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2014年6月 7日 (土曜日)

368.CF-DP51)純損益とOCI~ミスマッチのある再測定

2014/6/7

6月3日のサッカー日本代表のコスタリカ戦は、素晴らしい出来だったと僕は思う。相変わらず先制点を奪われるパターンは改善されないが、このチームの後半の強さは特筆すべきことだ。“王者”と呼ばれていたころのジュビロ磐田を思い出した。古い話だが、当時のジュビロはサドン・デス方式、或いは、ゴールデン・ゴール方式の延長戦に滅法強かった。相手チームがボールを回されて疲れてしまうのだ。今の日本代表に似ていないだろうか。先制点を奪われないことに越したことはないが、このチームに限っては、それも相手を油断させる戦術かもしれないと思う。

 

本田圭祐選手の出来にも安心した。というか、5/30 の記事に記載したキプロス戦での杞憂は、やはり僕の老眼による見間違い、勘違いかもしれない。2日に放送された NHK の「プロフェッショナル 仕事の流儀」の録画をキプロス戦のあとに見たが、この選手が日本に生まれてくれて本当によかったと思う。努力の人、どこまでもポジティブな人。僕が心配するなんておこがましい。この人は、信頼され、期待されることこそが相応しい。来週の9日(午後10時~)には続編が放送される。

 

こうなるとW杯が待ちきれないが、その前にザンビア戦(本日午前8時半~)がある。ゴールをたくさん決め過ぎて、コートジボワールの警戒感を高めてしまうのではないか、と僕は心配している。コスタリカ戦は、それほどの良い出来だったと思う。

 

 

さて、本題に入るとしよう。このブログの出来も高めていかなくては・・・、とは思うが、今回はなかなか難しいかもしれない。

 

(ミスマッチのある再測定 ‘mismatched remeasurements’)

 

前回(6/3 の記事)記載した“橋渡し項目”は、B/SとP/Lという2つの基本財務諸表間を繋ぐものだった。これはB/SとP/Lで異なる測定規準を使用する場合に生じる。これと同じような表現をするなら、“ミスマッチのある再測定”は、B/Sの借方と貸方を繋ぐものと考えて良いかもしれない。ただ、“繋ぐもの”というより、B/Sだけに、“貸借をバランスさせるために必要な計算項目”というイメージかもしれない。いやいや、単なる計算項目ではなく、IASBは、会計規準通りの会計処理を行っても、「企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性の乏しい情報しか提供しない場合」(DP8.62)に生じるものとしている。残念ながら、これが少々分かりにくい。

 

B/Sの借方と貸方の直接関連する項目について、次のパターンでミスマッチが生じる。

 

A.どちらかが期末レートで、もう一方が取引日レートの換算をしている場合

B.どちらかが公正価値、もう一方が原価ベースの測定をしている場合

C.どちらかが、未認識(=B/Sに未計上)の場合

 

“ミスマッチ”というと、ヘッジ会計を思い出す方が多いと思うが、ほぼ、そのイメージで良いようだ。上記のようなIASBが提示する会計技術的なミスマッチもミスマッチだが、僕は、より本質的には、ある取引について経営の意図や感覚と会計処理結果(=会計規準)が合わない場合に“ミスマッチ”が生じると思う。IASBは、具体的に次のものを挙げている。(DP8.2、表8.3

 

 イ.在外営業活動体に対する純投資(及びヘッジ)から生じる為替差損益(IAS21

 

在外営業活動体に対する純投資とは、海外支店に対する支店勘定や海外子会社への資本勘定に当たる。したがって、これは日本基準の為替換算調整勘定(=海外子会社の外貨建て財務諸表を円換算する際の差額)のイメージに近い。IAS21号では次の①~④の場合の換算差額をOCIに計上することになっているが、そのうちの①~③が“ミスマッチのある再測定”となる。

 

 実質的な純投資項目の為替差損益

 

親会社や本社からの長期借入金など、実質的に資本調達手段となっている貨幣項目(=純投資の一部を構成する貨幣項目)に関する個別財務諸表上の決済差損益や期末換算差損益ついては、各個別財務諸表においては純損益だが、連結財務諸表ではOCIに計上する。(IAS21.1632

