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2014年7月

2014年7月29日 (火曜日)

380.CF-DP61)純損益とOCI~ASBJペーパーとFASBペーパー

2014/7/29

みなさんもご存じのように、新しいサッカー日本代表の監督にメキシコ人のハビエル アギーレ氏が決定した。

 

サッカー日本代表新監督にアギーレ氏決定 NHK 7/24

 

ブラジルで日本が敗退したあと、ザッケローニ前監督の「日本選手のスピードと技術を生かした攻撃的スタイル」を否定する意見を多く目にしたが、JFA(日本サッカー協会)としては否定ではなく継承し、加えて、強豪相手にも踏ん張れるよう戦術の幅を広げられることを期待しているとのこと。ネットの情報では、アギーレ新監督は、“堅守速攻”で闘争心溢れるスタイルのチームを作って実績を残してきた人のようで、確かに期待できそうだ。

 

ところで、この数週間、“ポゼッション”vs.“堅守速攻”みたいな二項対立の解説や議論を多く見た気がするが、僕は、疑問を感じていた。単純な2項対立ではなく、それらを要素とするバランスの問題ではないかと思ったからだ。

 

例えば、スペインといえば“ポゼッション”の代表だが、スペインだって前からプレッシャーをかける守備が基本にあって、あっという間にゴールを奪うことがしばしばあるし、メキシコだってゴール・キーパーから攻撃を始めれば、時間かけて相手ゴールに迫る。同様に、日本もオランダやベルギー戦では、前線からのプレッシャーでボールを奪い、ゴール前でワン・タッチ・パスを素早く繋いでゴールを決めていた。

 

一つのパターンに固執せず、「相手や状況に合わせた臨機応変な戦い」ができる。これこそ、JFA が求めている日本代表の理想の姿なのだろう。そのためにザッケローニ監督の成果の上に、アギーレ監督のこれからの仕事が積上がることが期待されている。僕は、状況を冷静に認識する落ち着き、メンタルの強さが大事と思うので、アギーレ監督の“闘争心溢れるチーム作り”に期待したい。(僕は、落ち着きやメンタルの強さは、健全な闘争心から生まれると思っている。)

 

 

さて、ここまで純損益とOCIについて、まさに両者が二項対立するものとして、それらを区分する一線を探してきた。その材料として、IASBのディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」(以下単に“DP”と記載する)を見てきたが、このDP以外にも、ASAF(IFRS財団会計基準アドバイザリー・フォーラム)で披露された2つのペーパーがある。

 

ASBJペーパー;「純損益/その他の包括利益及び測定」

 

2013/12 のASAF会議へ提出され、そこで議論された。その内容は、2013/12/12 の企業会計基準委員会で報告され、ASBJのホームページに“審議資料(3)”として掲示されている。

 

FASBペーパー;「財務業績計算書での表示の改訂モデル:測定に対して生じる可能性のある含意」

 

2014/3 のASAF会議で議論される予定であるとして、2/24 の企業会計基準委員会で FASB(米国財務会計審議会)のペーパーが紹介されている。その内容はASBJのホームページに同日の審議資料“審議 (1)-2”として掲示されている。

 

このシリーズを始めた 4/29 の記事で予告した通り、上記2つを紹介して、この“純損益とOCI”シリーズを締めくくりたい。但し、それは次回以降となる。

 

 

でも、ちょっとさわりだけ紹介すると・・・

 

いずれも、ペーパーは開示されていないようで、僕は直接読んではいないが、開示されている審議資料から分かる範囲で紹介したい。現時点ではざっと視線を流した程度に過ぎないが、印象としては、ASBJは理論的にエレガント、FASBの方は利用者の観点からユニークな視点を提供しているようだ。

 

このDPの、なんとなく窮屈な議論に比べると、両者の主張は自由だ。IASBは既存のIFRSを無視できないので、窮屈にならざるえないのかもしれないが、それゆえに壁を越えられないでいるような気がする。二項対立している純損益とOCIは明確に異なるはずなのに、境界線をうまく表現できていない感じだ。一方、ASBJは二項対立というより、OCIを純損益に至るプロセスの一部と考えているようで、それゆえ、リサイクリングの必要性がすっと理解できる主張だ。FASBはさらに自由で、純損益とOCIに拘泥せず、他の区分損益(営業利益?)へ目を向けさせようとしている。

 

なお、ASBJペーパーについて、直ぐ知りたいとか、より正確・適切に知りたい方は、ASBJの前委員長の西川郁生氏が“季刊 会計基準”の 2013/12 号に、背景説明を含め4ページのコンパクトな文章を寄せている。ASBJのホームページにも、下記の場所に掲載されているので、ご覧いただきたい。

 

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(このページにある 43 号の“Chairman's Voice”をクリック)

 

 

 

2014年7月28日 (月曜日)

379.IFRSへ のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

2014/7/28

ASBJのホームページによると、ASBJは、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)及びイタリアの会計基準設定主体(OIC)と共に、のれんの会計処理と開示のあり方に関するグローバルな議論に寄与するために、ディスカッション・ペーパー「のれんはなお償却しなくてよいかのれんの会計処理及び開示」を公表した。“ディスカッション・ペーパー”とされているが、のれんの償却をIFRSへ復活させようという明確な主張が展開・提案されている。

 

のれんはなお償却しなくてよいか―のれんの会計処理及び開示ASBJ 7/22

 

僕は一応全 55 ページを読んでみたが、主な内容は“序文”(たった 1 ページ半)にまとめられている。是非ご一読されることをお薦めするが、その雰囲気を伝えるために、そこから一段落だけを下記に紹介する。

 

分析の結果、リサーチ・グループは、のれんの償却を再導入することが適切であろうという結論を下している。なぜならば、のれんの償却は、企業結合で取得した経済的資源の一定期間にわたる消費を合理的に反映するものであり、適切なレベルの検証可能性と信頼性を達成する方法により適用できるからである。さらに、リサーチ・グループは、開示要求の領域においてより一層の改善を検討すべきであると結論を下した。

 

“リサーチ・グループ”とは、ASBJ、EFRAG 及び OIC のメンバーによってこのリサーチのために結成されたグループだ。また、EFRAG は、EUの内閣に当たる欧州委員会(EC)に対し、IFRSの個別規準ごとにその採用の是非を判断し勧告する民間団体だ(民間団体なのは、ASBJやIASBが民間団体であるのと同じ位置づけで、政治色を排するための工夫)。ASBJと同様に、ASAF(IFRS財団会計基準アドバイザリー・フォーラム)のメンバーでもある。要するに、IASBにとっては、無視できない大切なお客様の筆頭といった存在だ。

 

提案は、上記に関連して、下記の領域に及んでいる。

 

(a) のれんの会計処理の変更(償却の再導入を含む)(第 2 章)

 

(b) 減損テストの要求事項の改善(第 3 章)

 

(c) IAS 36 号における開示要求の改善(第 4 章)

 

(d) 無形資産(IAS38)の会計処理の変更(第 5 章)

 

ASBJは 2001 年の設立だから、SAMURAI BLUE が初めてW杯に出場した 1998 年より最近だ。そして日本でIFRSの任意適用を認められたのはつい数年前のこと。しかし、グローバルでの活躍の程度は、SAMURAI BLUE よりASBJの方が一枚も二枚も上手のようだ。

