2014/5/6
昨年の猛暑の頃(2013/7/4 の記事~)、リース規準の再公開草案(以下“ED'13”と記載)について一生懸命勉強したが、どうやら 3/3 の記事でも短く紹介した通り、内容が大幅に変更されそうだ。しかし、再々公開草案が公表されるかどうかは未定だ。もうご存じの方が多いかもしれないが、その内容をASBJのホームページに公開されている“審議(2)-2 IASB/FASB のリース・プロジェクト 2014 年3 月の共同会議での暫定決定”を元に紹介したいと思う。せっかく新シリーズ“純利益とOCI”を始めたところだが、ちょっと寄り道をさせていただく。
先にこの暫定決定の感想をざっと述べると、オペレーティング・リースの会計処理の問題を改善するところはブレずに、しかもよりシンプルな形が追求されているのは良い点だ。僕は、主に不動産リースが分類されるタイプBについて「立場が危うい」旨の記載をしたが(2013/9/17 の記事)、意外にあっさり放棄されたので驚いた。
会計処理は借手のタイプA・Bが一本化されてシンプルになったが、その分、利息計算が必要になる取引が増えるので、手間は増える。但し、債務管理システム(=リース管理システムの負債側)にその機能を加えることを考えれば、2タイプあるケースより開発は低コストだし、分類の判断も不要なので運用も楽になる。といっても問題は、債務管理システムなどというものが普通はないし、そのようなものの開発を考えないとなると、スプレッド・シートで決算用に計算することになる。こうなると手間が増えて悩ましいだろう。これは今回の暫定決定で悩ましくなったわけではなく、ED'13 の時点で十分悩ましかった。相変わらず悩ましい。
少額リースや短期リースについては、面倒なリースの認識・測定を免除されることが明確化されたり、範囲が拡げられたりするのは朗報だ。リース期間の見積りに関する変更も、内容がより明確になった。ただ、実務にそれほど大きな影響はなく、目立ったコスト・メリットはないかもしれない。
短期リースについては、定性情報だけでなく定量情報も要求されることになるが、意外に面倒だろう。これはそんなに重要なのか。一部には重要な会社もあるかもしれないが、そういう会社だけが開示すればよいような気がしないでもない。
それでは、今回の暫定決定事項について、ED'13
や現行IAS17号との比較をしてみよう。
(ED'13 と変わらないところ)
① 借手におけるオペレーティング・リースが資産計上される(もちろん対応する負債も)
現行のIAS17号は、「・・・リース期間にわたり定額法によって費用として認識しなければならない」(IAS17.33)と規定するものの、資産・負債の計上については言及していない。ただ、リース料を前払いしたり、後払いするケースは、発生主義に従って前払費用や未払費用が計上されるだけだ。要するに、オペレーティング・リースの資産や負債計上を要求していない。これが財務実態を表していないと、現行リース規準の大きな問題点とされていた(2013/7/12 の記事)。
ED'13 は、これを解決するために使用権資産(及びリース負債)をB/S計上することにした。この結果、オペレーティング・リースについても、ファイナンス・リースと変わらないB/S処理となった。上記暫定決定の資料を読む限り、このB/S面については、ED'13 に比べて変更はないようだ。
不動産賃貸について使用権資産を資産計上するにはリース期間を見積る必要があるが、これはなかなか難しいかもしれない。但し、これは ED'13 の時点で既に存在していた問題であり、今回の暫定決定で新たに発生したものではない(2013/10/1 の記事など)。
(ED'13 と変わるところ)
② 借手のP/Lの処理は、タイプA・Bの区別がなくなり一本化される。
借手のP/L処理については、現行(=IAS17)のファイナンス・リースについては現行通りで、現行のオペレーティング・リースについては変更される。
ED'13 では、不動産が原資産であるなど一部のオペレーティング・リース(=タイプB)について、償却と利息相当額を一本で処理するより簡便的な方法が提案されていたが、暫定決定で取下げられた(この結果、リース取引をタイプA・Bへ分類することが不要となった)。その結果、不動産リースを含むオペレーティング・リースについても、償却費に加え、利息法的に逓減する(=年々計上額が減少する)利息相当額が計上されることになる。
③ 貸手の会計処理(B/S及びP/L)は、ED'13 の提案を取下げ、現行(=IAS17)へ戻す。
貸手についてはタイプA・Bの分類は残るが、その分類方法は、ED'13 の原資産の種類(≒不動産かどうか)による分類ではなく、現行IAS17号でファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分している“リスクと経済価値の移転”による分類となる。
タイプA(=ファイナンス・リース)と分類されたリースは、ED'13 で提案された“債権・残存アプローチ”ではなく、IAS17号と同等のアプローチで会計処理される。
以上の結果、貸手の会計処理・表示科目は、概ね、現行IAS17号と変わらないことになる。
④ 借手の少額資産についての記述の追加
少額資産については、リースの認識・測定を免除する旨の規定を明示するとしている。
これは、ED'13 では明示されていないので、一応“変わるところ”に記載したが、実際には当たり前のことを確認するに過ぎないから、むしろ、“変わらない”へ記載した方が良かったかもしれない。しかし、明示されればそれなりに安心はするので、こちらにした。
それともう一つ、「適用ガイダンスにポートフォリオのガイダンスを含める」とされている。これは ED'13 にはなかったものだ。
“ポートフォリオ”がどのようなものになるか詳細は不明だが、同じような性質を持った集団をあたかも一つのもののように扱えるとすれば、例えば、借上げ社宅の賃貸取引は、ポートフォリオとして扱えるかもしれない。賃貸取引を個別に見積るのは大変だが、集団的な傾向としてリース期間を見積ることは十分可能だし、その他の手間も大幅に軽減される可能性がある。注目した方が良いと思う。但し、税務調整や支払記録と整合性を保つには、工夫がいる。
