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2014年6月

2014年6月27日 (金曜日)

373.CF-DP56)純損益とOCI~一時的な再測定“信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動”

2013/6/27

今野選手がPKを与えた瞬間、僕は思わず「よしっ!」と叫んでしまった。先取点を与えるのは(僕の)想定通りだ。あとは守りに入った相手を攻立てて疲れさせ、後半に逆転すればよい。W杯直前のコスタリカ戦、ザンビア戦、そして昨年のベルギー戦(引分けたがオランダ戦も)と同じ、日本の必勝パターンだ。増々期待が高まる。

 

前半終了間際の岡崎慎司選手の芸術的なヘディング・シュート、同点弾は素晴らしかった。が、少々出来過ぎだった。おかげで、後半冒頭からエースのハメス・ロドリゲス選手が投入され、川島永嗣選手が守るゴールが脅かされ始めた。彼の投入は、他のコロンビアの選手がもっと疲れて動けなくなってからでなくてはならなかったのに。それにしても、名将ぺケルマン監督の判断の早さには敬服する。

 

何はともあれ、ザック・ジャパンのW杯は終了した。後ろ髪をひかれる思いはあるが、監督・選手には、感謝したい。ここまで、とても楽しかったから。ありがとうございます。

 

 

ということで、サッカー業界はこれで一区切りとなるが、このブログも本日で4年目へ突入した。IFRS導入へ邁進していた金融庁が、突如方針転換を発表したのも3年前のこの頃(2011/6/20)のことだった(当時の自見大臣の会見)。その後は企業会計審議会が迷走し、昨年、日本版IFRSを作ることでようやく決着したものの、IASBからは「それはIFRSではない」と早くも釘を刺されている(6/5 日経無料記事)。

 

迷走しているのはこのブログも同じで、特に昨年10月から始めた“会計上の不確実性”はひどかった。迷走しないよう努力はするものの、新しいことへのチャレンジには、試行錯誤や迷走が付き物だ。これからも、みなさんの寛大さに甘えさせていただきたいと思う。

 

 

(企業自身の信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動・・・IFRS9

 

さて、今回のテーマは、“企業自身の信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動”だ。「なんのこと?」と思われた方もいらっしゃると思うが、リーマン・ショックのときに話題になった“あれ”だ。「欧米の巨大銀行がプライム・ローン問題で資金繰りが悪化し信用力が低下したら、社債などの負債の価値が減少したとして利益計上(純利益)して多くの批判を浴びた」あの問題といえば、思い出される方もいらっしゃるだろう。

 

詳しく知りたい方には、当時のダイアモンド・オン・ラインの記事を紹介する。

 

米銀の黒字決算が「うまく作り上げた」とされるこれだけの理由

 

「もっとコンパクトなものを」という方には、2010/10/29の日経電子版の記事(多分無料)はいかがだろうか。

 

金融機関の「負債評価益」認めず 国際会計基準審

 

ダイヤモンドの記事に記載されてように、「業績が落ち、信用を失えば失うほど利益が上がるという会計処理が、健全な基準であるはずがない」。しかし、当時はIFRSもUS-GAAPも、このような処理を認めていた。現在は、少なくともIFRSでは認められていない(IFRS9_5.7.7)。(US-GAAPでは現在も容認されているかもしれない。日経電子版 2012/2/1 によれば、少なくとも、2012/3期の第3四半期までは、米国基準を採用する野村ホールディングズが、負債評価益を計上している。ただIFRSも、早期適用は可能だったが、この改正が強制適用となったのは2013年から。)

 

ところで、ここでIFRSが“利益計上をやめた(=禁止した)”としているのは、具体的にどのような処理を指しているのだろうか。以下に考えうる候補を挙げてみる。

 

1.負債の公正価値測定をやめた(禁止した)

 

2.負債の公正価値測定は認めるが、信用リスクに起因する評価益を純利益ではなくOCI計上とする

 

答えは2だ。即ち、一定の手続(公正価値オプションの指定と関連する開示)とルール(適格要件や例外規定)の下で、以下のような会計処理が容認・要求されている(IFRS9_5.7.7 他)。

 

・公正価値が下落すれば負債の評価を切下げ、P/Lを通じて資本の部へ振替える。

 

・P/Lでは、信用リスクに起因するものは純損益には含めず、OCIに計上する。

 

(信用リスクに起因するもの以外の評価損益は、純利益に計上する。また、資本の部内での振替は可能だが、P/Lを通すリサイクリングは認められない。なお、公正価値オプションの指定は当初認識時にしかできず、あとから撤回・変更できない。)

 

ここで僕は、新しい疑問が湧いてきた。

 

このシリーズは、IASBが純利益とOCIの境界線をどこに引いているのかを理解したいとの思いで続けているが、これに関しては上記から容易に答えが見つけられそうだ。(公正価値オプションを指定した)負債に関しては、「公正価値の下落が、発行体自らの信用リスクに起因するかどうか」という線が引かれている。

 

だが、上述のダイヤモンドの記事でも指摘されているように「自らの信用力を落として業績を上げる」などということが可能であれば、企業経営の根底が崩れる。それを企業が追及しはじめれば、企業は社会にとって有益な存在ではなくなるだろう。企業が自らの信用を貶める目標を立てて実行するなどということは詐欺を働くのに等しい。企業が、忌まわしい存在になりかねない。したがって、IASBがこの問題に対処したのは当然と思われる。

 

しかし、報道では「負債評価益の利益計上は認めない」とされているものの、実際にはOCIへ計上される。「純利益+OCI=包括利益」なので、「自らの信用力を落として包括利益を増やす」ことは、今もできる。

 

これで良いのだろうか?

 

もし、これで良いとするならば、“包括利益”のイメージを変えなければならないのではないか。「企業業績を見るなら包括利益を見てはいけない」と。現在は、「純利益と包括利益のどちらが企業評価に役立つか?」などという問題設定が時々見られるが、包括利益は、純利益と比較できるようなものではないのではないか。しかし、この問題は、このシリーズの本筋とずれる上に、ちょっと大変そうだ。後日に回させていただきたい。

 

 

ちょっと話が先走ってしまった。これまでは、“一時的な再測定”の各項目について、まず、IASBが掲げた特徴(6/13 の記事)の最初の2について該当するかどうかを確認し、そして、残りの1項目(これにはIASBの価値判断が含まれる)についてじっくり見ていくパターンで検討してきた。しかし、今回はこの手順を飛ばしてしまった。

 

そこで改めて、IASBの掲げた3つの特徴を記載する。

 

(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。

 

(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。

 

(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。

 

ん~、負債の公正価値オプションの指定に“長期性の負債であること”という条件はない。したがって、上記の (a) (b) には該当しないのではないか。いや、正確には「該当しないこともありえる」だ。長期性の負債に公正価値オプションを指定すれば該当するのだから。負債の公正価値オプションは、資産側の市場リスクに対応して(そのリスクを相殺するように)指定されることが想定されている。資産側の状況によっては、短期も長期も想定しえると思う。

 

IASBはここでは妙にラフだ。確定給付退職年金制度の議論では異常に細かかったのに(6/19 の記事)、一体どうしたのだろうか?

