381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要
2014/8/1
昨日、ASBJより修正国際会計基準(案)が公表された。
公開草案「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」の公表(7/31 企業会計基準委員会)
そこで、ざっと特徴を記載してみたい。みなさんが、この公開草案を読まれるときの参考にしていただければと思う。が、すべてを読込む時間はなく、“コメントの募集及び概要”を読んで、興味を持った項目について修正会計基準案の該当箇所を読んだ程度だ。要するに、「速報・ダイジェスト番組だけでW杯を語る」ようなもの。しかし、僕は、今回の修正基準の核となる“のれんの償却”と“その他の包括利益(OCI)のリサイクリング”については、このブログを通じてヨタヨタとだが勉強してきたので、ちょっと寄り道したい。なお、コメントを募集期間は10月末までとされている。
まず、正式名称から。(知っていると、意外と使える場面が多かったりする。)
(日本名)
修正国際基準: 修正会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準
(英文名称)
Japan's Modified International Standards (JMIS): Accounting Standards Comprising IFRSs and the ASBJ Modifications
“JMIS”は、“ジェイミス”と読むらしい。(これは会計教育研修機構の研修で聴いた。)
次に、この基準の意味というか、役割というか、位置づけというか。
まず、次の式を頭に入れると良い。
修正国際基準(JMIS) = ピュアIFRS + ASBJによる修正会計基準
“ピュアIFRS”は、厳密には金融庁が財務諸表規則が規定する“指定国際会計基準”に指定したもののこと。金融庁の判断によってはピュアにならないこともありえるが、現時点ではIASBが公表したものをそのまま受け入れている(=アドプション)。
ASBJは、それとは別の手続(=エンドースメント)によって、“ASBJによる修正会計基準”を必要に応じて開発する。この両者を合わせたもの、即ち、ピュアIFRSにASBJが修正を加えたものが、“修正国際基準(JMIS)”となる(上式の意味するところ)。この過程で、ASBJは公開草案を公表して、一般に意見を求めるという。
以上の結果、今回の公開草案も、次のような計5通の文書構成になっている。
・ピュアIFRSの内容(=金融庁が指定した個別IFRSやIFRICの番号と名前)を記した「修正国際基準の適用(案)」
・個別の“ASBJによる修正会計基準”案(のれんとOCIの計2通)
・コメントの募集要項や質問を記した文書と、ここまでの経緯を記載した文書(計2通)
さて、ここでもう一度冒頭の式を思い出してほしい。もし、“ASBJによる修正会計基準”がゼロになれば、「修正国際基準(JMIS)=ピュアIFRS」になる。“ASBJによる修正会計基準”は、あくまで一時的なもの(“当面の扱い”と表現されている)で、IASBとのコミュニケーションによって解消していくべきもの、逆にいえば、日本からグローバルへ主張するメイン・テーマと位置付けている。
解消されていけば、JMIS適用企業は、自然とIFRS適用企業になっていく。そういう意味で、JMISは我が国におけるIFRS適用促進のための取組みとされる。また同時に、開発の過程で公表される公開草案等により、我が国の議論の裾野が広がることが期待されている。そして、これがASBJがグローバルへ発信する意見の基礎になっていくとされている。
(良くできたストーリーだが、どちらも気の長い話だ・・・。)
“ASBJによる修正会計基準”案と、その選択について
これらはIFRSを修正する箇所を記述したもので、「正誤表+その根拠」のようなイメージで作成されている。前半の“正誤表”のような部分は、原文に対して、削除箇所には取消線を引き、追加箇所には波の下線を入れている。そして後半に、日本の会計基準のように“結論の背景”という“その根拠”を記載したセクションを置いている。
現時点で、JMISは1号(のれん)と2号(OCIリサイクリング)の公開草案が示されているが、この2つが選ばれた理由とその意味は、“「削除又は修正」の判断基準”や“初度エンドースメント手続における検討”のセクションで、次のような趣旨が説明されている(“「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案の公表にあたって”という文書のⅦとⅧ)。
・「削除又は修正」は必要最小限に
IFRSは、既にIASBの所定のデュー・プロセスを経ており、グローバル(もちろん我が国も参加している)の議論の結果だ。それに多くの修正を加えては、グローバルから国際基準と見做されなくなる可能性があるし、他国の状況も、やったとしても最小限にしている。比較可能性の問題も生じる。我が国としても、“単一で高品質の会計基準の策定”というグローバルな目標にコミットしている。
少数に絞った方が、我が国の主張を考え方を強く表明することができる。
・“必要最小限”を前提に、次の基準で項目を抽出する
(a) 会計基準に係る基本的な考え方に重要な差異があるもの(日本 vs.IASB)
今回は、この基準で“のれんの償却”と“OCIリサイクリング”が抽出された。これ以外にも次のものが識別されたが、“必要最小限”とするために削除または修正の対象から外した。
・公正価値測定の範囲
有形固定資産・無形資産の再評価モデル、投資不動産の公正価値モデル、市場性のない株式等の公正価値測定、生物資産及び農産物の公正価値測定
・開発費の資産計上
(b) 任意適用を積み上げていくうえで実務上の困難さがあるもの(周辺制度との関連を含む)
この基準で識別されたものを次のように大別している。
・ガイダンスや教育文書の開発・公表により、実務上の困難さを軽減してくもの
減価償却方法の選択、市場性のない株式等の公正価値測定、決算日が相違する子会社・関連会社の扱いなど。
・該当する企業にとっては重要だが、一部業種に限られるなどの観点から、“必要最小限”にするために外したもの
機能通貨や開示分野の問題
なお、今回、“ASBJによる修正会計基準”案の対象にならなかったものについて、“「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案の公表にあたって”という文書の“別紙”に内容の説明がある。
ということで、あとはいよいよ、2つの“ASBJによる修正会計基準”案の内容に入りたいが、残念ながら、僕の能力では時間切れ。明日以降に繰り越したい。
だが、最後に、「気の長い話だ・・・」と書いた部分について説明を加えたい。
みなさんもお分かりの通り、これは、既にIASBによって確定された基準に対する修正要求をどう実現するかという話で、言ってみれば、“敗者復活戦”だ。いったん確定した規準を変えるのは、例えば、“のれんの償却”について 7/28 の記事(379)に記載したように、ASBJはEFRAGなどと協力し果敢に再導入へ挑戦しているが、なかなか大変なことだ。時間がかかる。IFRSがのれんを非償却にしてから、既に10年が経過している。
より重要なのは、IASBが規準を開発している段階でどう関わるか、即ち、IASBが規準を開発しているときに、国内で質が高く裾野の広い議論を盛り上げて、ASBJを後押しすることだと思う。これは、今回の公開草案の範囲には関係ないので、言及されていないのは当然だが、どこかで必要な議論だと思う。
IASBは、基準開発中の議論の過程について情報公開に努めているが、英語なので読める人、Webcast を視聴できる人は限られる。例えば、IASBの公開草案に対して日本からのコメントが増えるように、日本でどのように情報公開を行うかや、日本に於ける議論の方法について、検討することが必要ではないだろうか。
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