 

 

さて、内容についてだが、概ね次のような感じになっている。

 

(a) のれんの会計処理の変更(償却の再導入を含む)(第 2 章)

 

・“識別可能要素アプローチ”の棄却

 

このブログでも紹介したのれんの構成要素(2012/11/17の記事)を分解して、それぞれについて会計処理を決めて行こうとするアイディアは、理論的には面白いが、実務的に困難として棄却している。したがって、すべてコアのれんであるとの前提で、以下の議論が進められている。

 

・“のれんの一時償却・直接償却”の否定

 

コアのれん以外は、一時償却・直接償却すべきものもあるが、上記のとおり、それはあまり重要でないと考えてこれらも否定されている。コアのれんは、資産の定義に合致するので、一時償却・直接償却は否定されている。

 

・のれんの償却について

 

IASB(やFASB)は、のれんの償却期間を合理的に見積ることができないことを一つの根拠にしてのれんの償却処理を廃止した。この意見書でも、確かに償却期間について完全に正確な見積りは困難であるとしながらも、“合理的”なレベルであれば可能としている。

 

償却期間は、実証研究論文等の分析から、10 年又は、20 年といった上限を規準に設定することを提案している。

 

償却方法は、のれんから得られる便益の消費パターンの予測が困難で、それに合った方法を決定するのは難しいとしながらも、定額法による規則的な償却が、忠実な表現とコストの間の適切なバランスを達成させるとして、定額法を支持している。

 

(b) 減損テストの要求事項の改善(第 3 章)

 

・現行の減損テストの欠点

 

減損テストを実施する単位(=資金生成単位)の解釈・適用にばらつきがあり、規程通りになされていない可能性がある。(例えば、セグメントより大きい単位で減損テストを行うなど。)

 

減損テストの方法について、経営者の裁量・解釈・判断・偏向の余地があり、適切に行われない可能性がある(少なすぎるし、遅すぎる)。例えば、金融危機のときには、主に翌年以降に減損損失が計上されていた。

 

・改善提案-取得したのれんのみによる減損テスト

 

のれんは、取得後に徐々に自己創設のれんに置き換わっていく。ならば、減損テストは自己創設のれんの影響を排して、取得時点ののれんから生じる将来キャッシュ・フローのみで行うべきというアイディアだが、実務的に困難なので棄却。

 

・改善提案-見積りの前提に関するより厳格なガイダンスの導入

 

資金生成単位の決定、評価アプローチ(売却コスト控除後の公正価値か、使用価値の大きい方)、使用価値の計算(割引率、予測期間とターミナル・バリューなど)について、改善可能ではないかとしている。

 

なお、ターミナル・バリュー(永遠に事業が継続すると仮定した事業価値)の使用については、この意見書は否定はしていないものの、懐疑的な、或いは使用するのであれば厳格なガイドラインの下で、という立場であり、積極的に認めているわけではないように思う。

 

(c) IAS 36 号における開示要求の改善(第 4 章)

 

・現在の開示への批判

 

色々書いてあるが、一つ、僕が一番注目した記述を紹介したい。(127項)

 

2013 1 月に、欧州証券市場監督局(ESMA19は次のように結論を下している。「のれんの減損テストに関して主要な開示は概ね提供されているが、多くの場合、定型的な性質のものであり、企業固有のものではない。これは、発行者が基準の要求事項に準拠していないことと、おそらく、基準の中で特定性に欠けている(特に感応度分析の領域において)ことの組合せから生じしている。また、これは、多くの場合、財務諸表利用者が、使用されている仮定の信頼性を、提供されている開示から評価する(それらの開示の主要な目的である)ことができないことを意味する。」

 

「形式的に、(すべての)企業が同じ項目を開示しても、利用者にとって価値のある情報にならない。それより、その企業の状況に合った開示が必要。」ということだと思う。僕も同意見だ。ただ、日本では企業間の“比較可能性”が強調され、同じ項目が開示されるべきという意見が強いように思う。経営戦略も、ビジネス・モデルも違えば、開示内容(項目それ自体や各説明の深さ)が異なるのは当然と思う。みなさんは、いかがお考えだろうか。

 

・開示面での提案

 

開示によって、次のような目的を達成・拡充させたいと考えているようだ。(134項~)

 

(b) 利用者がモデルの堅牢さ及び企業の仮定を理解するのに役立つ情報

 

・使用価値のタイミング・プロファイル(例えば、ターミナル・バリューの開示)

・割引率へのインプット(資金生成単位ごとの割引率がどのように算定されたか)

 

(c) 企業による過去の仮定の「合理性」の確認を提供する情報

 

・差異の分析

 

(d) 利用者が将来の減損を予測するのに役立つ情報

 

・取得した事業の業績に関する情報

・減損の予想時期(のれんの効果が及ぶ期間の予想)

・将来の減損を示す取得の特徴 (例えば、コアのれん以外の要素が多額となるなど)

・のれん合計額の調整表

 

(a)”があるのだが、これについては、現行の開示で達成されているとしているので、ここでは省略した。また、“(e)”もあるが、この意見書としては否定している。ちなみに“(e)”は、「利用者が経営者の減損テストを結果論で批判することを可能にすべきである」という内容と解説されている。

 

(d) 無形資産(IAS38)の会計処理の変更(第 5 章)

 

IFRSでは、のれんの非償却化に伴い、耐用年数を決められない無形資産についても非償却化された。そののれんの再償却を提案するにあたって、無形資産にも見直しの検討を求めている。

 

 

まるで“のれんW杯の決勝トーナメント”が始まるようだ。また一つ、楽しみが増えた気がする。

2014年7月24日 (木曜日)

378.CF-DP60)純損益とOCI~その他の“一時的な再測定”項目

2014/7/24

みなさんもご存じのように、最近、株式市場や為替市場などの金融市場のボラティリティ(=価格の変動率)が非常に下がっている。昨日の日経平均は14円安の 15,328 円となったが、取引時間中の最高値と最安値の差がたった58円で、1年7か月ぶりの値幅の狭さだったという(日経電子版有料記事 7/23)。

 

「ボラティリティが低いと投資機会が得られず儲からない」と嘆く投資家も多いらしいが、僕のような門外漢からすると、市場価格が安定しているのは悪くない。もちろん、理由があって変動するのはあるべき姿だが、企業や一国の経済、通貨の価値が、一日で1%も(東証一部の時価総額は約450兆円だから、その1%は4.5兆円)、しかもしょっちゅう動くのは信じがたい。

 

最近では今年1月に“新興国通貨危機”で日経平均は8.5%下落したが、そのとき時価総額は40兆円も減少した。なんと、東日本大震災の被害額(原発除く)の倍だ。「そんな簡単に富が増えたり減ったりするのか?」と思ってしまう。むしろ、最近のように安定している方が、市場価格は信頼性できる気がする。公正価値へ重きを置くIFRSの信頼感も、その方が高まるのではないだろうか。

 

 

さて、このシリーズの前回(376. 7/16の記事)では、ずるずる3回にも亘った“有価証券の一時的な再測定”シリーズに終止符を打った。残る“一時的な再測定”項目として、このディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」(以下、“DP”と記載)に挙げられているのは下記の2つがあるが、こちらについても、そろそろ、終止符を打ちたい。

 

・資産除去債務等の長期性引当金の変動・・・IAS37

 