 

IASBの肩を持つように考えれば、企業の財務的信用は急激に変化することは少ないから、短期の負債の公正価値測定には大きな影響はないことが多い。よって、実質的には長期負債が議論の対象になっているとすることもできるかもしれない。

 

或いは、この“一時的な再測定”は、IASBが提案している2つのアプローチのうちの輪郭がぼやけた方のアプローチ(2B)のみに利用される概念であり、ぼやけた部分にはIASBの裁量が入らざるえないとされている(5/30 の記事)。早速、その裁量を働かせたのだろうか。

 

DPには、この疑問の答えは見当たらないので本当のところは良く分からない。ここは「分からないということが分かった」ということで先へ進もう。

 

残る (c) については、上記の先走った議論の中で検討した。信用力の低下が、企業の経済的資源からのリターンを改善させるように見せるのは、問題が多いので、純利益から除外するのは妥当な判断だと思う。

 

 

さて、ザック・ジャパンの応援は終了したが、W杯はまだまだ続く。

 

W杯直前の強化試合で日本が負かしたコスタリカは、イタリア・イングランド・ウルグアイという強豪ぞろいのグループDで見事に1位で勝ち抜けた。アジア勢は消えたが、ヨーロッパ勢も、イタリアやイングランド、そして前回優勝のスペインまでもが敗退した。ウルグアイのエースであるスアレス選手は、イタリアのキエッリー選手に通算3度目となる噛み付きを行った。Wikipedia によると9試合出場停止の処分を受けたらしい(もっと処分が重くなると思っていたが・・・)。ゴールドマン・サックスが過去の国際試合のデータからW杯の勝敗予想をしたが、その的中率は36.11% に過ぎないという(WSJ 6/25)。まだまだ波乱が起きそうだ。

 

ドイツやオランダは調子が良さそう。さあ、ブラジルは本当に優勝できるだろうか。まだまだ、目が離せない。

2014年6月24日 (火曜日)

372.CF-DP55)純損益とOCI~一時的な再測定“再評価モデルの評価益”

2014/8/12 大変申し訳ありませんが、読者からの指摘事項を訂正させていただきます。その指摘の内容は、このページ下部のコメント欄をご覧ください。本文の訂正箇所は赤字にしています。

 

2014/6/24

ギリシャ戦のことはもう考えまい。会計的にいえば“サンク・コスト(sunk cost/埋没費用)”だ。大事なのは、次のコロンビア戦(日本時間25日早朝5時から)で勝利することだ。しかし、それだけではザック・ジャパンの決勝トーナメント進出は決まらない。同時刻にキック・オフされるギリシャ/コートジボワール戦の結果が絡む、少々込入った条件をクリアすることが必要となる。

 

 ◇ ギリシャが勝った場合

 

ギリシャと得失点差の争いになる。現時点で日本が2点有利。

 

 ◇ 両者が引分けた場合

 

コートジボワールと得失点差の争いになる。現時点で日本が1点不利。よって、日本はコロンビアに2点差以上で勝つことが必要。なお、同点の場合は総得点の多い方となるが、これも日本が2点不利。

 

 ◇ ギリシャが負けた場合

 

日本の代わりにコートジボワールが決勝トーナメントへ進む。

 

既に決勝トーナメント進出を決めているコロンビアは、決勝トーナメントへ備えて戦力を落としてくるとの予想もあるが、スタジアムを埋め尽くす熱烈なコロンビア・サポーターの手前、下手な試合はできない。激しい試合になることは間違いない。また、我々としては裏ゲームの結果も気にしなくてはならず、早朝から大興奮の1日となりそうだ。これでこの4年間が終わるのか、それとも更なる高みを目指せるのか。主審がゲーム・セットの笛を吹くその時まで、この興奮は続く。

 

 

さて、今回は、前回(6/19 の記事)の“確定給付債務(純額)に係る再測定”以外の、このDPに挙げられている一時的な再測定項目をすべてやっつけてしまおう。と思ったが、“再評価モデルの評価益”だけで力尽きてしまった。これが、6/13 の記事に記載した「IASBが“一時的な再測定”を識別する特徴」を備えているか、見ていきたい。それによって、純損益とOCIの境界線を垣間見られるかもしれない。参考までに、その特徴を再掲する。

 

・・・、アプローチ2B では、ミスマッチのある再測定と橋渡し項目の使用に加えて、収益及び費用の項目が次の特徴のすべてを有している場合にはOCI に認識することをIASB は検討すべきだと提案している。

 

(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。

 

(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。

 

(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。

 

 

 

(再評価モデルの評価益・・・IAS16IAS38IFRS6

 

再評価モデルとは、(少なくとも)数年ごとに簿価を公正価値測定額に置き換える会計処理で、その際評価益はOCIへ計上される。対象となる資産は、有形固定資産、無形資産、鉱物資源の探査及び評価資産であり、それぞれ原価モデルを採用するか、再評価モデルと採用するか、会計方針で定めることとされている(但し、測定に利用できる活発な市場がない場合などのように信頼性をもって公正価値を測定できない資産には、再評価モデルを適用できない)。ここの議論で対象となるのは、再評価モデルが適用された資産だ。

 

IFRSの現行規程では、評価益が生じた場合はOCIを通して、資本の部に計上される。そして・・・

 

 ・その評価益の範囲では評価損をOCIへ計上する(IAS16.39-40IAS38.85-86IFRS6.12)。

 

 ・その評価益を、資産の認識の中止時に利益剰余金へ振替える(IAS41IAS87IFRS6.12)。

 

前者はリサイクリングではないし、後者は実質的にリサイクリングを禁止している。

 

これらの資産を企業が取得する目的は、主として、長期間利用することで間接的に事業に貢献させることだ。上記の“一時的な再測定”の特徴である (a) (b) を満たしている。この点に異論を持つ人は少ないだろう。

 

 (c) についてはどうだろうか。IASBがこれらを一時的な再測定と扱っているのは、これらの公正価値の変動は、事業投資のリターンを分析する上でノイズになる可能性が高いという判断があるからだ。これを理解するには、IAS40号「投資不動産」の“公正価値モデル”と比較してみると面白い。

 

“公正価値モデル”も公正価値評価する。しかし、IASBは一時的な再測定にリストアップしていない。再評価モデルとは、次の点が異なる。

 

 ・評価損だけでなく、評価益も純損益に計上される(再評価モデルはOCI)。

 

 ・減価償却しない(再評価モデルは減価償却する)。

 

 ・毎期公正価値測定する(再評価モデルは簿価が公正価値と大きく異ならない頻度で測定)。

 

投資不動産は賃貸を主目的にした不動産だから、通常の有形固定資産(=自己使用不動産)のように“利用によって間接的に事業に貢献する資産”というより、“直接事業収益を生み出す資産”だ。上記は、その点が会計処理に反映された結果の相違と考えられる。恐らくIASBは、投資不動産の公正価値の変動は、事業業績の分析にノイズになるどころか、主要な分析対象であると考えたと思う。したがって、(c) の特徴に該当しないので、一時的な再測定に含まれないと判断したと思われる。

 

さて、みなさんはこの扱いの違いに納得されただろうか。

 

