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2014年8月

2014年8月29日 (金曜日)

390.CF-DP64)純損益とOCI~まとめ~FVTOCIリサイクリング禁止への違和感

2014/8/29

みなさんお待ちかね?のサッカー日本代表メンバーが、昨日、発表された。アギーレ新監督になってどのようにメンバーが変化しただろうか。新生アギーレ・ジャパンの先行きを占う重要な要素だ。しかし、それを書くスペースも能力も、ない。それでも書いておきたいのは、とても残念な事実。僕の贔屓チームである清水エスパルスからは、今回も選出されなかったことだ・・・スロベニアの代表に選出されたノバコビッチ選手を除いては。だから、ノバコビッチ選手。せめて、あなただけでもがんばってきてください。

 

 

さて、このシリーズの前回(388-8/26の記事)は、災害時の避難情報を出す自治体の体制についての考察から、実態を把握する機能は余計な目的を持たせずシンプルに設計した方が良い、それは会計も同じ、会計規準も同じと記載した。今回は、IASBのディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」(以下“DP”と記載)における純損益とOCIの区分において、それを検証していく。

 

 

もしかしたら、みなさんは「このシリーズの過去の記事から、IASBが複雑なことを言っているのはわかるが、オヌシが何を言いたのか良く分からん。」と思われているかもしれない。まず、そこを整理したい。

 

現行のIFRSの概念フレームワークでは、一般財務報告の目的として次の2点が挙げられており、かつ、その基本的な質的特性として、やはり、次の2つが挙げられている。(なるべく平易になるようオリジナルの表現をかなり変えている。)

 

(一般財務報告の目的)

・事業から得らえる将来キャッシュ・フローの予測に利用できること及び過去の予測を実績値によって確認できること(予測価値と確認価値)

 

・上記を通じた、事業が効率的で効果的に運営されているかの評価(経営者の受託責任の評価)

 

(有用な財務報告の基本的な質的特性)

 

・(上記目的との)適合性・関連性を持つこと。

 

・(経済実態の)忠実な表現を行うこと。

 

上記の目的を達成するには、財務報告がこれらの特性を備えていなければならないということだが、このDPの純損益とOCIの区分の議論において、「これら以外の異質な要素が混入しているのではないか」という疑問が、沸いてきたのだ。まるで、災害の発生可能性の判断に、市の財政の問題を介入させるように。それを説明したい。

 

 

これについては以前からモヤモヤしていたのだが、実は、384-8/8の記事にコメントしてくれたAさんとのやり取り(同ページの下部で見られる)が整理のきっかけとなった。したがって、このやり取りを読まれた方は、「ああ、あれのことね」と思われたかもしれない。そう、日本基準の“その他有価証券”みたいなもので、IFRS9では“OCIを通じて公正価値の変動を測定する金融商品”とされている、いわゆる“FVTOCI”に企業が指定した資本性金融商品のことだ。(FVTOCI: Fair Value Through Other Comprehensive Income

 

このFVTOCIへ指定されたものは、現行のIFRS9及び2012年公開草案において次のような扱いになっている。

 

・取得時に企業がFVTOCIへ指定する。

・評価損益や売却損益(=公正価値の変動)はOCIへ計上する。

・売却時等の認識を中止する場合でもリサイクリングしない。

(但し、配当は純損益で認識する。IFRS9-5.7.6

 

よって、この取扱となる資産は、取得から売却まで(配当以外は)一貫して純損益に計上されない。純損益は企業の財務業績を表す指標として最も重要なものなのに、FVTOCIへ指定されたものは、純損益との関係を遮断されている。そこに疑問が生じる。FVTOCIについても、売却時にリサイクリングし、純損益へ振替えすべきではないかと。即ち、FVTOCIへ指定されたものであっても、損益が確定したのだから、売却損益は財務業績へ反映させるべきだと。

 

IASBが、これを否定し売却時にもリサイクリングを禁ずる理由は、書いてあるが、はっきり明示されてなくて分かりにくい。よって憶測になるが、次のようなものと思われる。

 

・リサイクリングを許容すると、FVTOCI指定が業績平準化という好ましくない行為につながる。例えば、業績が悪い時にいわゆる含み益のあるものを売却するなど、業績の実態の印象を歪める行為を可能にする(≒粉飾?)。

 

・このような行為のために資産を保有することは、資産を効率的・効果的に活用すべき経営者の受託責任に反する。即ち、決算対策として行われる売却取引は、資産から得られるキャッシュ・フローの最大化やその他の合理的範囲と考えられる事業目的とは相容れない。

 

・安定株主作りなど株主総会対策のための株式持合いは、企業のガバナンス機能を低下させたり、株式の流動性が乏しくなって株価が歪むなど資本市場の効率性を阻害するものであり、かつ、このような持合い株式がしばしば上記の決算対策・業績平準化に利用されてきた。

 

要するに、法律で禁じられてないので現実にありえてしまう取引だが、社会的にも、投資家にも、更には企業自身にとっても好ましくないので、これを会計規準によって抑制しよう、或いは、やっても会計上意味のないものにしようとしているのではないかと思われる。

 

 

「ん~、なるほど。そういうことなら良いではないか。」 そう思われる方もいらっしゃると思う。確かにそう。このリサイクリングの禁止には、良い意図と実際の効果があると思う。

 

しかし、上記の一般財務報告の目的に、「好ましくない取引の抑制」はない。余計な目的をFVTOCIへ持ち込んだのではないか、と僕は疑っている。その結果、弊害も生じているのではないか? 何か違和感を感じる。エスパルスの残念な事実は受け入れられるが、これはどうだろうか。そのあたりは次回へ繰越したい。

 

2014年8月28日 (木曜日)

389.【内部統制】緊急COSOセミナー Chairman Bob来日!

2014/8/27

トレッドウェイ委員会組織委員会チェアマンRobert B. Hirth(ロバート・ハース)氏と、プロティビティLLC最高経営責任者兼社長 公認会計士 神林比洋雄氏が、緊急セミナーを開催したので行ってみた。

 

興味を惹かれたのは、次の2点。

 

1.2つのフレームワークは併存する。

 

COSOキューブといえば、1992年に公表され、J-SOXでもお馴染みとなった内部統制と、2004年に公表されたリスク・マネジメント(Enterprise Risk Management:ERM)の2種類がある。ERMは内部統制の進化版で、いずれは内部統制がERMへ移行するのかと思っていたが、そうではない。両者は併存するのだそうだ。(ちなみに、これらは2013年に改訂された。その概要は、269. 2013/7/20 の記事。米国上場企業は、今年の1215日までに改定後のフレームワークを適用するようプレッシャーを受けている。)

 

なぜか? その理由はたいしたことない(と僕は判断した)が、両者の関係を説明したところは面白い。これに関する英語の資料(COSO Thought Paper 2014/2/10)は既に公表されているが、その翻訳を神林氏が鋭意作業中とのこと。

 

このCOSO Thought Paperのタイトルは、次のようになっている。規制対応ではなく、経営改善への効果が期待できそうだ。面白そうではないですか!

 

Improving Organizational Performance and Governance: How the COSO Frameworks Can Help

 

そこからキーワードになりそうなところを拾ってみると・・・

 

ERMは目的の設定をも含むが、内部統制はリスクの軽減まで。

ERMは戦略レベル、内部統制は戦術レベル。

ERMはリスクだけでなく、機会もコントロール。

 

2.実は、金商法(J-SOX)より会社法の方が進んでる!

 

ご存じのとおり、J-SOXは、1992年のCOSOの内部統制のフレームワークをベースにしている(「一部ERMを先取りした」との主張もあるが)。しかし、ガバナンス改革元年と謳われた今年の会社法の改正は、既に2013年版の内部統制やERMのフレームワークを意識した内容、或いは、直接意識はしていないかもしれないが、これらがフィットしやすい内容になっているらしい。2013年のCOSO改正は、企業を取り巻く近年の環境変化を反映させたものだから、アベノミクスの成長戦略の一環としての会社法改正と相性が良いのは、言われて見れば、なるほどなあ、と想像できる。

 

 

COSO 2013 を勉強しても、現行のJ-SOXには役立たないかもしれない。しかし、規制対応ではなく、会社を良くする目的であるならば、参考になるアイディアは色々ありそうだ。

 

例えば、会社の業績を立て直したいと思う場合、戦術レベルで一生懸命改善しても効果は限られる。即ち、J-SOXで業績を立て直すのは困難だろう。やはり、J-SOXの範囲を超えたところにある、機会のコントロールや戦略レベルの発想を変えて改善していかなければ、大きな効果は期待できないことが多いように思う。

 

そういえば、IFRSでも戦略やビジネス・モデルの内容が、会計処理の前提として意識される場面が目立つようになってきた。統合報告もビジネス・モデルが前提だ。金融庁が(或いは、動きの鈍い企業会計審議会が)J-SOXを当面変えないとしても、内部統制のより上位概念を勉強して理解しておくことは重要かもしれない。

 

 

最後に、Chairman Bobの講演から印象的な言葉を一つ。記憶なので、凡そこんな感じということだが。

 

Hey Bob, is there a Magic 17 Principles Control Checklist?

