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2014年7月16日 (水曜日)

376.CF-DP59)純損益とOCI~一時的な再測定“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”の後半の後半

2014/7/16

前回の記事には、また間違いが見つかり訂正をした。大変申し訳ない。恥ずかしいので該当部分を削除しようかと思ったが、逆に間違いがみなさんの参考になるかもしれないので、いつも通り赤字訂正した。早採りらっきょう(=エシャロット)は美味しいので、食べ過ぎないようにするには我慢が要るが、少々食べ過ぎても所を選べば音が出ても大丈夫だ。しかし、記事の間違いは出たらお終い。その緊張感を肝に銘じるとともに、出さない努力を続けるので、お許し願いたい。

 

気分を変えて行こう。

 

ついに(日本時間の)一昨日の早朝、サッカーW杯が終了した。しかし、僕は決勝の前半・後半は見たが、延長戦をまだ見ていない。ところが結果は知っている。ドイツの優勝だ。残りの録画ビデオを見る前に結果を知りたくなかったが、TVでも、ネットでも、ちょっとした会話でも、みな物知り顔で話したがるので、知らずに過ごすのは困難だ。だが、せめて、PK戦までいったかどうかとか、何対何だったかぐらいはビデオで知りたいと思っている。(この部分は、7/14 に書いた。その後、無事にビデオで結果を知ることができた。)

 

という状況だが、決勝の前・後半を見た印象は、「これでは日本は優勝できない」だった。なぜなら、ドイツのサッカーは、みんなサボることなく真面目に一生懸命前線から守備し、相手ゴール前ではパスを繋いで連携して決定機を作り出す、まるで日本が目指していたサッカーのように感じたからだ。同じサッカーをやっていては、体格・体力に勝るドイツに勝つことは難しい。運に期待する手はあるが、それには今回の日本チームでさえ不足していたと思われる「幸運を受け止める楽観的で前向きなメンタル」が必要だ。ドイツを見て、改めて、W杯で優勝することの凄さを感じている。

 

さて、今回は、前半(7/2 の記事)、後半の前半(7/10 の記事)ときての“後半の後半”だから、延長戦のようなものだが、W杯と違って延長戦に前半・後半はない。今回でしっかり締め括りたい。

 

 

前回の末尾に記載した通り、今回は、(前回の)A B C のうち、なぜ、公正価値の変動をOCIで認識すると企業が指定できる A B はリサイクリング(=純損益への振替)が禁止されているのに、それをOCIで認識することが強制されている C はリサイクリングが要求されるのかを考えることで、“有価証券関連損益における純損益とOCIの区分”を考えてみたい。ということで、前回の A B C を再掲しよう。

 

 本来は、公正価値の変動を純損益で認識するが、企業が指定したものはOCIで認識できる。しかし、リサイクリングは禁止されている。

 

A. 資本性金融商品(株式等)で企業が指定したもの(現行IFRS9

 

B. 契約上のキャッシュ・フローを回収する商品に該当しない負債性金融商品(債券等)で企業が指定したもの(IFRS9.2012EDで新たに提案された)

 

 公正価値の変動をOCIで認識することが強制される。売却時等にリサイクリングが要求される。

 

C契約上のキャッシュ・フローを回収する商品性を持つ金融商品を、“契約上のキャッシュ・フローの回収”と“売却”両方の目的で管理するビジネス・モデル(IFRS9.2012EDで新たに提案された)

 

ここまで勿体ぶって申し訳ないが、答えは既にIFRS9号の結論の根拠に記載されている。それは以下のとおり(BC5.25、下線は僕が加えた)。

 

(b) リサイクリング:

 

多くのコメント提出者(多くの利用者を含む)は、公正価値変動の事後(資本性金融商品に対する投資の認識の中止時)における純損益への振替(リサイクリング)を禁止する提案を支持しなかった。そうしたコメント提出者は、実現損益と未実現損益との間の区別を維持するアプローチを支持し、企業の業績に実現したすべての利得及び損失を含めるべきであると述べた。しかし当審議会は、そうした投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべきで、その他の包括利益に利得又は損失を認識した後、純損益に振り替えることは不適切であるという結論を下した。さらに当審議会は、利得及び損失の純損益へのリサイクリングは、IAS39号における売却可能区分に類するものを作ることになり、これまで適用上の問題があった資本性金融商品の減損の有無の検討が必要になることに留意した。それは金融商品に関する財務報告を大幅に改善することにも、複雑性を減少させることにもならない。したがって当審議会は、資本性金融商品の認識の中止を行う際の利得及び損失の純損益へのリサイクリングを禁止することを決定した。

 