例えば、不動産の公正価値の変動は地価による場合が殆どだ。地価変動の情報(=不動産の公正価値の変動)は、自己使用不動産と投資不動産で企業業績の予測可能性に差異を与えるだろうか? もし、どちらも売却するまで業績に関係ないとすれば、扱いを変える理由にならない。

 

しかし、実際は地価が上がるとそのうち家賃や賃貸料も上がりだす。即ち、地価は賃貸事業収益の先行指標になりえる。このような因果関係があるので、地価は不動産の公正価値を評価する際の将来キャッシュフローの見積りに考慮される。しかし、自己使用不動産にはこのような因果関係はない。したがって、確かに投資不動産の公正価値の変動は、企業業績の予測価値を持つことになり、純損益に計上することが相応しいが、自己使用不動産にはそれがないのでOCIが相応しい。

 

ということで、IASBは、ここ(=投資不動産と、自己使用不動産や無形資産等の間)に純損益とOCIを区分する線を引いたのだろうと思う。

 

 

前回と異なり、今回は割とスッキリ、純損益とOCIの境界線を見ることができた。だが、ここからは前回と同じだ。これで心置きなく、明日のコロンビア戦へ集中できる。

2014年6月19日 (木曜日)

371.CF-DP54)純損益とOCI~一時的な再測定“確定給付債務(純額)に係る再測定”

2014/6/19

“史上最強”は悪夢の前兆か。この言葉、中田英寿選手、高原直泰選手や稲本潤一選手を擁したドイツ大会の日本代表チームを評して使われていたが、このブラジル大会の直前にも聞かれた。そして、ドイツ大会と同様、今回も初戦を落とした。みなさんもご存じのとおり、W杯の初戦で敗れた場合、過去の SUMURAI BLUE はすべて第一次リーグで敗退している。

 

みなさんは、もう、あの試合のことは忘れて次のギリシャ戦に目を向けていらっしゃるだろう。「自分たちのサッカーができなかった」と語る監督や選手たちは、既に“なすべきこと”を理解し、取組んでいるに違いない。

 

このチームはメンタルも強い。プレッシャーに押潰されるようなことはないと信じている。「初戦に敗れても、決勝トーナメントに進出する」という新しいページを開き、さらに、文字通り“史上最強”の結果を出すことを、僕は、思いっきり、期待し続けようと思う。

 

ん、「当たり前じゃないか! 分かり切ったことを書くな!!」という声が聞こえてきそうだ。では、当たり前じゃないことを一つ。やはり、6/7 の記事に記載した通り、「先制点はくれてやる」のは良い作戦だと思う。そして、守りに入った相手を攻立てて疲れさせるのだ。

 

しかし、この作戦はコロンビア戦にとっておこう。というのは、ギリシャは得点力がないので、先取点を取らせるのに時間がかかり過ぎてしまうからだ。それでは、攻立てて相手を疲れさせる時間が無くなってしまう。だからギリシャ戦は最初から徹底的に攻めまくって欲しい・・・ん、これでは当たり前の作戦か?

 

 

では、(気を取り直して)今回の本題に。

 

前回(6/13 の記事)記載したように、IASBは、“一時的な再測定”を次の特徴で識別するとしている。

 

(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。

 

(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。

 

(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。

 

しかし、これでは抽象的過ぎるので、具体的にどのような項目が“一時的な再測定”とされているか、DPに挙げられた項目を見てみよう。これで前回記載した“厳選”の程度が分かるはずだ。このDPの表 8.3 や表 8.4 の中から、今回は、確定給付年金制度に係る負債(=年金資産と退職給付債務の純額)の再測定を取上げる。これについては、このDPにおけるIASBの書き振りが、ちょっと、というか、とても難しいが頑張ってみよう。IASBの判断は次の通り。

 

(確定給付退職年金制度に係る負債の再測定(概ね、数理計算上の差異)・・・IAS19

 

これは、“橋渡し項目”として扱う候補のリストにも挙げられていた(6/3 の記事)。しかし、現行規程のままでは“橋渡し項目”ではないとされていた。一方で、“一時的な再測定”として扱うのは、現行規程のままでも問題ない。但し、リサイクリングについては否定されている。なぜだろう。今回、この点を深掘りしてみようと思う。それにより、IASBが上記の (c) をどのように判断しているかについて、より深く触れられるように思う。

 

橋渡し項目とは、6/3 の記事で説明した通り、B/SとP/Lで測定規準が異なる場合に生じる差異のこと。例えば、B/Sが公正価値なのにP/Lが原価ベースいう場合の差異。

 

IASBは、再測定による変動額を上記 (a)(b)(c) に該当すると判断し、OCIに計上することを認めている。(a)(b) に該当することは容易に理解できるので、説明は不要と思う。しかし、問題は (c) だ。IASBは、(c) に該当する理由を次のように記載している(DP8.90)。

 

再測定は将来キャッシュ・フローの不確実性とリスクに関する情報を提供し、それらの不確実性とリスクを財政状態計算書に反映する。しかし、再測定が当該キャッシュ・フローの可能性の高い金額及び時期に関して提供する情報は少ない。したがって、再測定をOCI に認識することにより、それらの各項目の予測価値の間の相違が透明となり、それらを予測価値がより高い純損益の項目と区別し、純損益の理解可能性を高めることになる。

 

早速分かりにくいので、僕流の解釈で記載する。

 

「純損益は“資産が生み出すリターンを示す主要な指標”」であることが求められている。そしてそれは、次の2つに役立つことが期待されている。(この2つは、概ね、同じことを別の表現で言っていると考えて良いと思う。)

 

・将来キャッシュ・フローの可能性の高い金額及び時期に関して提供する情報になること。

 

・予測価値の高さ。

 

予測価値については、現行の概念フレームワークの QC8 に次のように説明されている。

 

財務情報は、利用者が将来の結果を予測するために用いるプロセスへのインプットとして使用できる場合には、予測価値を有する。

 

数理計算上の差異の変動額は、この2つの期待に合わないので、資産を生み出す主要な指標となるべき純損益に含めず、OCIに計上するという考え方に、IASBは理解を示している。即ち、割引率や死亡率、年金選択率、昇給率等々の仮定の変化による再測定値の変動は、会社業績の予想に役立たないことが多いことに、IASBも共感している。

 

一方で、このOCIをリサイクリングの対象とすることには否定的だ。その理由を以下のように述べている(DP8.9192)。

 

一時的な再測定がリサイクルされるのは、リサイクリング調整が、リサイクリングにより財務報告に加わるコストと複雑性を正当化するのに十分な目的適合性のある情報を提供する場合だけである。したがって、IASB は、OCI に含まれるそれぞれの具体的な種類の一時的な再測定を扱う基準において、これをリサイクルすべきかどうか、及びいつすべきかを決定することになる。

 

例えば、確定給付負債の純額の再測定について、運用可能であるとともに目的適合性のある情報を提供するリサイクリングの適切な基礎を識別することは困難である(8.73 (b)参照)ため、IASB は、それらの一時的な再測定をリサイクルすべきではないと判断する可能性がある。

 

簡単にいえば「手間がかかり過ぎるし、やっても意味のあるリサイクリング額を計算できない」と言っていると思う。これは、日本で考えられていることと非常に大きな開きがある。