I said "NO!".

Because only experts in the company can achieve the goal.

 

恐らく、こんな感じ。

 

ちょっとボブ、これがあれば17の原則はOKという魔法のチェックリストはないの?

そう言われた私は(大声で)「ないっ」と言った。

なぜなら、それを達成できるのは各企業のエキスパートだけだからだ。

 

ということで、「魔法のチェックリストがありますよ」と言って近づいてくる監査法人やコンサルタントがいたら、要注意。各企業の自主的、自発的なアイディアと判断・行動こそが最も重要だ。

2014年8月26日 (火曜日)

388.CF-DP63)純損益とOCI~まとめの準備-避難情報の改善

2014/8/26

僕が住んでいる地域の先週の土曜日(8/23)の天気は、午前中雷雨、昼ごろに晴れて、また激しい夕立と目まぐるしく変わった。しかも、雨や雷の激しさは尋常でない。ところが、最近は尋常でないことが普通になってしまい、慣れてしまった。大きな被害も出ており、“慣れ”で済ましてはいけない深刻な問題だが・・・。

 

20日の未明には広島で大規模な土砂災害が発生し、今回も、自治体の避難情報(避難勧告・避難指示)が遅れた。昨年 10月の伊豆大島のときも同様だった。そのときは、自治体が参考にする気象庁の「土砂災害警戒情報」の的中率が低いうえに、避難情報を出すと避難所設置等の支出が財政負担となるため、避難情報を出すことを自治体が躊躇するという指摘があった(例えば、山村武彦氏の「2013年伊豆大島土砂災害 現地調査写真レポート」)。

 

これに対し、みなさんはどのように考えられるだろうか。

 

・人命には変えられないから、空振りを恐れず出すべきだ。

・国が防災に関する財政上のサポートを強化すべきだ。

・自治体に頼らず、自分で判断して避難すべきだ。等々。

 

これらは、僕が記憶している当時のワイドショーなどのコメンテーターの意見。これに対して今回の広島のケースでは、降水量が予測不能なほど局地的で急激に、しかも未明の時間帯に増大したことから、避難情報の遅れと行政の責任を指摘するより、住民が自分で判断する覚悟やそのための日頃からの注意喚起が強調された報道が多かったように思う。

 

“純損益とOCIの区別”をテーマにブログを書いてきて、今僕が思うことは「それでも、避難情報の精度を上げることを目指すべき」だ。具体的には、

 

・災害の発生可能性の判断のみに責任を負う職責を設ける

 

ことが、大事なのではないかと思う。

 

財政負担のことは、市長が心配すればよい。この職責の人からは、雑念を取り払い、ひたすら災害が起こりそうかどうかの確率の判断へ集中させる。この判断の正しさでのみ、この職責を全うしたかどうかを評価する。恐らく、この確率の正しい判断を得られれば、市長は他の問題をすべて引き受けても、あまりある自信を持って、避難情報に関する判断を行えるようになると思う。

 

問題は、次の2点だと思う。

 

A. そういう職責を置けば、災害発生可能性の判断の精度が上がるのか。

 

B. なぜ、これが会計の“純損益とOCIの区別”と関係するのか。

 

僕は災害・防災について門外漢なので、A については甚だ頼りない根拠しかない。でも、組織の在り方(内部統制)に注目すれば、重要な視点を提供できると思う。B については、シンプルな目的設定が理論や規準をシンプルにする、逆にいえば、「複雑な目的を設定して一挙に解決してやろうと考えるのは、反って遠回りになるケースがあるので要注意」という点が共通しているように思うのだ。

 

 

今回は A に関してのみ記載し、B については次回としたい。

 

自治体の方は「そういう職責は当然ありますよ」と言われるかもしれない。しかし、その担当者は、本当に財政や空振りから責任が遮断されているだろうか? 「人命に関わるから保守的に判断せよ」とか、逆に「財政問題や空振り時の住民の負担・住民からのクレームを考慮して軽々しく判断するな」などといったプレッシャーを受けてないだろうか? そして、そういう雑念に歪められた“災害の可能性の判断”は、避難情報に責任を負う市長の判断に役立つだろうか。

 

いや、違う。恐らく「そういう職責はありません。」と言われるのではないだろうか。「市長は消防局長を本部長とする“災害警戒本部”から報告を受け、判断します」と言われるように思う(広島市のHPの記載を参考に想像した)。この“災害警戒本部”は、「市長事務部局のほか、行政委員会事務局等の通常の行政組織を基本として編成するもの」とされているので、“合議体”である可能性が高い。要するに、組織の色々な部署(例えば市の財政を心配する部署など)の利害関係を調整する場となっている可能性が想起される。

 

そして、恐らくこれは広島市に限らない。内閣府による“避難勧告等の判断・伝達マニュアル 作成ガイドライン”によれば、『本マニュアルで定める避難すべき区域や避難勧告等の判断基準(具体的な考え方)は、事態の進行や状況も踏まえて総合的に判断されるものとし』とされているので、あちこちで、特定の担当者や部署の判断ではなく合議によるものとして組織されている可能性が高いように思う。(但し、内閣府のマニュアルは、「財政まで考慮しろ」とは言ってないのではないかと思う。気象庁の予報のみに頼るのではなく、地域の降水量や地理的特徴、その広がりの大きさなどの災害の発生に“直接関係する要素を総合的に”という趣旨だと思う。)

 

“合議”にすると、何が問題か。

 

・全員(或いは定足数があるかもしれないが)集まるのに時間がかかる。

・各部署の代表が参加するので、“災害の発生可能性”以外の要素が“総合的に”考慮される。

・合意、判断に時間がかかるし、判断が歪められる可能性がある。

 

ん~、この想像の通りとすると、意思決定は非常に遅くなる。分単位のスピードを要する意思決定は無理だ。それに、(上記でカッコ書きしたように)内閣府のガイドラインの“総合的”と別の意味で“総合的”になっている可能性がある。

 

この本部のメンバーが、深夜に自宅から役所に出勤する時間だけでも勿体ない。それに、そもそも“災害が発生する可能性”の判断に、これだけのメンバーが必要だろうか。殆どのメンバーは「避難情報が発表されるから、対応をせよ」という段階で揃っていれば良いのであって、“避難情報を出すかどうか”の段階で検討に加わっていても、雑音しか発しないのではないだろうか。

 

“災害が発生する可能性”を判断できるのは、危険個所の実情を良く知る職員やその部署だ。今回の広島の件に関連する報道で「特別警戒区域への指定が遅れて、必要な対応が取れなかった」という報道を、みなさんもご覧になったことと思う。しかし、“特別警戒区域への指定”は危険地域からの住居移転を促すなどの、事前準備のために行われるのであり、避難勧告等の判断には関係がない。これとは別に(というか、特別警戒区域を指定する準備として)危険個所は、すでに特定されているようだ。

 

市町村は既に、今回のような土砂災害・河川の氾濫・津波・その他の予想される災害に対して、細かい危険地域の特定を行い公表している(みなさんも、それぞれの自治体のHPへ行けばその情報が得られる)。その情報こそが重要だし、避難勧告等を出すには(“特別警戒区域の指定”などは不要で)その情報で十分なはずだ。まして、市の財政情報など要らない。「避難所の準備がまだできてない」などということより、とにかく少しでも安全なところに避難するためのきっかけと、避難経路の情報を提供することが重要だ。それは危険地域を特定した担当者・担当部署が一番よく分かっている。そこに権限を委譲すればよい。住民目線で見れば、そういうことだと思う。

 

 

さて、そろそろ、今回のまとめに入りたい。

 

「合議で決める」のは、日本的で良く見られることだが、すべての状況に万能ではない。少なくとも、最近の災害対応はそういうものではなさそうだ。(だから、繰返し避難情報の発表が遅れる。)

 

今回の報道では「状況の変化に対応して自ら避難の判断ができるよう日頃から準備する」ことが、教訓として強調されていたように思う。具体的には、普段から自分の居住する地域にどのようなリスクがあり、それを回避するにはどうしたらよいかを考えて準備しておくことだ。今回は、このような国民一人ひとりへの注意喚起の呼びかけが目立った。(僕もそのおかげで、自治体のHPをじっくり閲覧したし、近所の危険個所の視察も行った。)

 

しかし、だからといって、自治体の対応が今のままで良いとは限らない。

 

ポイントは、組織や役職の権限と責任を明確にし、かつ、シンプルに定義することだ。特に、状況を正確に把握する役割を遂行させる人・部署には、余計な要素の介入を防止し、シンプルな機能の発揮を求める必要がある。

 

災害の可能性を判断する人・部署は、それに集中し、状況を(合議体を経ず)直接市長へ報告すべきだ。避難情報を発表するとか、合議体を招集するとか、避難所の準備を始めるなどの判断は、市長が自らの責任で(必要な場合にのみ誰かに相談して)行い、指示を出せばよい。