 

参考までに付け加えると、上記(=純投資の一部を構成する貨幣項目)以外の外貨建て貨幣項目の決済差損益と期末換算差損益は、個別財務諸表上はもちろん、連結財務諸表上も、日本基準と同様に純損益に計上される。(IAS21.28) したがって、ミスマッチ項目にはならない。

 

 日本基準の為替換算調整勘定に相当するもの

 

例えば、子会社が米ドルで個別財務諸表を作成している場合は、連結するにあたって、資産・負債は期末日レート、損益は原則として取引日レートで円換算し、連結上の期首純資産を前期末レートから期末日レートへ換算し直す。また、日本円で財務諸表を作成している親会社が、ドル建ての開示を行う場合も同様の換算を行う。その際に生じる換算差額はOCIへ計上する。(IAS21.39

 

 在外営業活動体に対する純投資の為替リスクに対するヘッジ損益

 

在外営業活動体に対する純投資の為替リスクをヘッジするための有効な範囲の為替差損益があれば、それもOCIへ計上する。(IAS39.102

 

これら①~③はすべて純投資項目であり、投資先の純資産を(実質的に)構成する。B/Sでは、純資産は資産・負債全体に関連する。では、そこにどのようなミスマッチが生じているかというと、これが少々難しい。しかし、IASB流に言うなら、上記A~Cが発生している。僕流に言えば、経営の意図と会計が合わない。具体的には、説明が長くなりそうなので別の機会に譲りたい。

 

リサイクリング(=純利益への振替)を行うタイミングについては、在外営業活動体の個別資産・負債の処分や減損等とは関連付けず、在外営業活動体への出資割合を引下げたり、持分を売却したときとされている。とてもシンプルだ。

 

なお、IAS21号では下記④もOCIへ計上されるが、この“ミスマッチのある再測定”の議論では取上げられていない。恐らく、前回の“橋渡し項目”の議論とダブるためと思われる。

 

 非貨幣項目から生じるOCIの換算差額

 

在外営業活動体が固定資産の再評価モデル(IAS16)を採用した場合の評価益のように、在外営業活動体の非貨幣項目から生じる損益をIFRSがOCIへ計上するよう指定しているときは、そのOCI項目の換算差額もOCIへ含める。(IAS21.3031

 

 ロ.キャッシュ・フロー・ヘッジの有効部分(IFRS9 Hedge2010ED

 

IASBがこのDPを公表した段階(2013/7)では、まだヘッジ会計は最終規準化されていなかったため、DPでは公開草案(IFRS9 Hedge2010ED)と記述されている。しかし、ご存じの方もいらっしゃると思うが、2013 11 月に規準が公表された(英語版)。(日本語版はまだのようだ。なお、ヘッジ会計のうちマクロ・ヘッジは別プロジェクトへ分離された。)

 

(マクロ・ヘッジ以外の)ヘッジ会計は、次の3種類がある(IFRS9 Hedge2010ED.21)。

 

(a) 公正価値ヘッジ

(b) キャッシュ・フロー・ヘッジ

(c) 在外営業活動体に対する純投資のヘッジ

 

B/Sの貸借で何が直接関連するものになるかの説明は、ヘッジ対象とヘッジ手段ということで良いだろう。では、何がミスマッチなのか。なぜ、キャッシュ・フロー・ヘッジのみがここで取上げられるのか。

 

(a) 公正価値ヘッジでは、ヘッジ対象の評価損益が計上される区分(純損益か、OCIか)に合わせて、ヘッジ手段の公正価値測定による評価損益を計上する区分を決める。即ち、両者を対応させる。OCI項目に該当するか否かは、ヘッジ対象の性質によるので、公正価値ヘッジの評価損益自体はミスマッチの問題にならない。(c) 在外営業活動体に対する純投資のヘッジは上記のイとダブるのでここでは取上げられなかったと思われる。

 