 

ちなみに上記引用文中で参照されている“8.73 (b)”は、数理計算上の差異が橋渡し項目ではない理由を説明しているところで、その理由は次のようになる(原文は表現が難しくて分かりにくいので、次の記載は相当“意訳”している。厳密に知りたい方は、ASBJのHPに掲載されているDPをご覧いただきたい)。

 

() 純損益としてP/L計上される費用(日本基準式に言えば勤務費用や利息費用)は、毎期首再設定される割引率等の影響を受けた見積額であり、かつ、非常に長期に渡ってB/Sの負債へ累積され残存する。したがって、このB/Sの負債額(=純損益に計上された費用の累積額)がなんであるか、明確に説明することは困難。

 

() OCI(日本式に言えば数理計算上の差異に当たるものが累積計上される)部分に、実際の給付支出する金額と過去の見積額との差額が累積されるはずだが、この差額を実際に算出することは手間がかかり過ぎてできないか、見積るにしても恣意性が入り過ぎる。

 

これでも、まだまだ難しい・・・。そこで、さらに僕の勝手な解釈を入れると次のようになる。

 

(退職給付に係る負債の構成)

       
 

=B/S=

 

 

 

 

 

退職給付に係る負債

 

= 負債の現在
    価値

 

 

 
 

=P/L=

 

(上記ⅰ)

 

純損益(累積額)

 

    

 

(上記ⅱ)

 

OCI(累積額)

 

(=再測定による現在価値変動の累積額)

 

 

 
 

=P/Lの内訳=

 

・勤務費用や過去勤務費用

 

・利息費用

 

 

 

・数理計算上の差異

 

・制度資産に係る収益等の変動額

 

 

 
 

=IASBのコメント=

 

各期首の予定割引率で算定されるなど、原価ベースでも時価ベースでもなく、期ごとに算定基礎が変わる説明不能な費用の累積額。

 

見積将来キャッシュ・フローと実績収支(=退職給付・年金給付などによる支出や資産運用益の実績)との差額を算出することは実務上困難。

 

 

IASBは、確定給付退職金制度に係る負債(純額)について、上記(ⅰ)と(ⅱ)の両方を合算しないと、説明可能で意味のある金額(=現在価値)にならないと考えている。P/L側の都合で(=割引率等の変動の影響が企業業績に大きな影響を与えないようにするため)、純損益とOCIに区分して計上するようにしたものの、その結果、B/Sに計上されたそれぞれの累積金額は、訳の分からない説明不能な金額になってしまったと考えているらしい。即ち、「(ⅰ)と(ⅱ)は合算すれば、現在価値という意味を持つが、各々単独では説明不能」と考えている。

 

さらに・・・

 

リサイクルするには、いくらリサイクルしたらよいか適正な金額を決めなければならない。通常この金額は、あるべき金額と実際の残高との差額を求めればよい。しかし、このような説明不能な金額のあるべき金額など求められないし、何らかの分析をしようにも複雑すぎて手に負えない。したがって、IASBは「リサイクルしようにもできないし、やる意味もない」と主張している。

 

ということではないかと思う。

 

これに対し、僕は次のようなイメージを持っていた。みなさんはどうだろうか。恐らく、日本基準に慣れ親しんでいると、こういうイメージを持ちやすいと思う。

 

イ.純損益に計上された費用は各期における最良の費用発生額の見積りである一方で、B/Sには負債の現在価値を計上する。ならば、OCIに計上された数理計算上の差異等は、B/SとP/Lの測定方法の違いによる差異だから、橋渡し項目そのものではないか。

 

ロ.OCIを定額法のような規則的な方法で純損益に戻入ればよい(=リサイクリング)。

 

極めてシンプルだ。これで良いではないですか!

 

とはいえ、IASBの上記意見とその緻密さを理解したうえで改めて考えてみると、このイメージはいかにもラフだ。しかし、ラフでも良いものは良い。逆に、IASBが細かいことを考えすぎているのではないか。では、細かく考えすぎている相手を説得するには、どうしたらよいのだろう?

 

それを考えるのに、もう一つ問題がある。スムージング(=利益の平準化)に対するIASBの厳しい姿勢だ。日本で一般的に考えられているように、甘くはない。

 

IASBは、スムージングを嫌う。粉飾の一形態と思っているからだ。そして、の方法にはスムージングの効果がある。したがって、定額法が経済実態を反映しているという説明がつかない限り、この方法は利益の平準化と見做されて、受入れられないと思う。

 

ということで、「数理計算上の差異が、一定期間に、一定のパターンで解消される」という合理的な説明 ~ 少なくとも固定資産の減価償却方法の選択と同レベルの合理性を持った説明 ~ ができるかどうか、という問題もある。IASBに、OCIに計上した数理計算上の差異等についてリサイクリングの適用を認めさせるのは、相当、ハードルが高そうだ。

 

 

う~ん、ちょっと話が逸れすぎたので、元へ戻そう。

 

冒頭の (c) の判断をIASBがどのように行っているかを、なるべく具体的に知りたいと思って深掘りしてみたが、分かったのは、リサイクルしないという判断は「実務上できないし、意味がない」という「純損益とは何か」という問題とは全然違う次元の理由であったということだ。残念ながら、これではIASBが考える“純損益”或いは“OCI”を、より深く理解することにはつながらない。無駄骨だったか?

 

ただ、ちょっと興味を惹いたのは、過去勤務費用の扱いだ。過去勤務費用こそ、冒頭の (c) に該当するのではないか。しかし、純損益に計上されるので、OCIではないし、このDPでもまったく触れられていない。そこで、もう少し過去勤務費用について考えてみると、過去勤務費用は退職給付制度自体の変化により発生するものなので、(a) には該当するが、(b) には該当しない。

 

即ち、IASBは、「単なる一時的な変動に過ぎず、予測価値がない」という理由だけでは、その項目を純損益から排除しない。「その項目が、今後も変動の可能性が高い見積り上の仮定や条件によるもの」でなければ、OCIとは考えないということらしい。これで、一つ、IASBが考える“純損益”と“OCI”の具体的な線引きのイメージが見えた気がする。

 

 

どうやら、退職給付に係る負債の再測定に関しては、期待通りの成果をあげられず大きな空振りに終わったが、かろうじて過去勤務費用によって救われた。危なかった。おまけに、この項目のDPの記載ぶりは分かり難くてとても苦労したので、もし得るものがなかったら、コートジボワール戦に続き大きな喪失感を味わっていたはずだ。が、一応、一生懸命考えた甲斐はあって、ホッとした。これで、心置きなく、明日のギリシャ戦へ集中できる。

 

 

2014年6月13日 (金曜日)

370.CF-DP53)純損益とOCI~一時的な再測定

2014/6/13

今回のテーマは“一時的な再測定”。英語では‘transitory remeasurements’。‘remeasurements’の方は、“リ・メジャメンツ”ということで、“再測定”であることが分かる。一方、‘transitory’の方は、僕には聞き慣れない単語だ。しかし、“トランジット”といえば“乗り継ぎ”のことだから、“トランサトーリ”も、最終目的地に至らない、まだ、長い旅の途中にいるような感じだろうか。