 

ここまで書くと、勘の良いみなさんは、気付かれたかもしれない。“状況を正確に把握する”といえば、企業財務における会計の役割だ。次回は、この観点でIASBの“純損益とOCIの区別”を眺めたい。果たして、昨年7月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」の“純損益とOCIの区別”に関する記載は、会計の役割をシンプルに捉えているだろうか。もしかしたら、余計な要素を混入させて、会計規準を複雑にしていないだろうか。

 

いつものことながら、長くなって恐縮だが、最後に 8/23 の日経の記事『孫正義社長を「10秒」で納得させる資料作りの秘訣』の一部を紹介させていただいて、今回の締めとしたい。(この記事は有料だが、引用はほんの一部なのでご勘弁願いたい。)

 

「孫さんは『正しい数字を見ていれば正しい判断ができる』という基本思想があります。どんな問題であれ、その本質を把握しなければ解決には至らない。問題の本質を把握するためには、正しい数字がその裏づけとともに適切に記載されている資料が、必要不可欠と考えています」

 

正しい意思決定には、問題の本質(≒実態)を適切に表現した報告が必要。これは孫正義氏だけでなく、他の経営者も、投資家も、そして市長も、みな同じではないだろうか。

2014年8月20日 (水曜日)

387.CF-DP62)純損益とOCI~FASBペーパー

2014/8/20

この数日、良く晴れて残暑が厳しい。お天気が優れない地域のみなさんも、湿度が高くて過ごしにくいと思う。体調と気分の管理には、くれぐれもお気をつけて。

 

こんな書き出しになったのは、今回のテーマの“FASBペーパー”が、真冬(2/24)の企業会計基準委員会で議論されたものであることに気付いたためだ。そのころ、僕は「早く暖かくなれ!」と思っていたから、今の暑さで、季節がちゃんと廻っていることが確認できたような気がして、逆に、ありがたい気分になった。すると不思議なもので、暑さに立向かおうという気になる。そんな気分を少しでも伝えられたら、と思ったのだ。しかし・・・

 

「え~、そんな昔の話なの? もっと早く紹介してよ」と思われたみなさんには申し訳ない。

 

ということで、ここからは、以下のASBJホーム・ページに掲載されている資料に基づいて記載して行く。不正確・不明瞭な点は、このページの資料を直接ご確認いただきたい。

 

第282回企業会計基準委員会の概要 の“審議資料(1)-2

 

ASBJは、既に昨年12月に会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF;詳しくは 2013/2/24の記事の後半を参照願いたい)において、このシリーズの前回(384. 8/8)の記事に記載した見解を披露している。米国FASB(のリンズマイヤー理事)はこれに刺激されて、3月のASAFで時間を確保したらしい(したがって、これはリンズマイヤー氏の個人見解)。2/24 の企業会計基準委員会では、これへ如何に対処するかを事前に話し合ったようだ。

 

 

(P/Lの形式)

 

“反復・非反復”、“営業・非営業”という視点で、P/Lに数種類の利益を表示しようという。但し、“営業利益”を計算する計算書と、“包括利益”を計算する計算書は、別表にすべきと主張している。これは「一表にすると大切な“営業利益”が途中に埋もれてしまうから」という理由。

 

⇒ このリンズマイヤー氏の主張は、一見、我々にも親しみやすい。まるで、経常利益が復活しそうな感じがするからだ(US-GAAPやIFRSでは経常利益は廃止されている)。しかし、実際には米国株式市場の慣行を強く意識したものだ。ご存じの方もいらっしゃると思うが、米国では、“異常項目抜き”の利益や一株あたり利益が、企業によって自主的に広く開示されている(実質利益や非GAAP利益などと呼ばれる。監査対象でもなく“恣意的”との批判が多い。一方で、投資家には重宝されている)。確かに、“反復して稼得される営業利益”が開示されれば、便利に違いない。会計規準が目指すべき方向だと思う。

 

⇒ 「あれっ、OCIは?」と思われた方は鋭い。その通りでOCIがP/Lに出てこない。この理由は、次の“測定基礎”をご覧いただきたい。

 

 

(測定基礎)

 

測定には次の3種類の基礎的な考え方があるという。そして、どの基礎をどの項目に割当てるかについては、(資産・負債評価の観点ではなく)P/Lの観点で決定すべきとしている。

 

⇒ この結果、ASBJペーパーとは異なり、各項目には、たった一つの測定基礎が割当てられる。ASBJペーパーでは、B/SとP/Lの2つの観点から測定基礎を割当てるので、それが異なる場合に連結環としてのOCIが生じるとされていた。ところが、FASBペーパーではP/Lの観点でのみ測定基礎を決めるので、OCIが生じないことになる。「区分できないなら、OCIをなくしてしまえ!」という発想らしい。斬新だ。

 

・再測定をせず、期間配分(取得原価項目。減価償却や棚卸資産の原価配分など)

 

・キャッシュ・フローは見直すが、割引率は変えない(金融商品の償却原価など)

 

・再測定する(公正価値測定や、その他の現在価値評価手法)

 

P/Lの観点における公正価値か原価かの選択は、未実現損益の情報をP/L本体で提供することで意思決定有用性が高まるかどうか(=目的適合性)の決定である、としている。高まる場合は、公正価値が選択される。

 

 

以上だけでも十分面白いが、実はもっと興味を惹かれたものがあった。後出しは僕の悪い癖だが、ここまで読まれた方は、次も是非お読みいただきたい。

 

 

(2つの誤解)

 

学術研究には、一般的に次のような誤り(というか、思い込み?)があるそうだ。

 

・取得原価は常に、公正価値よりも信頼性が高い(見積りの不確実性が低い)と推定される。取引価格が観察可能だからである。

 

・公正価値は常に取得原価よりも目的適合性が高いと推定される。

 

これらは主としてB/S重視の考えに由来しているので、P/Lの観点からは違った測定基礎の選択が導かれる可能性があるという。

 

⇒ なるほど、どちらも見覚えがある。前者はアンチ公正価値派、後者は公正価値派による主張(或いは、その前提や根拠)だ。言われてみれば、いずれも、極論の決め付けになっている。

 

例えば、前者について言えば、減損損失が生じていれば原価主義でも見積りが生じる。見積りを嫌って原価を維持すれば、減損損失を忠実に表現できないから、期間配分された原価に信頼性がないことになる。そして、冷静に考えてみれば、減損損失の見積りの不確実性は、公正価値の見積りと大差ないかもしれない。(但し、見積り項目が増えるのは手間だが。)

 

公正価値で評価すると未実現損益をP/Lへ計上することになるが、その未実現損益が、将来キャッシュ・フローとして実現する可能性が低ければ、公正価値の情報はP/Lの観点からで有用とはいえない(目的適合性が低い)。満期や耐用年数終了時まで保有する可能性の高い資産・負債は、これに該当する。P/Lの観点で考えると、その資産・負債の性質や事業でどのように使われるかが問題となる。これを概念フレームワークでも、もっと掘り下げるべし、としている。

 

⇒ この主張は、IASBやASBJと基本的に共通するところが多いように思うが、個々の具体的資産・負債に対する判断になると、分かれてくるような気がする。

 

 

リンズマイヤー氏の意見には不思議な魅力を感じるが、みなさんはいかがだろうか。

 

ちなみに僕は、市場価格を付して計上した売買有価証券の未実現損益も、市場価格変動の大きさ・激しさに鑑み実現可能性が低いと思うので、純損益ではなくOCIへ計上するのが良いと思う。

 

2014年8月18日 (月曜日)

386.【番外編】虫にさえ 会計感じる 夏の夕暮れ by 会計ばか

2014/8/18

夜、カナブンが迷い込んできて、照明にごつごつぶつかり、これが延々と続く。家の壁に蝉がとまっている。捕まえて林の方向へ投げてやると、戻ってきてまた家の壁にとまる。都会ではあまり見ないかもしれないが、田舎暮らしの僕には、夏の風物詩だ。

 

ん~、しかし、彼らは何か間違えてないか?

