようだ。

 

詳しくは、下記の日本公認会計士協会のホームページをご覧いただきたい。

 

SEC Mary Jo White議長のFAF評議員会 夕食会でのスピーチ5/23掲載、日本語)

 

この1年は、「深呼吸した息が止まってしまうほど忙しかったってことか」と多少皮肉も言いたくなるが、ホワイト氏が言い訳にしていた「Dodd-Frank および JOBS 法」は、大変重要な法律らしい。

 

前者トッド・フランク法は、リーマン・ショックの反省に立つ金融規制改革法であり、「大き過ぎて潰せない」問題の解決を図ったり、ヘッジ・ファンドを金融規制の対象に加えたりする。ちょっと前に話題になったボルガ―・ルールも含み、ご存じのように米国の既存の金融規制に関わる諸組織、例えば、SECの他、FRB(連邦準備委員会、日本の日銀に相当)や連邦預金保険公社、証券投資者保護公社、貯蓄金融機関監督庁などが改廃されたり、或いは、権限調整されるなどの影響を受ける。

 

後者のジョブズ法は、低迷しているスタートアップ企業のIPO等をもっと盛んにするための規制緩和で、その対象は、SECによる証券規制全般、サーベンス=オクスリー法(企業改革法。これは日本の内部統制報告書制度のモデルになった)、及び、上記トッド・フランク法によるさらなる規制にまで及ぶ。日本でいえば、アベノミクスの第三の矢、成長戦略に相当するものかもしれない。

 

なるほど、確かに大変だったに違いない。こんなに大変なことに注いでいた精力が、その一部でもIFRSに向けられるのであれば、間違いなく状況の打開、進展が期待できる。これは良い話に違いない。

 

もう一つ、ホワイト氏のスピーチから期待できることがある。上記の日本公認会計士協会のHPの訳文には記載がないが、その末尾の原文へのリンクを辿ると、ホワイト氏のスピーチ全文が掲示されたSECのホームページへジャンプできる。それを見ると、ホワイト氏は収益認識の新規準に関するIASBとFASBの協働作業を非常に高く評価している。「FASBとIASBの双方にとって真の成功(This project on one of our most fundamental and critical standards is a true success for both FASB and the IASB.)」と述べている。

 

ここまで言い切るということは、もう両者(IASBとFASB)に相違点は残っておらず、いよいよ、公表が近いということだ。そこで、IASBのホームページを見ると、なんと明日、28日に公表するとされている(Forthcoming: IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers)。日本語版がいつになるかは分からないが、とにかく、このファンダメンタルでクリティカルな規準がリリースされることは喜ばしい。

 

 

ところが、残念な発言も含まれている。どうやら米国では改めて会計不正が問題となっているようで、監査人の役割へ関心が向かっているようだ。SECの管轄下にあるPCAOB(公開会社会計監査委員会。米国における監査法人の監督機関。日本の公認会計士監査審査会のモデルになった機関)の活動を強化するような話もしている。

 

そのなかで、ホワイト氏は監査人の役割について“公の番犬(public watchdog)”と表現している。“市場の番人”とか“ホイッスル・ブロワ―(=警笛を吹く人、告発者)”というのは聞いたことがあるが、“番犬”、即ち、“犬”は初めて出会った表現だ。“人”ではなくってしまったところに、なんとなく寂しさと恐怖を感じるのは、僕だけだろうか。

 

 

2014年5月22日 (木曜日)

364.CF-DP48)純損益とOCI~OCIリサイクリング

2014/5/22

昨日は、またしても黒田日銀総裁の会見中に円高が進んだ。追加金融緩和の可能性に触れなかったためだという。報道によれば、101 10銭ぐらいに市場参加者が共有する“一線”があり、これを超えて円高が進むと、さらに円高に振れやすくなるという。

 

このような“一線”があるのは便利だ。判断の助けになる。スポーツでも、サッカーならボールがゴール・ラインを超えてゴール・マウスの内側に入れば得点になるし、相撲なら土俵を先に割った方が負けだ。明確な線であればあるほど、みんなに分かりやすい。会計の世界でも、多くの人の判断に役立つように、純損益とOCIの間に“一線”を設けようと苦心している。が、難航している。

 

今回と次回は、その難航の象徴ともいえる問題“リサイクリング”について、このディスカッション・ペーパー『「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直し』(以下、DPと記載する)の第8章に記載されている内容を紹介したい。

 

 