 

まだ事象が確定していない、決着していない。固まるのはずっと先。でも決算が来たから評価しなくては。

 

この単語からは、そんなイメージが湧いてくる。

 

 

(一時的な再測定 ‘transitory remeasurements’)

 

ということで、今回の“一時的な再測定”は、IASBの3つのアプローチを紹介した 5/30 の記事に記載したように、アプローチ2B において、“橋渡し項目”や“ミスマッチのある再測定”と共にOCIを構成する。しかし、リサイクリングをするかどうかはIASBが基準開発時に個々に判断するとされている。即ち、“一時的な再測定”としてOCIに計上された項目のすべてが、リサイクリングの対象になるわけではない。

 

IASBは、“一時的な再測定”について、“橋渡し項目”や“ミスマッチのある再測定”ほど、純損益から除外する根拠が明らかではなく、ものによっては一旦OCIに計上したら純損益に振戻さなくても、資産が生み出すリターンの状況を表現し損なうことはないと考えているようだ。

 

“一時的な再測定”の説明に際して、IASBは次のような見方を紹介している。(DP8.86

 

・・・、一部の長期の資産又は負債の再測定は純損益の外で反映するのが最も適切であるという見方である。この見解を有する人々の考えでは、それらの項目の長期的な性質と、その結果としてインプット(割引率など)の小さな変動への感応度が高いことにより、再測定が、将来のリターンについての予測力が低いか、又は場合によっては、純損益の中の情報を不明瞭にしたり理解を困難にしたりするものとなるおそれがある。

 

即ち、一部の固定資産や固定負債の評価損益は、次のような点で、純損益を分かりにくくしているという見方だ。

 

・長期に渡って使用される資産、果たされていく義務であるため、決算のたびに評価損益を計上するのはおかしい。

 

・評価に利用される割引率などの指標のちょっとした変化が、多額の評価損益を発生させるのはおかしい。

 

この見方には、親近感を感じられる方が多いのではないだろうか。市場価格は絶えず変動している。上昇もすれば下落もするし、それが繰返される。それに応じて、長期性資産・負債について毎期評価損益を計上し、純損益をブレさせるのは、企業のキャッシュ・フロー獲得能力を分かりにくくし、企業の将来像を見えにくくしている。こんな意見を、IASBが取上げたと考えられなくもない。本当にそうなら、大久保選手を日本代表に選出したザッケローニ監督の決断のように素晴らしい!

 

問題は、どうやってそういう事象を識別し、純損益から除外していくかだ。これについてIASBは、“一時的な再測定”を、次のような特徴を手掛かりに識別すると述べている(DP8.88)。

 

・・・、アプローチ2B では、ミスマッチのある再測定と橋渡し項目の使用に加えて、収益及び費用の項目が次の特徴のすべてを有している場合にはOCI に認識することをIASB は検討すべきだと提案している。

 

(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。

 

(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。

 

(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。

 

この3つは並列的な条件ではないと僕は思う。ある会計事象に (a)(b) の特徴を見出すことは比較的簡単で、多くの人が同じ答えを出せる。だが、(c) は抽象的なので判断が必要だ。人によって判断が分かれる可能性が高い。そして、その判断は、IASBに委ねられることになる。喩えて表現すれば次のようになるのではないだろうか。

 

この3要件に合致すれば自動的に“一時的な再測定”になるというのではない。(a)(b) の2要件に該当するものをまな板に載せて、そこからIASBが美味しそうと思うものを (c) によって厳選する。

 

この点をIASBは次のように記載している(DP8.89)。

 

・・・8.88 項に列挙した特徴のすべてを有し、IASB OCI に認識すべきだと判断する項目を、総称して「一時的な再測定」と呼んでいる。

 

では、具体的にどのような項目が“一時的な再測定”とされているだろうか。それを見れば、“厳選”の程度が推量できるに違いない。しかし、残念ながら、このDPの表 8.3 や表 8.4 に挙げられた個別項目を検討し、IASBの判断の内容を探っていくことは、次回としたい。

2014年6月11日 (水曜日)

369.CF-DP52)純損益とOCI~今もある?“換算のパラドックス”のミスマッチ

2014/6/11

日本時間の7日午前に行われたザンビア戦は、ザック・ジャパンが4-3で乱打戦を制した。僕は、あまり点を取り過ぎてコートジボワールに警戒されないかと心配していた(前回 6/7 の記事)。結果は、心配が当たり、たくさんゴールを決めてしまったが、その代り、たくさんゴールを決められた。さて、コートジボワールは警戒しただろうか、それとも「しめしめ」とほくそ笑んだだろうか?

 

もし、コートジボワールが攻めと守備の両方に日本対策を分散させたら日本の勝ちだと思う。ポイントは絞らねば効果がない。高い位置から守備を始める攻守一体型の対策を立てても、日本の勝ちだと思う。そのやり方なら、日本の方が組織力と運動量で勝ると思うからだ。恐らくコートジボワールは、日本攻略のアイディアはあるが、この一週間でできることは何か、その優先順位を付けられずに困っていると思う。目の前のご馳走はどれもおいしそうなのだが、多過ぎて消化不良を起こすに違いない。

 

ということで、ザンビア戦を見た僕は、コートジボワール戦の日本の勝利を確信した。日本は、コートジボワールに的を絞らせなかった。その一方で、日本は、ドログバ選手とヤヤ・トゥーレ選手を封じればよい。ジェルヴィーニョ選手に多少ゴールを奪われても、それを上回るゴールを決めればよいのだから。きっとザック・ジャパンは、3点は取ってくれると思う。(2点だと足りないかもしれない。)

 

実は、ギリシャ戦についてもすでにシナリオをイメージしている。だが、それについてはまたの機会に譲る。ん?そんなの読みたくない?? ん~、書きたいのだが・・・。

 

 

さて本題に入ろう。実は、本題の方は、何を書くか迷った。

 

・IASBのアプローチ2B を理解するために“一時的な再測定”へ進むか

 

・それともアプローチ2A をより深く理解するために(前回「別の機会に譲る」とした)“在外営業活動体に対する純投資のミスマッチ”を掘り下げるか

 

もしかしたら、みなさんは前回の記事を読んで、「“在外営業活動体に対する純投資のミスマッチ”ってなんだ? 分からないぞ!」と思われたかもしれない。それとも、「ああ、“換算のパラドックス”のことだね。」と思われただろうか。或いは、「まさか、“換算のパラドックス”ではあるまい。日本基準ではとっくに解決されているのに。」と呆れられただろうか。

 

 

“換算のパラドックス”というのは、海外子会社等が作成した外貨建て財務諸表では黒字なのに、円建てに換算すると赤字になってしまうこという。逆に、赤字が黒字になることもある。ご存じなかった方には、こんなことが会計規準に潜んでいるなんて、驚きだろう。もしこれが“在外営業活動体に対する純投資のミスマッチ”に該当するなら、まさにミスマッチだ。経営の意図も何もあったものではない。

 

どのような場合に起こるかというと、収益項目と費用項目の換算レートが異なる場合だ。例えば、アベノミクスのようなことがあって、期首と期末で為替レートが大きく変動する場合、期首在庫とそれを期中に売上計上したときの為替レートが大きく異なることがある。もし、大きく円高に振れたとすると現地通貨ベースでは利益が出た取引であっても、円換算すると赤字なってしまったりする(例えば、110円/ドルのとき仕入れた8ドルの商品を80円/ドルのときに10ドル販売すると、ドル・ベースでは2ドルの利益だが、円ベースでは800円-880円=-80円の損になる)。

 

日本基準では、収益と費用を期中平均レートで換算するので、このようなことの発生は防止されている。しかし、IAS21号では原則取引日レートだ。平均レートも可だが、為替レートの変動が激しい時は平均レートの使用を不適切としている(IAS21.40)。したがって、逆にパラドックスに陥りやすい。

 

みなさんは、色々疑問が湧いてくるだろう。例えば、

 

 なぜIFRSは原則取得日レートなのか。

 

・“純投資”はB/S項目だが、“換算のパラドックス”はP/Lの話だ。関係があるか?