 

僕は、照明も壁も、昆虫が美味しいと思えるものではないから他を当たった方が良いと思う。しかし、昆虫はそんなこと知らないから、とりあえず何でもやってみようの精神で当たっているのだろう。僕は漠然とそう考えていた。だが、どうやらもっと違う原因がありそうだ。そう思ったのは、さっき駐車場で赤とんぼの変な行動を見たからだ。

 

ところで、人間の目は、長く様々な進化・変遷を経て今の能力を獲得した。太古の海で2つになり、恐竜が闊歩していた時代は夜行性だったので暗視能力を得、木の上や草原で採取狩猟生活をしていたころに、赤色を識別する能力や、2つの目の焦点を合わせて距離や形をより正しく認識する能力を獲得した。

 

子どもの頃、昆虫は目をたくさん持つ“複眼”だと習い、昆虫に見えている世界を想像してみた。人は2つの目で画像が見える。その目が一つ、二つ増え、いや、無数にあった時に、一体どんな景色が見えるのか。きっと精緻で人の見えない物まで見えるに違いないが、当時の僕には、複雑すぎて訳が分からなかった。

 

しかし、冒頭の夏の風物詩を思い返してみると、どうも、そういうことではなさそうだ。

 

昆虫は、複雑で精緻な景色は見えてないように思う。逆に“状況認識が大雑把”と仮定すると、冒頭のケースも“なるほど!”と合点がいく。例えば、カナブンは光に敏感だが、光源が通り抜けられない物体だと分からない。蝉は垂直に立っているものに敏感だが、それが何であるかを把握できないなど。

 

さっき駐車場で見かけた赤とんぼもそうだ。車のフロントガラスにしきりに尻尾の先を打ち付けていたが、あれは普通は水面で見られる行動。産卵場所を間違えているのではないか。実際にフロントガラスには、卵らしきものが残されている。透き通るものの識別はできるが、水か、そうでないかまでは判別できないのかもしれない(すぐ脇が小川なのに、もったいない!)。

 

 

 「目の能力に、行動が制約される」

 「正しく見ないと、正しい行動ができない」

 

ここで、“目”とは会計、“正しく見る”とは会計リテラシーと重ねることができる。企業は経済実態を忠実に描写する会計を行い、かつ、それを正しく読み取れないと、先ほどの虫たちのように正しい行動ができない。晩夏の夕暮れ、赤とんぼをきっかけに、会計の大切さを感じた次第である。

2014年8月13日 (水曜日)

385.【番外編】マス・メディアの役割

2014/8/13

新監督が来日した。メキシコ人のハビエル・アギーレ氏だ。日本語では“アギレ”との表記も散見されたが、記者会見で本人によって“アギーレ”と確認された。「ギー」にアクセントがある。これでサッカー日本代表(男子)は、“アギーレ・ジャパン”と呼ばれる(“アギレ・ジャパン”より語感が良い!)。初戦は来月5日のウルグアイ戦、続いて9日にはベネズエラ戦。どんなメンバーを選ぶか、非常に楽しみだ。今月28日にそのメンバー発表が予定されている。

 

しかし、新しいことが始まるときの昂揚感がある一方で、今は、じっとり重い時節でもある。そう、もうすぐ終戦記念日がくる。戦争を知らない我々の世代も、改めて太平洋戦争に至る時代を振返えり、何を未来へ何を活かせるか、じっくり考えてみる機会になる。

 

そんなタイミングで、みなさんもご存じのとおり、朝日新聞が慰安婦問題に関する特集を組んだ。その中で過去の記事の一部(といっても問題の核心を形成する重要な記事)の取消・訂正をしている。

 

慰安婦問題を考える(朝日新聞デジタル 8/58/6

 

土日のワイド・ショーでも色々取上げられており、僕も2つ見たが、それらはいずれも「なぜ、取消・訂正に30年もかかったのか」とか、「現在の最悪の日韓関係のきっかけを作り、国際社会における日本の評判を貶めたことへの責任感が、朝日には足りない」という論調だったと思う。

 

僕もその通りだと思う。そして、もう一つ付け加えたい。ただ、これは朝日新聞に対してではなく、その他のマス・メディア各社に対してだ。

 

他のマス・メディアは批判して終わりですか。朝日がどうすべきか、もっと具体的に提言し、それを実行に追い込み、さらにその実行状況を監視して、読者や視聴者へ報告するところまでが役目では?

 

これは、特別なことではない。マス・メディアが、重大な不祥事を起こした企業に対していつもやっていることだ。朝日新聞は重大な不祥事を起こしたと思う。だから、それを朝日に対してもやって欲しいと僕は期待している。まさか、「この件は、この土日でもう終わり」なんてことにはならないだろうなあと、ちょっと心配しながら。

 

そこで、いつもなら(=一般企業の不祥事なら)どうなるか、今後の展開を想像してみたい。

 

(第一報での批判・分析のフェーズ)

 

これは、この土日に既に行われた。だが、普通ならやるはずの「朝日新聞がどのような対応策・改善策を導入すべきか」の提言までは、あまりなかったような気がする。例えば次のようなもの。

 

・勝手なシナリオに固執して事実を曲げて報道してないか、チェック体制を整備すべき

・そもそも、チェック可能な業務体制になっているか確認すべき

・第三者委員会等の調査で事実を明らかにし、再発防止策を立てるべき

・経営者が会見して説明すべき

 

なぜ、今回朝日新聞に対して、具体的な提言が明確になされなかったのだろう。いつもなら、コメンテーターに話させるとか、専門家のインタビューを取るなど、何かあると思うのだが。まさか、“仲間意識”とか“メディアは特別”などという思い込みがあったりはしないだろうと思うが、どうだろう。

 

(事件の深掘りで世論を盛上げていくフェーズ)

 

新聞や雑誌は、“朝日の当たらない闇”みたいなタイトルの囲み記事を定期的に掲載するだろう。当時の朝日新聞社内の様子・雰囲気を知る人や当時取材対象となった人々、当時の韓国メディアの報道状況等々を、改めてじっくり取材して、朝日新聞の誤報に照らして分析していく。そして、具体的な事実を明らかにすることで、世論を刺激していく。

 

テレビ業界では、NHK以外は苦手なフェーズだが、民放でも1時間枠のディスカッション番組を放送するぐらいはできる。きっと、「事実を明らかにすることが朝日のためになる」と正義感に燃えたOBらが、多数出演してくれるに違いない。もちろん、顔を隠したり、声を変えたりする人はいないだろう。

 

NHKは、「シナリオなしで取材ができるか」というテーマでスペシャル番組を作るかもしれない。「取材した事実から真実が浮かび上がってくる」などというが、実際の取材活動は「こうじゃないか」というシナリオに沿って事実を収集しているかもしれない。結局、シナリオの全面否定はできず、どこまでなら利用可能かという観点で番組製作されるかもしれない。すると恐らくコメンテーターには、シナリオの利用経験豊富な東京地検や大阪地検の特捜部検事が呼ばれるに違いない。

 

(追込みのフェーズ)

 

そのころ国会では、「国益を守るために政府がマスコミをもっと監督すべきではないか」と、政府が単純思考の保守系議員から突上げられる。すると、待ってましたとばかりに「特定分野の報道を事前検閲する権限を内閣府に与える法律」が国会へ提出される。しかし、米国から「民主主義を脅かす」と批判されて引込める。

 

マス・メディア業界からは、政府による関与を嫌い、業界自主規制を主張するキャンペーンが張られる。社会に一定の影響を与えた番組や記事を、報道した会社以外の報道機関が検証し、報道するという企画だ。しかし、一つのネタで2度おいしいとか、業界の焼け太りなどと批判されて、結局、検証報道はネット上で無料で(広告もなしで)提供されることに落ち着く。

 

ここまでくると、そろそろ朝日新聞の読者離れが進んで、経営的な危機が見えてくる。そして漸く第三者委員会による調査などを受入れる。その報告書の公表に合わせて、経営者による謝罪会見が行われる。ただ残念なことに、場の雰囲気を読めずに「朝日の報道姿勢は変わりません」を強調しすぎて、また批判される。「謝罪会見は、朝日の宣伝の場ではない」と。

 

 

単なる想像を長々と書くつもりはなかったが、段々楽しくなって、つい、たくさん書いてしまった。実は、今回の本題は別にある。しかし、残念ながら、それを十分に書く余地はもう残されていない。だから、ここからは簡潔に書きたい。

 

朝日が誤報新聞であり、日本が特殊な性奴隷の国ではないとしても、従軍慰安婦だった方々が筆舌に尽くしがたい辛酸をなめたことには変わりない。しかも、これは戦争のほんの一部に過ぎず、もっと色々な形で多くの人が悲惨な人生を過ごした、或いは、途中で人生を終えさせられた。我々はその加害者の子孫だ。軍部の独走とか、一部の人だけが悪いような言い方もあるが、マス・メディアがそれらの主張を報じ、煽り、世論はそれを許した、或いは、望んだ。これも、事実だと思う。我々はそういう人々の子孫だ。

 

悲しい歴史を繰り返さないためにどうするか。(国や政府ではなく)人々の生活基盤が破壊されないためにどうするか。終戦記念日は、少し時間軸や地理的条件を広げながら、そういうことを考える機会にしたい。

 

非常時に至るプロセスにおいて、マス・メディアの役割は非常に重要だ。質の高いマス・メディアは、我々の状況判断においてレベルの高い選択肢を提供してくれる。また、戦争抑止力として防衛力にも匹敵する活躍ができると思う(防衛力は対外的な抑止力だが、マス・メディアの事実に即した報道は、対内的な抑止力になりえる)。ただ、マス・メディアを育てるのは、視聴者であり、読者だ。だから、マス・メディアの質は、我々次第ということになる。