ところで、“リサイクリング”ってなに? と思われている方もいるかもしれない。“資源のリサイクル”といえば、資源を「再利用すること」だ。会計上の意味も同様で、いったん計上した利益にちょっと手を加えて再計上することだ。「え~っ、そんなことしたらダメでしょ」と驚かれた方の感覚は正しい。だから、規準に記載のある限定された取引にしか認められないし、リサイクリングを禁止すべきという意見も根強くある。実務をやられている方はご存じのとおり、実際には、利益の平準化につながる可能性はあるものの、「一粒で二度おいしい」みたいなことはないし、OCIの内訳を管理したり、税務調整や税効果会計に手間のかかる厄介な面が多い処理だ。

 

具体的には、リサイクリングは、いったんOCIに計上したものを、改めて純損益に組替調整する会計処理であり、対象となる取引には退職給付会計の数理計算上の差異(IAS26)や、有形固定資産について再評価モデルを採用した場合の評価益(IAS16)、有効なキャッシュフロー・ヘッジにおける公正価値の変動(IAS39)などがある。

 

さて、IASBは、「リサイクリングがない場合には、純損益は他の合計又は小計と内容の相違がないことになる」(DP8.23)と述べている。即ち、純損益が売上総利益や営業利益より重要なのは、“リサイクリングがあるため”と認識している。このため、もし「リサイクリングは不要だ」と決められるのであれば、純損益を概念フレームワークで定める必要はなく、個別規準で扱えば足りるとしている。

 

ん~、リサイクリングが純利益に重要性を与えてるのか。どういうこと?

 

ひとつには、リサイクリング項目が、上記のリサイクリング項目の例のように複数規準にまたがっていることもあるだろう。複数規準にまたがる項目は、規準間の整合性を図るためにも概念フレームワークで扱う可能性が出てくる。しかし、より重要な理由は、IASBが純利益の重要性を認識したためだと思う。リサイクリングが重要というより、純利益が重要なので、純利益とOCIの間の一線が重要であり、それには、両者を組替調整するリサイクリングの理屈付けが重要なのだ。

 

しかし、前回(5/21 の記事)も記載したように、IASBは純利益を会計理論上重要とは考えていない。ただ、財務情報の利用者が、包括利益より純利益を重用しているという現実を見て、純利益の存在価値を見直しただけだ。そのせいか、純利益がなんであるかを直接議論するのではなく、リサイクリングについて詳細に議論し、それによってOCIの性質を炙り出し、結果的に純利益の内容を決めようとしている。包括利益からOCIを控除すれば純利益が求まる。前々回(5/14 の記事)記載したように、包括利益にはかっちりした定義がある。あとはOCIが決まれば、純利益も自ずと定まるという考えだ。

 

すると、「重要なのはリサイクリングに関するこのDPの詳細な議論の内容を理解すること」ということになる。ところが、どうやらDPへコメントでは、このIASBの議論があまり評価されなかったようだ。じゃあ、この議論はあまり重要じゃないってことになる。同時に、リサイクリングについてだけでなく、純損益とOCIの間に一線を引く議論の方向性を、まだ固められないということにもなる。難航しているのだ。

 

僕が思うに、より重要なのは、「財務諸表の利用者が重用している現実」に重きを置くのか、それとも、「会計理論としての純利益の重要性」に拘るのかの違いにあるような気がする。前者の典型は、このDPに対しFASB(米国)の委員から個人的に提出された意見で、これが通れば前回記載したように純利益が変質していくことになる。一方、後者の代表はASBJ(日本)が提出した意見だ。両者の純利益観は全く違うし、必然的にリサイクリングに対する意見も相違する。

 

今後の展開を想像すると、これらの典型的な意見のとちらかをそのままIASBが採用するのではなく、両者の良い点を取り入れられるように議論が進んでいくのではないか。少なくともASBJはそういうスタンスに違いない。するとその過程で、IASBの議論が部分的に再浮上してくるかもしれない。まったく無視もできないか。

 

ということで、次回はIASBのリサイクリングに関する議論を一応紹介することにして、FASBとASBJの意見はその後ということにしたい。

 

 

今回はちょっと短めの記事になったが、それじゃ物足りないという方のために、下記を紹介する。

 

思わず笑ってしまったテレビのテロップ画像

(ガールズちゃんねる 2013/9/4~)

 

但し、注意点が2つある。ひとつは、予め何分読むかを決めてからリンクをクリックしていただくこと。5分なら5分と決めておかないと、いつの間にか時間が過ぎていく。もう一つは、声をたてて笑わないこと。周囲の人に怪しまれないようお気を付けいただきたい。しかし、堪えても顔が緩むのはどうにもならない。

2014年5月21日 (水曜日)

363.CF-DP47)純損益とOCI~純利益の変質?

