372.CF-DP55)純損益とOCI~一時的な再測定“再評価モデルの評価益”
2014/8/12 大変申し訳ありませんが、読者からの指摘事項を訂正させていただきます。その指摘の内容は、このページ下部のコメント欄をご覧ください。本文の訂正箇所は赤字にしています。
2014/6/24
ギリシャ戦のことはもう考えまい。会計的にいえば“サンク・コスト(sunk cost/埋没費用)”だ。大事なのは、次のコロンビア戦(日本時間25日早朝5時から)で勝利することだ。しかし、それだけではザック・ジャパンの決勝トーナメント進出は決まらない。同時刻にキック・オフされるギリシャ/コートジボワール戦の結果が絡む、少々込入った条件をクリアすることが必要となる。
◇ ギリシャが勝った場合
ギリシャと得失点差の争いになる。現時点で日本が2点有利。
◇ 両者が引分けた場合
コートジボワールと得失点差の争いになる。現時点で日本が1点不利。よって、日本はコロンビアに2点差以上で勝つことが必要。なお、同点の場合は総得点の多い方となるが、これも日本が2点不利。
◇ ギリシャが負けた場合
日本の代わりにコートジボワールが決勝トーナメントへ進む。
既に決勝トーナメント進出を決めているコロンビアは、決勝トーナメントへ備えて戦力を落としてくるとの予想もあるが、スタジアムを埋め尽くす熱烈なコロンビア・サポーターの手前、下手な試合はできない。激しい試合になることは間違いない。また、我々としては裏ゲームの結果も気にしなくてはならず、早朝から大興奮の1日となりそうだ。これでこの4年間が終わるのか、それとも更なる高みを目指せるのか。主審がゲーム・セットの笛を吹くその時まで、この興奮は続く。
さて、今回は、前回(6/19 の記事)の“確定給付債務(純額)に係る再測定”以外の、このDPに挙げられている一時的な再測定項目をすべてやっつけてしまおう。と思ったが、“再評価モデルの評価益”だけで力尽きてしまった。これが、6/13 の記事に記載した「IASBが“一時的な再測定”を識別する特徴」を備えているか、見ていきたい。それによって、純損益とOCIの境界線を垣間見られるかもしれない。参考までに、その特徴を再掲する。
・・・、アプローチ2B では、ミスマッチのある再測定と橋渡し項目の使用に加えて、収益及び費用の項目が次の特徴のすべてを有している場合にはOCI に認識することをIASB は検討すべきだと提案している。
(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。
(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。
(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。
(再評価モデルの評価益・・・IAS16、IAS38、IFRS6)
再評価モデルとは、(少なくとも)数年ごとに簿価を公正価値測定額に置き換える会計処理で、その際評価益はOCIへ計上される。対象となる資産は、有形固定資産、無形資産、鉱物資源の探査及び評価資産であり、それぞれ原価モデルを採用するか、再評価モデルと採用するか、会計方針で定めることとされている(但し、測定に利用できる活発な市場がない場合などのように信頼性をもって公正価値を測定できない資産には、再評価モデルを適用できない)。ここの議論で対象となるのは、再評価モデルが適用された資産だ。
IFRSの現行規程では、評価益が生じた場合はOCIを通して、資本の部に計上される。そして・・・
・その評価益の範囲では評価損をOCIへ計上する(IAS16.39-40、IAS38.85-86、IFRS6.12)。
・その評価益を、資産の認識の中止時に利益剰余金へ振替える(IAS41、IAS87、IFRS6.12)。
前者はリサイクリングではないし、後者は実質的にリサイクリングを禁止している。
これらの資産を企業が取得する目的は、主として、長期間利用することで間接的に事業に貢献させることだ。上記の“一時的な再測定”の特徴である (a) や (b) を満たしている。この点に異論を持つ人は少ないだろう。
(c) についてはどうだろうか。IASBがこれらを一時的な再測定と扱っているのは、これらの公正価値の変動は、事業投資のリターンを分析する上でノイズになる可能性が高いという判断があるからだ。これを理解するには、IAS40号「投資不動産」の“公正価値モデル”と比較してみると面白い。
“公正価値モデル”も公正価値評価する。しかし、IASBは一時的な再測定にリストアップしていない。再評価モデルとは、次の点が異なる。
・評価損だけでなく、評価益も純損益に計上される(再評価モデルはOCI)。
・減価償却しない(再評価モデルは減価償却する)。
・毎期公正価値測定する(再評価モデルは簿価が公正価値と大きく異ならない頻度で測定)。
投資不動産は賃貸を主目的にした不動産だから、通常の有形固定資産(=自己使用不動産)のように“利用によって間接的に事業に貢献する資産”というより、“直接事業収益を生み出す資産”だ。上記は、その点が会計処理に反映された結果の相違と考えられる。恐らくIASBは、投資不動産の公正価値の変動は、事業業績の分析にノイズになるどころか、主要な分析対象であると考えたと思う。したがって、(c) の特徴に該当しないので、一時的な再測定に含まれないと判断したと思われる。
さて、みなさんはこの扱いの違いに納得されただろうか。
例えば、不動産の公正価値の変動は地価による場合が殆どだ。地価変動の情報(=不動産の公正価値の変動)は、自己使用不動産と投資不動産で企業業績の予測可能性に差異を与えるだろうか? もし、どちらも売却するまで業績に関係ないとすれば、扱いを変える理由にならない。
しかし、実際は地価が上がるとそのうち家賃や賃貸料も上がりだす。即ち、地価は賃貸事業収益の先行指標になりえる。このような因果関係があるので、地価は不動産の公正価値を評価する際の将来キャッシュフローの見積りに考慮される。しかし、自己使用不動産にはこのような因果関係はない。したがって、確かに投資不動産の公正価値の変動は、企業業績の予測価値を持つことになり、純損益に計上することが相応しいが、自己使用不動産にはそれがないのでOCIが相応しい。
ということで、IASBは、ここ(=投資不動産と、自己使用不動産や無形資産等の間)に純損益とOCIを区分する線を引いたのだろうと思う。
前回と異なり、今回は割とスッキリ、純損益とOCIの境界線を見ることができた。だが、ここからは前回と同じだ。これで心置きなく、明日のコロンビア戦へ集中できる。
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こんにちは。いつも興味深く読ませてもらっているのですが、はじめてコメントをば。
この記事で、
IFRSの現行規程では、評価益が生じた場合はOCIに計上され、また、それはリサイクリングされる(IAS16.39-40、IAS38.85-86、IFRS6.12)。
と書かれていますが、私の認識では再評価剰余金はリサイクリングされないのではないかと思います。
IAS16.39-40、IAS38.85-86で言っているのは、
取得価額500の資産があって、
一度目の再評価が530ならOCIを30計上、
二度目の再評価が480ならOCIを30減らし、純損失20を計上、
三度目の再評価が550なら純利益20を計上し、OCIを50計上する。
といった処理のことを言っていたのではないかと思います。
三度目の再評価の後に売却したならOCIの50はリサイクリングされず利益剰余金に振り替えられるのではないかと思うのですがどうでしょうか。
投稿: | 2014年8月11日 (月曜日) 09時25分
あれれっ、その通りですね。規定を確認して本日中に訂正します。ご指摘をありがとうございます。また気が付いたら、お手数ですが宜しくお願いします。o(_ _)oペコッ
投稿: はみだし | 2014年8月11日 (月曜日) 09時52分