 

今回は残念ながら、次の項目を記載するに留めて、深掘りはやはり別の機会にする。これら、或いは、次の項目について検討するには、IAS21号「外国為替レート変動の影響」などにかなり踏み込んでいくことになりそうだからだ。シリーズものにしないと検討しきれない。

 

 a. “換算のパラドックス”はB/Sにもある?

 

P/Lほど頻繁には表れないかもしれないが、B/Sを換算する際の換算差額は資本の部の独立項目として計上されるので、連結純資産の金額に影響を与える。業績悪化などで連結純資産が小さくなっているときに、この換算差額が影響して債務超過のような状況になるかもしれない。これは、日本基準の為替換算調整勘定にも当てはまる。

 

 b. 日本基準も、このパラドックスを完全にはクリアできていない?

 

以前、日本基準では、外貨建て財務諸表の換算差額(=為替換算調整勘定)を連結財務諸表の純資産の部に直接計上していたが、包括利益計算書の導入によって、OCIにも計上されることになった。OCIに計上される為替換算調整勘定は、損益なのか? もし損益だとすれば、日本基準でも換算のパラドックスが発生する可能性がある。

 

 c. 財務諸表をすべて期末日レートで換算すれば、パラドックスを回避できるのでは?

 

換算のパラドックスは、複数の為替レートを使用することに根源的な問題があるので、単一の為替レート、即ち、すべて期末日レートで換算すれば、上記の問題を含めて回避できるのではないか。なぜ、そうしないのか。

 

 d. IASBはこの純投資のミスマッチの内容について、このパラドックス以外に次の項目も挙げている。

 

・のれんの評価に関係する問題

 

・資本維持(インフレ会計)の考え方の整理

 

 

ということで、この“在外営業活動体に対する純投資のミスマッチ”を深掘りするには、いろいろあり過ぎて、簡単に焦点が絞れないことが、お分かりいただけたと思う。手掛かりはある。しかし、これを“ちょっと付け加え感覚”で扱おうとすれば、恐らく中途半端になって失敗する。きっとコートジボワールも、日本対策で同じように悩んでいるに違いない。僕は、「次のアジアカップのときの課題にしよう」みたいに問題を先送りできるが、コートジボワールに、それは許されない。

 

 

2014年6月 7日 (土曜日)

368.CF-DP51)純損益とOCI~ミスマッチのある再測定

2014/6/7

6月3日のサッカー日本代表のコスタリカ戦は、素晴らしい出来だったと僕は思う。相変わらず先制点を奪われるパターンは改善されないが、このチームの後半の強さは特筆すべきことだ。“王者”と呼ばれていたころのジュビロ磐田を思い出した。古い話だが、当時のジュビロはサドン・デス方式、或いは、ゴールデン・ゴール方式の延長戦に滅法強かった。相手チームがボールを回されて疲れてしまうのだ。今の日本代表に似ていないだろうか。先制点を奪われないことに越したことはないが、このチームに限っては、それも相手を油断させる戦術かもしれないと思う。

 

本田圭祐選手の出来にも安心した。というか、5/30 の記事に記載したキプロス戦での杞憂は、やはり僕の老眼による見間違い、勘違いかもしれない。2日に放送された NHK の「プロフェッショナル 仕事の流儀」の録画をキプロス戦のあとに見たが、この選手が日本に生まれてくれて本当によかったと思う。努力の人、どこまでもポジティブな人。僕が心配するなんておこがましい。この人は、信頼され、期待されることこそが相応しい。来週の9日(午後10時~)には続編が放送される。

 

こうなるとW杯が待ちきれないが、その前にザンビア戦(本日午前8時半~)がある。ゴールをたくさん決め過ぎて、コートジボワールの警戒感を高めてしまうのではないか、と僕は心配している。コスタリカ戦は、それほどの良い出来だったと思う。

 

 

さて、本題に入るとしよう。このブログの出来も高めていかなくては・・・、とは思うが、今回はなかなか難しいかもしれない。

 

(ミスマッチのある再測定 ‘mismatched remeasurements’)

 

前回(6/3 の記事)記載した“橋渡し項目”は、B/SとP/Lという2つの基本財務諸表間を繋ぐものだった。これはB/SとP/Lで異なる測定規準を使用する場合に生じる。これと同じような表現をするなら、“ミスマッチのある再測定”は、B/Sの借方と貸方を繋ぐものと考えて良いかもしれない。ただ、“繋ぐもの”というより、B/Sだけに、“貸借をバランスさせるために必要な計算項目”というイメージかもしれない。いやいや、単なる計算項目ではなく、IASBは、会計規準通りの会計処理を行っても、「企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性の乏しい情報しか提供しない場合」(DP8.62)に生じるものとしている。残念ながら、これが少々分かりにくい。

 

B/Sの借方と貸方の直接関連する項目について、次のパターンでミスマッチが生じる。

 

A.どちらかが期末レートで、もう一方が取引日レートの換算をしている場合

B.どちらかが公正価値、もう一方が原価ベースの測定をしている場合

C.どちらかが、未認識(=B/Sに未計上)の場合

 

“ミスマッチ”というと、ヘッジ会計を思い出す方が多いと思うが、ほぼ、そのイメージで良いようだ。上記のようなIASBが提示する会計技術的なミスマッチもミスマッチだが、僕は、より本質的には、ある取引について経営の意図や感覚と会計処理結果(=会計規準)が合わない場合に“ミスマッチ”が生じると思う。IASBは、具体的に次のものを挙げている。(DP8.2、表8.3

 

 イ.在外営業活動体に対する純投資(及びヘッジ)から生じる為替差損益(IAS21

 

在外営業活動体に対する純投資とは、海外支店に対する支店勘定や海外子会社への資本勘定に当たる。したがって、これは日本基準の為替換算調整勘定(=海外子会社の外貨建て財務諸表を円換算する際の差額)のイメージに近い。IAS21号では次の①~④の場合の換算差額をOCIに計上することになっているが、そのうちの①~③が“ミスマッチのある再測定”となる。

 

 実質的な純投資項目の為替差損益

 

