394.CF-DP67)純損益とOCI~まとめ~益出し取引はどうなる?
2014/9/9
前回(393 - 9/7)の記事を見て、「なぜアギーレJAPAN のウルグアイ戦のことに触れてないのか?」と意外に思われた方がいらっしゃるかもしれない。僕の感覚としてはまだ注視している段階であって、論評するタイミングではない。結果が出るのは今日のベネズエラ戦だ。
今回、僕が最も注目しているのは、アギーレ監督だ。アギーレ監督は、ウルグアイ戦とベネズエラ戦の2試合のために新チームを招集した。ならば、両方見てから評価しようと思うのだ。どうせ暫定評価に過ぎないが、それでも今の段階で評価するのは、売上を早期計上することに等しい。まだ、十分に要件が整っていないと思う。
ところで前回の日経新聞のスクープ記事を見て、“FVTOCI 指定された持合い株式等のリサイクリング禁止規定の妥当性”というテーマは、もう終わりにした方が良いと思われた方は多いと思う。フーガ―ホースト氏が見直すと発言しているのだから、もう“勝負あった”のではないか、と。ASBJの努力の結果、IASBが日本の主張へ歩み寄ると分かれば、それで十分と。しかし、こちらもまだ要件が整っていないように思う。
僕も、気付いたら「未実現の状態でOCIへ計上された損益が、その後どのような結末を迎えたかをP/Lで知ることができない」とか、「純損益だけ見ていると、何が起こったか分からない」と書いている。要するに、IASBが「好ましくない取引の抑制」などという目的をこっそり取り込んだために、財務情報が持つべき重要な質的特性のひとつ、“忠実な(経済実態の)表現”を損ねたということだ。これで、探していた“実害”が見つかった。・・・と思ったのだが。
しかし、それでも消えない疑問がある。もし単純に、持合い株式等へリサイクリングを要求すると、それを利用した利益平準化取引も許容することになる。IASBは、本当にそれを許すだろうか?
財務報告にとって、どちらの実害が大きいのだろう? 利益平準化の弊害か、それとも忠実な表現の不備か。IASBはこれらの大きさを客観的に測る基準や尺度を見つけて、比較したのだろうか。その上で、リサイクリングを要求する方向へ舵を切ろうとしているのか。
と書いておきながら、実は、僕の予想というか想像では、この問題の解決に“実害の大きさ”は関係ない。恐らくIASBは、“経済実態を忠実に描写する”という大原則を優先させ、「好ましくない取引を抑制する」という余計な目的を後退させると思う。なぜなら、これこそが原則主義の在り方だと思うからだ。
具体的には、例えば益出し取引をやった場合は、現行のようにリサイクリングを禁止して純損益から除外するのではなく、リサイクリングによって純損益へ計上させ、それを益出し取引と分かるように開示方法を工夫する方向を考えているのではないだろうか。
こう考える理由は、次の2つだ。
・流行りの“Comply or Explaine”原則とも相性が良い
益出し取引等の利益平準化は違法か? 会計原則で禁じられているか? 要件設定が難しく規制は困難であり、いずれも No だ。しかし、非常に好ましくない、或いは、まったく適当でないと考えられている。このような取引を抑制するために、関係者の自治機能に委ねる“Comply or Explaine”原則が利用されることがある。
法律で禁止された行為をやれば違法、会計原則で禁じられた処理は虚偽記載や粉飾。しかし、何を持って益出し取引とするか、要件設定は難しい。この“Comply or Explaine”原則は、守らないならその理由を説明させる。それを関係者が納得すれば罰せられることはないが、納得されなければ手痛いしっぺ返しを食う。したがって、状況によって例外を柔軟に設けられるし、同時にこのような取引の抑制効果もある。これは、コーポ―レート・ガバナンス分野で流行りのルール、原則、或いはアプローチだ。ご存じのとおり、日本でも会社法改正に組込まれている(詳しくは、こちら【大和総研のレポート】)。 またこの原則は、IFRS財団でも取り入れられている(例えば、IFRS開発手続等を定めた Due Process Handbook 2013/2 改定版 のP15)。
この方式を利用した開示が考えられる。持合い株式等の売却取引についてもリサイクリングが適用されるが、その一方で、それが目立つように記載され、かつ、利益平準化のための益出しではない理由も詳しく開示される。そして株式市場が納得すれば株価は下がらないし、株主総会も荒れないが、納得されなければ大変なことになる。そんなイメージが想像される。(但し、これが有効に機能するには、“益出しは悪”と一般的に認識されることが前提。)
・FASBペーパーの提案(387-8/20 の記事)とも相性が良い
この提案は、米国で慣習的に開示されている“非GAAP利益”のような区分利益を“営業利益”としてIFRSのP/Lへ開示しようというもの。その場合、恐らくこのような“益出し取引”は“営業利益”には含まれず、P/Lとは別表となる営業利益から包括利益までの表へ記載されると思う。
この米国版“営業利益”は、事業に関する包括的な利益であり、日本の“営業利益”や“経常利益”より範囲が広い。そして、なにを“営業利益とするか”の状況は企業ごとに異なるので一律の規定は難しいと思う。したがって、「P/Lとは別表となる営業利益から包括利益までの表」は、例外項目のみが記載されるはずのため、反って注目されると思う。或いは、注目されるよう興味を惹きつける詳細な注記が要求されるのではないだろうか。そんなことが想像される。
ちょっと調子に乗って、色々書き過ぎたかもしれない。上記はいずれも、“想像”というより“妄想”だ。実際にこの片鱗でも見えるのは、早くて来年1Qの概念フレームワークの公開草案公表時となる。結果が出るのはまだまだ先の話だ。今の段階でこのテーマを書くのは、売上の早期計上どころか、まだ受注前の提案書の起草段階にもならない。でも売上計上(=記事に)してしまった。これは完全な暴走、粉飾決算だ。
こんな妄想するなら、錦織圭選手の US オープン決勝戦を応援した方が遙かに良い。(この記事がアップされる頃は、まだ第1セットぐらいか。)
しかし、今まで僕は、数時間に及ぶテニスの試合をまともに観戦できたことがない。こんな妄想なら、あっという間に数時間が経つのに! ということで、応援の気持ちだけを送ることにしよう。
錦織選手、がんばってくれっ! 既に歴史的な快挙だが、まだ売上ではない。
ん~、完全にダブル・スタンダードだ。自分に甘すぎる。
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