2014/5/21

Jリーグは中断し、欧州でも主要リーグはシーズンを終了した。これから世界的にW杯モードに突入する。しかし、肝心の開催地ブラジルは、デモやストライキが意外な広がり(地域・職種)を見せており、スタジアムなどの関連施設工事の遅れだけでなく、ブラジル社会全体の安定感に黄色信号が点灯し始めたようだ。デモやストライキは、通貨安などを原因とするインフレに、W杯便乗の異常なインフレが上乗せされ、庶民の暮らしを追い詰めているらしい。既に報道されているように、例えば、家賃が数倍に上がって元の借主が住めなくなることもあるらしい(W杯観戦にくる外国人に貸すために追出しにかかってる?)。世界的な「サッカー王国ブラジルでのW杯」の盛上りに期待して、一攫千金を狙うような人々が多いのだろう。FIFAによれば、チケットの需要は過去最高とのこと(WSJ 5/15無料記事)だから、あながち的外れなプランでもない。しかしそれにしても、激しい利益至上主義だ。果たして、この大会は無事に終えることができるだろうか。大会が始まってからも、サッカーに限らず色々な話題を提供し、世界の衆目を集め続けそうだ。

 

それに比べると地味なのが「純損益とOCI」の議論だ。ん、比べる方がおかしい? そっ、その通りだ。しかし、IASBとFASB、そしてASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)という世界主要地域の会計規準設定主体が集まって、「企業の財務業績をどのように表現するか」という会計の基本テーマを議論するのだから、もっと盛上ってもよいように思う。もちろん、世間一般の人には関係の薄い話だが、会計に携わったり、会計から影響を受ける人たちは、もっと関心を強めてもよいはずだ。しかし、思いのほか静かだ。僕はそう思うのだが、みなさんはどうだろうか。

 

ん~、静かな理由は、前回(5/14 の記事)記載したこと(=P/Lの末尾を純損益から包括損益へ変更すること=経営者に辛い決定を受入れてもらうこと)こそが最難関、決勝戦であり、それはもうとっくに終えているからかもしれない。そう考えると、今回の「包括損益を純損益とOCIに区分する議論」の重みは、敗者復活戦から勝ち上がって3位決定戦に挑むぐらいの感じだろうか(サッカーW杯に敗者復活戦はないが)。

 

でも、3位決定戦だって大事は大事。そこで、前回、単に「使い勝手が悪い」とか「不純物が多過ぎる」とだけ書いた包括利益の弱点、純損益の必要性に関する議論の様子を見てみよう。これは、このディスカッション・ペーパー『「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直し』(以下、DPと記載する)の8章からの抜粋となる。

 

まず、IASBは、「アジェンダ協議2011」に寄せられたコメントを次のように要約している(DP8.3)。

 

(a) 多くの作成者が業績を説明するために非GAAP 指標を使用していることは、純損益及び包括利益合計が企業の業績の有用な指標ではないかもしれないことを示すものである。

 

(b) 企業の業績の測定及び報告における純損益及びOCI の役割について明瞭性が欠けており、これはOCI が論争の多い事項の「ごみ捨て場」と認識されていることを意味している。

 

(c) 多くの財務諸表利用者がOCI で報告される変動を無視している。長期的な趨勢を推定する材料となる営業フローから生じたものではないからである。

 

(d) 純損益とOCI との間の相互関係が不明確である(特に、リサイクリングの概念と、どのような場合にどのOCI 項目をリサイクルすべきかについて)。

 

(a) を見ると、作成者は、純損益にも包括利益にも、両方に満足していない。だが、(b) 以降を見ていくと、その問題はOCIにあると考えられているようだ。OCIは「ごみ捨て場」で、財務諸表利用者に無視され、純損益の性格を不明確にしている。そして、この問題にリサイクリングが関係している。

 

以上は、寄せられたコメントの紹介だが、IASBはこれらの指摘について次のように考えている(DP8.7)。

 

類似しているか又は類似した予測価値を有する収益及び費用の項目を一緒にグルーピングすることにより、情報の理解可能性を高め利用を容易にすることができる。情報を構成する考えられる効果的な方法の1 つは、純損益などの小計を使用することである。

 

要するに、収益や費用の分類を工夫して、もっと使い勝手の良い小計(=純利益)を表示することが解決策になりえると考えている。即ち、「純損益がもっと意味のあるものになるようOCIを整えていくこと」が、IASBの方針となったようだ。

 

ここまでを読むと、「純損益に焦点が当たってきた」「純損益の重要性が理解されてきた」という感じがするが、このあとで風向きが変わる。それは、寄せられたコメントに潜む「財務業績=純損益 or 包括利益」という期待に対して、次のように反論するところに現われている。

 

・・・。彼らの考えでは、財務業績の定義は、純損益に認識すべき項目とOCI に認識すべき項目との間の区別の基礎を提供するものとなる。・・・DP8.11

 

