374.CF-DP57)純損益とOCI~一時的な再測定“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”(前半)・・・7/8、7/9訂正
2014/7/9 連日の訂正で申し訳ありません。表の脚注 ⋆1 の赤字の部分は訂正です。
2014/7/8 大変申し訳ありませんが、内容を訂正します。表の脚注 ⋆2 の追加部分(配当の純損益計上)、及び ⋆3 の追加(一部についてリサイクリング禁止であること)などです。訂正部分は赤字にしています。
2014/7/2
今日のテーマは“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”だが、これは日本基準でいうところの“その他有価証券評価差額金”(の変動)をイメージさせる。繰返し記載している通り、僕はこのシリーズで「IASBが純利益とOCIを区別する一線のイメージをどのように考えているか」を知りたいと思っているが、もしかしたら、この目的にこのテーマは相応しくないかもしれない。
というのは、これはIASBが日本の主張を受入れたと報道された項目で、これで分かるのは、IASBではなく、日本の考え方かもしれないからだ。しかしIASBは、妥協をしたかもしれないが、まったく筋の通らないものを受入れたとも思えない。それにIFRS9号(2012 年の公開草案)にどのように規定されたか、その表現を具体的に見れば、IASB流の味付けやレシピが分かるかもしれない。寿司も日本国内で食べられるものと海外で提供されるものは異なるという。日本の寿司を知っていればこそ、海外の寿司の特徴をより明確に味わえるということもあるだろう。
ところで、“その他有価証券”というのは日本基準の用語で、下記以外の有価証券だ。
・短期的な売買のために保有する“売買有価証券”
・利息収入を得るために保有する“満期保有目的債券”
・事業投資のために保有する“子会社及び関連会社株式”
もしかしたら、「ん~、企業がこれら以外の目的で有価証券を保有することがあるの?」と思われた方もいるかもしれない。「株主から預託された資本を運用するのに、これ以外に合理的な保有目的があるのか?」と。
それがある。例えば「利息や配当・分配金収入の方が割が良ければ持ち続けるが、価格が上がって売った方が得になれば売る」など。その他、「最終的には売却するだろうが、当面は売る予定はない」、さらには「特に使うあてもないが、昔、お付き合いで購入したまま持っている(いわゆる“持合い”や、銀行などに勧められた買ったが、勝手に売れないなどというケースも昔はあった)」ということもある。まあ、最後の方はあまり合理的とは言えないが。
このような有価証券は毎期時価評価されて、取得価額との差額はその他有価証券評価差額金として、P/LのOCI経由で資本の部へ計上される。ここまでは、日本基準もIFRS(2012ED)も同じだ(但し、IFRSには“その他有価証券評価差額金”という単語はない)。大きく違うのは、IFRSはリサイクリングを禁じていることだ。以下、詳細を見ていこう。
(OCIに計上される有価証券の公正価値の変動・・・IFRS9.2012ED)
実は、このDP(“ディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」”)では、この項目を“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”とは書いてない。“資本性金融商品に対する指定された投資(の公正価値の変動)”と表現している(DP表8.3)。これはこのDPが現行のIFRS9号をベースに記載しているためで、IFRS9号の 2012 年公開草案(=IFRS9.2012ED)では、負債性金融商品についても、OCIに損益を計上される可能性がある。今回は、IFRS9.2012ED をベースに記載しようと思う。
日本基準では、上記のように有価証券の保有目的のみで有価証券を分類し、それぞれの評価方法を規定する。それに対してIFRS(2012ED)は、契約上のキャッシュ・フローの特性(以下単に“商品性”と記載する)とそれを管理するビジネス・モデル、さらに加えて企業の“指定(取消不能)”によって分類する。
IFRSでは、債権を含むすべての金融資産を償却原価か公正価値で測定する。が、損益項目をP/Lのどの区分に表示するかによって、以下のようにまとめられると思う。
測定規準 (表示区分)P/Lの表示__ __分_類_方_法__
① 公正価値 (純損益) 利息・配当等・ 原則⋆1(商品性とビジネスモデル)