・収穫前の生物資産の公正価値の変動・・・IAS41

 

ちなみに後者の生物資産については、JICPAのホームページ(7/1付)にあるように、「IASBが、果実生成型植物の会計処理に関してIAS16号とIAS41号を修正」しており、この種類の生物資産は“一時的な再測定”の条件である“長期性”がなくなって、この議論の対象外となった。但し、育成期間が長期となる林業、畜産業、養殖業などの生物資産は、決算ごとに公正価値で再測定され続けるので、依然として“一時的な再測定”項目だ。

 

 

今回は、シンプルにIASBの記述を転記して、それについて分析するパターンにしたい。

 

(長期性引当金)

 

-IASBの記述(DP8.4)-

 

引当金は長期の性質のものとなる可能性があり、これは、市場ベースのインプット(割引率など)の小さな変動が、当期に認識される再測定に重大な影響を与え得ることを意味する。これらの再測定(例えば、割引率の変更の影響)の諸側面は、引当金の存続期間にわたり著しく変動するか又は元に戻る可能性が高い。これらの項目を区分してOCI に認識することは、再測定の他の内訳項目(例えば、コストの増加)の影響の理解可能性を高めるのに役立つ可能性がある。しかし、当初認識時に認識する損失を事後の再測定と異なる方法で扱うことは不整合かもしれない。

 

引当金残高の変動を、その会計上の見積りにおける市場価格要素(の一部)とそれ以外に分解し、前者についてOCIへ計上することを想定している。どうやらIASBにも、(一部の)市場価格要素の変動は企業業績にとってノイズになるという認識があるらしい。この点については、僕だけじゃなく、みなさんの多くの方も、同じ感覚ではないだろうか。

 

一方で、最後の一文では「でも、結局純損益でしょ」と言われているような気がする。なぜなら、僕は会計規準で工夫できる問題と思うからだ。例えば、割引率の変動により計上したOCIは、時の経過による巻戻しのタイミングでリサイクリングすれば、問題にならないのではないかと思う。それを敢えて指摘したところに、IASBの「簡単にはリサイクリングを認めませんよ」という“構え”があるように感じられる。(そうはっきり書いてあるわけではないので、あくまで“感じる”に過ぎないが。)

 

 

(生物資産)

 

-IASBの記述(DP8.4)-

 

生物資産は長期である場合があり、これは、市場ベースのインプット(商品価格や割引率など)の小さな変動が当期に認識される再測定に重大な影響を与え得るが、一定期間にわたり著しく変動する可能性が高いことを意味する。これらの項目を区分してOCI に認識することは、純損益に認識される再測定の他の内訳項目に関する情報の理解可能性を高める可能性がある(例えば、成長による価値の変動で純損益に認識されるもの)。

 

これについても引当金と同様に、会計上の見積りにおける(一部の)市場価格要素の変動の影響をOCIへ計上させる想定をしている。しかし、引当金にはあった“最後の一文”に当たるものがない。恐らく、こちらはリサイクリングが前提ではないかと思う。

 

 

というわけで、この生物資産と引当金の間には、リサイクリングする・しないという一線がありそうだ。リサイクリングする・しないの一線とは、純損益とOCIの境界線に他ならない。一体、生物資産と引当金の間にどんな差異があるのだろうか?

 

まあ、「引当金についてリサイクリングは容認しない」とはっきり書いてあるわけではないので、あまり深く追及しても仕方がないが、僕は、退職給付でリサイクリングを容認しない理由(371. 6/19の記事)と同種の臭いを感じる。即ち、(退職給付と違って“できない”ことはないが、)引当金についてリサイクリングを行っても、財務諸表の作成者の手間に見合う情報価値の向上がないし、さらにいえば、市場価格の変動を会計上の見積りに反映することは、企業業績の実態描写に積極的な意味がある、とIASBは考えているのかもしれない。

 

ん~、最近のように、いつも市場が安定していればなあ、と僕は思う。←これが終止符。

2014年7月22日 (火曜日)

377.【第三の矢】ASBJ が日本版 IFRS の公開草案公表へ

2014/7/22

FIFAのW杯とその余韻に浸っていたら、ASBJの日本版IFRSの議論が終わってしまったらしい。近日中に公開草案が公表されるとのこと。ASBJのホームページで公表されている Webcast でフォローし、このブログでみなさんに紹介するつもりだったが、タイムリーに視聴できていない。そこで、以下の記事を紹介することで代えたい。(閲覧するには、日経の ID をお持ちでない方はその登録が必要かもしれないが、無料だと思う。)

 

「日本版IFRS」作業部会での議論終了、8項目の質問付きで公開草案へIT pro 7/18

 

ASBJは、この公開草案で“のれん”と“当期純利益とリサイクリング”に絞って、IFRSの修正を提案するようだが、本当はもっといろいろ注文を付けたかったに違いない。しかし、2点のみに絞ったのは、細かいことに目を奪われて(=細かい注文を一杯羅列することで)、IFRSが欠陥品のように受取られることを避け、各企業や投資家などに、もっと大きな流れに注意を払ってもらいたいと考えてのことではないかと推察する。細かいところで日本に合う・合わないの議論より、「日本がIFRS開発へ関与を強めていけるような議論が大事」との判断があったように感じる。もしそうなら(多分そうだと思うが)、前向きな考え方だと思う。

 

 

そういえば、アベノミックスの“今年の第三の矢”には、面白い記述があった。ご存じの方が多いと思うが、首相官邸ホームページに掲載されている“「日本再興戦略」改訂 2014”(6/24付)の P32 P78 の2か所にIFRSが出てくる。前者はベンチャー支援(大企業によるM&Aなどの促進)に関連させてのものだが、後者は、そのものズバリの“IFRS任意適用企業の拡大促進”(「新たに講ずべき具体的施策」の一項目)だ。さらに、それに先立つ 5/23 付の自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」の P42 では、強制適用についても触れられている。

 

「日本再興戦略」改訂2014の概要”を参考にまとめると、そもそも“第三の矢”は、次のようなものであるようだ。

 

・企業(財・サービス市場;農協をも含む企業の統治改革)

 

・労働者(労働市場;女性・働き方・外国人)

 

・投資家(資本市場;スチュワードシップ・コードの導入、GPIF 統治改革、成長資金)

 

といった経済学に出てくる主要プレーヤーに関する国際的な改革の流れを、遅ればせながら(そしてやんわりと)日本に取込もうとしているように見える(但し、主要プレーヤーとしては政府と消費者が抜けている。“政府改革”、例えば地方分権などがあると良かったが・・・)。加えて、個別の産業政策が掲げられている。そういう全体の流れを考えれば、会計規準の国際化として“IFRSの普及”が取上げられたのは、当然のことかもしれない。

 

 

それにしても、“日本の「稼ぐ力」を取り戻す”(上記“概要”の一番目の見出し)ために、“国際的な流れを取込むこと”がメインになった意味を考えさせられる。脳科学者の中野信子氏が「日本人には、新規探索性が強い遺伝子を持つ人が少ない」旨の発言を、NHKの番組でされていた気がする(「英雄たちの選択」の、確か北条正子の回だと思う)。きっと、変化を起こしたり望んだりせず、“現状維持”を求める人が日本人には多いのだろう。何を隠そう、僕もその一人だ。

 