 

ということで、僕は、「平時の今から、マス・メディアとどのように向き合うか」を考えようと思っている。

2014年8月 8日 (金曜日)

384.CF-DP61)純損益とOCI~ASBJペーパー

2014/8/8

修正国際基準の公開草案がASBJから公表されたためそちらへ寄り道していたが、今回から、またIASBのディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」へ戻ることにする。

 

今回は、寄り道前の予定では“ASBJペーパー”についてとなるが、もうこのタイトルで書く必要はないか? 前回の修正国際基準(JMIS)の第2号“その他の包括利益の会計処理(案)”の記載(383. 8/6の記事)で、もう十分なのではないか? そんな気がしていた。

 

しかし、公表されていないと思っていたこのASBJペーパーが、実は、企業会計基準委員会の 2013/11/19 の審議資料として、ホームページに掲示されていたのを知って、気が変わった。読むと、凄く内容が濃い。さすが、としか言いようがない。関心をお持ちの方は、ご覧いただけると良いと思う。

 

第276回企業会計基準委員会の概要 の審議資料(1)-6  参考資料 純損益/OCI及び測定

 

冒頭に2ページの“要約”があるが、それを眺めるだけでも唸らされる。しかし、僕が注目したのは、“補足的な検討”として末尾に付け加えられたコメント「測定基礎の決定に関する追加的なコメント」だった。そこで、今回はこのコメントを紹介することにしたい。これで、ASBJの“純損益”に対する考え方がより具体的にイメージできるのではないかと思う。

 

 

このコメントの内容に入る前に、ちょっと事前準備が必要かもしれない。まず、次の2点について説明したい。

 

 ASBJはOCIを“連結環”と定義

 

●“測定基礎”とは、原価ベースとか公正価値価値ベースとか、いわゆる評価基準のこと

 

まず、前者についてだが、ASBJのOCIの正式な定義は次のとおり。

 

OCI とは、企業の財政状態の報告の観点から目的適合性のある測定値と企業の財務業績の報告の観点から目的適合性のある測定値が異なる場合に使用される「連結環」である。

 

ASBJは、単純にいえばB/Sが財政状態、P/Lが財務業績を表すと考えるので、B/S用に公正価値評価を行ったが、P/Lでは原価ベースを採用したら、その差異がOCIになると考えているようだ。例えば・・・、

 

売却を前提とせずに長期保有する株式は、財政状態の見地からは公正価値評価が良いが、業績評価の面では公正価値の変動を業績に含めたくないので、変動額をOCIへ計上する(結果的にP/L上は原価ベースになる、或いは、純損益としては原価ベースとなる)。

 

確定給付の退職給付債務は、B/Sでは毎期現在価値ベースの測定が行われるが、P/Lでは予定原価のような損益が計上される。その差が数理計算上の差異などとなり、OCIへ計上される。

 

しかし、これらも永遠に現状のままB/Sに残るわけではなく、いつかはP/Lへ、即ち、業績へ影響を与える。例えば、次のような場合だ。

 

・売却するとか、年金支給や退職給付制度廃止などによって、B/Sから取除かれる場合

 (=認識の中止)

 

・減損損失を計上する場合

 

・時の経過によって自動的にOCIが消滅する場合
 (数理計算上の差異等を期間按分で戻入れることを念頭に置いていると思われる。)

 

このような場合は、B/SとP/Lで差異が解消されるので、OCIは純損益に計上される(=リサイクリング)。このようにOCIは、B/SとP/Lの目的に照らして有用とされる測定基礎が異なる場合に発生し、その項目が消滅したり、減損されたりするまで資本の部に計上される。すべてのOCIは、最終的にはリサイクリングされる一時的なものであり、計上されている間はB/SとP/Lの関係を繋いでいる。即ち、B/SとP/Lの連結環であると考えている。

 

そして、“測定基礎”という言葉が聴き慣れないので、後者のとおり“評価基準”に置き換えてみると、上記のOCIの定義は次のように読める。

 

OCIは、B/SとP/Lの目的に照らして、有用とされる評価基準がそれぞれ異なる場合に使用される連結環である。

 

すると、どのようなときに“有用とされる評価基準が異なる”のだろうか。こんな疑問が頭をもたげてくる。しかし、ASBJはちゃんと回答を用意している。これが、僕が注目した上記「測定基礎の決定に関する追加的なコメント」だ。

 

 

・・・と、ここまで書いて、丸1日この記事を寝かせた。その間、チラチラこのASBJのコメントを眺めてみたが、ん~、どのように伝えたらよいか、方針が決まらない。「財政状態とは何か」、「“不可逆性”と“事業”が限定した範囲でしか使われていない(金融商品に対して使われていない)が、それはなぜか」といった疑問が解消・消化できず、このまま書いても、何が言いたいのか分からない変な記事になってしまいそうだからだ。

 

ASBJの“純損益とOCI”に関する考え方は、多分、前回と今回の記載でかなりクリアになったと思う。理論的にとてもスッキリしていて、IASBよりずっとシンプルだ。であれば、ここで記載をやめてしまうのも手かもしれない。

 

ということで、一応、今回はここまでお伝えして、先のことは改めて考えたい。即ち、このコメントを飛ばして FASBペーパーへ行ってしまうか、やはり、このコメントについて記事を書くかについて、さらに考えたい。

2014年8月 6日 (水曜日)

383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

2014/8/6

修正国際基準は、ピュアIFRSに必要最小限の修正をASBJが加えたもの(381. 8/1の記事)であり、その必要最小限に選ばれたのは、のれんの償却とOCIリサイクリングであった。前回(382. 8/4の記事)は、のれんの償却について記載したので、今回はOCIリサイクリングに関して修正を行う“その他の包括利益の会計処理(案)”だ。

 

修正の内容だが、これものれんの償却と同様に、日本基準に戻すイメージとなっている。対象となった項目は以下のとおりで、いずれも、「いったんOCIに計上したものを、特定のタイミングと方法により、純損益へ振替える処理」(=リサイクリング)を追加することが、主な内容となっている。

 

A.“OCIを通じて公正価値の変動を測定すると指定した資本性金融商品”の公正価値の変動 <4>

 

これは従来、日本基準で“その他有価証券評価差額金”として資本直入していた処理に対応するものだが、IFRSではリサイクリングが禁止されるので、減損処理が不要となるが、同時に、売却しても売却損益を純損益に計上することができない。

 

この修正では、減損処理を復活させるとともに(減損時にリサイクリングを要求=減損損失が純損益に計上される)、売却時にもリサイクリングを要求している(売却損益が純損益に計上される)。

 

想像だが、IASBとしては、例えば持合い株式のようなものの事業上の必要性とか、事業目的に対する正当性が納得できず、むしろ、利益の平準化(=スムージング)のような不当な目的に利用されているのではないかという疑いから、売却損益を純損益に計上させていないのではないか(=リサイクリング禁止)と、374. 7/2の記事 376. 7/16の記事へ記載した。

 

これに対して、ASBJは全く違う観点からリサイクリングを正当化している。これは、この公開草案が公表されたために中断している“純損益とOCIシリーズ”のASBJペーパーでの主張と、恐らく共通するのではないかと思われる。この観点については、後述の“結論の背景”の中で記載したい。

 

 

B. 金融負債の発行者自身の信用リスクに起因する公正価値の変動 <5>

 

これは、373. 6/27の記事に記載した、リーマンショック後に欧米の巨大金融機関が計上した不可解な利益計上~信用悪化が利益になる~処理を是正する会計基準(の改正)に関連したものだ。例えば、社債を発行した企業が、のちに信用力を悪化させ社債の市場価格が下落すると、この企業がその社債を公正価値で測定すると指定していた場合は負債の額が減少するので、その分(純損益に)利益計上されるという会計処理が、この当時は行われていた。

 

その後 2010年にIFRSは改正され、信用力の悪化による公正価値の変動部分については、純損益ではなくOCIへ計上するとされた。よって、今では「信用を無くすことで利益を生む」会計処理は行われないとされている。

 

ASBJが修正したのはこの部分ではなく、この“価格が下落した社債”がこの企業のB/Sから消滅する場合、例えばこの社債を市場から買入消却するようなケースで生じる利益の扱いだ。(額面金額から買入金額を控除した残額。価格が下落しているので、額面金額より安価に買入できる。)

 

IFRSはこのような場合でも、なお、リサイクリングを禁止している(資本の部の中で直接利益剰余金へ振替ることはできる)。ASBJはここを修正して、例えば買入消却にリサイクリング(=純損益に計上)を要求した。

 

「5年後に 元本100 円払いますから、お金を貸してください」と言って借りたお金を、自己の信用力が低下したとして、例えば 90 円で3年目か4年目に買入消却すると、貸してくれた人に損害を与えることになる。それを利益計上するというのは、借りる側の倫理観としていかがなものか? それを正当化するような会計処理で良いのか? という意見もある。それでもASBJがリサイクリング(=利益計上)を要求する理由は、上記と同じ“全く違う観点”による。