評価損益・売却益など IFRS9.2012ED-4.1.4
② 償却原価 (純損益) 利息 原則⋆1(商品性とビジネスモデル)
. IFRS9.2012ED-4.1.2
③ 公正価値 (OCI) 評価損益・売却益 原則⋆1(商品性とビジネスモデル)
(一部リサイクル禁止⋆3) IFRS9.2012ED-4.1.2A
(純損益⋆2)実効金利法による利息 加えて、①に分類されるもので
・配当等 あっても取消不能の指定により、
③に分類できる。
. IFRS9.2012ED-4.1.4
⋆1 原則とは、商品性とそれを管理するビジネス・モデルによって、以下のように分類すること。
貸付金のように予め決まった利息と元本のキャッシュ・フロー(商品性)を管理するビジネス・モデルの場合は②へ、契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の両方の目的を持つビジネス・モデルなら③へ、それ以外なら①へ分類する。ビジネス・モデルの変更があった場合にのみ分類の変更が認められる。
利息は、元本に対する貨幣の時間的価値(犠牲)と信用リスクの対価とされており、株式にはこのような商品性はないため、株式(=資本性金融商品)は①へ分類される(“指定”により③も可)。
⋆2 これはちょっとフライイング。
IFRS9.2012ED-5.7.1A では、実効金利法による金利は純利益に計上するとされているが、配当等についてはOCIに計上するとされている。・・・というの間違いで、資本性金融商品の配当についても純損益に計上される(IFRS9-5.7.6)。この条項(5.7.6)は、公開草案の修正対象となっていないので、そのまま生きている。
⋆3 一部リサイクリング禁止の“一部”とは。
原則によって強制的に分類されたもの(ビジネス・モデル要因)は、売却時等に過去にOCIに認識した累積額を、純損益に振替える(=リサイクリング)。しかし、上記に“加えて・・・”と記載した企業の指定による部分は、リサイクルが禁止されている(IFRS9.2012ED-5.7.1(b))。
上記の他、会計上のミスマッチを改善するための公正価値オプションがある(ミスマッチが改善するように、純損益を通じて公正価値で測定すると指定できる、或いは、OCIを通じて公正価値で測定すると指定できる)。IFRS9-4.1.5
以上から、一見、次のような印象を持たれるかもしれない。
日本基準の満期保有目的債券は、上記の②に当たるのではないか。
日本基準の売買有価証券は、上記の①に当たるのではないか。
すると、日本基準のその他有価証券は、上記の③に当たるのではないか。
残念ながら、かなり違うものになりそうというのが、僕の見立てだ。一見、似ているように見える分類だが、実際はかなり違う。もはや、“味付け”レベルの相違ではなく、レシピや調理方法も異なるようだ。日本基準から、イメージをがらりと変える必要がありそうだ。
分類方法に“ビジネス・モデル”が加わったことで、満期保有目的債券は非常に範囲が限定されることになると思う。金融機関などの有価証券投資を専門に行うような部署がある大きな会社でないと、IFRSが想定するような“ビジネス・モデル”は存在できず、②への分類は難しいかもしれない。
ただ、IFRSはすべての金融資産にこの分類を適用するので、売掛金や貸付金もこの分類の対象になる。売掛金管理や貸付金管理は契約キャッシュ・フローを回収するビジネス・モデルが前提であり、これは普通にあるので、多くの会社が②に分類される金融商品を保有していることになる。即ち、有価証券が②に分類されるのは稀で、むしろ、②は売掛金などの債権のためにある“評価規準・分類方法・P/L表示のセット”と考えた方が良いかもしれない。
また日本基準では、いずれにも該当しないものをその他有価証券に分類するが、IFRSでは②や③に該当しないものを①(=純損益を通じて公正価値で測定する金融資産)へ分類する。その結果、現行の日本基準の売買有価証券は、専門部署があるなど限定的に捉えられているが、①には、もっと広い範囲の有価証券が分類されることになりそうだ。日本の多くの会社ではその他有価証券の構成比率が高いが、今後IFRSに移行すると①の構成比率が高くなる可能性が考えられる。
最後にもう一つ。というか、これが今回のメイン・テーマで、純損益とOCIの区分に関わるところだ。
と行きたいが、長くなってきたので、続きは次回に繰越したい。これには“リサイクリング禁止”も絡んでくるので、まだまだ先がある。
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