373.CF-DP56)純損益とOCI~一時的な再測定“信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動”
2013/6/27
今野選手がPKを与えた瞬間、僕は思わず「よしっ!」と叫んでしまった。先取点を与えるのは(僕の)想定通りだ。あとは守りに入った相手を攻立てて疲れさせ、後半に逆転すればよい。W杯直前のコスタリカ戦、ザンビア戦、そして昨年のベルギー戦(引分けたがオランダ戦も)と同じ、日本の必勝パターンだ。増々期待が高まる。
前半終了間際の岡崎慎司選手の芸術的なヘディング・シュート、同点弾は素晴らしかった。が、少々出来過ぎだった。おかげで、後半冒頭からエースのハメス・ロドリゲス選手が投入され、川島永嗣選手が守るゴールが脅かされ始めた。彼の投入は、他のコロンビアの選手がもっと疲れて動けなくなってからでなくてはならなかったのに。それにしても、名将ぺケルマン監督の判断の早さには敬服する。
何はともあれ、ザック・ジャパンのW杯は終了した。後ろ髪をひかれる思いはあるが、監督・選手には、感謝したい。ここまで、とても楽しかったから。ありがとうございます。
ということで、サッカー業界はこれで一区切りとなるが、このブログも本日で4年目へ突入した。IFRS導入へ邁進していた金融庁が、突如方針転換を発表したのも3年前のこの頃(2011/6/20)のことだった(当時の自見大臣の会見)。その後は企業会計審議会が迷走し、昨年、日本版IFRSを作ることでようやく決着したものの、IASBからは「それはIFRSではない」と早くも釘を刺されている(6/5 日経無料記事)。
迷走しているのはこのブログも同じで、特に昨年10月から始めた“会計上の不確実性”はひどかった。迷走しないよう努力はするものの、新しいことへのチャレンジには、試行錯誤や迷走が付き物だ。これからも、みなさんの寛大さに甘えさせていただきたいと思う。
(企業自身の信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動・・・IFRS9)
さて、今回のテーマは、“企業自身の信用リスクに起因する金融負債の公正価値の変動”だ。「なんのこと?」と思われた方もいらっしゃると思うが、リーマン・ショックのときに話題になった“あれ”だ。「欧米の巨大銀行がプライム・ローン問題で資金繰りが悪化し信用力が低下したら、社債などの負債の価値が減少したとして利益計上(純利益)して多くの批判を浴びた」あの問題といえば、思い出される方もいらっしゃるだろう。
詳しく知りたい方には、当時のダイアモンド・オン・ラインの記事を紹介する。
「もっとコンパクトなものを」という方には、2010/10/29の日経電子版の記事(多分無料)はいかがだろうか。
ダイヤモンドの記事に記載されてように、「業績が落ち、信用を失えば失うほど利益が上がるという会計処理が、健全な基準であるはずがない」。しかし、当時はIFRSもUS-GAAPも、このような処理を認めていた。現在は、少なくともIFRSでは認められていない(IFRS9_5.7.7)。(US-GAAPでは現在も容認されているかもしれない。日経電子版 2012/2/1 によれば、少なくとも、2012/3期の第3四半期までは、米国基準を採用する野村ホールディングズが、負債評価益を計上している。ただIFRSも、早期適用は可能だったが、この改正が強制適用となったのは2013年から。)
ところで、ここでIFRSが“利益計上をやめた(=禁止した)”としているのは、具体的にどのような処理を指しているのだろうか。以下に考えうる候補を挙げてみる。
1.負債の公正価値測定をやめた(禁止した)
2.負債の公正価値測定は認めるが、信用リスクに起因する評価益を純利益ではなくOCI計上とする
答えは2だ。即ち、一定の手続(公正価値オプションの指定と関連する開示)とルール(適格要件や例外規定)の下で、以下のような会計処理が容認・要求されている(IFRS9_5.7.7 他)。
・公正価値が下落すれば負債の評価を切下げ、P/Lを通じて資本の部へ振替える。
・P/Lでは、信用リスクに起因するものは純損益には含めず、OCIに計上する。
(信用リスクに起因するもの以外の評価損益は、純利益に計上する。また、資本の部内での振替は可能だが、P/Lを通すリサイクリングは認められない。なお、公正価値オプションの指定は当初認識時にしかできず、あとから撤回・変更できない。)
ここで僕は、新しい疑問が湧いてきた。
このシリーズは、IASBが純利益とOCIの境界線をどこに引いているのかを理解したいとの思いで続けているが、これに関しては上記から容易に答えが見つけられそうだ。(公正価値オプションを指定した)負債に関しては、「公正価値の下落が、発行体自らの信用リスクに起因するかどうか」という線が引かれている。
だが、上述のダイヤモンドの記事でも指摘されているように「自らの信用力を落として業績を上げる」などということが可能であれば、企業経営の根底が崩れる。それを企業が追及しはじめれば、企業は社会にとって有益な存在ではなくなるだろう。企業が自らの信用を貶める目標を立てて実行するなどということは詐欺を働くのに等しい。企業が、忌まわしい存在になりかねない。したがって、IASBがこの問題に対処したのは当然と思われる。
しかし、報道では「負債評価益の利益計上は認めない」とされているものの、実際にはOCIへ計上される。「純利益+OCI=包括利益」なので、「自らの信用力を落として包括利益を増やす」ことは、今もできる。
これで良いのだろうか?