しかし、現実は、「“現状維持”では現状維持できない」。

 

外部・内部の環境が変われば無理な話。台湾や韓国に加え、巨大な中国の台頭、米国プレゼンスの相対的低下といった大きな外部変化があり、かつ、内部的にも少子高齢化を迎えるなかで、日本が「今のままが良い」と言い張っても、子供の戯言にしか聞こえない。誰も耳を傾けてくれない。

 

現実を認識すれば、環境変化への対応が必要だと、即ち、戦略性をもって自ら変化する必要があると、新規探索性の弱い僕でも理解できる。もはや、遺伝子は関係ない。現実に乗り越えるべき問題があるのだから、対処しなければならない。もちろん、企業にしても同様だ。

 

“第三の矢”を見る限り、どうやら政治レベルでは、あの自見大臣の会見があった 2011/6 以前に巻き戻されつつあるようだ。加えて、上記の“概要”の冒頭の囲みには、次のような記載もある。

 

企業経営者や国民一人一人に、具体的な行動を促していく。

 

実際には、新規探索性の遺伝子が乏しくても、我々の祖先は数多くの困難を乗り越え、第二次世界大戦以外は、その対応に成功してきた。そして今でも、世界からイノベーティブと評価されている日本企業は多いらしい(2013/10/7 REUTERS2014/1/14 Gigazin(Forbes))。だが、失われた20年から脱するために、改めてその挑戦が必要となっている。大事なのは、自らの長所・短所を理解し、現実を受入れる覚悟だ。海外の良いものを採り入れるのに躊躇しているときではない。どうやら、“第三の矢”の狙いはどこか遠くではなく、我々一人ひとりの意識と行動へ向けられているようだ。

2014年7月16日 (水曜日)

376.CF-DP59)純損益とOCI~一時的な再測定“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”の後半の後半

2014/7/16

前回の記事には、また間違いが見つかり訂正をした。大変申し訳ない。恥ずかしいので該当部分を削除しようかと思ったが、逆に間違いがみなさんの参考になるかもしれないので、いつも通り赤字訂正した。早採りらっきょう(=エシャロット)は美味しいので、食べ過ぎないようにするには我慢が要るが、少々食べ過ぎても所を選べば音が出ても大丈夫だ。しかし、記事の間違いは出たらお終い。その緊張感を肝に銘じるとともに、出さない努力を続けるので、お許し願いたい。

 

気分を変えて行こう。

 

ついに(日本時間の)一昨日の早朝、サッカーW杯が終了した。しかし、僕は決勝の前半・後半は見たが、延長戦をまだ見ていない。ところが結果は知っている。ドイツの優勝だ。残りの録画ビデオを見る前に結果を知りたくなかったが、TVでも、ネットでも、ちょっとした会話でも、みな物知り顔で話したがるので、知らずに過ごすのは困難だ。だが、せめて、PK戦までいったかどうかとか、何対何だったかぐらいはビデオで知りたいと思っている。(この部分は、7/14 に書いた。その後、無事にビデオで結果を知ることができた。)

 

という状況だが、決勝の前・後半を見た印象は、「これでは日本は優勝できない」だった。なぜなら、ドイツのサッカーは、みんなサボることなく真面目に一生懸命前線から守備し、相手ゴール前ではパスを繋いで連携して決定機を作り出す、まるで日本が目指していたサッカーのように感じたからだ。同じサッカーをやっていては、体格・体力に勝るドイツに勝つことは難しい。運に期待する手はあるが、それには今回の日本チームでさえ不足していたと思われる「幸運を受け止める楽観的で前向きなメンタル」が必要だ。ドイツを見て、改めて、W杯で優勝することの凄さを感じている。

 

さて、今回は、前半(7/2 の記事)、後半の前半(7/10 の記事)ときての“後半の後半”だから、延長戦のようなものだが、W杯と違って延長戦に前半・後半はない。今回でしっかり締め括りたい。

 

 

前回の末尾に記載した通り、今回は、(前回の)A B C のうち、なぜ、公正価値の変動をOCIで認識すると企業が指定できる A B はリサイクリング(=純損益への振替)が禁止されているのに、それをOCIで認識することが強制されている C はリサイクリングが要求されるのかを考えることで、“有価証券関連損益における純損益とOCIの区分”を考えてみたい。ということで、前回の A B C を再掲しよう。

 

 本来は、公正価値の変動を純損益で認識するが、企業が指定したものはOCIで認識できる。しかし、リサイクリングは禁止されている。

 

A. 資本性金融商品(株式等)で企業が指定したもの(現行IFRS9

 

B. 契約上のキャッシュ・フローを回収する商品に該当しない負債性金融商品(債券等)で企業が指定したもの(IFRS9.2012EDで新たに提案された)

 

 公正価値の変動をOCIで認識することが強制される。売却時等にリサイクリングが要求される。

 

C契約上のキャッシュ・フローを回収する商品性を持つ金融商品を、“契約上のキャッシュ・フローの回収”と“売却”両方の目的で管理するビジネス・モデル(IFRS9.2012EDで新たに提案された)

 

ここまで勿体ぶって申し訳ないが、答えは既にIFRS9号の結論の根拠に記載されている。それは以下のとおり(BC5.25、下線は僕が加えた)。

 

(b) リサイクリング:

 

多くのコメント提出者(多くの利用者を含む)は、公正価値変動の事後(資本性金融商品に対する投資の認識の中止時)における純損益への振替(リサイクリング)を禁止する提案を支持しなかった。そうしたコメント提出者は、実現損益と未実現損益との間の区別を維持するアプローチを支持し、企業の業績に実現したすべての利得及び損失を含めるべきであると述べた。しかし当審議会は、そうした投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべきで、その他の包括利益に利得又は損失を認識した後、純損益に振り替えることは不適切であるという結論を下した。さらに当審議会は、利得及び損失の純損益へのリサイクリングは、IAS39号における売却可能区分に類するものを作ることになり、これまで適用上の問題があった資本性金融商品の減損の有無の検討が必要になることに留意した。それは金融商品に関する財務報告を大幅に改善することにも、複雑性を減少させることにもならない。したがって当審議会は、資本性金融商品の認識の中止を行う際の利得及び損失の純損益へのリサイクリングを禁止することを決定した。

 

IASBは、上記の黒字・下線部2つをリサイクル禁止の理由としている。後者について、ちょっと補足すると、IAS39号の“売却可能区分”は、ちょっと前までの日本基準の“その他有価証券”に該当するもので、時価の変動は資本直入し、減損損失・売却損益は純損益へ計上していた。そのため、時価の下落の状況によっては資本直入でなく減損が必要になるが、その“状況”の決め方が、原則主義のIFRSではなかなか難しかったということだろう(日本基準では、“著しい下落”について目安となる数値基準を設けて、この問題に対処していた)。しかし、IFRS9号では、OCIへ評価損益が計上されるものであっても、公正価値で評価されるものには減損は適用されない(前回の記事の訂正事項)。その結果、この問題は解消され、会計規準はシンプルになった。

 

ところが、A B についてリサイクリングを要求・容認すると、再び減損の問題が浮かび上がってくる。

 