本ディスカッション・ペーパーは、財務業績を、「包括利益合計」若しくは「純損益」のいずれか又は他の合計、小計若しくは他の一般に使用されている業績指標と同一視していない。その代わりに、本ディスカッション・ペーパーは、認識した収益及び費用のすべての項目を、合計及び小計を用いて、財務諸表利用者が企業への資源の提供に関する意思決定を行う際に有用な方法で、どのように表示することができるのかを検討している。DP8.18

 

彼ら”は、我々にもお馴染みの「B/Sは財政状態、P/Lは経営成績を表す」という単純な見方を前提にコメントを述べている。一方、IASBは、それに違和感を覚えている。IASBは、それを間違っているというのではないが、実際にはそんな単純な利用のされ方にはなってないという現実を提示している。財務業績は、財務諸表全体から読み取られるべきもの、もっと言えば、非財務情報も含めた入手可能なすべての情報から判断されるべきものと考えている。これは、過去及び現行の概念フレームワークでも(垣間)見られるIASBの一貫した考え方だ(と僕は思う)。

 

これが意味することは、もともと“××利益”だけで業績を判断することはできない、業績のすべてを表現できる1つの利益指標などそもそもありえないというIASBの主張だ。「財務業績は、もっと色々複合的に、多面的に見てください、“純利益”に過大な期待を抱かないでください、ハードルを下げてください」と言っていると思う。その上で、“数ある指標の1項目としてより良い”純利益とはどういうものかを検討するとしている。

 

「なんだ、“泣き”が入ってるのか」と思われる方もいるかもしれない。しかし、IASBにしてみれば、実際に利益指標はそのように数ある業績指標の一つとして利用されているし、複雑な企業業績を単純化しすぎると反って利用者のリスクになると考えていると思う。

 

会計学の授業では、(昔は)上記のような単純化された見方で教えられた(今でも?)。日本の企業会計原則にもそう書いてあるし(第二 損益計算書原則一、第三 貸借対照表原則一)、教育としてはそれで良いのかもしれない。海外でも同様の状況なのだろう。しかし、財務分析の教科書は、昔から違っていたはずだ。純利益は確かに非常に重要だが、もっと色々な観点から分析せよってことになっていたはずだ。利益指標だけでも、経常利益、営業利益、売上総利益と色々あるし、セグメント別利益という切り口もある。さらに、これらをB/S要素と掛けたり割ったりするなど組合わせた指標も多い。IASBは、その矛盾をコメント提供者であるに“彼ら”へ言いたかったのだと思う。

 

しかし、そのおかげでますます“純利益”の影は薄くなってしまった。なぜなら、純利益を「企業業績を表す(代表する)利益」と簡単に定義できない現実を示されてしまったからだ。そして、ますます、純利益の輪郭はぼやけてしまった。“純利益”にかっちり理論的な裏付けを与えるというより、使い勝手の良い実用的な“純利益”を求めて検討していくという姿勢が見える。

 

一時は存続も危ぶまれた純利益は、このDPで、とりあえず生き残ったことが分かった。それは2011年に行われたアジェンダ協議の成果だ。しかし、どうもそれは、我々が従来イメージしてきたような“絶対的な存在感のある”純利益とは、違うものになっていくのかもしれない。

2014年5月14日 (水曜日)

362.CF-DP46)純損益とOCI~包括利益の誕生

2014/5/14

一昨日は、ブラジルW杯の日本代表メンバー 23 人が発表された。みなさんもご存じのとおり、昨季のJリーグ得点王で今季も好調を維持している川崎フロンターレの大久保嘉人選手(170cm)が選ばれた。その一方で、ジュビロ磐田の前田遼一選手(183cm)やサガン鳥栖の豊田陽平選手(185cm)、アルビレックス新潟の川又堅碁選手(183cm)は漏れた。ザッケローニ監督は体の大きなワントップが好みと思っていたので意外だが、僕は、多くのみなさんと同様に、大久保選手が選ばれるといいなあと思っていた。恐らく、大久保選手のシュートのうまさ、決定力、そして気持ちの強さが評価されたのだと思う。僕は柿谷曜一朗選手や大迫裕也選手も好きだが、しかし、FWの軸は大久保選手に期待したい。

 

それにしても、難しい選考だったと思う。ザッケローニ監督も悩み、「(国際サッカー連盟の)ブラッター会長にも23人以上呼べないかと電話した」と記者会見で冗談交じりに語ったらしい。しかし、選ばれる選手の方はもっと厳しいし、キツイ。それでも事前に決められたルールとプロセスに従って、権限があり、かつ、一定の信頼と尊敬を受けている人が決めたのだから、選手それぞれの思いはあるとしても、従うしかない。落選した選手たちの悔しさ、辛さは想像するに余りある。選出された選手にはW杯で応援するので、今は、落選した選手のこれまでの頑張りに拍手を送りたい。

