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2014年8月26日 (火曜日)

388.CF-DP63)純損益とOCI~まとめの準備-避難情報の改善

2014/8/26

僕が住んでいる地域の先週の土曜日(8/23)の天気は、午前中雷雨、昼ごろに晴れて、また激しい夕立と目まぐるしく変わった。しかも、雨や雷の激しさは尋常でない。ところが、最近は尋常でないことが普通になってしまい、慣れてしまった。大きな被害も出ており、“慣れ”で済ましてはいけない深刻な問題だが・・・。

 

20日の未明には広島で大規模な土砂災害が発生し、今回も、自治体の避難情報(避難勧告・避難指示)が遅れた。昨年 10月の伊豆大島のときも同様だった。そのときは、自治体が参考にする気象庁の「土砂災害警戒情報」の的中率が低いうえに、避難情報を出すと避難所設置等の支出が財政負担となるため、避難情報を出すことを自治体が躊躇するという指摘があった(例えば、山村武彦氏の「2013年伊豆大島土砂災害 現地調査写真レポート」)。

 

これに対し、みなさんはどのように考えられるだろうか。

 

・人命には変えられないから、空振りを恐れず出すべきだ。

・国が防災に関する財政上のサポートを強化すべきだ。

・自治体に頼らず、自分で判断して避難すべきだ。等々。

 

これらは、僕が記憶している当時のワイドショーなどのコメンテーターの意見。これに対して今回の広島のケースでは、降水量が予測不能なほど局地的で急激に、しかも未明の時間帯に増大したことから、避難情報の遅れと行政の責任を指摘するより、住民が自分で判断する覚悟やそのための日頃からの注意喚起が強調された報道が多かったように思う。

 

“純損益とOCIの区別”をテーマにブログを書いてきて、今僕が思うことは「それでも、避難情報の精度を上げることを目指すべき」だ。具体的には、

 

・災害の発生可能性の判断のみに責任を負う職責を設ける

 

ことが、大事なのではないかと思う。

 

財政負担のことは、市長が心配すればよい。この職責の人からは、雑念を取り払い、ひたすら災害が起こりそうかどうかの確率の判断へ集中させる。この判断の正しさでのみ、この職責を全うしたかどうかを評価する。恐らく、この確率の正しい判断を得られれば、市長は他の問題をすべて引き受けても、あまりある自信を持って、避難情報に関する判断を行えるようになると思う。

 

問題は、次の2点だと思う。

 

A. そういう職責を置けば、災害発生可能性の判断の精度が上がるのか。

 

B. なぜ、これが会計の“純損益とOCIの区別”と関係するのか。

 

僕は災害・防災について門外漢なので、A については甚だ頼りない根拠しかない。でも、組織の在り方(内部統制)に注目すれば、重要な視点を提供できると思う。B については、シンプルな目的設定が理論や規準をシンプルにする、逆にいえば、「複雑な目的を設定して一挙に解決してやろうと考えるのは、反って遠回りになるケースがあるので要注意」という点が共通しているように思うのだ。

 

 

今回は A に関してのみ記載し、B については次回としたい。

 

自治体の方は「そういう職責は当然ありますよ」と言われるかもしれない。しかし、その担当者は、本当に財政や空振りから責任が遮断されているだろうか? 「人命に関わるから保守的に判断せよ」とか、逆に「財政問題や空振り時の住民の負担・住民からのクレームを考慮して軽々しく判断するな」などといったプレッシャーを受けてないだろうか? そして、そういう雑念に歪められた“災害の可能性の判断”は、避難情報に責任を負う市長の判断に役立つだろうか。

 

いや、違う。恐らく「そういう職責はありません。」と言われるのではないだろうか。「市長は消防局長を本部長とする“災害警戒本部”から報告を受け、判断します」と言われるように思う(広島市のHPの記載を参考に想像した)。この“災害警戒本部”は、「市長事務部局のほか、行政委員会事務局等の通常の行政組織を基本として編成するもの」とされているので、“合議体”である可能性が高い。要するに、組織の色々な部署(例えば市の財政を心配する部署など)の利害関係を調整する場となっている可能性が想起される。

 

そして、恐らくこれは広島市に限らない。内閣府による“避難勧告等の判断・伝達マニュアル 作成ガイドライン”によれば、『本マニュアルで定める避難すべき区域や避難勧告等の判断基準(具体的な考え方)は、事態の進行や状況も踏まえて総合的に判断されるものとし』とされているので、あちこちで、特定の担当者や部署の判断ではなく合議によるものとして組織されている可能性が高いように思う。(但し、内閣府のマニュアルは、「財政まで考慮しろ」とは言ってないのではないかと思う。気象庁の予報のみに頼るのではなく、地域の降水量や地理的特徴、その広がりの大きさなどの災害の発生に“直接関係する要素を総合的に”という趣旨だと思う。)