もし、A B へ減損を適用しないことにすると、(リサイクリングされて)売却時に多額の売却損が純損益へ計上される可能性がある。それは経済実態を表わしているだろうか。いや、表していない。もっと早く開示すべき損失だろう。であれば、A B へ減損を適用する必要があるが、それでは折角解決した問題を再び抱えることになる。会計規準の複雑性を改善したことにならない。

 

しかし、A B へ減損を適用することで会計規準が少々複雑になっても、それを上回る財務報告の改善があればいいではないか、と僕は思う。だが、「そのような改善はない」というのがIASBの意見だ。これが、今回の大事なところ。上記の黒字・下線部の前者の方に関連する。

 

企業の指定によってOCIへ損益が計上される A B も企業の資産なのだから、それを売却するなどして「損益が実現したら、そのように表現されるのがより改善された財務報告だ」という考え方がある。上記の“実現損益と未実現損益との間の区別を維持するアプローチを支持”しているコメント提出者だ(僕も、非常に親近感が湧く)。 これに対してIASBは、“不適切”と手厳しい。そしてその理由を“投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべき”としている。

 

しかし、公正価値は上がったり下がったり変動するもので、そのたびにOCIへ損や益が計上される。売却時にもう一度ぐらい損益が計上されてもよいのではないか。或いは、以前の売却可能区分のように損益が実現するまではP/Lに記帳しないとか、損益が実現したらOCIから純損益へ振替える(=リサイクリング。“純損益は一度だけ”と考える)方が良いのではないか。このIASBの理由はちょっと納得しづらい。もう少し深く掘っていく必要がある。

 

ということで、C へ目を移してみよう。C にはなぜ売却時等にリサイクリングが要求されているのか?

 

「純損益は最も重要な業績指標」であることを思い出すと、C は「評価損益は業績に関係ないが、売却損益は業績に関係する資産である」とIASBが考えていると推定できる。そんな都合の良い金融資産とは、一体どんなものだろうか? 改めて、「“契約上のキャッシュ・フローの回収”と“売却”両方の目的で管理するビジネス・モデル」のガイダンスを見てみよう(IFRS9.2012ED-B4.1.4B)。非金融業と金融業、保険業の例が、一つずつ挙げられているが、ここでは非金融業と金融業を掲示する。

 

(非金融業)設備投資資金の運用

 

非金融企業が、数年後の資本的支出を予想している。当該企業は、必要が生じた時に支出を賄うために、余剰資金を金融資産に投資している。

当該金融資産の管理についての企業の目的は、当該金融資産に対するリターンを最大化することである。したがって、企業は、機会があれば、金融資産を売却して利回りがより高い金融資産に現金を再投資する。

当該ポートフォリオに責任を負う管理者は、当該金融資産が生み出したリターンに基づいて報酬を受ける。

 

(金融業)日常的な流動性確保

 

金融機関が、日常的な流動性ニーズを満たすために金融資産を保有している。当該企業は、流動性ニーズの管理のコストの最小化を図っているので、金融資産に対する契約上の利回りを積極的に管理している。企業は契約上の利回りを監視し、一部の金融資産は契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有し、他の金融資産は売却して、利回りがより高い金融資産に再投資するか又は負債のデュレーションにより適切に合致させるようにしている。この戦略により、過去に多額の経常的な売却活動が生じており、今後も続くと予想される。

 

ここで運用対象として想定されている金融資産は、“契約上のキャッシュ・フローを回収する”金融商品であり、この場合の“契約上のキャッシュ・フロー”とは、元本及び元本残高に対する利息の支払のみで構成されていなければならない。貸付金や、レバレッジの効いたデリバティブが絡まないシンプルな国公社債のイメージだ。もちろん、株式は対象にならない。

 

2つの例に共通するビジネス・モデルの特徴は、両方ともリターンの最大化(=売却目的)を制約するもう一つの目的があることで、しかもその目的がそれぞれの企業の主要なビジネスと関連している。ん~、では、その“もう一つの目的”として、「業績が芳しくない時に利益を出すこと」を加えることは可能だろうか?

 

もし可能であれば、株式ではダメだが、シンプルな債券でいわゆる“益出し”ができる。益出しができるなら、自社の株価の好ましくない変動を抑制し、株主からの批判を避けられるので株主総会を乗り切りやすい。経営者にはありがたい話だ。

 

しかし、株主総会を乗り切るのは会社の“事業”ではない。それは経営者の問題だ。会計でいう“ビジネス”は、会計による描写の対象になるものだが、株主総会運営の苦楽はその対象にはならないから、当たらない。したがって、“もう一つの目的”にはならないだろう。

 

また、現実には市場価格の変動幅が狭い債券で、益出し用の“OCI経由の含み益”を決算の印象を変えるほどたくさん蓄えるのは容易ではない。日本国債の取引であれば、恐らく、数十億の含み益を蓄えるために、数千億、いや、数兆の元本が必要だろう。このため、もっと変動幅が広いジャンク債のようなもの、例えば、ギリシャ危機の最中にその国債を購入するぐらいの逞しさが必要になる。

 

しかし、そんな危ない“逞しさ”へ良い評価を向けるのは、ヘッジ・ファンドの投資家ぐらいだろう。ギリシャ国債のようなものが、信用と価格を復活させる確率は低い(現在は、見かけ上かなり回復しているらしいが、これはECB・EU・IMF、ギリシャ国債の減額を受入れた債権者、そしてギリシャ政府や国民の必死の努力と犠牲の賜物だ)。多くの市場参加者が危ないと思ったから暴落したのだから、通常は、逆に経営者が責任を問われるほどの損失が出る可能性の方が高い。上述のように債券投資は利回りの割に元本が大きいので、信用不安が期待に反して高まったときの元本の毀損、即ち、損失は多額になりやすく、普通は簡単に信用が戻らないから恐ろしい。例えば、みなさんもまだ記憶に新しいキプロスの銀行は、ギリシャ国債を高値掴みしてしまい、多額の損失を抱えて、昨年、破綻した。

 

要するに、C を使っての“益出し”は、普通はコストが高過ぎる。資産、即ち、企業の経済的資源を無駄遣いするだけだ。

 

ということでIASBには、C において、「業績が芳しくない時に利益を出す」ことを目的に据えること、及び、このための手段を会計規準に残すことを許さないという意思があるように感じる。

 

 

この他にも、株式などの資本性金融資産やレバレッジの効くデリバティブが組み込まれた負債性金融商品など、より大きな価格変動と多額の含み益を蓄えることが期待できる金融商品について、公正価値の変動をOCIに記帳することが考えられる。それは上記 A B の企業の指定によって可能だが、売却時にリサイクリングが禁止されているので、結局、純損益を企業が望む方向へ変えることはできない。即ち、IASBは「業績が芳しくない時に利益を出す」ための手段を塞いでいる。上記 A B についてリサイクリングが禁止されているのは、その手段となる可能性を消すためではないかと思う。

 

上記のIFRS9号の結論の根拠に記載された“投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべき”には、IASBの次のような思いが籠っているのではないかと思う。

 

評価損益(=再測定による損益);

 

市場価格(=公正価値)の変動で損益が生じるのは、(それが外部要素に起因する変動であっても)一定の経済実態を反映している。

 

売却損益(=認識の中止に伴う損益);

 

「業績が芳しくない時に利益を出す」取引は、業績の実態を分かりにくくする不正な利益平準化(=スムージング)に繋がる好ましくない取引である。

 