親会社や本社からの長期借入金など、実質的に資本調達手段となっている貨幣項目(=純投資の一部を構成する貨幣項目)に関する個別財務諸表上の決済差損益や期末換算差損益ついては、各個別財務諸表においては純損益だが、連結財務諸表ではOCIに計上する。(IAS21.1632

 

参考までに付け加えると、上記(=純投資の一部を構成する貨幣項目)以外の外貨建て貨幣項目の決済差損益と期末換算差損益は、個別財務諸表上はもちろん、連結財務諸表上も、日本基準と同様に純損益に計上される。(IAS21.28) したがって、ミスマッチ項目にはならない。

 

 日本基準の為替換算調整勘定に相当するもの

 

例えば、子会社が米ドルで個別財務諸表を作成している場合は、連結するにあたって、資産・負債は期末日レート、損益は原則として取引日レートで円換算し、連結上の期首純資産を前期末レートから期末日レートへ換算し直す。また、日本円で財務諸表を作成している親会社が、ドル建ての開示を行う場合も同様の換算を行う。その際に生じる換算差額はOCIへ計上する。(IAS21.39

 

 在外営業活動体に対する純投資の為替リスクに対するヘッジ損益

 

在外営業活動体に対する純投資の為替リスクをヘッジするための有効な範囲の為替差損益があれば、それもOCIへ計上する。(IAS39.102

 

これら①~③はすべて純投資項目であり、投資先の純資産を(実質的に)構成する。B/Sでは、純資産は資産・負債全体に関連する。では、そこにどのようなミスマッチが生じているかというと、これが少々難しい。しかし、IASB流に言うなら、上記A~Cが発生している。僕流に言えば、経営の意図と会計が合わない。具体的には、説明が長くなりそうなので別の機会に譲りたい。

 

リサイクリング(=純利益への振替)を行うタイミングについては、在外営業活動体の個別資産・負債の処分や減損等とは関連付けず、在外営業活動体への出資割合を引下げたり、持分を売却したときとされている。とてもシンプルだ。

 

なお、IAS21号では下記④もOCIへ計上されるが、この“ミスマッチのある再測定”の議論では取上げられていない。恐らく、前回の“橋渡し項目”の議論とダブるためと思われる。

 

 非貨幣項目から生じるOCIの換算差額

 

在外営業活動体が固定資産の再評価モデル(IAS16)を採用した場合の評価益のように、在外営業活動体の非貨幣項目から生じる損益をIFRSがOCIへ計上するよう指定しているときは、そのOCI項目の換算差額もOCIへ含める。(IAS21.3031

 

 ロ.キャッシュ・フロー・ヘッジの有効部分(IFRS9 Hedge2010ED

 

IASBがこのDPを公表した段階(2013/7)では、まだヘッジ会計は最終規準化されていなかったため、DPでは公開草案(IFRS9 Hedge2010ED)と記述されている。しかし、ご存じの方もいらっしゃると思うが、2013 11 月に規準が公表された(英語版)。(日本語版はまだのようだ。なお、ヘッジ会計のうちマクロ・ヘッジは別プロジェクトへ分離された。)

 

(マクロ・ヘッジ以外の)ヘッジ会計は、次の3種類がある(IFRS9 Hedge2010ED.21)。

 

(a) 公正価値ヘッジ

(b) キャッシュ・フロー・ヘッジ

(c) 在外営業活動体に対する純投資のヘッジ

 

B/Sの貸借で何が直接関連するものになるかの説明は、ヘッジ対象とヘッジ手段ということで良いだろう。では、何がミスマッチなのか。なぜ、キャッシュ・フロー・ヘッジのみがここで取上げられるのか。

 

(a) 公正価値ヘッジでは、ヘッジ対象の評価損益が計上される区分(純損益か、OCIか)に合わせて、ヘッジ手段の公正価値測定による評価損益を計上する区分を決める。即ち、両者を対応させる。OCI項目に該当するか否かは、ヘッジ対象の性質によるので、公正価値ヘッジの評価損益自体はミスマッチの問題にならない。(c) 在外営業活動体に対する純投資のヘッジは上記のイとダブるのでここでは取上げられなかったと思われる。

 

一方、(b) キャッシュ・フロー・ヘッジの場合は、ヘッジ対象について換算レートが取引日レートであるとか、原価ベースの測定になっているとか、或いは、まだ未認識の状態にあるため(即ち、上記のA~Cの状態にあるため)、評価損益がP/Lに計上されていない。しかし、ヘッジ手段については公正価値測定され評価損益がP/Lに計上されてしまう。これがミスマッチだ。そこで、ヘッジ対象の評価損益が計上されるまでの間、ヘッジ手段の評価損益をOCIに計上してB/Sの純資産にストックしておき、ヘッジ対象の評価損益が計上されたら、それに合わせて純損益へ振替える(=リサイクリング)。

 

経営としては、ヘッジ対象の為替リスク等の市場リスクをヘッジしようとしているのに、P/Lでは先にヘッジ手段の評価損益が計上されてしまうため包括損益が反ってぶれることになる。そこでヘッジ対象の評価損益をいったんOCIに計上してB/Sの純資産に蓄えておき、将来ヘッジ対象のリスクが顕在化したときの備えにする。即ち、包括損益のうちこのOCI項目は企業業績を表すものではない。まさに企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性の乏しい情報しか提供しない場合」となる。したがって、“ミスマッチのある再測定”に該当する。

 

 ハ.公正価値測定する金融負債で、発行者自身の信用リスクに起因する公正価値の変動(IFRS9

 

これは、リーマン・ショックのときの欧米の金融機関が、自己の信用リスクが悪化することで利益計上したとして批判を浴びた会計規準(改正前のIAS39。この利益を純利益に計上していた)を改善したものだ。現行規程ではOCIへ計上される(IFRS9.5.7.7)。

 

IASBは、これも“ミスマッチのある再測定”に該当する可能性があるとしている。「可能性がある」としているのは、現行の規定ではリサイクリングが否定されていること、及び、恐らく“橋渡し項目”として分類することも可能とされているためと思われる(但し、その場合は後述のリサイクリングのタイミングが変わってくる)。ここでは“ミスマッチのある再測定”と分類する場合の考え方を説明する。

 

自己の信用リスクが悪化するということは、(自己創設)のれんの評価が下がることであり、もし、(自己創設)のれんが資産計上され(公正価値で測定され)ていれば、その減損損失(或いは、再測定による評価損)とこの負債の評価益が相殺される。即ち、B/Sの貸借で直接関連する項目とは、(自己創設)のれんと、負債の自己の信用リスクに影響を受ける公正価値測定項目ということになる。しかし、現在の会計規準では(自己創設)のれんの資産計上(や公正価値による再測定)が否定されているため、負債の評価益ばかりがP/Lに計上されてしまう。これがミスマッチだ。そこでIASBは、IFRS9号で、これをOCIに計上するよう要求している。そして、もし、これを“ミスマッチのある再測定”とするなら、その負債が処分されたり決済されたときにリサイクルするよう規定を改定すればよいとしている。

 