もし、これで良いとするならば、“包括利益”のイメージを変えなければならないのではないか。「企業業績を見るなら包括利益を見てはいけない」と。現在は、「純利益と包括利益のどちらが企業評価に役立つか?」などという問題設定が時々見られるが、包括利益は、純利益と比較できるようなものではないのではないか。しかし、この問題は、このシリーズの本筋とずれる上に、ちょっと大変そうだ。後日に回させていただきたい。
ちょっと話が先走ってしまった。これまでは、“一時的な再測定”の各項目について、まず、IASBが掲げた特徴(6/13 の記事)の最初の2について該当するかどうかを確認し、そして、残りの1項目(これにはIASBの価値判断が含まれる)についてじっくり見ていくパターンで検討してきた。しかし、今回はこの手順を飛ばしてしまった。
そこで改めて、IASBの掲げた3つの特徴を記載する。
(a) 資産の実現又は負債の決済が長期間にわたり行われる。
(b) 当期の再測定が、資産又は負債の保有期間にわたり、すべて元に戻るか又は著しく変動する(いずれかの方向に)可能性が高い。
(c) 当期の再測定の全部又は一部をOCI に認識することにより、企業が自らの経済的資源に対して得たリターンの主要な指標としての純損益の目的適合性と理解可能性が高まる。
ん~、負債の公正価値オプションの指定に“長期性の負債であること”という条件はない。したがって、上記の (a) や (b) には該当しないのではないか。いや、正確には「該当しないこともありえる」だ。長期性の負債に公正価値オプションを指定すれば該当するのだから。負債の公正価値オプションは、資産側の市場リスクに対応して(そのリスクを相殺するように)指定されることが想定されている。資産側の状況によっては、短期も長期も想定しえると思う。
IASBはここでは妙にラフだ。確定給付退職年金制度の議論では異常に細かかったのに(6/19 の記事)、一体どうしたのだろうか?
IASBの肩を持つように考えれば、企業の財務的信用は急激に変化することは少ないから、短期の負債の公正価値測定には大きな影響はないことが多い。よって、実質的には長期負債が議論の対象になっているとすることもできるかもしれない。
或いは、この“一時的な再測定”は、IASBが提案している2つのアプローチのうちの輪郭がぼやけた方のアプローチ(2B)のみに利用される概念であり、ぼやけた部分にはIASBの裁量が入らざるえないとされている(5/30 の記事)。早速、その裁量を働かせたのだろうか。
DPには、この疑問の答えは見当たらないので本当のところは良く分からない。ここは「分からないということが分かった」ということで先へ進もう。
残る (c) については、上記の先走った議論の中で検討した。信用力の低下が、企業の経済的資源からのリターンを改善させるように見せるのは、問題が多いので、純利益から除外するのは妥当な判断だと思う。
さて、ザック・ジャパンの応援は終了したが、W杯はまだまだ続く。
W杯直前の強化試合で日本が負かしたコスタリカは、イタリア・イングランド・ウルグアイという強豪ぞろいのグループDで見事に1位で勝ち抜けた。アジア勢は消えたが、ヨーロッパ勢も、イタリアやイングランド、そして前回優勝のスペインまでもが敗退した。ウルグアイのエースであるスアレス選手は、イタリアのキエッリー選手に通算3度目となる噛み付きを行った。Wikipedia によると9試合出場停止の処分を受けたらしい(もっと処分が重くなると思っていたが・・・)。ゴールドマン・サックスが過去の国際試合のデータからW杯の勝敗予想をしたが、その的中率は36.11% に過ぎないという(WSJ 6/25)。まだまだ波乱が起きそうだ。
ドイツやオランダは調子が良さそう。さあ、ブラジルは本当に優勝できるだろうか。まだまだ、目が離せない。
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