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2014年9月 5日 (金曜日)

392.CF-DP66)純損益とOCI~まとめの前に~株式持合いや安定株主は悪か?

2014/9/5

実は、前回(9/2の記事)に引続き、まだ悩み中だ。いわゆるOCIオプション(=資本性金融商品について、「公正価値の変動をOCIを通じて測定する FVTOCI」へ指定をすること)が、「余計な目的を会計に持ち込んでおり、良くない」と言いたいのに、これに実益はあっても、実害が思い浮かばない。だから言えない。それで困っている。前回は、今回この悩みのプロセスを記載するとしていた。

 

だが、考えているうちに、ちょっと気になったことがある。

 

僕は、「株式持合いや安定株主は良くない」ことを前提に話を進めているが、本当にそうだろうか。OCIオプションは、この“良くない”ことを抑制する、或いは、業績から除外するのでやっても無意味にする実益があると考えたが、本当に“良くない”と決めてかかってよいだろうか。もし、ここが間違っていたら大変だ。議論が根底からひっくり返る。しっかり固めておく必要がある。それに、ここにこの悩みを解決する突破口があるかもしれない。

 

みなさんは、僕が「藁をも掴む」感じで、溺れかかっているように感じられるかもしれない。しかし、ここで溺れても命を取られるわけではないし、もう一度、水に入ってみようと思う。

 

 

昔、株式持合いや安定株主は、年功序列型賃金制度や終身雇用制度と同様、長期志向の日本的経営を支える誇るべき慣習と考えられていたように思う。つまり、“安定株主”という言葉・用語は、ポジティブなイメージだった。今はどうだろう。一般的にはどう思われているだろうか。ネガティブ・イメージか? 

 

これを調べるため、試に、久しぶりに EDNET でいくつか検索・分析してみた(9/4 現在)。結論から書くと次のようになる。

 

・“安定株主”が使われている場合、ほとんど、ポジティブ・イメージだった。

 

株式を保有する目的が、単に「取引先との関係の維持・強化」の場合は、“安定株主”という言葉・用語は使われていない。それより包括的な信頼関係を表現するために“安定株主”が使われているようだ。

 

・一方で、“安定株主”は、あまり使われなくなっている。

 

以前はもっと気軽に使われていたように思うが、今では“安定株主”はかなり限定的な用語になっている。例えば、この1年間の有価証券報告書を対象に全文検索すると、僅か、85 件しかヒットしない。投資信託等ファンドを除く有価証券報告書は、4,199 件もある。さらに、新規公開会社や、増資・売出し時に発行される有価証券届出書も同様で、投資信託等を除く 801 件のうち、“安定株主”にヒットしたのは、僅かに 21 件だった。うち、新規公開会社が発行したものに限ると、68 件のうち、2 件にしか使われていなかった。

 

この結果を見る限り、株式持合いとか安定株主というのは、日本の慣習から消えてしまったように見える。本当にこれだけしかないのだろうか。ん~、俄かには信じがたい。

 

一方で、株式の保有目的を「取引先との関係の維持・強化」などと表現するケースがたくさんあるようだ。こういう保有目的の場合は、株主総会の議題について真剣に賛否を検討し、必要があれば反対もするのだろうか。もし、あまり深く考えず、すべての議案に賛成するなら、これも実質的に安定株主だ。“安定株主”のような固定的な用語がないので、残念ながら検索では拾い切れず、実態はつかめないが。

 

“安定株主”は、開示資料から消えていく傾向にあるが、実態はこのような形で残っているように思う。つまり、“安定株主”のアングラ化が進行しているということではないか。実際は安定株主だが、それを言いにくくなっている。ということは、“安定株主”は、社会的にネガティブ・イメージが付いている、少なくとも、付けられつつあるのだろう。

 

なぜそうなのか。或いは、そうなりつつあるのか。株式持合いや安定株主は、本当に社会的に悪なのか。そこをもっと掘り下げる必要がありそうだ。

 

 

なお、上記の検索と分析のプロセスを、下記に追記する。もし関心があれば、お読みいただきたい。

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昔は、企業が株式持合いで安定株主作りをすることは当たり前だった。旧財閥系企業はもちろんのこと、その他の企業も、多くはそうしていた。総会屋などという不逞の輩がいたこともあるし、株主総会を短く終わらせることが良いことのようなイメージもあった。そのためには、株主総会から議論を取り去り、単に経営者の提案を追認する場とする必要があった。そのために、安定株主が必要だったのだ。

 

新規公開企業も例外ではない。新規公開企業が従業員持ち株会を作るのも、従業員の資産形成や会社に対するロイヤルティ育成以外に、その目的があった。上場準備期間中に、従業員持ち株会を作り、さらに金融機関、取引先へ安定株主になってくれるよう依頼し、それでも足りずに会社幹部の個人的伝手などを頼って、株を持ってくれそうな会社・人を探した。こうして、上場後の株主総会を円滑に運営できる株主構成にすることを、資本政策と称していた。

 