財政状態が悪化すると利益計上されるという会計処理は、経営者にも違和感があっただろう。負債の評価が落されても、企業の義務が減免されるわけではない。例えば、5年後に 10 億円支払う負債があるとして、自己の財政状態の悪化により評価が 9億円に減額されても、依然として5年後には 10 億円の支払いが必要になる。経営者の感覚としては「何の利益も生じてないのに利益が計上される」と感じられたと思う。したがって、改正前の会計処理は、経営者の感覚ともミスマッチが生じていたはずだ。

 

 

ということで、“ミスマッチのある再測定”に分類できるのは、現行規程のままならイとロの2項目、規程を変えるならハも加えて3項目となっている。IASBはOCIに計上する項目を識別するアプローチを2つ(5/30 の記事 2A 2B)提案しており、前回(6/3 の記事)の“橋渡し項目”と今回の“ミスマッチのある再測定”によってOCI項目を識別するアプローチ(2A)を、“OCIに対する狭いアプローチ”と呼んでいる。

 

確かに“狭い”。たったこれだけがOCIか。果たして、これ以外のすべての項目が、「企業が当期に自らの資源に対して得たリターンに関して目的適合性のある情報を提供する」といえるだろうか。次回は、残りの“一時的な再測定”へ移りたい。IASBは、これをOCIの識別に加えたアプローチ(2B)を“OCIに対する広いアプローチ”と呼んでいるが、果たして“一時的な再測定”は広いのだろうか。

2014年6月 3日 (火曜日)

367.CF-DP50)純損益とOCI~橋渡し項目

2014/6/3

昨日の日経平均終値は 14,935.92円、303 円高と大幅上昇した。これは 4/4 15,063.77円以来、約2か月ぶりの高値圏だ。昨日上昇した理由は次のようなものらしい。

 

 1.先週末の米国株高(といっても、NYダウはわずか18ドル高に過ぎない)

 2.円相場の下落(といっても、大引 15 時の比較で40銭ほどの円安にしか過ぎない)

 3.1日発表の中国製造購買担当者景気指数(PMI)の改善(前月の 50.4 から 50.8 へ僅かに改善)

(以上は、日経の国内株式概況の記事に、具体的な数値を拾って加えた。)

 

5/22 の記事の冒頭で触れた黒田日銀総裁会見中に円高に振れた件は、一端、一線を越えたものの、欧州市場・米国市場と時間が進むにつれ円安に転じ、翌日には元のレベルへ戻ってきた。そして、日経平均はそのときから 600 円も上昇したのだから、ようやくこの勝負は黒田総裁の“勝ち”ということで決着したのかもしれない。マーケットは「日銀の追加緩和は不要」という黒田総裁の主張を受入れ(て降参し)たのかもしれない。

 

ただ、米国の金利が“不思議と”低下したままで、最高値圏にある米国株式相場の上昇を抑制している。これは、債権投資家は経済の不調を予想し、株式投資家は経済の好調を予想していることを意味している。このようなケースの8割は債権投資家が正しいという専門家の意見を、WSJ 6/2 の記事は紹介している。米国株式相場は最高値圏にあるものの、取引は閑散としているそうで、少々おっかなびっくりな感じなのだろう。米国株式が下落は、ようやく反転上昇を始めた日本株のリスクとなる。

 

市場では、こんな具合に色々な人が様々な角度から予想して、需給の一致した点で価格が決定すると考えられている。とはいえ、何とも不安定な感じも受ける。この不安定さを「参加者が多いことの証であり、むしろ、信頼できる。」と考えるか、それとも「不安定は不安定でしょ。市場価格など一時的な妥協点に過ぎない。」と引いてみるか、この考え方や見方の違いが、今回のテーマに大きく影響しているように思う。IASB(やFASB)は、前者の見方をしている。

 

 

(橋渡し項目 ‘bridging items’)

 

“橋渡し”というのは、B/SとP/Lの橋渡しという意味で、B/Sでは公正価値ベースの測定を行い、P/Lでは原価ベースの測定を行うようなケースで、両者に差異が生じる。IASBは、その差異部分を“橋渡し項目”と呼んで、OCIに計上するとしている。具体的には、次のようなものが挙げられている(DP8.2)。

 

・満期保有の債券等(IFRS92012EDに提案されているもの)

 

より正確には“OCIを通じて公正価値で測定する金融資産”と表現されるものであり、具体的には次の2条件を満たすものが該当する(IFRS9 2012ED 4.1.2A)。

 

・契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルに基づいて、資産が保有されている。

 

・金融資産の契約条件により、元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるキャッシュ・フローが特定の日に生じる。

 

上記に該当する金融資産は、まずP/L上は償却原価ベースの損益が計上されるが、B/S上は公正価値で計上される。両者の差額はOCIに計上される(と提案されている)。

 

・再評価モデルを採用した有形固定資産・無形資産(IAS16IAS38

 

これらの項目は、必ずしも毎期公正価値評価されるわけではないが、簿価が公正価値と大きく変わらない程度の頻度では再評価が実施される。同時に毎期減価償却も行われる。すると、P/L(=減価償却費)は原価ベース、B/Sは公正価値ベースとなる。そして、両者の差額(但し、評価益のみ)をOCIに計上する。

 

但し、上記のP/L計上額は、公正価値への再評価額を取得原価と見做して減価償却を実施するため、正確な原価ベースの減価償却費ではない。橋渡し項目に含めるには、現在のIAS16号や38号の規定を変更して、当初の取得価額をベースに減価償却するよう改める必要があるとされている(DP8.75)。

 

上記の他、次のものも、候補に挙げられている。

 

・保険契約(2013ED

 

・探査及び評価資産(IFRS6

 

・確定給付退職年金制度の資産及び負債(IAS19
  但し、現行規程では橋渡し項目には当たらないとされている(
DP8.73DP8.74)。

 

・投資不動産(IAS40

  但し、現行規程では再評価損益は純損益に計上しており、OCIではない(DP8.95 8.4)。

 

 

市場価格でB/S項目を測定するのは、期末時点の財政状態を表現する方法として分からないでもない。しかし、期中に獲得した利益や発生した損失を計算・表示するP/Lに、期末日に生じた評価損益をそのまま計上して良いものだろうか。冒頭に記載したように、市場価格は企業の内部要素や経営者の意思決定と離れたところで決まることも多いし、この先、上がることもあれば下がることもある。

 

僕なら、売買有価証券であっても公正価値測定による期末評価損益は、“橋渡し項目”として、OCIに計上すると主張するかもしれない(減損損失は純損益だが)。期末時点に多額の評価益があっても、それをまだ獲得したわけではないと思うからだ。恐らく僕は、市場価格というものをあまり信頼していないのかもしれない。

 

しかし、IASB(やFASB)は、純利益を「企業が自らの経済的資源に対して得たリターンに関する主要な指標」と考えているのに、売買有価証券の評価損益を純利益に計上する。これも期中に獲得したリターンと考えている。市場価格に対する信頼が厚いのに違いないと思う。

 

いやいや、まだ結論を出すのは早い。まだ“ミスマッチのある再測定”、“一時的な再測定”があるからだ。しかし、“橋渡し項目”に上記しか挙がっていないのは、OCI及びリサイクリング項目の範囲は、なかなか狭そうな気がする。これは、“純利益”に対するイメージの相違をも示唆していると思う。

 

 

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