 

 

C. 退職給付の“確定給付負債又は資産(純額)”の再測定 <6項、第8>

 

ご存じのとおり、確定給付の退職年金制度に係る資産及び負債は、専用の計算技法を用いて毎期現在価値ベースの金額に洗い替えられる(その過程で、勤務費用等の退職給付に関するコストが予定額ベースで計算され、純損益へ計上される)。この洗い替えで発生する損益(=数理計算上の差異等)は一括してOCIへ計上されるが、IFRSではこれに対するリサイクリングが禁止されている。

 

ASBJは、「これでは数理計算上の差異等が純損益に計上されないため純損益の有用性が低下する」として、リサイクリングするよう修正した。リサイクリングの方法は、平均残存勤務年数にわたって期間配分する方法による。

 

 

D. 上記に関連する表示 <7項~第11>

 

詳細は省略するが、例えば、リサイクリングを行うことで資本の部の中で直接の振替を行わなくなった場合に、その振替に関する注記を要求しているIFRSの条項を削除したり、リサイクリングを行うために必要となった“数理計算上の差異等を純損益に振替える年数”の開示などを追加している。

 

 

 

“結論の背景”の“リサイクリング処理の必要性”について

 

“結論の背景”は、次のような構成になっている。

 

最初に簡単に経緯を述べた後、まずこの“リサイクリング処理の必要性”を記載し、その後に上記 AC の個別テーマごとに特有の状況を記述している。

 

これからわかるように、“リサイクリング処理の必要性”には、OCIリサイクリングが必要最小限の「修正又は削除」項目として、のれんの償却とともに残された理由と、我が国の会計基準の基本的な考え方、即ち、日本の主張が記載されている。

 

以下このブログでは、この“リサイクリング処理の必要性”について紹介するが、この後に記載されている各個別テーマの状況については省略させていただく。

 

さらに、この“リサイクリング処理の必要性”の構成をみると、まず、IASBがOCIリサイクリングを禁止している理由を個別項目ごとに紹介し、次にASBJがOCIリサイクリングを必要と考えている理由を記載している。面白いのは、ASBJがIASBの意見に個別の反論をするのではなく、まったく別の観点を提示し、一括して反論していることだ。

 

(IASBがOCIリサイクリングを否定する理由)

 

上記 AC 、及び、有形固定資産と無形資産の再評価モデルに係る再評価剰余金(資本の部のOCIの内訳項目)の計4項目について、IASBの主張を各IFRSの記載に基づいて紹介している。これらについては、すでにこのブログの“純損益とOCI”シリーズに記載したこととダブるが、ここに記載されているIASBがOCIリサイクリングを禁止した理由を簡単に紹介する。(なお、再評価モデルに係る再評価剰余金については、実態資本維持の議論(物価変動会計)もあるので「削除または修正」の対象から外したとされている。)

 

A. “OCIを通して公正価値で測定すると指定した株式等”の公正価値の変動

 

 投資に対する利得及び損失の認識は一度だけとすべき。

 

OCIリサイクリングを行うと、いったんOCIで認識されたものが、再び純損益にも認識されるので禁止。

 

 OCIリサイクリングを適用すると会計基準(や会計実務)が複雑になる。

 

OCIリサイクリングを行うと、金融商品の分類が増えるし、これまでも実務上の問題が指摘されていた株式等に対する減損処理が引続き必要になる。禁止すれば不要になって、財務報告が改善され、複雑性が減少する。

 

B. 金融負債の発行者自身の信用リスクに起因する公正価値の変動

 

OCIに関する統一的な会計処理は、まだ確立していない。ならば、(これに対応しそうな資産側の項目である)A と整合的になる方法が良い。

 

C. 退職給付の“確定給付負債又は資産(純額)”の再測定

 

OCIリサイクリングに関する一貫した方針は確立されておらず、かつ、確定給付負債又は資産(純額)について、リサイクリングするための適切な基礎が識別できていない状況である。

 

D. 有形固定資産と無形資産の再評価モデルに係る再評価剰余金

 

OCIリサイクリングを禁止する理由は、IAS16号「有形固定資産」や38号「無形資産」に記載されていない。

 

これに対するASBJの“全く別の観点からの反論”とは、「純損益は包括的な指標であるべきであり、その他の包括利益に含まれた項目はすべて、その後、純損益へのリサイクリング処理が必要である。」(17項)という“当期純利益観”に基づいている。これは、「財務諸表利用者が企業業績を評価するにあたって当期純利益を最も重視する」となるような当期純利益を計算・開示すべきという考え方、会計観だと思う。(参考までに、これに対応するIASBの考え方を簡単に記載すると、「企業業績や企業価値は財務情報や非財務情報のすべてから判断されるべきもの」となる。詳しくは、363. 5/21の記事をご参照いただきたい。)

 

(1) 将来キャッシュ・フローの見通しと純損益の整合性

 

リサイクリングを行わない項目があると、企業の全生涯を通じたキャッシュ・フローの合計額と純損益の合計額は一致しないこととなる。このようなキャッシュ・フローの裏付けのない純損益では、業績指標としての有用性が低下する。

 

(2) 包括利益では純損益の代替にならない

 

この点、包括利益はキャッシュ・フローの裏付けがあるが、財政状態の観点が重視されている未実現損益などを含む損益であり不確実性が高く、純損益に代わるような業績指標にはならない。

 

(3) この包括利益の欠点をリサイクリング(した純損益)で補える

 

全てにリサイクリングを行えば、包括利益と純損益の企業全生涯に渡る合計額は一致する。(不確実性が十分減少した段階で純損益へリサイクリングする。)

 

(4) このような純損益は、業績評価だけでなく、経営者の受託責任の評価にも有用

 

リサイクリングすることで、すべての取引が純損益に計上されるので、包括的な経営者の評価が行いやすくなる。

 

なるほど~っ! 実に綺麗な論理展開。エクセレントだっ。キャッシュ・フローと結びつかない業績指標、企業の全取引を網羅しない業績指標では、確かに心許ない。という気にさせられる。純損益の会計上の地位向上を図りたいというASBJの思いが、ヒシヒシと伝わってくるようだ。

 

(但し、業績評価や企業価値評価の実際は、“すべての取引”とか“企業全生涯のキャッシュ・フロー”は、あまり意識されないかもしれない。むしろ、過去の実績からノイズを除外することが大事かもしれない。問題は、上記の AC が、その“ノイズ”であるかどうかだ。)

 

 

ということで、今回の公開草案の紹介は以上だが、最後に一つ付け加えたい。それは、この修正国際基準(JMIS)の適用時期とピュアIFRSとの差異を開示するかどうか、及び、開示する場合の方法だ。これについては、「コメントの募集及び概要」の末尾に「修正国際基準が金融庁により制度化される段階で定められる見込みである。」と記載されている。

 

本来であれば、会計基準設定主体であるASBJが決めることだが、このJMISは金融庁の審議会「企業会計審議会」によって導入が提案されたものなので、適用時期(=導入開始時期)や、採用企業数に影響を与えそうな開示コストの問題に関しては、企業会計審議会の判断が必要ということかもしれない。

 

昨年6月までに、すっかり「企業会計審議会」に悪いイメージを持ってしまった僕は、また“決められない”審議が続けられるのではないかと心配だが、しかし、今度はスッキリ決めて欲しい。

 

ちなみにピュアIFRSとの差異に関しては、JMISを日本基準と考えるなら開示は不要と思うが、「JMIS採用企業は実質的なIFRS採用企業」とIASBに認めて欲しいという下心があるなら開示すべきと思う。しかし、いずれにしても会計基準が乱立する状況には変わりはないので、少しでも利用者の負担・戸惑いを軽く・少なくさせようとするなら、差異は開示されるべきだろうと思う。

2014年8月 4日 (月曜日)

382.修正国際基準(JMIS)の公開草案~のれんの償却

2014/8/4

公開草案として公表された5つの文書のうち、個別の会計基準に係るもの(=ASBJによる修正会計基準)は、2つのみだ。今回は、そのうちのれんの償却について記載する。なお、後半の“結論の背景”についての記載には、僕の感想・意見がたくさん記載されているので、無用と思われる方は読み飛ばしていただきたい(直接公開草案を読んでいただいた方が良い)。

 

前回(381.8/1の記事)も記載したように、“削除又は修正”は必要最小限にとどめられているため、例えば「のれんを直すなら、無形資産も同じだろう」という論点について修正を見送っている。また、修正内容は、基本的に日本基準へ戻す内容と考えてよさそうだ。

 

IFRSに対する具体的な修正は、以下の項目となる。

 

(のれんの償却の復活 第4項)

 

のれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。

 

耐用年数: その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。企業結合ごとに決定。

 

償却方法: 定額法その他の合理的な方法により規則的に償却。企業結合ごとに決定。

 

償却費: 純損益に認識。取得日から償却開始。

 