会計規準設定主体としては、投資から生じる損益を一度だけP/Lへ反映させる会計規準を作るなら、企業の努力の及ばない外部要因で変動したり、まだ未実現の損益であったりという欠点はあっても、評価損益の方を選択するだろう。そして、経営者がタイミングを決められる売却損益は、業績の実態を隠すという不正に繋がりやすいので却下、という具合に考えているのではないだろうか。

 

 

以上のように考えるなら、“有価証券関連損益における純損益とOCIの区分”は、このようなリサイクリングを要求したり、禁止したりする規定の状況から、“業績の実態を隠す不正な利益平準化の防止”にあるのではないかと思われる。即ち、リサイクリングを容認すると業績の実態が分かりにくくなるので、A B についてはリサイクリングを禁止している。一方、事業に密接に関連付いたビジネス・モデルで管理されている C については、売却は事業目的に沿ったタイミングで行われると考えることが一応可能なので、純損益に組替るリサイクリングを要求している、と考えられる。

 

したがって、A B による指定を行うことは、意外に重い意味を持つのではないかと思う。それは、前回記載したように“業績に貢献しない資産”に指定することであり、加えて、“企業に不正に繋がる取引を行う意思がある”と想像させることにもなりかねない。従来の日本基準の“その他有価証券”の感覚で、消去法的に分類し指定すると、とんでもない誤解を生じる可能性がある。この指定を行うには、事業目的に結び付いた合理的な理由づけができるかどうか、十分な、そして、慎重な検討が必要と思う。

 

 

これで、ようやく“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”の決着がついた。W杯決勝のような名勝負なら、長時間の観戦にも耐えられるが、この拙い文章ではそうはいかない。今回も、長文にお付き合いいただき感謝している。

2014年7月10日 (木曜日)

375.CF-DP58)純損益とOCI~一時的な再測定“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”の後半の前半

2014/7/14 (またしても)訂正です。赤字部分をご覧ください。

 

2014/7/10

前回(7/2 の記事)は、連日の訂正でお恥ずかしい限りだ。ちょっと難しくなるとミスばかりで大変申し訳ない。7/2 放送のためしてガッテン(NHK)で、らっきょうが美味いというので、早速、早採りのらっきょう(=エシャロット)を生で食べているが、確かに美味い。しかし、副作用もある。下の話で恐縮だが(食べ過ぎると)大量のおならが出る。しかも、スーツのズボンが破けたようなしっかりとした音がする。幸い臭いはほんのりだが、恥ずかしい。それぐらいの恥ずかしい気持ちだ。申し訳ない。

 

さて、今日のテーマは「有価証券関連損益の純損益とOCIの区別」であり、前回(7/2 の記事)記載した通り、IFRS9号の 2012 年公開草案(以下、IFRS9.2012ED と記載)をベースに検討する。但し、これも前回記載した通り、このDP(“ディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」”)は、この公開草案ではなく現行のIFRS9号をベースにしている。

 

まずは、前回の復習を。

 

前回は、IFRS9.2012ED に提案されている分類方法、測定規準、P/Lの表示区分を表形式に記載した。その結果、

 

 純損益を通じて公正価値の変動を認識するもの

 

 純損益を通じて償却原価で測定するもの

 

 OCIを通じて公正価値の変動を認識するもの

 

の3種類にまとめられることが確認できた。これは一見、日本基準の売買有価証券、満期保有目的債券、その他有価証券の分類に似ているようだが、実際に分類してみると、以下のように、全く異なるものになりそうだと記載した。

 

・分類方法にビジネス・モデルが加わったので、満期保有目的債券は非常に限定される。

 

・日本基準では、消去法的に“その他有価証券”へ分類される有価証券が多いが、IFRSにおいて消去法で残るのは①であり、①が多くなることが予想される。

 

そして、さらにもう一点、純損益とOCIの区分に関連する大事なことがある、これにはリサイクリング禁止の問題も絡んでくると記載して、今回へ繰越した。

 

ここでもう一点確認しておこう。これも何度か記載したが(例えば 6/19 の記事など)、今回このテーマを検討するためにとても重要な「このDPにおけるIASBの純損益についての考え方」だ。簡単に要約する。

 

純損益は、“資産が生み出すリターンを示す主要な指標”であり、財務情報の読み手の予測可能性を高めるものでなければならない。

 

ん、あまり簡単ではなかった?

 

本当はもっと簡単に「純損益は企業業績」と書きたいが、IASBがこういう表現を否定している(5/21 の記事)ので、どうしてもまどろっこしくなってしまう。だが、IASBの主張も取入れつつ、もう少し工夫してみよう。

 

企業業績は、財務諸表全体から読み解くものだが、最も重要なのは純利益である。

 

どうだろうか。

 

 

というわけで、ようやく前置きが終え、今回の本題に入る。前回末尾に記載した“残るもう一点の問題”とは、僕が感じた次のような疑問だ。

 

損益がOCIに計上される有価証券(上記③)は、企業にとって価値があるのか?

(しかも、企業の意思で指定する部分については、リサイクリングが禁止されている!!)

 

即ち、「企業は有価証券を③に分類するだろうか?」という疑問だ。

 

ちょっと説明を加えると、このDPにおけるIASBの考え方では、純損益に計上された評価損益や売却損益は、その有価証券の保有や売却などが企業業績に寄与し得ることを示している。逆にいえば、OCIに計上され、リサイクリングも禁止されている③の有価証券(企業が指定する部分)は、企業業績へ寄与する機会を奪われている。こんな有価証券を企業が持とうとするだろうか?

 

そんな資産の存在意義を株主にどう説明するか? いや、説明以前に③の有価証券も、減損損失は純損益に計上される。リスクのみが業績として表現される資産だ。そんな危ないものを積極的に持とうとしないのではないか。

⇒この赤字・斜体部分の記載は間違い。③のように、その公正価値変動がOCIに計上されようとも、公正価値で測定されるものに減損は適用されない。減損は原価主義のもの(金融商品の場合は“償却原価”)へ適用される。

 

では、IFRS9.2012ED において、どのような有価証券が③に分類されるのか見てみよう。参考までに、現行のIFRS9号についても併記する。

 

 (③ OCIを通じて公正価値の変動を認識するもの)

 

______現行IFRS9号______  ______IFRS9.2012ED______ 

A. 資本性金融商品(株式等)で企業が指定...A. 同左

 したもの5.7.5

 (リサイクリングは禁止されている)   

 (IAS39-AG56

 

       ――――――           B. 商品性の観点から②に該当しない負債性

....................... 金融商品(債券等)で企業が指定したもの

.......................(リサイクリングは禁止されている)   

.......................(4.1.2A

 

       ――――――           C. 商品性の観点からは②に該当するが、

....................... ビジネス・モデルの観点から②に該当しな

....................... い負債性金融商品の一部(企業の指定では

....................... なく強制。リサイクリングされる。)

 

非常に簡単に書いた(つもりだ)が、もっと大雑把に全体像をグッとつかむには、“企業が指定したもの”に着目するのがよいかもしれない。A B は、負債性であろうが資本性であろうが、“企業が指定した金融商品”の損益がOCIへ認識される。要するに、企業が望めばそうなるし、望まなければそうならない。そして、これらはリサイクリングが禁止されている。これらの資産は業績に寄与する機会が奪われている。

 

結局、OCIへの認識が強制されるのは、C に該当する場合のみだが、C について記載されたガイダンス(IFRS9.2012ED-B4.1.4A~)を見てみると、上記③ への分類が強制されるビジネス・モデルである“契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の両方の目的で管理するビジネス・モデル”も、あまり一般的でない特殊な状況が想定されている(契約上のキャッシュ・フローを回収するだけの金融商品を対象に、支出時期が想定されている設備投資資金枠の管理や金融機関の流動性リスク管理が行われる場合など)。なお、「利息収入を回収することが有利なうちは債券を保有するが、値上がりして売却した方が得になれば売却する」という運用管理や、日常的な資金繰り管理は、基本的にキャッシュ・フロー収入を最大化する目的がメイン(契約上のキャッシュ・フローの回収は付随的な目的)ということで、③ではなく①に分類される(IFRS9.2012ED-B4.1.5)。

 

すると、やはり、企業が指定しない限り、③はあまりお目にかからないことになる。すると増々疑問が深まる。果たして、“業績に寄与しない資産”への分類を企業が指定するだろうか?

