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2014年9月 7日 (日曜日)

393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ

2014/9/11 下記の Deloitte. の記事が、監査法人トーマツのHPに日本語で掲載されていたので紹介します。

2014.09.03 IASB議長が、日本の修正国際基準(JMIS)および未実現損益を考慮しないことの危険性について論じる

 

2014/9/7

JMISに関するIASB議長ハンス・フーガーホースト氏の反応について2つの記事を紹介する。一つは日経新聞(9/5「企業・市場に冷めた声」:有料記事)で、9/3 に東京都内で開かれた会計シンポジウムの発言として紹介されている。もう一つは、Deloitte.のHPで公開されている 9/3 付のIAS Plus の記事(「IASB議長、JMISと未実現利益無視に対する危険を議論」 原文は英語)だ。こちらは東京で開かれたIFRSカンファレンスでのスピーチとして紹介されている。

 

どちらも同じ講演を取材したもののようだが、日付や開催地の情報がなければそうとは気が付かないかもしれない。両者は、かなり印象が違うように思う。

 

(日経新聞)

 

「日本の新基準を使うメリットは少ない。海外投資家はIFRSとみなさないからだ」

 

これは、「会計規準が一杯あっても誰の役にも立たない」とJMISを批判する記事の一部であり、この会計シンポジウム自体を報じるものではない。このためか、これ以外に同氏の発言は紹介されていない。そこで、もう一つの記事で詳しい内容を補足しよう。

 

Deloitte.

 

Mr Hoogervorst commented that the increase of the voluntary use of IFRSs in Japan was especially encouraging as Japanese companies have the choice of several sets of standards and would only choose to adopt IFRS if they thought it was a strong business case.

 

参考までに、この部分の拙い僕の翻訳も記載する。

 

フーガ―ホースト氏は次のように言及した。日本でIFRSの任意適用が増加していることは、特に喜ばしい。なぜなら、複数の会計規準の選択肢があるなかで、日本の会社はIFRSを選んだと考えられるからだ。ビジネス上の強いメリットが理由ではないか。

 

としたうえで、“ビジネス上の強いメリット”を次のように説明している。

 

He explained that IFRSs are a cost effective alternative for companies with subsidiaries as they can apply one single financial reporting language for both internal and external reporting. In addition, the use of IFRS would make it more attractive to foreign investors to invest in Japanese shares if the financial statements were prepared in a reporting language they understand.

 

議長は、連結子会社を持つ会社にとって、IFRSがコストに優れた選択肢であることを説明した。それは、国内でも海外でも一種類の連結パッケージで足りることだ。加えて、IFRSを使用すると、海外投資家が理解する基準で財務諸表が作成されるので、日本株への投資がより魅力的になる。

 

もし、僕が日経新聞の記者で、フーガ―ホースト氏の発言を正確に伝えようとすれば、恐らく次のように紹介すると思う。(但し、これでは、この記事にフーガ―ホースト氏の発言を引用する意味がなくなってしまうが。)

 

「IFRSの任意適用が増加していることは喜ばしい。ビジネス上のメリットが大きいからだろう」

 

フーガ―ホースト氏は、ここではJMISに言及していない。一方、日経新聞は「JMISにメリットがない」と書いた。印象が異なる理由は、ここにありそうだ。日経新聞は、ちょっと意訳が過ぎるのではないか。

 

とはいえ、日経新聞にもこう書いた理由がないわけではない。Deloitte.の記事のタイトルでも分かるように、フーガ―ホースト氏は、この講演で、JMISの前提になっているASBJのシンプルな考え方、即ち、純損益とOCIを区分する「不可逆性(=実現)の規準」について反論したからだ。日経新聞は、それを総合的考えて、「JMISにメリットがない」と書いてもよいと判断したのかもしれない。

 

しかし、ASBJ関係者は、この講演を聴いて首をかしげたのではないか。というのは、フーガ―ホースト氏の反論は、ASBJがASAFに提出したいわゆるASBJペーパー(8/8 の記事で紹介)をちゃんと理解しているように思えないからだ。その特徴的なところを Deloitte.の記事から紹介すると、次のようになっている。

 

He explained that a systematic relegation of unrealised income items to OCI could result in a lack of faithful presentation, especially as unrealised income does not only consist of gains, but also of losses.

 

彼は、機械的に未実現利益項目をOCIへ追出すことは、忠実な表現を欠く結果になるだろうと説明した。特に、未実現利益は利得だけでなく、損失をも含むのだから。

 

ASBJは、現行規程で純損益へ計上している未実現項目、例えば、売買有価証券やその他の公正価値評価する有価証券の評価損をOCIへ計上する、というような主張はしていない(僕は、リサイクルを前提にその方が良いと思うが)。もちろん、減損損失も、現行通り純損益に計上するとしている。それなのに、なぜフーガ―ホースト氏は、「ASBJの考えだと損失が先送りされる」みたいな反応をしたのだろうか?

 

むしろ、IFRSの“のれんの非償却”や“リサイクリング禁止”の方が危ない。のれんは、減損のタイミングが遅い、損失の先送りと批判されているし、リサイクリングが禁止された項目は、資本の部のOCIがこっそり利益剰余金へ振替えられる。即ち、未実現の状態でOCIへ計上された損益が、その後どのような結末を迎えたかをP/Lで知ることができない。例えば、(日本の持合い株のようなものに適用される)OCIオプションを指定すると決算時の評価益がOCIへ計上されるが、いざ売却時に損失となっても純損益に損失計上されない(OCIへ計上される)。純損益だけ見ていると、何が起こったか分からない。

 

まったく不思議だ。議長としてのポジション・トークだろうか。

 

現行のIFRSの方が、のれんに関して費用または損失のタイミングが遅いし、OCIに注目していないと危ない。「OCIを無視するな」との警告は、JMISではなくリサイクリングを禁止するIFRSに対して発せられるべきもののように思える。批判の対象が逆ではないか?と思えるのだ。しかし、フーガ―ホースト氏は、議長だから、IASBの批判をするわけにはいかないのだろうか。

 

 

もしかしたら、日経新聞の記者もおかしいと思ったのかもしれない。フーガ―ホースト氏に直接インタビューをしたらしい。それが 9/6 付の次のタイトルの記事(有料)になっている。

 

「のれん」会計、見直しも 国際会計基準 前倒し処理しやすく 持ち合い株売却は最終損益に計上

 

この記事では、フーガ―ホースト氏が「現在の基準が完璧でないことは認める」とか、「IFRSが方針を転換する。」と発言したことを紹介している。IASBが、のれんと持ち合い株式の会計規準を見直すのだ。日本の主張の方向へ歩み寄ると考えて良い。これは、スクープだ。

 

もしかしたらフーガ―ホースト氏は、この講演でIFRSの方を批判したかったのではないか。でもそれは立場上できないから、ASBJペーパーへの反論という衣を着せたのではないか。

 

しかしそうなると、冒頭の日経新聞の記事の「JMISにメリットはない」というフーガ―ホースト氏の発言の紹介の仕方はおかしい。「誰のためにもならない」というこの記事の主張もおかしい。「でも、日本の意見を主張するのに役立っている」と、少し趣旨を変えるべきだったと思う。

 

 

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