 

“合議”にすると、何が問題か。

 

・全員(或いは定足数があるかもしれないが)集まるのに時間がかかる。

・各部署の代表が参加するので、“災害の発生可能性”以外の要素が“総合的に”考慮される。

・合意、判断に時間がかかるし、判断が歪められる可能性がある。

 

ん~、この想像の通りとすると、意思決定は非常に遅くなる。分単位のスピードを要する意思決定は無理だ。それに、(上記でカッコ書きしたように)内閣府のガイドラインの“総合的”と別の意味で“総合的”になっている可能性がある。

 

この本部のメンバーが、深夜に自宅から役所に出勤する時間だけでも勿体ない。それに、そもそも“災害が発生する可能性”の判断に、これだけのメンバーが必要だろうか。殆どのメンバーは「避難情報が発表されるから、対応をせよ」という段階で揃っていれば良いのであって、“避難情報を出すかどうか”の段階で検討に加わっていても、雑音しか発しないのではないだろうか。

 

“災害が発生する可能性”を判断できるのは、危険個所の実情を良く知る職員やその部署だ。今回の広島の件に関連する報道で「特別警戒区域への指定が遅れて、必要な対応が取れなかった」という報道を、みなさんもご覧になったことと思う。しかし、“特別警戒区域への指定”は危険地域からの住居移転を促すなどの、事前準備のために行われるのであり、避難勧告等の判断には関係がない。これとは別に(というか、特別警戒区域を指定する準備として)危険個所は、すでに特定されているようだ。

 

市町村は既に、今回のような土砂災害・河川の氾濫・津波・その他の予想される災害に対して、細かい危険地域の特定を行い公表している(みなさんも、それぞれの自治体のHPへ行けばその情報が得られる)。その情報こそが重要だし、避難勧告等を出すには(“特別警戒区域の指定”などは不要で)その情報で十分なはずだ。まして、市の財政情報など要らない。「避難所の準備がまだできてない」などということより、とにかく少しでも安全なところに避難するためのきっかけと、避難経路の情報を提供することが重要だ。それは危険地域を特定した担当者・担当部署が一番よく分かっている。そこに権限を委譲すればよい。住民目線で見れば、そういうことだと思う。

 

 

さて、そろそろ、今回のまとめに入りたい。

 

「合議で決める」のは、日本的で良く見られることだが、すべての状況に万能ではない。少なくとも、最近の災害対応はそういうものではなさそうだ。(だから、繰返し避難情報の発表が遅れる。)

 

今回の報道では「状況の変化に対応して自ら避難の判断ができるよう日頃から準備する」ことが、教訓として強調されていたように思う。具体的には、普段から自分の居住する地域にどのようなリスクがあり、それを回避するにはどうしたらよいかを考えて準備しておくことだ。今回は、このような国民一人ひとりへの注意喚起の呼びかけが目立った。(僕もそのおかげで、自治体のHPをじっくり閲覧したし、近所の危険個所の視察も行った。)

 

しかし、だからといって、自治体の対応が今のままで良いとは限らない。

 

ポイントは、組織や役職の権限と責任を明確にし、かつ、シンプルに定義することだ。特に、状況を正確に把握する役割を遂行させる人・部署には、余計な要素の介入を防止し、シンプルな機能の発揮を求める必要がある。

 

災害の可能性を判断する人・部署は、それに集中し、状況を(合議体を経ず)直接市長へ報告すべきだ。避難情報を発表するとか、合議体を招集するとか、避難所の準備を始めるなどの判断は、市長が自らの責任で(必要な場合にのみ誰かに相談して)行い、指示を出せばよい。

 

ここまで書くと、勘の良いみなさんは、気付かれたかもしれない。“状況を正確に把握する”といえば、企業財務における会計の役割だ。次回は、この観点でIASBの“純損益とOCIの区別”を眺めたい。果たして、昨年7月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」の“純損益とOCIの区別”に関する記載は、会計の役割をシンプルに捉えているだろうか。もしかしたら、余計な要素を混入させて、会計規準を複雑にしていないだろうか。

 

いつものことながら、長くなって恐縮だが、最後に 8/23 の日経の記事『孫正義社長を「10秒」で納得させる資料作りの秘訣』の一部を紹介させていただいて、今回の締めとしたい。(この記事は有料だが、引用はほんの一部なのでご勘弁願いたい。)

 

「孫さんは『正しい数字を見ていれば正しい判断ができる』という基本思想があります。どんな問題であれ、その本質を把握しなければ解決には至らない。問題の本質を把握するためには、正しい数字がその裏づけとともに適切に記載されている資料が、必要不可欠と考えています」

 

正しい意思決定には、問題の本質(≒実態)を適切に表現した報告が必要。これは孫正義氏だけでなく、他の経営者も、投資家も、そして市長も、みな同じではないだろうか。

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