 

 

こんな疑問を感じていたところに、次の記事が目に入った。みなさんも、ご覧になった方が多いかもしれない。

 

「商社3社、前期純利益2204億円減 国際会計基準」7/1 日経電子版有料記事)

 

商社3社は、もともと米国基準で財務諸表を作成していたが、2014/3 期についてIFRSで作成したところ、純利益が大幅に減少したという。その大きな理由の一つが「有価証券の売却益を純利益に反映しない」ことだと報じている。(A の資本性金融商品の指定による)上記③に該当する有価証券の売却が多額だったということだ。記事では「持合い株などの売却を進めていた」となっている。すると、これらの会社は上記③の“業績に寄与しない資産”への指定を行っていたことになる。

 

そういえば、日本基準のその他有価証券は、時価評価による差損益について“資本直入”というP/Lを通さず直接資本の部にチャージする会計処理を行うが、こうなった理由は「有価証券の評価損益が、企業業績に影響するのはおかしいから」だった。ただ、日本基準では売却損益は純損益に計上される(資本直入部分は振戻され、売却損益を構成する)ので、その他有価証券が業績に影響を与えられない資産ということはない。売却すれば業績が変動する。しかし、IFRSではリサイクリングが禁止されているので、売却しても純損益に影響を与えられない。日本基準のその他有価証券とIFRSの上記③を比べると、“会計処理”及び“資産としての意味”が、重要な点で相違すると僕は思う。

 

商社3社は「持合い株などを上記③に指定していた」というストーリーで、2014/3 期をIFRSで開示したが、これらの会社は米国基準からIFRSへの移行なので、普通の日本企業が経験するであろう日本基準からIFRSへの移行とは事情が異なり、その詳細は僕にはわからない。しかし、IFRS移行前に検討が必要な、次のような重要な問題点を投げかけてくれたと思う。

 

その他有価証券は、我社の事業とどういう関係があるのだろう。

 

資本提携のように、お互いの強みでそれぞれの事業価値を向上させて、Win-Winの関係になろうというなら、その株式の評価損益を純損益に反映させることは、より経済実態に忠実な業績の開示となりうる。また、取引保証金を提供する代わりに相手の株式等を取得し営業関係の継続を期待する、という程度でも、その営業関係が相手の業績や自らの業績に寄与するのだから、それらの評価損益を純損益に反映させる意味があるかもしれない。

 

しかし、そのような株式等の評価損益を純損益に反映させたくない、ということもあるかもしれない。特に個別企業の業績ではなく、マクロ経済要因で相場が大きく変動する場合は困ってしまう。それを嫌って、上記③に予め指定しておくという選択肢はあるが、その代り、“業績に寄与しない資産”を持つことになる。そういうものを持ち続ける意味があるのか、株主等にどう説明するのか、考えざるえないだろう。

 

また、株主総会の議事進行を安定させるためにお互いに株を持ち合おうというなら、これは業績には関係ない話だ。③に指定すればよい。但し、会社法の企業統治制度の趣旨に反する行為と非難されるかもしれないから、その覚悟と準備が必要だ。

 

それと、もう一つ。以上の結果、僕は、①の純損益を通して公正価値の変動を認識する金融商品への分類が増えると思うが、しっかりキャッシュ・フローを稼げる管理体制になっているかどうか、なっていないなら、そういう資産を持たない選択肢も検討した方が良いと思う。多分、片手間や中途半端な管理体制はリスキーだと思う。

 

 

ちょっと横道に逸れてしまった。冒頭述べたように、今日のテーマは「有価証券関連損益の純損益とOCIの区別」なのだから。問題は、なぜ、企業が指定する A B のパターンはリサイクリングが禁止され、強制分類される C は逆にリサイクリングが要求されるのか。これが、“純損益とOCIの区別”に関係するはずだ。

 

えっ、これから本題というのでは、長文過ぎる?

 

そっ、それもそうだ。それでは、今回は、有価証券の公正価値の変動の“後半”というタイトルにするつもりだったが、“後半の前半”へ変更することにして、続きは次回に繰越したい。

 

 

ところで、この記事が公開されるのは、オランダとアルゼンチンが準決勝を戦っている時間帯だが、昨日は、ネイマールとチアゴ・シウバという攻守の中心選手を欠いたブラジルが、ドイツに記録的な大敗を喫した。ドイツの勝利には納得だが、大味な、残念な内容の準決勝になった。

 

この原因の一端を作ったのは、コロンビアのスニガ選手だ。ネイマール選手に負傷を負わせたこの選手は、「悪意はなかった」と弁明しているし(MEGABRASIL 7/5)、FIFA による追加の処分もない(NHK 7/8)が、どうだろうか。この MEGABRASIL にも写真が掲載されているが、この選手がしたことは、“キックの鬼”と呼ばれてアニメの主人公にもなった昭和のキックボクサー、沢村忠氏の必殺技で、いわゆる“真空とび膝蹴り”だ。決して偶然決まる技ではない、と僕は見ている。どうやら、FIFA は沢村忠氏を知らないらしい。

2014年7月 2日 (水曜日)

374.CF-DP57)純損益とOCI~一時的な再測定“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”(前半)・・・7/8、7/9訂正

2014/7/9 連日の訂正で申し訳ありません。表の脚注 1 の赤字の部分は訂正です。

 

2014/7/8 大変申し訳ありませんが、内容を訂正します。表の脚注 2 の追加部分(配当の純損益計上)、及び 3 の追加(一部についてリサイクリング禁止であること)などです。訂正部分は赤字にしています。

 

2014/7/2

今日のテーマは“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”だが、これは日本基準でいうところの“その他有価証券評価差額金”(の変動)をイメージさせる。繰返し記載している通り、僕はこのシリーズで「IASBが純利益とOCIを区別する一線のイメージをどのように考えているか」を知りたいと思っているが、もしかしたら、この目的にこのテーマは相応しくないかもしれない。

 

というのは、これはIASBが日本の主張を受入れたと報道された項目で、これで分かるのは、IASBではなく、日本の考え方かもしれないからだ。しかしIASBは、妥協をしたかもしれないが、まったく筋の通らないものを受入れたとも思えない。それにIFRS9号(2012 年の公開草案)にどのように規定されたか、その表現を具体的に見れば、IASB流の味付けやレシピが分かるかもしれない。寿司も日本国内で食べられるものと海外で提供されるものは異なるという。日本の寿司を知っていればこそ、海外の寿司の特徴をより明確に味わえるということもあるだろう。