 

辛い決定を受入れるには、公正なルールとプロセス、決定者に対する信頼が欠かせない。尖閣諸島の問題もそうだが、ベトナムやフィリピンと中国の間で問題になっている南シナ海における領有権や資源開発の問題も同じだ。さらにいえば、ウクライナ東部の住民投票も。

 

「そんなことは分かってるから、早く本題に入れ!」

 

そんな声が聴こえそうだが、実は、“包括利益”誕生の裏には、厳しい立場に立たされた人々がいた。1990 年代後半の英国や米国の経営者たちだ。それまでの“純利益”は、経営者の視界の範囲で起こっていた事象、経営者の意思決定と直接関連する取引を集計していた。支出と収入に紐付いた取得原価主義の会計処理だ。これなら、経営者も責任がとりやすい。

 

それが、英国や米国で、外部環境の変化という経営者の視界から漏れがちな事象も含めて会計処理し、“包括利益”を計算することが要求されるようになった。背景には企業活動のグローバル化やデリバティブなどの金融商品の発達がある。外部環境の変化自体は経営者の責任とは言い難い。しかし、それが経営者の成績表たるP/Lに入ってくるようになる。これには当時の経営者は、かなり抵抗感があっただろうと思う(日本の今の経営者もそうかもしれない)。しかし、FASB(=米国の財務会計基準審議会)は 1970 年代から着々と研究を進め、1990 年代に英国や米国で会計基準化されることになる。それがIFRSへ伝播し、日本基準にも入ってきた。今では、世界中の経営者がこの立場に立たされている。

 

さて、この流れでP/Lに追加されたものにどのような項目があるかというと・・・

 

・長期保有の市場性ある有価証券の評価とその変動(関係会社を除く一般投資)

・退職給付債務と外部拠出年金資産の評価とその変動

・デリバティブの評価とその変動

・為替レートの変動、特に長期海外投資(固定資産・負債)の評価とその変動

・割引率を使用して評価する(長期性の)資産・負債の評価とその変動

など。

 

古い方は懐かしいと思われるのではないか。当初、これらは取得原価主義で、支出額或いは収入額に基づいてB/Sに計上されたり、デリバティブのように簿外処理されていた。そして外部環境の変動、即ち、市場価格の変動(商品市場、金利市場、為替市場の変動)による評価損益や変動額は、会計上無視されていた。その後はB/Sで財政状態をより適切に表現する観点から改善されるが、それでもP/Lを通さず、直接B/Sの資本の部を増減させたり、ヘッジ取引については、ヘッジ対象の簿価に契約条件を反映させることで、やはり市場価格の変動をP/Lに影響させないようにしていた(これらの改善は、日本では 2000 年の会計ビックバン以降に行われた。例えば投資有価証券時価評価損益の資本直入処理や在外子会社等の固定資産・負債の為替換算差額を資本の部の為替換算調整勘定計上する処理など。しかし、その評価損益や変動額はP/Lを通さなかった)。

 

割引率の変動を会計処理に反映するということは、国債などの債券市場の変動と一般企業経営者の成績を関連付けることになる。一体この両者に何の関係があるのか? 決算日の為替レートを長期の海外投資の評価に反映させるのは、数年、或いは十数年以上かけて回収する長期投資の本質に合うのか? 経営者にしてみれば、このようなものが混じりこんでくる“包括利益”で業績評価されることは、相当辛いことに違いない。

 

ところが、基本に立ち返ってみると、資本の部に色々な取引が直接記帳されることはおかしい。僕は次のように考えている。

 

ご存じのとおり、損益取引と資本取引は明確に区別されなければならない。資本取引とは、株式の払込や配当金の支払いのように、株主との取引から生じるものだけであり、それ以外に資本の部を増減させる取引は、すべて損益取引のはずだ。であれば、上記のような項目は損益取引なのに、資本の部に直接加減されるなどの方法で処理され、P/Lに現われない。これは分かりにくい。株主の持分である資本の部が増減しているのに、その理由が読み手には不明になってしまう。

 

さらに、株式会社制度にまで立ち戻ってみると、株主は、所有と経営の分離で、経営者に経営を任せている。簡単にいえば、「出資するから、あとは配当を宜しくね。でも、ちゃんと結果報告してね」ってことになる。確かにすべてが経営者に任されるわけではなく、一部の意思決定は株主総会決議事項とされている。だが、それには外部環境変化への対応は入っていないから、外部環境の変化を把握し対応するのは経営者の担当領域だ。外部環境の変化が会社の財政状態や経営成績に影響を与えているなら、ちゃんと報告する必要がある。経営者自身も、その影響を把握しておく必要がある。

