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2014年8月 4日 (月曜日)

382.修正国際基準(JMIS)の公開草案~のれんの償却

2014/8/4

公開草案として公表された5つの文書のうち、個別の会計基準に係るもの(=ASBJによる修正会計基準)は、2つのみだ。今回は、そのうちのれんの償却について記載する。なお、後半の“結論の背景”についての記載には、僕の感想・意見がたくさん記載されているので、無用と思われる方は読み飛ばしていただきたい(直接公開草案を読んでいただいた方が良い)。

 

前回(381.8/1の記事)も記載したように、“削除又は修正”は必要最小限にとどめられているため、例えば「のれんを直すなら、無形資産も同じだろう」という論点について修正を見送っている。また、修正内容は、基本的に日本基準へ戻す内容と考えてよさそうだ。

 

IFRSに対する具体的な修正は、以下の項目となる。

 

(のれんの償却の復活 第4項)

 

のれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。

 

耐用年数: その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。企業結合ごとに決定。

 

償却方法: 定額法その他の合理的な方法により規則的に償却。企業結合ごとに決定。

 

償却費: 純損益に認識。取得日から償却開始。

 

B/S表示: 取得日において認識された金額から償却累計額及び減損損失累計額を控除。

 

(持分法上ののれんの償却及び減損 第5項)

 

関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。

 

耐用年数: その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。投資ごとに決定。

 

償却方法: 定額法その他の合理的な方法により規則的に償却。投資ごとに決定。

 

償却費: 純損益に認識。関連会社又は共同支配企業となった日から償却開始。

 

B/S表示: のれんは投資と区分して表示されない(投資原価に含まれる)。

 

減損: 償却や持分法適用後に減損の有無を検討する。

IAS39「金融商品:認識及び測定」に従う。)

 

関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんについては、減損戻入を禁止。

(上記の第4項に同様の記述がないが、のれんの減損戻入の禁止は、ここで改めて修正せずとも IAS36「資産の減損」で規定されている。)

 

(開示 第6項)

 

関連して、以下の注記を修正又は追加している。

 

のれんの償却方法及び耐用年数並びにのれんの償却費が含まれている包括利益計算書の表示科目

 

報告期間の期首と期末ののれんの帳簿価額の調整表における修正及び追加

 

・期首帳簿価額(償却累計額控除前)及び償却累計額(減損損失累計額との合計)

・償却費

・期末帳簿価額(償却累計額控除前)及び償却累計額(減損損失累計額との合計)

 

 

 

修正項目は以上だが、この記載のあとに“結論の背景”というセクションがあり、修正の理由を記載している。基本的には、修正されたIFRSの項目が現在の規定となった経緯と、それに対する日本での議論の内容が記載されている。量的には 3 ページ半ぐらいなので、興味のある方は直接読まれることをお薦めする。以下には、特に印象に残ったところ、即ち、のれんの償却を復活させる理由について(、僕の感想・意見を交えて)記載する。

 

(のれんの償却を復活させた理由)

 

・収益との期間対応(14(1)

 

・・・。企業結合後における企業の利益は、投資原価を超えて回収された超過額であると考えられるため、当該投資原価と企業結合後の収益との間で適切な期間対応を図る観点から、投資原価の一部であるのれんについて償却を行うことが必要である。

 

「・・・。」とした部分は、ん?と思ったから転記を省略した。その省略した部分は、「のれんは企業結合において資産及び負債を取得するために支払う投資原価の一部である」というところ。しかし、資産及び負債はすべて認識されてB/Sへ個別に記帳され、認識できなかったものがのれんになるのだから、のれんは、「(認識可能な)資産及び負債以外のもの」だ。僕は、以前「のれんは人的要素の評価」(2013/1/10の記事など)と記載したこともあり、のれんを「資産及び負債を取得するため」支出の一部と考えるのは、どうも納得がいかない。のれんは“資産や負債といった物的なもの、契約から派生した権利や義務といったもの”を有機的に結び付けて、“事業として機能させる人的な要素からなるシステム”ではないかと思う。