現在(9/4)も、例えば EDNET で“安定株主”で全文検索すると 1,962 件もヒットする(その他の条件はデフォルトのまま。検索対象期間は1年となる)。しかし、検索範囲を有価証券報告書に限ると、85 件(=85 社)へ激減する。ほとんどは、大量保有報告書や変更報告書であり、株式の保有目的欄に“安定株主”という用語を使用している。

 

では、大量保有報告書や変更報告書は全体で何件あるかというと、この1年間で 12,498 件提出されている。意外と保有目的に“安定株主”と記載されるケースは少ないことが分かる。数件閲覧してみたが、“安定株主”に代りに“長期保有”という用語が使用されることが多いようだ。その他には、投資信託による信託財産としての保有も多い。証券業務によるもの、ディーリング目的といったものも散見される。

 

もう少し分析を続けよう。

 

新規公開や増資等の際に提出される有価証券届出書は、この1年で 5,103 件。だが、投資信託の組成等に関するものが多い(4,302 件)ので除くと、残りは 801 件となる。このうち、“安定株主”が使用されているのは 23 件で、うち 2 件は外国投資信託受益証券と債券の発行に係るものだったので除くと、残りは 21 件。“たった 21 件”といえると思う。内容は次のようになる。

 

・新規公開に係るものは 2

 

1件目)公開前の第三者割当増資(いわゆる資本政策)。相手は、親会社、従業員持ち株会、取引先(2 社)等で、まさに発行会社の応援団になりそうだ。

 

2件目)これも公開前の株式の移動(いわゆる資本政策)。異動元は投資ファンドで、移動先は従業員持ち株会、従業員や関係会社役員、その他の大株主。これも応援団づくりといえる。

 

(参考)この1年間の新規公開 68

 

有価証券届出書を“【株式公開情報】”で全文検索すると 68 件ヒットした。上記 2 社以外は安定株主作りをしていないのかというと、各社の【株式公開情報】を眺めていると、そうはいえないケースもあると思う。恐らく、「“安定株主”という用語を簡単に使わなくなった」のではないか。

 

18 件は、第三者割当(増資、自己株式処分、新株予約権付社債の発行)

 

特定の相手に割当てを行う場合、事業上の関係強化や財務上のサポートを目的とすることが多いが、必要以上に経営に入り込んで欲しくない。そういう相手を選んでいるようだ。なるほど、安定株主だ。

 

・残る 1 件は、株主(創業家)に対する説明で使用

 

再建過程で、創業家が持ち株の一部を失ったが、引続き安定株主として長期保有するという説明。

 

数は少ないが、記載のある会社は“安定株主”を有難い存在として、ポジティブなイメージで使用している状況が窺える。

 

85 件の有価証券報告書も見てみよう。有価証券報告書はこの1年で 9,884 件提出されたが、投資信託等(5.685 件)を除くと 4,199 件となる。そのうち、85 件に“安定株主”が使われている。その内容を見てみよう。

 

(使われ方)

 

ポジティブ・・・83

ネガティブ・・・2 件(下記の【対処すべき課題】の“2-”)

 

(記載場所)

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】 72

【自己株式等】   2

【注記事項】    1

【対処すべき課題】 2-、1

【第三者割当等による取得者の株式等の移動状況】 1

【事業の内容】   1

【事業等のリスク】 3

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】に、なぜ“安定株主”がたくさん出てくるかというと、ここに“特定投資株式の保有理由”の記載が要求されているからだ(2010/3期から。経緯や内容については、大和総研の資料“株式の保有状況開示”が詳しい)。“特定投資株式”とは、IFRS流にいえば、公正価値の変動を純損益を通して測定する(=FVTPL)ような純投資以外の目的で保有される株式だ。即ち、OCIオプションが指定されるような株式が、そこにリストアップされ、かつ、保有理由の記載が要求される。上記の場合は、保有理由として“安定株主”が記載されている。

 

なぜ、それが【コーポレート・ガバナンスの状況】に記載されるかだが、恐らく、そこにリストアップされた会社が、株式の持ち合いによって、有価証券報告書の発行会社の株式を保有しており、株主総会で無条件に賛成票を投じると疑われているのではないか。もしそうだとすると、株式総会の企業統治機能が阻害される。金融庁は、株式総会の意思決定を歪め、企業統治を阻害する可能性を、そこで表現させようとしていると思われる。

 

このため、多くの企業は“安定株主”という表現を避けるようになったと思われる。その結果、“取引先との関係の維持・強化”みたいな表現が増えたのだ。もしそうであれば、単に表現が変わっただけで、“安定株主”の実態は依然として残っているのではないか。

 

 

ところで、EDINET を久しぶりに利用したが、非常に便利だ。使いやすくなったので驚いた。例えば、上記の 85 件は、検索結果を Excel へダウンロードできたので、簡単に分析できた。検索の選択肢の分かりにくさや、検索から除外する条件が設定しにくいなど、改善した方が良い点もあるが、全体としては素晴らしいと思った。

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