B/S表示: 取得日において認識された金額から償却累計額及び減損損失累計額を控除。

 

(持分法上ののれんの償却及び減損 第5項)

 

関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。

 

耐用年数: その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。投資ごとに決定。

 

償却方法: 定額法その他の合理的な方法により規則的に償却。投資ごとに決定。

 

償却費: 純損益に認識。関連会社又は共同支配企業となった日から償却開始。

 

B/S表示: のれんは投資と区分して表示されない(投資原価に含まれる)。

 

減損: 償却や持分法適用後に減損の有無を検討する。

IAS39「金融商品:認識及び測定」に従う。)

 

関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんについては、減損戻入を禁止。

(上記の第4項に同様の記述がないが、のれんの減損戻入の禁止は、ここで改めて修正せずとも IAS36「資産の減損」で規定されている。)

 

(開示 第6項)

 

関連して、以下の注記を修正又は追加している。

 

のれんの償却方法及び耐用年数並びにのれんの償却費が含まれている包括利益計算書の表示科目

 

報告期間の期首と期末ののれんの帳簿価額の調整表における修正及び追加

 

・期首帳簿価額(償却累計額控除前)及び償却累計額(減損損失累計額との合計)

・償却費

・期末帳簿価額(償却累計額控除前)及び償却累計額(減損損失累計額との合計)

 

 

 

修正項目は以上だが、この記載のあとに“結論の背景”というセクションがあり、修正の理由を記載している。基本的には、修正されたIFRSの項目が現在の規定となった経緯と、それに対する日本での議論の内容が記載されている。量的には 3 ページ半ぐらいなので、興味のある方は直接読まれることをお薦めする。以下には、特に印象に残ったところ、即ち、のれんの償却を復活させる理由について(、僕の感想・意見を交えて)記載する。

 

(のれんの償却を復活させた理由)

 

・収益との期間対応(14(1)

 

・・・。企業結合後における企業の利益は、投資原価を超えて回収された超過額であると考えられるため、当該投資原価と企業結合後の収益との間で適切な期間対応を図る観点から、投資原価の一部であるのれんについて償却を行うことが必要である。

 

「・・・。」とした部分は、ん?と思ったから転記を省略した。その省略した部分は、「のれんは企業結合において資産及び負債を取得するために支払う投資原価の一部である」というところ。しかし、資産及び負債はすべて認識されてB/Sへ個別に記帳され、認識できなかったものがのれんになるのだから、のれんは、「(認識可能な)資産及び負債以外のもの」だ。僕は、以前「のれんは人的要素の評価」(2013/1/10の記事など)と記載したこともあり、のれんを「資産及び負債を取得するため」支出の一部と考えるのは、どうも納得がいかない。のれんは“資産や負債といった物的なもの、契約から派生した権利や義務といったもの”を有機的に結び付けて、“事業として機能させる人的な要素からなるシステム”ではないかと思う。

 

しかし、のれんが(事業の)投資原価であることは間違いがなく、企業結合後の収益と対応させて償却することが必要という部分(=転記した部分)については賛同する。

 

 

・収益力の減価の反映(14(2)

 

のれんの構成要素の一部が超過収益力を示すとすると、競争の進展によって通常はその価値が減少するものであり、のれんの償却を行わないとその減価を無視することになる。

 

“超過収益力”とせずとも、単に“収益力”だけで十分だと思う(理由は 2012/11/27 の記事に記載したが、要は、平均を下回る収益力しかない企業、即ち、超過収益力のない企業でも、買収対象とされるのが実際だから)。この言葉は、EFRAG等と共同で出したディスカッション・ペーパー(379. 7/28の記事)でも、2か所のみで集中的に使われていて、ちょっと苦笑いだった。

 

但し、主張の趣旨(=収益力は簡単に維持できるものではなく、内外の環境変化に対応する努力、即ち、自己創設のれんを新たに発生させることなしには維持できない。その過程で、のれんは自己創設のれんによって置き換えられていくが、自己創設のれんは資産計上すべきではないため、のれんを償却することが必須となる、という主張)にはまったく賛同できる。

 

 

・規則的償却は現実的・実務的(14(3)

 

耐用年数や費消パターンに関する見積りの難しさはのれんに限定されたものではなく、有形固定資産の減価償却についても同様である。

 

この記載の前に「企業は、通常、買収にあたり被取得企業の事業などについて十分な分析を行った

上で買収するか否かを決定するため、耐用年数の見積りは可能であると考えられる。」という記述があるが、そういう場合もあれば、そうでない場合もある(むしろ、調査方法・期間に対する制約・限界が大きくて、“十分な分析”は難しいことが多い)というのが僕の感想だ。しかし、会計上の見積りに 100% の自信は必要ない。ここの記載のように、有形固定資産の償却方法や耐用年数も、ストレートに毎年減価するのか、それとも、何らかの加速度があるのか、また、その期間の長さについて確証は持てないが、決めている。言われてみれば、まったく尤もだ(但し、日本の場合は税法に依存し過ぎていて、企業が決めているといえない状況だが)。

 

これを読んで、上述のEFRAG等とのディスカッション・ペーパーに記載のあったアンケート結果の記述を思い出した。

 

・・・、過半数をやや上回る作成者は、IFRS の適用に関する彼らの経験によると、のれんの回収可能価額の見積りの方が、のれんの消費パターンの見積り(耐用年数の見積りを含む)よりも困難でありかつ負担が大きいと考えていた。26項)

 

ヨーロッパの作成者は、「のれんの減損より、償却の方が現実的・実務的」と考えているということだろう。減損テストに使う回収可能額の計算(将来キャッシュ・フローを見積り、それを現在価値に割引く)より、のれんを償却するための耐用年数や償却方法の見積りをする方が、容易であり手間もないという。これには、思わずニヤリとした。確かにその通り! なのに、なぜ「耐用年数や償却方法の見積りに合理性がない」と、償却が否定されて、今の減損だけのIFRSになったのか。確かに疑問だ。

 

 

・自己創設のれんの費用計上とのれんの償却は、ダブらない(14(4)

 

12 (2)(に記載されているように、IASB)はこの自己創設のれんの不計上との整合性を理由にのれんの償却を否定しているが、広告費などに係る会計処理と企業結合で取得したのれんの事後測定は別の議論と考えられる。

 

12 (2) に記載されているように、「広告宣伝費等でのれんの価値が維持される」のであれば、広告宣伝費等は、のれんのメンテナンス・コスト、修繕費なので、費用計上されるのは当然であり、のれんの償却を否定する材料にはならない(=二重計上ではない)、ということだと思う。これにも賛同する。

 

 

・減損テストの精度に問題があるのに減損のみで良いか

 

のれん償却を復活する理由について記載しているこの 14 項には、(5) もあるが、これを紹介する代わりに、上述のEFRAG等とのディスカッション・ペーパーに指摘されていた減損テストの問題点に触れたい。

 

それは、7/28 の記事でも若干触れたが「ターミナル・バリュー」の問題だ。IFRSでも日本基準でも、これを減損テストに使用する将来キャッシュ・フローの見積りに含めて良いとは一切書いてない。(ただ、含めていけないとも書いてない。) 現実に存在するのであれば、見積りに含めることは認められるだろうが、この金額を合理的に計算するのは芸術の域、神技であり、合理的な根拠を示すのは難しい。

 

ターミナル・バリューは、企業が永遠に継続すると仮定して計算される価値のことだ。例えば、5年間の事業計画が作成されているとすると、その5年間の将来キャッシュ・フローは、事業計画を評価して作成することができる。そして、ターミナル・バリューは、その先も「永遠に企業が将来キャッシュ・フローを生み続ける」として計算される。しかし、いったいどうやって、そんな仮定を正当化するのだろう。これに関しては、IFRSも日本基準も何のガイダンスもない。

 

そのディスカッション・ペーパーでは、ヨーロッパにおいて、「減損損失は通常、非常に遅れて認識され、減損損失が認識される時には事業に対する期待はすでに悪化している。」(23(b))と考えている人が多いという。正確には、欧州金融危機の際の減損の会計処理が、プロシクリカル(景気循環増幅的)な影響を及ぼす可能性があると考えた人が、回答者の過半数を占め(会計規準設定主体からの回答を含む)、その回答者が、このような説明をしているという。

 

こうなる大きな原因として、このターミナル・バリューの問題があると思われる。

 

僕の経験では減損テストでこれが使われているのを見たことはない。しかし、M&Aの相手企業の評価資料(FA、即ち、ファイナンシャル・アドバイザーが作成した資料)に、詳細な根拠が示されずに用いられていたのを覚えている。それがバカにならない金額だった。もしかしたら、希望売価から、個別に積上げた企業価値を差引いた差額になるように逆算したのではないかと思ったぐらいだ。(そのM&Aでは、買い手側が独自にFAを立てておらず、売り手側と共通だった。買収額が大きい方がFA報酬が高くなる仕組みだったので、余計に疑念を持った。後年、やはり期待は外れで、このM&Aに係るのれんは減損されることになった。)

