397.CF-DP69)このDPシリーズ、とりあえず終了。最後に再度“不確実性”
2014/9/16
概念フレームワークについて、長々と書いてきたが、そろそろ幕引きをしようと思う。果たして、このシリーズを始めた時に掲げた目標は達成されているだろうか。「目標? そんなものあったの」とみなさんが思われるのも当然だ。僕も具体的内容は忘れていた。そこで、改めて見返してみた。
・・・とりあえず、このブログでは、次の角度については見ていきたいと思っている。
・その他の包括利益(OCI)と純利益の区分の考え方
・原価、公正価値や使用価値の位置づけや適用ルールの整理方法
・資産の定義の修正のされ方
これに対して、“会計上の不確実性”と“純損益とOCI”の2つをテーマに検討してきた。前者はまったく成果なく終了したが、後者はそれなりに掘下げることができたように思う。一応これらによって、“目標”の1つ目、OCIと純利益の区分と、3つ目、資産の定義の修正については、触れることができた。2つ目については、ASBJ ペーパーや FASB ペーパーの中で重要性が強調されていたので、来年の1Qに公表予定の概念フレームワークの公開草案に、IASBの考え方が整理されるはずだ。それから改めて考えようと思う。
1勝1敗1問題先送り。あまり誇れる状況ではない。特に“会計上の不確実性”については、悔しさが生々しく残っていて、まるで採りたての渋柿を食べた口の中のようだ。渋い、苦い。
しかし、多少甘味も感じている。実は、その後も“不確実性”について考え続けていて、少しは理解が進んだのだ。今回はそれを簡単に紹介して、概念フレームワークの締めとしたい。
IASBはこのDPの提案で、“不確実性”を資産の定義や認識規準から追出して、測定規準の中に押込めようとしている。その結果、“不確実性”は、概念フレームワークから削除され、個別規準の中でのみ記述されることになる。会計にとって、これは何を意味するのだろうか。
企業は不確実性へ対処する。対処できなければ存続できない。経営を一つの物語とすれば、顧客や取引先、経営者、従業員などの様々な利害関係者がメイン・キャストとして登場する。その裏には常に“不確実性”が共通のテーマとなっているはずだ。企業環境変化への対応、将来への対応。これらを言い換えれば“不確実性”への対応だ。企業経営にとって、“不確実性”は常にメイン・テーマだ。
会計上の不確実性と経営における不確実性は、相当重なっている、かなり共通しているというのが僕の考えなので、それが概念フレームワークから消えてしまうことの意味を考えずにいられなかった。IASBは不確実性を軽く考えているのではないか。もしかしたら、会計と経営の距離が離れてしまうのではないか。そんな心配をしていた。
結論からいうと、これは杞憂だったようだ。
逆に、概念フレームワークの定義や認識規準の段階で“不確実性”による選別・切捨てを止めて、個別規準の測定規準の段階まで引込んでからより深く“不確実性”を評価しよう、という趣旨ではないかと思うようになった。即ち、可能性のある事象は一旦すべてテーブル(=B/S)に載せ、その後で評価しようということだ。その結果測定値がゼロになるなら、B/Sには載らないこともあるが、定義や認識規準から“不確実性”を追出しておけば、予め切り捨てられてしまうことはない。
「手間がかかるなあ・・・」と思われるかもしれない。
でもこの考え方は、リスク(及び機会)管理と親和性がある。リスク(及び機会)管理ではいったんすべてをテーブルに載せて評価・検討し、その後に可能性のないもの、重要性のないものを外したり、対応に手間をかけないようにコントロールする。このリスク(及び機会)管理は、経営プロセスそのものだから、会計は経営とより親和性が高まると考えて良いのではないか。その代り、会計を経理部門だけのものにせず、企業の経営組織に浸透させていく必要がある。それによって、各部門が事業運営のために判断したことが、同時に会計へ生かせるようになる。完全な一致は理想に過ぎず、実現は無理かもしれないが、この理想により近付けられる。その結果、コスト・ベネフィットはむしろ高まる可能性がある(リスクだけでなく機会も、コストだけでなく収益も考慮する)。
COSO の Chairman Bob(389-8/27 の記事参照)も言われていた。「重要性は企業のリスク管理で決められる」と。(僕はちょうど2年前の“脱線シリーズ”に、自分の経験からくる感覚のみを頼りにそういうことを書いたが、どうやら当たっているらしい。)
機会やリスクを過小評価して手痛いしっぺ返しを食らうことは、企業の生き死に係ることだから、機会の探索やリスクの識別、そしてこれらに対する重要性の評価は、企業の管理組織にとっての生命線だ。財務諸表規則や会計基準で決められたものとは次元が違う厳しさがあるはずだ。IASBのこの提案には、その厳しさを会計に取込みたい、或いは、企業ごとのその厳しさの程度・優劣を会計で分かるように表現したい、そんな意図があるのではないだろうか。或いは、結果的にそうなるのではないか。今は、そんなふうに考えている。
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