IASBは、上記の黒字・下線部2つをリサイクル禁止の理由としている。後者について、ちょっと補足すると、IAS39号の“売却可能区分”は、ちょっと前までの日本基準の“その他有価証券”に該当するもので、時価の変動は資本直入し、減損損失・売却損益は純損益へ計上していた。そのため、時価の下落の状況によっては資本直入でなく減損が必要になるが、その“状況”の決め方が、原則主義のIFRSではなかなか難しかったということだろう(日本基準では、“著しい下落”について目安となる数値基準を設けて、この問題に対処していた)。しかし、IFRS9号では、OCIへ評価損益が計上されるものであっても、公正価値で評価されるものには減損は適用されない(前回の記事の訂正事項)。その結果、この問題は解消され、会計規準はシンプルになった。

 

ところが、A B についてリサイクリングを要求・容認すると、再び減損の問題が浮かび上がってくる。

 

もし、A B へ減損を適用しないことにすると、(リサイクリングされて)売却時に多額の売却損が純損益へ計上される可能性がある。それは経済実態を表わしているだろうか。いや、表していない。もっと早く開示すべき損失だろう。であれば、A B へ減損を適用する必要があるが、それでは折角解決した問題を再び抱えることになる。会計規準の複雑性を改善したことにならない。

 

しかし、A B へ減損を適用することで会計規準が少々複雑になっても、それを上回る財務報告の改善があればいいではないか、と僕は思う。だが、「そのような改善はない」というのがIASBの意見だ。これが、今回の大事なところ。上記の黒字・下線部の前者の方に関連する。

 

企業の指定によってOCIへ損益が計上される A B も企業の資産なのだから、それを売却するなどして「損益が実現したら、そのように表現されるのがより改善された財務報告だ」という考え方がある。上記の“実現損益と未実現損益との間の区別を維持するアプローチを支持”しているコメント提出者だ(僕も、非常に親近感が湧く)。 これに対してIASBは、“不適切”と手厳しい。そしてその理由を“投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべき”としている。

 

しかし、公正価値は上がったり下がったり変動するもので、そのたびにOCIへ損や益が計上される。売却時にもう一度ぐらい損益が計上されてもよいのではないか。或いは、以前の売却可能区分のように損益が実現するまではP/Lに記帳しないとか、損益が実現したらOCIから純損益へ振替える(=リサイクリング。“純損益は一度だけ”と考える)方が良いのではないか。このIASBの理由はちょっと納得しづらい。もう少し深く掘っていく必要がある。

 

ということで、C へ目を移してみよう。C にはなぜ売却時等にリサイクリングが要求されているのか?

 

「純損益は最も重要な業績指標」であることを思い出すと、C は「評価損益は業績に関係ないが、売却損益は業績に関係する資産である」とIASBが考えていると推定できる。そんな都合の良い金融資産とは、一体どんなものだろうか? 改めて、「“契約上のキャッシュ・フローの回収”と“売却”両方の目的で管理するビジネス・モデル」のガイダンスを見てみよう(IFRS9.2012ED-B4.1.4B)。非金融業と金融業、保険業の例が、一つずつ挙げられているが、ここでは非金融業と金融業を掲示する。

 

(非金融業)設備投資資金の運用

 

非金融企業が、数年後の資本的支出を予想している。当該企業は、必要が生じた時に支出を賄うために、余剰資金を金融資産に投資している。

当該金融資産の管理についての企業の目的は、当該金融資産に対するリターンを最大化することである。したがって、企業は、機会があれば、金融資産を売却して利回りがより高い金融資産に現金を再投資する。

当該ポートフォリオに責任を負う管理者は、当該金融資産が生み出したリターンに基づいて報酬を受ける。

 

(金融業)日常的な流動性確保

 

金融機関が、日常的な流動性ニーズを満たすために金融資産を保有している。当該企業は、流動性ニーズの管理のコストの最小化を図っているので、金融資産に対する契約上の利回りを積極的に管理している。企業は契約上の利回りを監視し、一部の金融資産は契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有し、他の金融資産は売却して、利回りがより高い金融資産に再投資するか又は負債のデュレーションにより適切に合致させるようにしている。この戦略により、過去に多額の経常的な売却活動が生じており、今後も続くと予想される。

 

ここで運用対象として想定されている金融資産は、“契約上のキャッシュ・フローを回収する”金融商品であり、この場合の“契約上のキャッシュ・フロー”とは、元本及び元本残高に対する利息の支払のみで構成されていなければならない。貸付金や、レバレッジの効いたデリバティブが絡まないシンプルな国公社債のイメージだ。もちろん、株式は対象にならない。

 

2つの例に共通するビジネス・モデルの特徴は、両方ともリターンの最大化(=売却目的)を制約するもう一つの目的があることで、しかもその目的がそれぞれの企業の主要なビジネスと関連している。ん~、では、その“もう一つの目的”として、「業績が芳しくない時に利益を出すこと」を加えることは可能だろうか?