⑤ リース期間の決定
この項目は(下記の)説明は長いが、話としては細かい(=重要性が低い)のではないか。説明が長いのは僕の文章力のなさによるもので、申し訳ない。
現行のリース規準は「取引及びその他の事象は,単なる法的形式ではなく,その実質と財務上の実態に従って会計処理され,表示される。」(IAS17.21)としているものの、リース期間に関しては、リース契約書に記された期間そのままと思われる記載ぶりだった。
それを ED'13 ではリース期間の当初の見積りやその見直しについて、「解約不能期間 ± 解約又は延長オプション」と定めた。そして、オプションをリース期間に加減するためには、そのオプション行使を選択するための“重大な経済的インセンティブ”を有していることが必要とされている。この“重大な”という表現により、オプション行使の可能性は、“合理的に確実”、或いは、“合理的に保証された”という確実性の高いレベルになっているとしている。この点は、今回の暫定決定でも変わらない。
変わったのは、事後測定(=決算処理)におけるリース期間の見直しに関するものだ。“重大な経済的インセンティブ”が、“借手のコントロール内である重大な事象ないし重大な状況の変化”とされた。具体的には、恐らく ED'13.27 の修正を意図していると思われる。即ち、市場要因による経済的インセンティブの変化を見直しのきっかけにしないことを明確にし、さらに過去に企業がリース期間の見積りについて間違った判断をした前歴についても、ED'13.27 と異なり、見直しのきっかけから除外されるものがある、という意味と思われる。これにより、リース期間見積りの見直しが必要となる頻度は下がるだろう。
⑥ 借手の短期リースの範囲の拡大
短期リースの定義を広げることで、リースの認識・測定を免除される取引が増えることになる。どのように広げるかが問題だが、まず、ED'13 の短期リースの定義は次のようになっている。
開始日において、契約により可能な最大限の期間が、延長オプションも含めて、12 か月以内であるリース。購入オプションを含んだリースは、短期リースではない。(付録A 用語の定義)
それを今回の暫定決定では、上記のリース期間の定義と整合するような表現で、“リース期間が12か月以下”と変更する趣旨だ。即ち、リースが 12か月以下で終了することが確実に見込まれるレベルであれば、契約上どのような可能性があっても、その取引は短期リースとして扱われる。ED'13 では、リース期間が 12カ月以上になる可能性のあるリース契約は、短期リースにできなかった。
とはいえ、これによって借上げ社宅などの細かく数の多い賃貸取引を短期リースに分類できるわけでもなく、それほど実務に大きな影響はないかもしれない。
⑦ 短期リースに関連する費用の開示
ED'13 では、短期リースについてリースの認識・測定を免除する規定を利用している場合は、定性的にその旨の開示をすれば良かったが、この暫定決定では費用額の開示も要求するとしている。但し、「短期リースの費用が借手の短期リースのコミットメントを反映しない場合、借手は、その旨及び短期リースのコミットメントの金額を開示すべきである。」としているが、この“短期リースのコミットメント”が何を意味しているのか、僕には分からなかった。
(次のステップ)
“次のステップ”として「借手の少額の資産(small assets)のリースに係る認識及び測定の免除に関して追加的な分析を実施する予定」としているが、課題はまだまだ残っている。例えば、リース契約にサービス要素が含まれる場合の扱いだ。ED'13 では、リース要素とサービス要素を区分できれば区分し、サービス要素をリース会計の対象から除外する(単独の価格が観察可能な場合)が、そうでない場合は契約全体をリースとして扱うとしている(ED'13.23)。これについては、ASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム)メンバーから強い懸念が表明されているようだ。一層の簡素化を求めたり、サービス要素は資産計上すべきでないといった意見だ。これは、リースの定義にも影響を与えるかもしれない。
また、このリース・プロジェクトは、IASBとFASBの共同プロジェクトだが、一部についてFASBはIASBと異なる暫定決定をした。この再統一を試みるステップも考えられる。
なお、ASBJは、上記の他に、コスト・ベネフィットの観点からリース認識・測定の適用除外の範囲のさらなる拡大をIASBに対して求めている。
さて、みなさんは、「ED'13 が大幅に変更されるから、IASBはもう一度公開草案を出す必要がある(=再々公開草案)」と思われるだろうか。それとも、「オペレーティング・リースの資産計上という基準改定の目的となる変更を除けば、IAS17号との差異は意外に少ないから、その必要はない」と思われるだろうか。
IASBは再々公開草案を公表して広く一般に意見を求めるかどうか、まだどちらとも決めていないが、ASBJの Webcast を視聴する限り、ASBJではもう一度公開草案を出すべきと考える委員が多いようだ。しかし、3/27 に開催された企業会計基準委員会に出席されていたIASBメンバーの鶯地氏は、IASBの雰囲気を踏まえ、どちらかというと否定的な見通しを述べていた。
恐らく、「オペレーティング・リースを資産計上するには、もっと手間のかからない方法があるはず」と思えば、再々公開草案を求め、「もう、アイディアはあまりないかも」と思えば、その必要はないと思うのではないか。僕は、サービス要素とポートフォリオに期待している。ここで目的適合性と忠実な表現を兼ね備えた新しいアイディアが出てきて、現行のIAS17号や ED'13 とさらに異なる規準案となれば、それを再々公開草案にしようという話になるのではないかと思う。そうなることを祈りたい。
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