 

そう考えると、一見「そこまでは経営者の責任じゃないよ」と思われる項目であっても、資本直入などのP/Lを通さない処理によって分かりにくく報告することは、好ましいことではない。また、会計処理をしないと、経営者にもリスクがリスクとして見えないことがある。或いは、リスクの大きさの程度を見誤る可能性がある。

 

例えば、退職給付制度は、従業員に会社に対するロイヤリティを持ってもらう有効な手段だが、支出がずっと先のことなので、リスクを感じにくい。また、デリバティブなどの金融商品は、一見うまい話のようで、実は大きなリスクがあることが多い。日々変動する為替レートに逐一の対応はできないが、グローバル企業として活動するなら、長期的にはコントロールしていかなければならない。或いはより積極的に利用していく。それなら、こういう項目を、経営課題としてまな板に載せておく必要がある。それには、会計処理の対象にすることだ。

 

ということで、資本取引以外のすべての損益取引を集計した“包括利益”が、“純利益”とは別に誕生することになった。米国の財務会計基準委員会(FASB)が、実際にどのように“包括利益”を誕生させるに至ったかなどについて、ちゃんとした知識として知りたい方は、下記をお薦めする。僕も、参考にさせてもらった。

 

早川豊氏 「拡大包括主義損益計算書への改訂」

(これは1998年、早川氏が北海道大学経済学部教授時代に発表したものらしい。ネットで検索して見つけた。)

 

ところが、ここから話は大きく変わる。折角誕生した“包括利益”だが、いざ、包括利益計算書を作ってみると、投資家や株主には使い勝手が良くないことが分かったのだ。不純物が多過ぎる。IASBも、一時はP/Lにおいて“純利益”を禁じ、“包括利益”のみを表示する方針を見せたが、現在は違っている。“包括利益”の中に“純利益”という区分利益を表示することの有用性を認めるようになった。それが、今回の概念フレームワークのディスカッション・ペーパーの議論に繋がっている。

 

一つ強調しておきたいのは、前回(4/29 の記事)も触れたが、“包括利益”は、会計理論として、或いは、株式会社制度の趣旨から明確に定義できるが、“純利益”はそうではないことだ。我々は、“純利益”に慣れ親しんでいるので、「純利益に何かを足したものが包括利益」と考えがちだが、実際には「包括利益から何かを引くと純利益」になる。この“何か”というのは、OCI(=その他の包括利益)だが、なにをOCIとするかが問題だ。さて、IASBやその他の人々はどのように考えているだろうか。

 

次回以降は、それを追っていきたい。

2014年5月 6日 (火曜日)

361.【リースED】基準改定の途中経過~2014年3月の暫定決定

2014/5/6

昨年の猛暑の頃(2013/7/4 の記事~)、リース規準の再公開草案(以下“ED'13”と記載)について一生懸命勉強したが、どうやら 3/3 の記事でも短く紹介した通り、内容が大幅に変更されそうだ。しかし、再々公開草案が公表されるかどうかは未定だ。もうご存じの方が多いかもしれないが、その内容をASBJのホームページに公開されている“審議(2)-2 IASB/FASB のリース・プロジェクト 2014 3 月の共同会議での暫定決定”を元に紹介したいと思う。せっかく新シリーズ“純利益とOCI”を始めたところだが、ちょっと寄り道をさせていただく。

 

先にこの暫定決定の感想をざっと述べると、オペレーティング・リースの会計処理の問題を改善するところはブレずに、しかもよりシンプルな形が追求されているのは良い点だ。僕は、主に不動産リースが分類されるタイプBについて「立場が危うい」旨の記載をしたが(2013/9/17 の記事)、意外にあっさり放棄されたので驚いた。

 

会計処理は借手のタイプA・Bが一本化されてシンプルになったが、その分、利息計算が必要になる取引が増えるので、手間は増える。但し、債務管理システム(=リース管理システムの負債側)にその機能を加えることを考えれば、2タイプあるケースより開発は低コストだし、分類の判断も不要なので運用も楽になる。といっても問題は、債務管理システムなどというものが普通はないし、そのようなものの開発を考えないとなると、スプレッド・シートで決算用に計算することになる。こうなると手間が増えて悩ましいだろう。これは今回の暫定決定で悩ましくなったわけではなく、ED'13 の時点で十分悩ましかった。相変わらず悩ましい。

 

少額リースや短期リースについては、面倒なリースの認識・測定を免除されることが明確化されたり、範囲が拡げられたりするのは朗報だ。リース期間の見積りに関する変更も、内容がより明確になった。ただ、実務にそれほど大きな影響はなく、目立ったコスト・メリットはないかもしれない。

 