 

しかし、のれんが(事業の)投資原価であることは間違いがなく、企業結合後の収益と対応させて償却することが必要という部分(=転記した部分)については賛同する。

 

 

・収益力の減価の反映(14(2)

 

のれんの構成要素の一部が超過収益力を示すとすると、競争の進展によって通常はその価値が減少するものであり、のれんの償却を行わないとその減価を無視することになる。

 

“超過収益力”とせずとも、単に“収益力”だけで十分だと思う(理由は 2012/11/27 の記事に記載したが、要は、平均を下回る収益力しかない企業、即ち、超過収益力のない企業でも、買収対象とされるのが実際だから)。この言葉は、EFRAG等と共同で出したディスカッション・ペーパー(379. 7/28の記事)でも、2か所のみで集中的に使われていて、ちょっと苦笑いだった。

 

但し、主張の趣旨(=収益力は簡単に維持できるものではなく、内外の環境変化に対応する努力、即ち、自己創設のれんを新たに発生させることなしには維持できない。その過程で、のれんは自己創設のれんによって置き換えられていくが、自己創設のれんは資産計上すべきではないため、のれんを償却することが必須となる、という主張)にはまったく賛同できる。

 

 

・規則的償却は現実的・実務的(14(3)

 

耐用年数や費消パターンに関する見積りの難しさはのれんに限定されたものではなく、有形固定資産の減価償却についても同様である。

 

この記載の前に「企業は、通常、買収にあたり被取得企業の事業などについて十分な分析を行った

上で買収するか否かを決定するため、耐用年数の見積りは可能であると考えられる。」という記述があるが、そういう場合もあれば、そうでない場合もある(むしろ、調査方法・期間に対する制約・限界が大きくて、“十分な分析”は難しいことが多い)というのが僕の感想だ。しかし、会計上の見積りに 100% の自信は必要ない。ここの記載のように、有形固定資産の償却方法や耐用年数も、ストレートに毎年減価するのか、それとも、何らかの加速度があるのか、また、その期間の長さについて確証は持てないが、決めている。言われてみれば、まったく尤もだ(但し、日本の場合は税法に依存し過ぎていて、企業が決めているといえない状況だが)。

 

これを読んで、上述のEFRAG等とのディスカッション・ペーパーに記載のあったアンケート結果の記述を思い出した。

 

・・・、過半数をやや上回る作成者は、IFRS の適用に関する彼らの経験によると、のれんの回収可能価額の見積りの方が、のれんの消費パターンの見積り(耐用年数の見積りを含む)よりも困難でありかつ負担が大きいと考えていた。26項)

 

ヨーロッパの作成者は、「のれんの減損より、償却の方が現実的・実務的」と考えているということだろう。減損テストに使う回収可能額の計算(将来キャッシュ・フローを見積り、それを現在価値に割引く)より、のれんを償却するための耐用年数や償却方法の見積りをする方が、容易であり手間もないという。これには、思わずニヤリとした。確かにその通り! なのに、なぜ「耐用年数や償却方法の見積りに合理性がない」と、償却が否定されて、今の減損だけのIFRSになったのか。確かに疑問だ。

 

 

・自己創設のれんの費用計上とのれんの償却は、ダブらない(14(4)

 

12 (2)(に記載されているように、IASB)はこの自己創設のれんの不計上との整合性を理由にのれんの償却を否定しているが、広告費などに係る会計処理と企業結合で取得したのれんの事後測定は別の議論と考えられる。

 

12 (2) に記載されているように、「広告宣伝費等でのれんの価値が維持される」のであれば、広告宣伝費等は、のれんのメンテナンス・コスト、修繕費なので、費用計上されるのは当然であり、のれんの償却を否定する材料にはならない(=二重計上ではない)、ということだと思う。これにも賛同する。

 

 

・減損テストの精度に問題があるのに減損のみで良いか

 