 

実は、この 14(5) には、「費用配分を行う償却と回収可能価額に着目する減損テストは、目的が異なっているため、減損テストによって償却を補うことはできないと考えられる。」と書いてある。即ち、減損と償却が補完関係にないと主張されているが、僕は、あると思う。減損テストの精度に問題がある場合、特にターミナル・バリューのようなものが使用されるケースがあるからなおさらだが、せめて、償却しないと、財務情報として企業価値が過大に表示される可能性が高まると思う。現に、ヨーロッパでは、「償却をしないと、企業についての価格が高くなるであろう。」とする回答者が過半数いるのだから(上記ディスカッション・ペーパーの 23(a))。日本でも、このターミナル・バリューについて、会計基準による対処が必要ではないだろうか。

 

まず日本基準を直して、その結果をこのJMISにも反映させてほしいというのが僕の希望だ。

 

 

“結論の背景”には、上記の他、以下のものが記載されているが、長くなり過ぎるので、詳細は省略させていただく。詳しく知りたい方は、直接公開草案をご覧いただきたい。

 

・関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんの償却

 

主に、上記のM&Aにより取得したのれんに平仄を合わせたという説明。

 

・のれんの償却に関する開示

 

会計処理の変更に合わせた開示の変更である旨の説明

 

・関連する論点

 

修正点を必要最小限に絞るとの観点から、今回は「削除又は修正」の対象にしなかった旨の説明。以下の論点が挙げられている。

 

(1) 毎年におけるのれんの減損テスト

 

(2) 企業結合で取得した無形資産の識別

 

(3) 耐用年数を確定できない無形資産の非償却

 

 

2014年8月 1日 (金曜日)

381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

2014/8/1

昨日、ASBJより修正国際会計基準(案)が公表された。

 

公開草案「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」の公表7/31 企業会計基準委員会)

 

そこで、ざっと特徴を記載してみたい。みなさんが、この公開草案を読まれるときの参考にしていただければと思う。が、すべてを読込む時間はなく、“コメントの募集及び概要”を読んで、興味を持った項目について修正会計基準案の該当箇所を読んだ程度だ。要するに、「速報・ダイジェスト番組だけでW杯を語る」ようなもの。しかし、僕は、今回の修正基準の核となる“のれんの償却”と“その他の包括利益(OCI)のリサイクリング”については、このブログを通じてヨタヨタとだが勉強してきたので、ちょっと寄り道したい。なお、コメントを募集期間は10月末までとされている。

 

 

まず、正式名称から。(知っていると、意外と使える場面が多かったりする。)

 

(日本名)

修正国際基準: 修正会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準

 

(英文名称)

Japan's Modified International Standards (JMIS): Accounting Standards Comprising IFRSs and the ASBJ Modifications

 

JMIS”は、“ジェイミス”と読むらしい。(これは会計教育研修機構の研修で聴いた。)

 

 

次に、この基準の意味というか、役割というか、位置づけというか。

 

まず、次の式を頭に入れると良い。

 

修正国際基準(JMIS) =  ピュアIFRS + ASBJによる修正会計基準

 

“ピュアIFRS”は、厳密には金融庁が財務諸表規則が規定する“指定国際会計基準”に指定したもののこと。金融庁の判断によってはピュアにならないこともありえるが、現時点ではIASBが公表したものをそのまま受け入れている(=アドプション)。

 

ASBJは、それとは別の手続(=エンドースメント)によって、“ASBJによる修正会計基準”を必要に応じて開発する。この両者を合わせたもの、即ち、ピュアIFRSにASBJが修正を加えたものが、“修正国際基準(JMIS)”となる(上式の意味するところ)。この過程で、ASBJは公開草案を公表して、一般に意見を求めるという。

 

以上の結果、今回の公開草案も、次のような計5通の文書構成になっている。

 

・ピュアIFRSの内容(=金融庁が指定した個別IFRSやIFRICの番号と名前)を記した「修正国際基準の適用(案)」

 

・個別の“ASBJによる修正会計基準”案(のれんとOCIの計2通)

 

・コメントの募集要項や質問を記した文書と、ここまでの経緯を記載した文書(計2通)

 

さて、ここでもう一度冒頭の式を思い出してほしい。もし、“ASBJによる修正会計基準”がゼロになれば、「修正国際基準(JMIS)=ピュアIFRS」になる。“ASBJによる修正会計基準”は、あくまで一時的なもの(“当面の扱い”と表現されている)で、IASBとのコミュニケーションによって解消していくべきもの、逆にいえば、日本からグローバルへ主張するメイン・テーマと位置付けている。

 

解消されていけば、JMIS適用企業は、自然とIFRS適用企業になっていく。そういう意味で、JMISは我が国におけるIFRS適用促進のための取組みとされる。また同時に、開発の過程で公表される公開草案等により、我が国の議論の裾野が広がることが期待されている。そして、これがASBJがグローバルへ発信する意見の基礎になっていくとされている。

 

(良くできたストーリーだが、どちらも気の長い話だ・・・。)

 

 

“ASBJによる修正会計基準”案と、その選択について

 

これらはIFRSを修正する箇所を記述したもので、「正誤表+その根拠」のようなイメージで作成されている。前半の“正誤表”のような部分は、原文に対して、削除箇所には取消線を引き、追加箇所には波の下線を入れている。そして後半に、日本の会計基準のように“結論の背景”という“その根拠”を記載したセクションを置いている。

 

現時点で、JMISは1号(のれん)と2号(OCIリサイクリング)の公開草案が示されているが、この2つが選ばれた理由とその意味は、“「削除又は修正」の判断基準”や“初度エンドースメント手続における検討”のセクションで、次のような趣旨が説明されている(“「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案の公表にあたって”という文書のⅦとⅧ)。

 

・「削除又は修正」は必要最小限に

 

IFRSは、既にIASBの所定のデュー・プロセスを経ており、グローバル(もちろん我が国も参加している)の議論の結果だ。それに多くの修正を加えては、グローバルから国際基準と見做されなくなる可能性があるし、他国の状況も、やったとしても最小限にしている。比較可能性の問題も生じる。我が国としても、“単一で高品質の会計基準の策定”というグローバルな目標にコミットしている。

 

少数に絞った方が、我が国の主張を考え方を強く表明することができる。

 

・“必要最小限”を前提に、次の基準で項目を抽出する

 

(a) 会計基準に係る基本的な考え方に重要な差異があるもの(日本 vs.IASB)

 

今回は、この基準で“のれんの償却”と“OCIリサイクリング”が抽出された。これ以外にも次のものが識別されたが、“必要最小限”とするために削除または修正の対象から外した。

 

・公正価値測定の範囲

 

有形固定資産・無形資産の再評価モデル、投資不動産の公正価値モデル、市場性のない株式等の公正価値測定、生物資産及び農産物の公正価値測定

 

・開発費の資産計上

 

(b) 任意適用を積み上げていくうえで実務上の困難さがあるもの(周辺制度との関連を含む)

 

この基準で識別されたものを次のように大別している。

 

・ガイダンスや教育文書の開発・公表により、実務上の困難さを軽減してくもの

 

減価償却方法の選択、市場性のない株式等の公正価値測定、決算日が相違する子会社・関連会社の扱いなど。

 

・該当する企業にとっては重要だが、一部業種に限られるなどの観点から、“必要最小限”にするために外したもの

 

機能通貨や開示分野の問題

 

なお、今回、“ASBJによる修正会計基準”案の対象にならなかったものについて、“「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案の公表にあたって”という文書の“別紙”に内容の説明がある。

 

 

ということで、あとはいよいよ、2つの“ASBJによる修正会計基準”案の内容に入りたいが、残念ながら、僕の能力では時間切れ。明日以降に繰り越したい。

 

だが、最後に、「気の長い話だ・・・」と書いた部分について説明を加えたい。

 

みなさんもお分かりの通り、これは、既にIASBによって確定された基準に対する修正要求をどう実現するかという話で、言ってみれば、“敗者復活戦”だ。いったん確定した規準を変えるのは、例えば、“のれんの償却”について 7/28 の記事(379に記載したように、ASBJはEFRAGなどと協力し果敢に再導入へ挑戦しているが、なかなか大変なことだ。時間がかかる。IFRSがのれんを非償却にしてから、既に10年が経過している。

 

より重要なのは、IASBが規準を開発している段階でどう関わるか、即ち、IASBが規準を開発しているときに、国内で質が高く裾野の広い議論を盛り上げて、ASBJを後押しすることだと思う。これは、今回の公開草案の範囲には関係ないので、言及されていないのは当然だが、どこかで必要な議論だと思う。

 

IASBは、基準開発中の議論の過程について情報公開に努めているが、英語なので読める人、Webcast を視聴できる人は限られる。例えば、IASBの公開草案に対して日本からのコメントが増えるように、日本でどのように情報公開を行うかや、日本に於ける議論の方法について、検討することが必要ではないだろうか。

 

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