短期リースについては、定性情報だけでなく定量情報も要求されることになるが、意外に面倒だろう。これはそんなに重要なのか。一部には重要な会社もあるかもしれないが、そういう会社だけが開示すればよいような気がしないでもない。

 

 

それでは、今回の暫定決定事項について、ED'13 や現行IAS17号との比較をしてみよう。

 

ED'13 と変わらないところ)

 

 借手におけるオペレーティング・リースが資産計上される(もちろん対応する負債も)

 

現行のIAS17号は、「・・・リース期間にわたり定額法によって費用として認識しなければならない」(IAS17.33)と規定するものの、資産・負債の計上については言及していない。ただ、リース料を前払いしたり、後払いするケースは、発生主義に従って前払費用や未払費用が計上されるだけだ。要するに、オペレーティング・リースの資産や負債計上を要求していない。これが財務実態を表していないと、現行リース規準の大きな問題点とされていた(2013/7/12 の記事)。

 

ED'13 は、これを解決するために使用権資産(及びリース負債)をB/S計上することにした。この結果、オペレーティング・リースについても、ファイナンス・リースと変わらないB/S処理となった。上記暫定決定の資料を読む限り、このB/S面については、ED'13 に比べて変更はないようだ。

 

不動産賃貸について使用権資産を資産計上するにはリース期間を見積る必要があるが、これはなかなか難しいかもしれない。但し、これは ED'13 の時点で既に存在していた問題であり、今回の暫定決定で新たに発生したものではない(2013/10/1 の記事など)。

 

 

ED'13 と変わるところ)

 

 借手のP/Lの処理は、タイプA・Bの区別がなくなり一本化される。

 

借手のP/L処理については、現行(=IAS17)のファイナンス・リースについては現行通りで、現行のオペレーティング・リースについては変更される。

 

ED'13 では、不動産が原資産であるなど一部のオペレーティング・リース(=タイプB)について、償却と利息相当額を一本で処理するより簡便的な方法が提案されていたが、暫定決定で取下げられた(この結果、リース取引をタイプA・Bへ分類することが不要となった)。その結果、不動産リースを含むオペレーティング・リースについても、償却費に加え、利息法的に逓減する(=年々計上額が減少する)利息相当額が計上されることになる。

 

 貸手の会計処理(B/S及びP/L)は、ED'13 の提案を取下げ、現行(=IAS17)へ戻す。

 

貸手についてはタイプA・Bの分類は残るが、その分類方法は、ED'13 の原資産の種類(≒不動産かどうか)による分類ではなく、現行IAS17号でファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分している“リスクと経済価値の移転”による分類となる。

 

タイプA(=ファイナンス・リース)と分類されたリースは、ED'13 で提案された“債権・残存アプローチ”ではなく、IAS17号と同等のアプローチで会計処理される。

 

以上の結果、貸手の会計処理・表示科目は、概ね、現行IAS17号と変わらないことになる。

 

 借手の少額資産についての記述の追加

 

少額資産については、リースの認識・測定を免除する旨の規定を明示するとしている。

 

これは、ED'13 では明示されていないので、一応“変わるところ”に記載したが、実際には当たり前のことを確認するに過ぎないから、むしろ、“変わらない”へ記載した方が良かったかもしれない。しかし、明示されればそれなりに安心はするので、こちらにした。

 

それともう一つ、「適用ガイダンスにポートフォリオのガイダンスを含める」とされている。これは ED'13 にはなかったものだ。

 

“ポートフォリオ”がどのようなものになるか詳細は不明だが、同じような性質を持った集団をあたかも一つのもののように扱えるとすれば、例えば、借上げ社宅の賃貸取引は、ポートフォリオとして扱えるかもしれない。賃貸取引を個別に見積るのは大変だが、集団的な傾向としてリース期間を見積ることは十分可能だし、その他の手間も大幅に軽減される可能性がある。注目した方が良いと思う。但し、税務調整や支払記録と整合性を保つには、工夫がいる。

 

 リース期間の決定

 

この項目は(下記の)説明は長いが、話としては細かい(=重要性が低い)のではないか。説明が長いのは僕の文章力のなさによるもので、申し訳ない。

 

現行のリース規準は「取引及びその他の事象は,単なる法的形式ではなく,その実質と財務上の実態に従って会計処理され,表示される。」(IAS17.21)としているものの、リース期間に関しては、リース契約書に記された期間そのままと思われる記載ぶりだった。

 

それを ED'13 ではリース期間の当初の見積りやその見直しについて、「解約不能期間 ± 解約又は延長オプション」と定めた。そして、オプションをリース期間に加減するためには、そのオプション行使を選択するための“重大な経済的インセンティブ”を有していることが必要とされている。この“重大な”という表現により、オプション行使の可能性は、“合理的に確実”、或いは、“合理的に保証された”という確実性の高いレベルになっているとしている。この点は、今回の暫定決定でも変わらない。