一方、(b) キャッシュ・フロー・ヘッジの場合は、ヘッジ対象について換算レートが取引日レートであるとか、原価ベースの測定になっているとか、或いは、まだ未認識の状態にあるため(即ち、上記のA~Cの状態にあるため)、評価損益がP/Lに計上されていない。しかし、ヘッジ手段については公正価値測定され評価損益がP/Lに計上されてしまう。これがミスマッチだ。そこで、ヘッジ対象の評価損益が計上されるまでの間、ヘッジ手段の評価損益をOCIに計上してB/Sの純資産にストックしておき、ヘッジ対象の評価損益が計上されたら、それに合わせて純損益へ振替える(=リサイクリング)。

 

経営としては、ヘッジ対象の為替リスク等の市場リスクをヘッジしようとしているのに、P/Lでは先にヘッジ手段の評価損益が計上されてしまうため包括損益が反ってぶれることになる。そこでヘッジ対象の評価損益をいったんOCIに計上してB/Sの純資産に蓄えておき、将来ヘッジ対象のリスクが顕在化したときの備えにする。即ち、包括損益のうちこのOCI項目は企業業績を表すものではない。まさに企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性の乏しい情報しか提供しない場合」となる。したがって、“ミスマッチのある再測定”に該当する。

 

 ハ.公正価値測定する金融負債で、発行者自身の信用リスクに起因する公正価値の変動(IFRS9

 

これは、リーマン・ショックのときの欧米の金融機関が、自己の信用リスクが悪化することで利益計上したとして批判を浴びた会計規準(改正前のIAS39。この利益を純利益に計上していた)を改善したものだ。現行規程ではOCIへ計上される(IFRS9.5.7.7)。

 

IASBは、これも“ミスマッチのある再測定”に該当する可能性があるとしている。「可能性がある」としているのは、現行の規定ではリサイクリングが否定されていること、及び、恐らく“橋渡し項目”として分類することも可能とされているためと思われる(但し、その場合は後述のリサイクリングのタイミングが変わってくる)。ここでは“ミスマッチのある再測定”と分類する場合の考え方を説明する。

 

自己の信用リスクが悪化するということは、(自己創設)のれんの評価が下がることであり、もし、(自己創設)のれんが資産計上され(公正価値で測定され)ていれば、その減損損失(或いは、再測定による評価損)とこの負債の評価益が相殺される。即ち、B/Sの貸借で直接関連する項目とは、(自己創設)のれんと、負債の自己の信用リスクに影響を受ける公正価値測定項目ということになる。しかし、現在の会計規準では(自己創設)のれんの資産計上(や公正価値による再測定)が否定されているため、負債の評価益ばかりがP/Lに計上されてしまう。これがミスマッチだ。そこでIASBは、IFRS9号で、これをOCIに計上するよう要求している。そして、もし、これを“ミスマッチのある再測定”とするなら、その負債が処分されたり決済されたときにリサイクルするよう規定を改定すればよいとしている。

 

財政状態が悪化すると利益計上されるという会計処理は、経営者にも違和感があっただろう。負債の評価が落されても、企業の義務が減免されるわけではない。例えば、5年後に 10 億円支払う負債があるとして、自己の財政状態の悪化により評価が 9億円に減額されても、依然として5年後には 10 億円の支払いが必要になる。経営者の感覚としては「何の利益も生じてないのに利益が計上される」と感じられたと思う。したがって、改正前の会計処理は、経営者の感覚ともミスマッチが生じていたはずだ。

 

 

ということで、“ミスマッチのある再測定”に分類できるのは、現行規程のままならイとロの2項目、規程を変えるならハも加えて3項目となっている。IASBはOCIに計上する項目を識別するアプローチを2つ(5/30 の記事 2A 2B)提案しており、前回(6/3 の記事)の“橋渡し項目”と今回の“ミスマッチのある再測定”によってOCI項目を識別するアプローチ(2A)を、“OCIに対する狭いアプローチ”と呼んでいる。

 

確かに“狭い”。たったこれだけがOCIか。果たして、これ以外のすべての項目が、「企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性のある情報を提供する」といえるだろうか。次回は、残りの“一時的な再測定”へ移りたい。IASBは、これをOCIの識別に加えたアプローチ(2B)を“OCIに対する広いアプローチ”と呼んでいるが、果たして“一時的な再測定”は広いのだろうか。

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