 

もし可能であれば、株式ではダメだが、シンプルな債券でいわゆる“益出し”ができる。益出しができるなら、自社の株価の好ましくない変動を抑制し、株主からの批判を避けられるので株主総会を乗り切りやすい。経営者にはありがたい話だ。

 

しかし、株主総会を乗り切るのは会社の“事業”ではない。それは経営者の問題だ。会計でいう“ビジネス”は、会計による描写の対象になるものだが、株主総会運営の苦楽はその対象にはならないから、当たらない。したがって、“もう一つの目的”にはならないだろう。

 

また、現実には市場価格の変動幅が狭い債券で、益出し用の“OCI経由の含み益”を決算の印象を変えるほどたくさん蓄えるのは容易ではない。日本国債の取引であれば、恐らく、数十億の含み益を蓄えるために、数千億、いや、数兆の元本が必要だろう。このため、もっと変動幅が広いジャンク債のようなもの、例えば、ギリシャ危機の最中にその国債を購入するぐらいの逞しさが必要になる。

 

しかし、そんな危ない“逞しさ”へ良い評価を向けるのは、ヘッジ・ファンドの投資家ぐらいだろう。ギリシャ国債のようなものが、信用と価格を復活させる確率は低い(現在は、見かけ上かなり回復しているらしいが、これはECB・EU・IMF、ギリシャ国債の減額を受入れた債権者、そしてギリシャ政府や国民の必死の努力と犠牲の賜物だ)。多くの市場参加者が危ないと思ったから暴落したのだから、通常は、逆に経営者が責任を問われるほどの損失が出る可能性の方が高い。上述のように債券投資は利回りの割に元本が大きいので、信用不安が期待に反して高まったときの元本の毀損、即ち、損失は多額になりやすく、普通は簡単に信用が戻らないから恐ろしい。例えば、みなさんもまだ記憶に新しいキプロスの銀行は、ギリシャ国債を高値掴みしてしまい、多額の損失を抱えて、昨年、破綻した。

 

要するに、C を使っての“益出し”は、普通はコストが高過ぎる。資産、即ち、企業の経済的資源を無駄遣いするだけだ。

 

ということでIASBには、C において、「業績が芳しくない時に利益を出す」ことを目的に据えること、及び、このための手段を会計規準に残すことを許さないという意思があるように感じる。

 

 

この他にも、株式などの資本性金融資産やレバレッジの効くデリバティブが組み込まれた負債性金融商品など、より大きな価格変動と多額の含み益を蓄えることが期待できる金融商品について、公正価値の変動をOCIに記帳することが考えられる。それは上記 A B の企業の指定によって可能だが、売却時にリサイクリングが禁止されているので、結局、純損益を企業が望む方向へ変えることはできない。即ち、IASBは「業績が芳しくない時に利益を出す」ための手段を塞いでいる。上記 A B についてリサイクリングが禁止されているのは、その手段となる可能性を消すためではないかと思う。

 

上記のIFRS9号の結論の根拠に記載された“投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべき”には、IASBの次のような思いが籠っているのではないかと思う。

 

評価損益(=再測定による損益);

 

市場価格(=公正価値)の変動で損益が生じるのは、(それが外部要素に起因する変動であっても)一定の経済実態を反映している。

 

売却損益(=認識の中止に伴う損益);

 

「業績が芳しくない時に利益を出す」取引は、業績の実態を分かりにくくする不正な利益平準化(=スムージング)に繋がる好ましくない取引である。

 

会計規準設定主体としては、投資から生じる損益を一度だけP/Lへ反映させる会計規準を作るなら、企業の努力の及ばない外部要因で変動したり、まだ未実現の損益であったりという欠点はあっても、評価損益の方を選択するだろう。そして、経営者がタイミングを決められる売却損益は、業績の実態を隠すという不正に繋がりやすいので却下、という具合に考えているのではないだろうか。

 

 

以上のように考えるなら、“有価証券関連損益における純損益とOCIの区分”は、このようなリサイクリングを要求したり、禁止したりする規定の状況から、“業績の実態を隠す不正な利益平準化の防止”にあるのではないかと思われる。即ち、リサイクリングを容認すると業績の実態が分かりにくくなるので、A B についてはリサイクリングを禁止している。一方、事業に密接に関連付いたビジネス・モデルで管理されている C については、売却は事業目的に沿ったタイミングで行われると考えることが一応可能なので、純損益に組替るリサイクリングを要求している、と考えられる。

 

したがって、A B による指定を行うことは、意外に重い意味を持つのではないかと思う。それは、前回記載したように“業績に貢献しない資産”に指定することであり、加えて、“企業に不正に繋がる取引を行う意思がある”と想像させることにもなりかねない。従来の日本基準の“その他有価証券”の感覚で、消去法的に分類し指定すると、とんでもない誤解を生じる可能性がある。この指定を行うには、事業目的に結び付いた合理的な理由づけができるかどうか、十分な、そして、慎重な検討が必要と思う。

 

 

これで、ようやく“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”の決着がついた。W杯決勝のような名勝負なら、長時間の観戦にも耐えられるが、この拙い文章ではそうはいかない。今回も、長文にお付き合いいただき感謝している。

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