のれん償却を復活する理由について記載しているこの 14 項には、(5) もあるが、これを紹介する代わりに、上述のEFRAG等とのディスカッション・ペーパーに指摘されていた減損テストの問題点に触れたい。

 

それは、7/28 の記事でも若干触れたが「ターミナル・バリュー」の問題だ。IFRSでも日本基準でも、これを減損テストに使用する将来キャッシュ・フローの見積りに含めて良いとは一切書いてない。(ただ、含めていけないとも書いてない。) 現実に存在するのであれば、見積りに含めることは認められるだろうが、この金額を合理的に計算するのは芸術の域、神技であり、合理的な根拠を示すのは難しい。

 

ターミナル・バリューは、企業が永遠に継続すると仮定して計算される価値のことだ。例えば、5年間の事業計画が作成されているとすると、その5年間の将来キャッシュ・フローは、事業計画を評価して作成することができる。そして、ターミナル・バリューは、その先も「永遠に企業が将来キャッシュ・フローを生み続ける」として計算される。しかし、いったいどうやって、そんな仮定を正当化するのだろう。これに関しては、IFRSも日本基準も何のガイダンスもない。

 

そのディスカッション・ペーパーでは、ヨーロッパにおいて、「減損損失は通常、非常に遅れて認識され、減損損失が認識される時には事業に対する期待はすでに悪化している。」(23(b))と考えている人が多いという。正確には、欧州金融危機の際の減損の会計処理が、プロシクリカル(景気循環増幅的)な影響を及ぼす可能性があると考えた人が、回答者の過半数を占め(会計規準設定主体からの回答を含む)、その回答者が、このような説明をしているという。

 

こうなる大きな原因として、このターミナル・バリューの問題があると思われる。

 

僕の経験では減損テストでこれが使われているのを見たことはない。しかし、M&Aの相手企業の評価資料(FA、即ち、ファイナンシャル・アドバイザーが作成した資料)に、詳細な根拠が示されずに用いられていたのを覚えている。それがバカにならない金額だった。もしかしたら、希望売価から、個別に積上げた企業価値を差引いた差額になるように逆算したのではないかと思ったぐらいだ。(そのM&Aでは、買い手側が独自にFAを立てておらず、売り手側と共通だった。買収額が大きい方がFA報酬が高くなる仕組みだったので、余計に疑念を持った。後年、やはり期待は外れで、このM&Aに係るのれんは減損されることになった。)

 

実は、この 14(5) には、「費用配分を行う償却と回収可能価額に着目する減損テストは、目的が異なっているため、減損テストによって償却を補うことはできないと考えられる。」と書いてある。即ち、減損と償却が補完関係にないと主張されているが、僕は、あると思う。減損テストの精度に問題がある場合、特にターミナル・バリューのようなものが使用されるケースがあるからなおさらだが、せめて、償却しないと、財務情報として企業価値が過大に表示される可能性が高まると思う。現に、ヨーロッパでは、「償却をしないと、企業についての価格が高くなるであろう。」とする回答者が過半数いるのだから(上記ディスカッション・ペーパーの 23(a))。日本でも、このターミナル・バリューについて、会計基準による対処が必要ではないだろうか。

 

まず日本基準を直して、その結果をこのJMISにも反映させてほしいというのが僕の希望だ。

 

 

“結論の背景”には、上記の他、以下のものが記載されているが、長くなり過ぎるので、詳細は省略させていただく。詳しく知りたい方は、直接公開草案をご覧いただきたい。

 

・関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんの償却

 

主に、上記のM&Aにより取得したのれんに平仄を合わせたという説明。

 

・のれんの償却に関する開示

 

会計処理の変更に合わせた開示の変更である旨の説明

 

・関連する論点

 

修正点を必要最小限に絞るとの観点から、今回は「削除又は修正」の対象にしなかった旨の説明。以下の論点が挙げられている。

 

(1) 毎年におけるのれんの減損テスト

 

(2) 企業結合で取得した無形資産の識別

 

(3) 耐用年数を確定できない無形資産の非償却

 

 

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