 

ところで、“その他有価証券”というのは日本基準の用語で、下記以外の有価証券だ。

 

・短期的な売買のために保有する“売買有価証券”

 

・利息収入を得るために保有する“満期保有目的債券”

 

・事業投資のために保有する“子会社及び関連会社株式”

 

もしかしたら、「ん~、企業がこれら以外の目的で有価証券を保有することがあるの?」と思われた方もいるかもしれない。「株主から預託された資本を運用するのに、これ以外に合理的な保有目的があるのか?」と。

 

それがある。例えば「利息や配当・分配金収入の方が割が良ければ持ち続けるが、価格が上がって売った方が得になれば売る」など。その他、「最終的には売却するだろうが、当面は売る予定はない」、さらには「特に使うあてもないが、昔、お付き合いで購入したまま持っている(いわゆる“持合い”や、銀行などに勧められた買ったが、勝手に売れないなどというケースも昔はあった)」ということもある。まあ、最後の方はあまり合理的とは言えないが。

 

このような有価証券は毎期時価評価されて、取得価額との差額はその他有価証券評価差額金として、P/LのOCI経由で資本の部へ計上される。ここまでは、日本基準もIFRS(2012ED)も同じだ(但し、IFRSには“その他有価証券評価差額金”という単語はない)。大きく違うのは、IFRSはリサイクリングを禁じていることだ。以下、詳細を見ていこう。

 

 

(OCIに計上される有価証券の公正価値の変動・・・IFRS9.2012ED

 

実は、このDP(“ディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」”)では、この項目を“OCIに計上される有価証券の公正価値の変動”とは書いてない。“資本性金融商品に対する指定された投資(の公正価値の変動)”と表現している(DP8.3)。これはこのDPが現行のIFRS9号をベースに記載しているためで、IFRS9号の 2012 年公開草案(=IFRS9.2012ED)では、負債性金融商品についても、OCIに損益を計上される可能性がある。今回は、IFRS9.2012ED をベースに記載しようと思う。

 

日本基準では、上記のように有価証券の保有目的のみで有価証券を分類し、それぞれの評価方法を規定する。それに対してIFRS(2012ED)は、契約上のキャッシュ・フローの特性(以下単に“商品性”と記載する)とそれを管理するビジネス・モデル、さらに加えて企業の“指定(取消不能)”によって分類する。

 

IFRSでは、債権を含むすべての金融資産を償却原価か公正価値で測定する。が、損益項目をP/Lのどの区分に表示するかによって、以下のようにまとめられると思う。

 

    測定規準   (表示区分)P/Lの表示__    __分_類_方_法__

 ①  公正価値   (純損益) 利息・配当等・     原則1(商品性とビジネスモデル)

                 評価損益・売却益など  IFRS9.2012ED-4.1.4

 

 ②  償却原価   (純損益) 利息          原則1(商品性とビジネスモデル)

                 .           IFRS9.2012ED-4.1.2

 

 ③  公正価値   (OCI) 評価損益・売却益    原則1(商品性とビジネスモデル)

                (一部リサイクル禁止3) IFRS9.2012ED-4.1.2A

           (純損益2)実効金利法による利息  加えて、①に分類されるもので

                 ・配当等        あっても取消不能の指定により、

                             ③に分類できる。

                 .           IFRS9.2012ED-4.1.4

 

1 原則とは、商品性とそれを管理するビジネス・モデルによって、以下のように分類すること。

 

貸付金のように予め決まった利息と元本のキャッシュ・フロー(商品性)を管理するビジネス・モデルの場合は②へ、契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の両方の目的を持つビジネス・モデルなら③へ、それ以外なら①へ分類する。ビジネス・モデルの変更があった場合にのみ分類の変更が認められる。

 

利息は、元本に対する貨幣の時間的価値(犠牲)と信用リスクの対価とされており、株式にはこのような商品性はないため、株式(=資本性金融商品)は①へ分類される(“指定”により③も可)。

 

2 これはちょっとフライイング。

 

IFRS9.2012ED-5.7.1A では、実効金利法による金利は純利益に計上するとされているが、配当等についてはOCIに計上するとされている。・・・というの間違いで、資本性金融商品の配当についても純損益に計上される(IFRS9-5.7.6)。この条項(5.7.6)は、公開草案の修正対象となっていないので、そのまま生きている。

 

3 一部リサイクリング禁止の“一部”とは。

 

原則によって強制的に分類されたもの(ビジネス・モデル要因)は、売却時等に過去にOCIに認識した累積額を、純損益に振替える(=リサイクリング)。しかし、上記に“加えて・・・”と記載した企業の指定による部分は、リサイクルが禁止されている(IFRS9.2012ED-5.7.1(b))。

 

 

上記の他、会計上のミスマッチを改善するための公正価値オプションがある(ミスマッチが改善するように、純損益を通じて公正価値で測定すると指定できる、或いは、OCIを通じて公正価値で測定すると指定できる)。IFRS9-4.1.5

 

以上から、一見、次のような印象を持たれるかもしれない。

 

日本基準の満期保有目的債券は、上記の②に当たるのではないか。

 

日本基準の売買有価証券は、上記の①に当たるのではないか。

 

すると、日本基準のその他有価証券は、上記の③に当たるのではないか。

 

残念ながら、かなり違うものになりそうというのが、僕の見立てだ。一見、似ているように見える分類だが、実際はかなり違う。もはや、“味付け”レベルの相違ではなく、レシピや調理方法も異なるようだ。日本基準から、イメージをがらりと変える必要がありそうだ。

 

分類方法に“ビジネス・モデル”が加わったことで、満期保有目的債券は非常に範囲が限定されることになると思う。金融機関などの有価証券投資を専門に行うような部署がある大きな会社でないと、IFRSが想定するような“ビジネス・モデル”は存在できず、②への分類は難しいかもしれない。

 

ただ、IFRSはすべての金融資産にこの分類を適用するので、売掛金や貸付金もこの分類の対象になる。売掛金管理や貸付金管理は契約キャッシュ・フローを回収するビジネス・モデルが前提であり、これは普通にあるので、多くの会社が②に分類される金融商品を保有していることになる。即ち、有価証券が②に分類されるのは稀で、むしろ、②は売掛金などの債権のためにある“評価規準・分類方法・P/L表示のセット”と考えた方が良いかもしれない。

 

また日本基準では、いずれにも該当しないものをその他有価証券に分類するが、IFRSでは②や③に該当しないものを①(=純損益を通じて公正価値で測定する金融資産)へ分類する。その結果、現行の日本基準の売買有価証券は、専門部署があるなど限定的に捉えられているが、①には、もっと広い範囲の有価証券が分類されることになりそうだ。日本の多くの会社ではその他有価証券の構成比率が高いが、今後IFRSに移行すると①の構成比率が高くなる可能性が考えられる。

 

最後にもう一つ。というか、これが今回のメイン・テーマで、純損益とOCIの区分に関わるところだ。

 

と行きたいが、長くなってきたので、続きは次回に繰越したい。これには“リサイクリング禁止”も絡んでくるので、まだまだ先がある。

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