 

変わったのは、事後測定(=決算処理)におけるリース期間の見直しに関するものだ。“重大な経済的インセンティブ”が、“借手のコントロール内である重大な事象ないし重大な状況の変化”とされた。具体的には、恐らく ED'13.27 の修正を意図していると思われる。即ち、市場要因による経済的インセンティブの変化を見直しのきっかけにしないことを明確にし、さらに過去に企業がリース期間の見積りについて間違った判断をした前歴についても、ED'13.27 と異なり、見直しのきっかけから除外されるものがある、という意味と思われる。これにより、リース期間見積りの見直しが必要となる頻度は下がるだろう。

 

 借手の短期リースの範囲の拡大

 

短期リースの定義を広げることで、リースの認識・測定を免除される取引が増えることになる。どのように広げるかが問題だが、まず、ED'13 の短期リースの定義は次のようになっている。

 

開始日において、契約により可能な最大限の期間が、延長オプションも含めて、12 か月以内であるリース。購入オプションを含んだリースは、短期リースではない。(付録A 用語の定義)

 

それを今回の暫定決定では、上記のリース期間の定義と整合するような表現で、“リース期間が12か月以下”と変更する趣旨だ。即ち、リースが 12か月以下で終了することが確実に見込まれるレベルであれば、契約上どのような可能性があっても、その取引は短期リースとして扱われる。ED'13 では、リース期間が 12カ月以上になる可能性のあるリース契約は、短期リースにできなかった。

 

とはいえ、これによって借上げ社宅などの細かく数の多い賃貸取引を短期リースに分類できるわけでもなく、それほど実務に大きな影響はないかもしれない。

 

 短期リースに関連する費用の開示

 

ED'13 では、短期リースについてリースの認識・測定を免除する規定を利用している場合は、定性的にその旨の開示をすれば良かったが、この暫定決定では費用額の開示も要求するとしている。但し、「短期リースの費用が借手の短期リースのコミットメントを反映しない場合、借手は、その旨及び短期リースのコミットメントの金額を開示すべきである。」としているが、この“短期リースのコミットメント”が何を意味しているのか、僕には分からなかった。

 

 

(次のステップ)

 

“次のステップ”として「借手の少額の資産(small assets)のリースに係る認識及び測定の免除に関して追加的な分析を実施する予定」としているが、課題はまだまだ残っている。例えば、リース契約にサービス要素が含まれる場合の扱いだ。ED'13 では、リース要素とサービス要素を区分できれば区分し、サービス要素をリース会計の対象から除外する(単独の価格が観察可能な場合)が、そうでない場合は契約全体をリースとして扱うとしている(ED'13.23)。これについては、ASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム)メンバーから強い懸念が表明されているようだ。一層の簡素化を求めたり、サービス要素は資産計上すべきでないといった意見だ。これは、リースの定義にも影響を与えるかもしれない。

 

また、このリース・プロジェクトは、IASBとFASBの共同プロジェクトだが、一部についてFASBはIASBと異なる暫定決定をした。この再統一を試みるステップも考えられる。

 

なお、ASBJは、上記の他に、コスト・ベネフィットの観点からリース認識・測定の適用除外の範囲のさらなる拡大をIASBに対して求めている。

 

 

さて、みなさんは、「ED'13 が大幅に変更されるから、IASBはもう一度公開草案を出す必要がある(=再々公開草案)」と思われるだろうか。それとも、「オペレーティング・リースの資産計上という基準改定の目的となる変更を除けば、IAS17号との差異は意外に少ないから、その必要はない」と思われるだろうか。

 

IASBは再々公開草案を公表して広く一般に意見を求めるかどうか、まだどちらとも決めていないが、ASBJの Webcast を視聴する限り、ASBJではもう一度公開草案を出すべきと考える委員が多いようだ。しかし、3/27 に開催された企業会計基準委員会に出席されていたIASBメンバーの鶯地氏は、IASBの雰囲気を踏まえ、どちらかというと否定的な見通しを述べていた。

 

恐らく、「オペレーティング・リースを資産計上するには、もっと手間のかからない方法があるはず」と思えば、再々公開草案を求め、「もう、アイディアはあまりないかも」と思えば、その必要はないと思うのではないか。僕は、サービス要素とポートフォリオに期待している。ここで目的適合性と忠実な表現を兼ね備えた新しいアイディアが出てきて、現行のIAS17号や ED'13 とさらに異なる規準案となれば、それを再々公開草案にしようという話になるのではないかと思う。そうなることを祈りたい。

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